ラッキーが壁に魔法を放つと……そこには……
翌日、ドモルテは早朝からマルグレットのところに水晶結界を学びにいった。一朝一夕で身につくものではないだろうが、ここにいる間に少しでも学んでもらったらいいだろう。
ドモルテが出かけてから少し待っているとアンドがやってきた。
「ロックさんおはようございます。昨日はよく眠れました?」
「おはよう。あぁすごく温泉が気持ち良かったよ」
「それは良かったです。昨日魔石を頂いたので、今日は村長が雪結石の採掘場所を見せてやれとおしゃってくれていたので、そこを案内しますね」
「よく、あの村長が許可したな」
「無断で行動されるよりはいいって言ってました」
アンドはかなり素直な性格のようだ。
俺はアンドに連れられて雪結石の採掘場所へ案内してもらった。
ドラゴンが封印されていた洞窟からは少し離れた場所にある洞窟だった。
「これって、この村にとって知られたらまずい場所なんじゃないのか?」
「そうですね。あまり外部の人には見せることは少ないですね。でも、村長もなんだかんだ言いながらロックさんに感謝しているんだと思いますよ。ドラゴンあってのこの村ですから」
洞窟の中に入ると、思った以上に明るく、道も平たんにならされていた。
「あれ? おかしいですね。普通の今時間帯だと作業が始まっている頃なんですけど、まったく音がしないなんて」
奥へ進むと、つるはしを持った男たちが壁を見つめたまま、何か話し合っていた。
「どうしたんですか?」
「おぉ、アンドこっちの顔をだすなんて珍しいな」
「お客さんに採掘現場を見学してもらおうと思って。それよりも今日はやらないんですか?」
「ふん。それがよ、昨日までなんともなかったのに採掘現場に魔風穴ができているんだよ」
男は俺の方に一瞥して、俺の方を見ないようにして話し続けた。
壁の近くに黒い小さな竜巻ができており、男たち数名が魔風穴にツルハシで叩いていたが、見事に弾かれている。
「また、マルグレットさん呼んでくるしかないですかね?」
「今ドラゴンで忙しいだろ。それに前回もこれを処理するのに余計な魔力使わせてんだからな」
「これってどうやれば消せるんですか?」
「あぁん? 部外者は黙ってろよ」
「ギーチンさん落ち着いてください。すみません、ロックさん。魔風穴は魔力の滞留で起こるつむじ風みたいなもので、強い風魔法で魔力を散らすと消えるんですけど、この村には魔法使える人が少なくて」
「ツルハシで殴ると消えるんですか?」
「いや……ほとんど効果は……」
「うるせぇ部外者は黙ってろ」
「俺の仲間に風魔法使える従魔がいるんですけど呼びましょうか?」
「あぁ? お前みたいなひょろひょろした奴に使える従魔なんてたいしたことないに決まってる。今日はもう風魔穴がおさまるまで休みにするから帰ってくれ」
俺のことを悪く言われるのはいいが、俺の可愛い従魔たちまでバカにされたままにしておくことはでいない。
「ラッキー!」
『あいよ』
「なんなんだ、その魔獣は……!」
俺の腕輪から出て来たラッキーにギーチンは腰を抜かし座り込んでしまった。
『ワオーーーーーン』
ラッキーが壁に向かって風魔法を放つと、そこに渦巻いていた魔風穴と共に、壁が爆散した。
「ラッキー……手加減……」
『バフッ?』
「こういうときだけ犬のフリをするな」
「なんなんだお前ら……」
ギーチンは足を震わせながらなんとか立ち上がる。
「俺たちは魔石を持ってきた、ただの冒険者ですよ」
「俺が知ってる外部の冒険者はそんな凶暴な従魔を連れてなんかいないぞ」
「ラッキーはいい子ですよ。初対面の人の悪口とか言わないですし」
『ふぁあー』
ラッキーは大きな欠伸をして何事でもないように普通にしている。
「わっ……悪かったな。この村ではあまり外の人間と仲良くする習慣がないんだ。俺はギーチンだ。雪結石の採掘の責任者をしている」
「俺はロックです。こっちが従魔のラッキーです」
「人は見かけによらないというか……すごいんだな。魔力を散らしてくれてありがとう。助かったよ」
「いえいえ、お役に立てれば」
その時、また足元が大きく揺れた。体感としてはほんの数秒だったが、またドラゴンが暴れているのだろう。壁が崩れたりはしないが……ドモルテたちが心配だ。
「ギーチンさん! 大変です! こっちに来てください!」
ちょうどラッキーが壊した壁のところで、男たちが大慌てで騒いでいた。
「ロックさん、俺たちもちょっと見に行ってみましょう」
アンドに言われるがままついていくと、そこには雪結石のキラキラした結晶が沢山あった。
「これだけあれば、この村は当分安泰だぞ」
ラッキーの風魔法はとんでもないものを見つけたらしい。