温泉の中でバナーナのお酒
いつの間にか、マルにシと大きく焼き印を押された風呂桶まで作成されている。
「シャノン、その風呂桶どうしたんだ?」
「パトラちゃんたちが作ってくれたんです」
「そうか……」
よく見ると、ガーゴイルくんも手に風呂桶を持ち、最近入ったメロウの分まである。
さすがにラッキーの分はないだろうと思っていると、ラッキーは自分の首からぶら下げるタイプの籠まで作られていた。
なにそれ、俺も欲しいんだけど。みんなずるい。
「パパーどうしたの?」
「なんでもないよ。みんな同じ桶持っていて、すごいなって思っただけだよ」
「ん? パパのもあるよー。ガーゴイルくーん」
ガーゴイルくんの手には一つしか桶がないと思っていたら、それぞれ体型にあわせて作ってあったらしく、ガーゴイルくんの大きな桶の中から俺とシエル用の桶が二つでてきた。
「ロックさんの桶がないわけないじゃないですか」
「さすがパトラ! ぎゅーってしてやる」
「パパー」
パトラをぎゅーと抱きしめると、オレンジアントたちも、いっせいに抱きついてきた。
「ロック様私も……」
メロウが膝の上に乗ってくると、シャノンも後ろから抱きしめてくる。
「ちょっと……」
ラッキーが俺の首筋を捕まえると、そのまま箱庭の外へ脱出した。
『ロック、風呂入るぞ』
「助けてくれてありがとうな」
『風呂に早く入りたかっただけだ』
続々とみんな箱庭からでてくる。俺はガーゴイルくんから桶を受け取ると、さっそく身体を洗う。ついでにラッキーの身体もピカピカにしてやる。
砂汚れなど、キレイに見えても結構汚れている。
それにしても、ラッキーも大人しくお風呂にはいるなんて成長したものだ。
俺とガーゴイルくんがラッキーを洗っていると、続々と着替えた女性陣がお風呂に入ってきた。
女性陣は今日はタオルを身体に巻いている。
本当はマナー違反ではあるけど、自分たちしか使わないのでいいだろう。
それよりも普通にメロウもきていた。
「メロウは温泉平気なのか?」
「もちろん平気ですよ。ただあまり長くは入っていられませんが、でもみんなで裸の付き合いも大切じゃないですか」
メロウはざっと身体を流して温泉に入ると、すらっとした足が魚の尾びれに変わるが、ほぼ一瞬で反対側の岩場の上に座り歌い始めた。
それぞれが温泉に入り、雪の中で歌う人魚の声を聞きながら星を眺める。
「楽器とかあった方がメロウさんの歌がもっと素敵になりそうですね」
いつの間にかシャノンが横に来ていた。
何度か一緒にみんなでお風呂に入ったはずなのに、なぜか今日はやけに顔が熱い。
肌が白いシャノンの顔もほっぺが赤くなり……なんだろう。ドキドキする。
「ロックさんどうしました?」
首を傾げながら聞いてくるシャノンの首筋がなんとも色っぽく見える。
「いや、なんだろう……さっきからドキドキするというか……」
「実は……私も……よっぴゃらった時のようにゃ……」
「シャノン?」
「あれ? ごめんなさい。さっきお風呂の中にお酒こぼしちゃって。どうぞ」
いつの間に持ってきたのか、ガーゴイルくんが湯船に器を浮かべてお酒をついでくれていた。メロウの歌を聞きながら飲むつもりなんだろう。シャノンは段々と眠くなってきたのか、カクン、カクンと俺の肩に頭を乗せはじめた。
「いや、よくやったよ。ありがとうガーゴイルくん。ところでそのお酒は?」
「これがさっき言ってたドモルテさんと共同開発した、箱庭産のお酒です。ロックさんに一番最初に飲んでもらおうと思って持ってきました」
ガーゴイルくんからコップを受け取り一口飲むと、口の中に甘いバナーナの香りがふわっと広がる。
「バナーナのお酒か」
「そうなんです。交流する時とかに使えると思って。今他にも色々な野菜や果物を育てているので、もっと種類を増やすつもりです」
俺が外で活動している間に、箱庭がどんどんすごいことになっている。
基本的に楽しく、仲良くやってくれれば何をしていてもいいけど。
「美味しいな。バナーナの芳醇な香りと甘い口どけが、グビグビ飲めてしまうから、気をつけないとだな」
「ドモルテさん本人は味覚がわからないのに、いつもみんなのために色々気を使ってくれて本当にすごいですよね」
「なんとか味覚を感じる方法とか見つけれらればいいけど」
俺はもう一度バナーナのお酒に口をつける。
この甘さは思わず癖になりそうだ。
空から降る月の淡い光の中で、温泉から見る雪景色とお酒、それにメロウの美しい歌声はまさに贅沢なひとときだった。