箱庭のなか
広い部屋を準備してもらったが、箱庭に入ってしまえばどこであろうと関係ない。
本当にこの箱庭は便利だ。
「パパーお帰りー。お外大変そうだね」
「ただいまパトラ。大丈夫だよ。今日は何してたの?」
パトラが駆けつけてきて、ジャンプして抱き着いてくる。
「お野菜収穫してたよー。今日の夜はガーゴイルくんの美味しい野菜スープだよー」
「それは楽しみだね」
他のオレンジアントたちも駆け足でよってくると全員が俺の身体に抱き着いてきた。
本当に可愛い子たちだ
全員の頭を優しく撫でてやると嬉しそうに満面の笑顔を浮かべてくれる。
これを見ているだけで癒される至福の時だ。
「みんなただいま」
俺はそのままテーブルのところまで連れていくと、一人ずつ椅子に座らせていく。
「ロックさんおかえりなさい」
「おかえり」
「おかえりなさい」
それぞれが声をかけてくれたが、ドモルテとシエルはまだ戻っていなかった。
そのうち帰ってくるだろう。
人魚たちの時もそうだけど、ドモルテは意外と常識人だ。自由にしていて問題を起こすことは、ほとんどない。
好奇心の赴くままに行動してもらった方がいい場合もある。
俺が帰ってくるのを待っていてくれたのか、ガーゴイルくんとシャノンがテーブルにどんどん料理を並べてくれる。
今日の料理はたっぷりのタルタルソースのかかった若鳥チキン南蛮、人魚が捕まえたサーモンカルパッチョ、ゴマの風味と塩であえたキャベッツサラダ、それに採れたて自家製野菜がたっぷり入ったスープに、ふわふわくちどけのプリンだった。
どれも美味しそうで、口の中に唾液が充満してくるのがわかる。
「ありがとう。料理が段々と豪華になっていくな」
「人数が増えたおかげで、作れる野菜もどんどん増えて余っちゃうくらいですよ。パトラちゃんたちも張り切って畑を耕してくれますし、メロウさんが大量に魚を捕まえて海に放してくれたおかげで、魚も充実していますし」
ラッキーが、なぜかそわそわしていたので俺が見ると急に眼をそらした。
「ラッキーどうした?」
『違うんだロック、私だって手伝おうとしているんだ』
ラッキーが目線をそらしているのは、力加減が難しくて畑作業は向いていなのだろう。
でも、ラッキーは畑が作れなくても他で十分頑張ってくれているからいいのだ。
俺はラッキーの側に行って思いっきり抱きしめる。
相変わらずフワフワの毛並みだ。
「ラッキー気にしなくていいよ。人によって向いている分野と苦手な分野があるんだから、みんなと一緒にできるならそれが一番だけど、それは絶対じゃない。ラッキーがやりたいことの中でできることをしてくれればいいよ」
『ロックー』
ラッキーが思いっきり抱き着いてくるが、ラッキーのモフモフの海の中で溺れそうになる。
ここで死ねるなら後悔がないと思うくらい気持ちいい。このままずっと寝ていたい。幸せだ~。
「ロックさん、スキンシップが終わったら食事にしましょう」
「悪い、ついラッキーのモフモフの魔力が……」
『食事が終わったら思う存分モフモフしていいぞ』
ラッキーが俺の身体を持ち上げると、俺を食事の席につかせた。
「パパー、子供みたい」
「本当だな。みんな待たせて悪かったな。食事にしよう」
パトラたちを席につかせた俺が、席につかされて、パトラたちは大喜びしていた。
子供の笑顔には本当に癒される。
みんなで食事をしながら今日何をしていたのかなどを聞いていく。
パトラたちは新しい家具を作ったりしていたらしい。そういえば小屋の地下も作っていたけど、最近見に行っていない。あとで時間ができたら行ってこよう。
新しく仲間になったメロウは魚のいけすを作ったり大活躍だ。
他のみんなと楽しそうに話をしているのを見て安心している。
みんないい子ばかりだけど、仲間が増えるにつれて人間関係とかも大変だからな。
ガーゴイルくんは、あとで見せたいものがあると言っていた。
「パパー、お外に雪一杯あるからね。あとで雪で遊びたいの」
「いいぞ。みんなで雪のそりとか、雪合戦とかやろう。ラッキー、向こうの用事が終わって買い物が終わったら山頂まで連れて行ってくれるか?」
『あいよ』
ラッキーの尻尾がブンブンと振られているので、ラッキーもかなり楽しみにしているようだ。
楽しい食事が終わり、少しラッキーのモフモフを堪能しているとドモルテとシエルが一緒に戻ってきた。
「ロック、なかなか充実した一日だった」
「ドモルテ、シエルおかえり。シャノン二人の食事あるか?」
「はーい。今持っていきますね。ロックさん……なんか夫婦みたいな会話じゃないですか?」
シャノンが少しおどけたようにいうと、そこにメロウが悪ノリしてきた。
「ロック様、それはずるいです。私とも夫婦っぽい会話してください」
「話が脱線して、収拾つかなくなるから、シャノンとメロウはまたあとでな」
「はーい」
「あ・と・で・ね」
一度ふざけだしてしまうと、終わらなくなってしまう。
楽しいのはいいんだけどね。
「シエル、遅くまで悪かったな。あとで彼らがどこへ行ったのか道案内を頼むよ」
シエルは大きく頷き、俺の身体に寄りかかってくる。
食事前だが、回復薬の瓶の蓋をあけて置いてやると器用に、持ち上げ飲み始めた。
シエルの身体を優しく撫でてやると、俺の手にグリグリと自分から身体を押し付けてくる。
ラッキーとはまた違った触り心地が気持ちいい。
俺はゆっくりと撫でながらドモルテの状況を聞いてみた。
「ドラゴンの結界はなんとかなりそうなのか?」
「あのお婆さんなかなかの食わせ者よ。結界術は一流の腕があるようだけど、なんとかする気があるのか……って感じ。表向きには封印をしているけど、これ以上強化するつもりがないようにもみえるし。ドラゴンもときおり苦しそうな顔をして暴れるから、封印しているのが難しくなっているのかもしれないけど。でも、非常に面白いわ。あんな風に水晶を使えるなんて思いもよらなかったもの」
「さっきドラゴンの水晶に触れた時に、頭の中に声が聞こえてきたんだ。もうここにはいたくないって。だけど、そういったことってありえるのか?」
「声か……ロックならありえないこともないと思うわ。この変わったメンバーを集められているんだから、封印越しにドラゴンの声が聞けてもおかしくないわ」
「そうか……」
「それがわかったとしても、今のところ勝手にドラゴンを解放するつもりはないんでしょ?」
「そうだな。ドラゴンには悪いけど、俺が水晶を破壊してとかはないな」
「それなら、ドラゴンはおいておいて、今はできることをやるしかないわ」
「はい、ドモルテさんどうぞ。シエルもお疲れ様」
ちょうどその時、シャノンが料理を運んできてくれた。
今気が付いたが、シャノンの着ているエプロンが新しくなっていて可愛い。また、パトラが作ったのだろう。パトラはシャノンの可愛さを引き出す天才だな
。
「ありがとうシャノン」
「それじゃあ、ドモルテもシエルもゆっくりしてくれ。俺は外の温泉に入ってくる」
「温泉?」
『温泉』
「温泉―」
「ロック、私もいくから食事が終わるまで待っていてくれ」
箱庭の中に温泉を作ってからみんなの温泉好きに拍車がかかっていた。
温泉と聞いた瞬間のみんなの笑顔が少し怖い。
シャノンはエプロンをすぐに脱ぎ捨て、温泉セットを持ってきた。
温泉へのこだわりが強すぎる。