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モブキャラに恋しました  作者: EAU
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1年目夏休み 動物園デート

 試合の翌週、美咲とのデートの日を迎えた。

 前日にどこに行くか相談した結果、動物園に行きたいと言う彼女の希望を叶えることになった。



 この街の北側に動物園と植物園が一緒になった施設がある。入場料もかなり格安で、動物園は500円でおつりがくる。植物園は夏の間だけなんと無料だ。他の季節も500円から1000円以内で、お手ごろな価格。

 因みに動物園の年間パスポートは、二回来れば元が取れるというお手頃価格。


「お兄ちゃん、これから何回も動物園に行くのなら、年パス持っておいた方がいいんじゃないの? 毎回入場料払うよりお得だよ?」

というみかんの素晴らしい提案で、美咲にも年間パスポートの話をした所、是非作りたいと返事が来た。

 みかんも作ったらどうだ?と話したら、

「お兄ちゃん、ちゃんと調べた方がいいよ? その動物園、中学生以下は無料なの♪」

と、鼻で笑われた。

 あ、そうなんですか……この世界の住人ではないので知りませんでした。



 ってかさ、いっつも気になるんだけど、ゲームの中でのデートって、本当はいくらぐらい金がかかってんだろう? デートで定番の映画とか水族館の入場料とか、一切出てこないけど、これって誰が払っているんでしょうね?

 街に住む学生さんには特別な入場券とかを配っているのかな?



 駅のバスターミナルで美咲と待ち合わせをした。

 動物園には駅から出ているバスに乗っていく。片道40分掛かるらしい。

 現実世界の俺だったら、すでに車の免許も持っているし、趣味でツーリングもしているからバイクの免許も持っている。車があれば楽なんだけどな~…と思ったが、今の俺は16歳だ。車の免許が取れない。なので移動はほぼバスか電車の公共交通機関のみ。

 因みにバスは、バス会社が発行している電子マネーを利用している。親が高校生になったら行動範囲も広がるだろうからってことで、オートチャージ機能付きの電子マネーを買ってくれた。使いすぎるな!と注意を受けたが、この電子マネーはバスにしか使えず、これで買い物ができないのだ。

 なんて不便なんだ!!と思ったが、逆に交通費はすべて親持ちだという利点がある。どんなに遠くに出かけても(なんとサッカースタジアムのある隣町でも、このカードでバスに乗れる! しかもスタジアムまでのシャトルバスも利用可能!)、交通費を気にする事はないのだ。

 逆に電車に関しては自腹だ。電車の会社とバスの会社が違う為、両方で使うことができないのだ。



 この街のバスターミナルは、円形になっている。

 バス路線も多く、乗り場は全部で16個もある。しかも高速バスや、隣の県にある大きな国際空港へ向かうバスまで発着しているのだ。

 現実世界の俺は、車ばかり乗っているので、バスとはほぼ無縁。どんな路線があるのかも知らない。

 事前に調べて、動物園には1番乗り場から出るバスに乗ることが分かった。


 1番乗り場に向かうと、多くの家族連れがおり、皆動物園に行くのかな…と思ったが、動物園のさらに先に遊園地があるらしい。この遊園地の中にプールがオープンしており、夏はかなり混むとのこと。

 プールがあるのなら、海に行きたがらないすみれを誘うのは簡単そうだ。

 その家族連れの後方に美咲の姿を見つけた。

 白い半袖のパーカー着て、膝丈のプリーツの入った紺色のスカートを履いている。肩からは小さなカバンを掛けており、トレードマークのシュシュはすみれから誕生日に貰ったと思われる四葉のクローバーのチャームが付いたシュシュを着けている。シュシュ以外はゲームの中での夏のデートのときの服装だ。

 俺に姿を見つけた美咲は軽く手を振った。なかなか来ない俺に不安を感じていたのか、ホッとしたような表情なのに、笑顔がとても輝いている。


 ああぁぁぁああぁあああぁぁぁ!!

 なんて可愛い笑顔なんだ!!

 ゲームの中ではこんな笑顔を見たことがない!


 バスに乗って動物園へと向かった。

 移動の最中、

「あのね、どうしても見たい動物がいるんだけど、一番最初に見に行ってもいい?」

と、美咲からお願いされた。

 どうやら美咲はコツメカワウソが見たいらしい。

 事前に園内マップを調べたら、俺が見たいヤマアラシの目の前らしい。お互いに見たい動物が向かい合わせにいるなんて、運命を感じるね~。



 動物園は夏休みという事もあって子供連れの家族が多かった。

 それと同時に日曜日ということもあって、男女のカップルの姿も見かけた。


 あ~、よかった。カップルが俺たちだけだったらどうしようって、内心焦っていたんだよね。

 だって、乗ってきたバスの中、ほとんど子供連れが多かったんだもん。

 デートって言ったら動物園、遊園地、水族館が主なデートコースなんだけど、これだけリーズナブルな動物園があるのなら、皆こっちにくるよな?

 因みに街のメルマガに水族館の案内が来ているけど、イルカとかアシカなどはおらず、近くの湖に生息する生き物を集めた小さな水族館らしい。入場料も大人3人で行っても、1000円でおつりが来るとか。ただ、公共の交通機関が電車のみ。そこから徒歩で移動とのこと。ただし、同じ園内にキャンプ場があるらしく、そこを利用すれば車で行ってもかなりお得とのこと。


 これは夏休み終盤に、皆でキャンプするっていうのも面白いかも。



 コツメカワウソの展示場所は園のやや中央。それまでの間、色々な動物を見て回った。

 長い坂を下っていくと、ホッキョクグマやアシカ、ペンギンなどがおり、その展示の隣にはヤギやヒツジが放し飼いになっており、自由に触れ合える場所があった。

 園内を進んでいくとサルたちの広場へ出た。

「いろんな動物がいるんだね。想像していた動物園と違うね!」

 美咲は嬉しそうに色々な動物を見ていた。

 俺はそんなはしゃいでいる美咲が見れて嬉しい。

 ゲームではこんな風にデートを楽しむ光景など見れなかった。スチールイベントがあると違った表情が見れるが、それ以外は選択肢のみで、ほぼ立ち絵だ。こんな風に楽しそうにしている様子など、想像でしかできなかった。


 コツメカワウソの水槽の前に来ると、美咲は最前列で食い入るようにコツメカワウソを見ていた。

 声には出していないが、キラキラと輝く笑顔はまるでお気に入るのおもちゃを手に入れた子供のようだ。

 俺はゲーム開発者に文句を言いたい。

 デートは動画にしてくれ!!!

 値段は高くなってもいい!!

 動くヒロインたちを見たいんだよ~~~!!


 思う存分コツメカワウソを楽しんだ美咲の顔は満足していた。

 ちょっと歩いたところにゾウの展示スペースがあり、その近くに売店がある。時間的にお昼に近かったので、そこで軽く食事を取ることにした。

 本当はレストランがよかったんだけど、動物園側にはないらしい。隣接した植物園にはあるらしいが、今日は動物園のみの入場券しか購入していなかったので、売店でもいいか?と聞いたら構わないと返事をしてくれた。

「今度は植物園の方に行こうね」

 なんて嬉しい言葉が返ってきた。

 これは……次のデート確定か!?


 近くにあったベンチに座りながら食事を取りつつ、話は来月行われる部活動の合同合宿の事になった。

「合宿場所って聞いてる?」

「先輩から聞くには、何代も前の生徒会顧問が経営する宿泊施設らしいよ。そこは何でも揃っているから、何日でもいられるって」

「そんな場所があるの!? 凄いね!!」

「近くには水族館が二つあるらしい。そのうちの一つは船で行く水族館って聞いてる」

「船で行く水族館!?」

「合宿三日目は自由時間になるから、いつも皆で出かけるって、先輩たちが言ってた」

「うわぁ~~」

 また美咲の顔が輝きだした。

 そう、彼女は動物が大好きだ。動物園や水族館をデート先に選ぶと、断られることはまずない。それにスチールイベントもいくつかあり、一番好感度が上げやすい場所だ。

「夏合宿、楽しみだね!」

 俺も楽しみだよ。

 だって、だって!! この部活合宿ではどんなイベントが待っているのか全く分からないんだから!!

 ゲームでの夏合宿は、同じ部活に所属するキャラしか登場しない。三日目には料理を振る舞う選択肢が出てくるが、これは同じ部活に恋愛対象キャラがいなければ、何を選択しても構わない。失敗しても成功しても何もダメージがないのだ。(成功するには気配りのパラメーターが一定以上ないといけない)

 三日目の自由時間、これをどう過ごすのか、今からワクワクする!

 昼間は美咲とデートして、夜はすみれとデートすることも可能なはずだ!

 すみれとは夏合宿で星空を一緒に見るという約束をしている以上、実行しなければならない。

 今から楽しみだ!!


 そんな夏合宿を楽しみにしている俺の目に、美咲のある表情が飛び込んできた。

 前方をじっと見つめている美咲から表情がなくなった。

 何を見ているんだろう?と思い、彼女の視線の先を見てみると、そこには両親と手を繋ぐ子供の姿があった。左手で母親と、右手で父親と手を繋いだ女の子は、とても楽しそうにゾウを見ていた。


 よくある家族の光景だよな~…なんて思って、もう一度美咲の顔を見たら、彼女は悲しそうな笑みを浮かべていた。


 んん??

 これは一体……。


「懐かしい……」

 美咲がポツリと呟いた。

「家族で出かける事?」

「うん。小さい頃はよく親と一緒に出掛けたの。仕事が忙しいのに無理して休み取ってくれてね。凄く嬉しかったな」

 そう語る美咲の顔はどこか懐かしそうな、でもどこか淋しそうな表情をしていた。

 あまり突っ込んだ話をすると嫌われると思って、それ以上は聞き出そうとしなかった。



 動物園を満喫し、夕方には駅に戻ってきた。

「今日はありがとう、ヒロキ君」

「どういたしまして」

「また誘ってね」

「お…おう」

 実質彼女からのデート確定の言葉だ~!!

 初デートでこんなこと言われるとは思わなかった~!!

「あ、そうだ! ヒロキ君、夏合宿の翌週の木曜日って、何か用事ある?」

「へ!? と…特にないけど……」

「花火大会! 花火大会に一緒に見に行かない?」

「お…俺と!?」

 突然のデートの誘いだと!?

 しかも親密度が一番上がりやすく、イベントも発生しやすい花火大会だと!?

「実はね、観覧席のチケットが余っているの。本当は両親とそのお友達と行く予定だったんだけど、急にお仕事が入っちゃって、有料席が余っているんだ。6人までならどんな使い方をしてもいいシート席なんだけど、良かったら一緒に行かない?」

 6人までは入れるシート席って、なんじゃそりゃ。

 てか、花火大会って有料席とか作っているんだ。初めて知った。

「他にもすみれちゃんと彩夏ちゃんも誘っているの。ヒロキ君もどう?」

 あ……2人きりじゃないのね…。そりゃ一年目だもんね。当たり前か…。

 ちょっとショックだけど、何かしらイベントでも起きそうな予感がするんだよね。

「俺でよければ…」

「本当!? ありがとう!!」

 詳しい事は夏合宿で話すと美咲は告げた。


 一年目の花火大会は自分から誘わないといけないと思っていた。

 でも、運よく美咲から誘ってもらえた。


 て、ことは、(すみれや彩夏もいるけど)それだけ親密度が上がったってことだよね!?

 あの感動する美しいエンディングの近づいてきた!!!

 テンション上がる~~!!



 美咲と別れて、家に着くまでの間、俺の足取りはとても軽かった。

 すみれと初めてデートした時も嬉しかったけど、それ以上に今日は楽しかった! 大本命とのデートは楽しいに決まっている!!

 周りの人に怪しまれながら、鼻歌を歌いながら(ほぼ)スキップ状態で家の前まで来ると、そこにはみかんと見慣れた二つの影があった。

「あれ? 坂本?」

 俺が声を掛けると、坂本は「よっ!」と手を軽く上げて挨拶してきた。

 坂本の隣にはケータの姿もある。よく見るとみかんも、坂本も、ケータもユニフォーム姿だ。

「こんにちは、ヒロキお兄さん」

 ケータが元気よく挨拶してきた。

 みかんは「なんで今、帰ってくるのよ!!」と俺を睨み付けている。

「なんでここに?」

 俺の質問に、みかんは慌てた様子で俺を家の中に突っ込もうとしたが、俺はそれをヒラリと交わした。

「今日、ファン感だったんだよ」

「ファン感?」

「「サッカーチームのファン感謝Day!!!」」

 坂本とケータが同時に発した。

 あ、それでユニフォーム姿だったのね。喫茶店もサッカーがあるから休みって言っていたけど、試合じゃなくてイベントだったのね。

「ケータがさ、みかんちゃんを誘いたいっていうから、オレが保護者代わりに付き添ってあげたわけ。みかんちゃん、両親を説得させてサポーターメンバーズになったんだぜ」

「へ!?」

「この間の試合で嵌っちゃったんだって」

「お前、いつの間に…」

 みかんを睨み付けると、当の本人は明後日の方向を向いていた。

 お前はサッカーに嵌ったんじゃなくて、お目当ての男の子と仲良くなるためにサッカーを好きになったんだろうが。

「これから、誘える時は試合にも誘うようになったんだ。ケータも、同じ年の仲間が出来て嬉しいってよ」

「みかんちゃんは物覚えがよくて、話していても凄く楽しいんです!」

 ほぉ~~、お得意の猫かぶりかい。本当、外面だけはいいんだから。

 今も「そんなことないよ~」と頬を染めながらしおらしくするみかんに呆れてしまう。

 だけど、兄ちゃんはちょっと心配だな。ケータに好意を抱いているのはみかんだけしゃない。この間の試合で見かけた女の子の行動が気になる。

「ま、試合に誘うときは俺も近くにいるからさ。安心してくれよ」

 ニカッと笑う坂本。

 うん、兄ちゃんは急に、坂本が心配になってきたよ。



 まあ、俺も美咲やすみれとの恋愛を楽しんでいるし、みかんも楽しけりゃそれでいいんじゃね?



 なんて坂本の前で言えるはずがない。

「よかったな、みかん。坂本が守ってくれるってよ」

 みかんの頭をポンポンと叩きながらそう話すと、みかんは驚いた顔で俺を見上げた。

 予想もしなかった言葉だったんだろうな、きっと。

 お前はお前で楽しめ。

 俺は俺で美咲やすみれとの恋愛を楽しむから。

 夏休みの間に、なにか進展してくれると、それはそれで面白かったりする。


 そう、夏休みはまだ始まったばかり。

 どんなことが待ち受けているのか、楽しみでならない!



      <つづく>



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