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モブキャラに恋しました  作者: EAU
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1年目1学期 期末テスト

 浮かれていた俺は忘れていた。


 そう、期末テストがあるということを。



 勉強していないけど大丈夫かな?と思ったが、問題は意外と簡単だった。

 一日目のテストが終わった後、部屋でタブレットを見た俺は、自分のステータスの状況をすっかり忘れていた。

 どうやらゲーム上での一年一学期の合格ラインを越えていたようだ。


 月曜日から木曜日まで午前中に期末テストを行い、金曜日は予備日。体調不良や何らかの用事でテストを受けられなかった生徒が受ける日。それに関係ない生徒はなんと休みだ。金・土・日と三連休だと言う!

 俺が学生の頃、そんなご褒美日はなかった。もちろんゲームにもなく、ゲームだと月~金までテスト、土日を挟んで月曜日に結果発表だ。

 金曜日が休みだなんて聞いていない!

 まさかの休日!


 何して過ごそう~…と浮かれていたら、演劇部から緊急召集の声がかかった。秋に全国大会出場の為の地区大会があり、その準備を始めるとのこと。同時進行で文化祭の準備も始めるらしい。

 サッカー部に聞いたら、一応活動可能だが、グランドで騒いではいけない(試験を受けている生徒がいるため)との忠告があり、月曜日まで活動停止になった。


 これは演劇部に出ないといけないのかな…。

 まあ、美咲やすみれと出かける約束もしていないし、坂本は「練習場に行ってくる!!」とテスト前から目を輝かせていた。

 練習場? …ああ、隣町のサッカーチームの練習場の事か。

 と、いう事は演劇部の活動決定だな。


 とりあえず、今はテストに集中するか…。




 期末テストの三日目、美咲の誕生日だ。

 だが、テスト期間中の為、プレゼントは翌週の月曜日に渡すことになった。すみれから、テスト期間中の美咲はかなりナイーブになっているので、話しかけない方がいいとの忠告があったのだ。

 美咲って、そういう性格だったっけ?

 親友のすみれが言うのだから、それを信じよう。




 そしてテストも終わった金曜日。

 演劇部は活動場所である講堂に集合した。講堂は校舎から離れており、さらに防音設備も整っている為、校舎で期末テストを受けている生徒に影響はない。

 今日の話し合いは地区大会に向けた作品作りと、文化祭の準備。

「今年は地区大会の作品を原作ありの作品にしようと思っているんだけど、どうかな?」

 部長である生徒会副会長の高森香たかもり・かおり先輩の発言に、部員たちはざわついた。今まで演劇部はすべてオリジナル作品を上演してきた。それが突然、原作ありきの作品を上演するって言うのだから、それは驚くだろう。

「驚くのも無理ないよね。今までわたし達はオリジナル作品しか上演してこなかった。どの作品も高い評価を得ているけど、ここ最近の作品の評価があまり良くない。ライバル校の実力も上がってきて、今まで以上の高評価を得るためには、もっともっと高レベルな作品を上演しなくてはいけない。でも、それは違うと思う。わたしはもっと学生らしい、学生にしかできない演劇をしたいと思うの」

 香先輩の言葉に、ざわついていた部員たちが静かになった。

 「学生らしい、学生にしかできない演劇」という言葉に心打たれたらしい。


 この学校の演劇部はプロの劇団から上演してもいいか?という話を持ちかけられるほど、学生が作った作品とは思えない作品を上演している。何代か前の生徒会役員(学校改革に乗り出した生徒会役員らしい)が演劇部の部長で、かなり演劇に詳しい人だったらしく、上演される作品はすべて書下ろし。超有名な劇団も台本を借りに来たという伝説が残っている。その伝統を絶やさないように毎年レベルアップさせていき、他の学校が真似できない作品を上演してきた。

 香先輩が言うには、最近の評価はもちろん高いが、必ず最後に「高校生らしい作品に挑戦してみては?」という言葉が付け加えられるようになったそうだ。


「部長、それはわたしたちの作品に嫉妬しているんですよ!」

「そうです! 他の学校が真似できない作品だから、嫌味を言っているんですよ!」

「今まで通りにオリジナル作品で挑みましょう!」

 部員たちは口々に言葉を発した。主に二年と三年だ。今年入部したばかりの一年は何も発していない。

「……わたしは……この気持ちを変えたくない」

 香先輩はきりっとした表情で部員たちを見つめ直した。


 心なしか先輩の表情が曇っているように見える。

 たしかに香先輩は一度決めたことを変えない人だ。

 でも、今回の発言は先輩らしくない。言っている事は正論だと思う。でも、先輩は評価など気にせず、いいと思う事を続けるタイプだ。それなのに最近の評価に付け加えられたたった一言に、これまで過敏に反応するだろうか?



 この日は話が纏まらず、お昼前に解散した。

 家に戻る道をとぼとぼと歩きながら俺は考えた。

 こんな場面、ゲームにはなかった。香先輩狙いでも、こんな場面に遭遇したことはない。


 この世界はゲームの中ではないようだ。

 まるで現実世界とは違うもう一つの世界ーパラレルワールドに迷い込んだように思える。


 もしかして、俺が部活を掛け持ちしたから?

 これが原因でゲームの世界が崩れかけているとか…?

 やり直したくても、リセットもロードもできない。

 起きてしまった以上、真剣に向き合わないといけないのかな?



 家の門を開けようとしたそのとき、

「お邪魔しました~」

と、聞きなれた声が隣から聞こえてきた。

 隣の家…すみれの家を見ると、美咲とすみれが出てくるところだった。

「すみれちゃん、今日はありがとうね」

「どういたしまして。気分転換になってくれたら嬉しいな」

「なった!なったよ! まさか期末テストの最中にあんなこと起きるなんて予想もつかなくって、内心焦っていたけど、すみれちゃんに相談して正解だったかも」

「よかった」

 笑顔で会話をする美咲とすみれに、俺は見惚れていた。

 私服の美咲とすみれを並んで見れるとは思わなかった!

 それにいつ聞いてもいい声だ。これが福耳ってやつか…。

 なんて思っていたら、すみれが俺に気付いた。

「あ、ヒロちゃん。学校に行っていたの?」

「あ…ああ」

「もしかして再試?」

 美咲が俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 予想もしていなかった目の前の美咲の顔に、俺の心臓が爆発しそうになった。

「違うよ! 演劇部の集まり! テスト期間中、学校にいたじゃん!」

「あはははは! 知っているわ。ちょっとからかってみたの」

 ケラケラ笑いながら美咲は返事をした。

 彼女は結構サバサバした性格だ。すみれのおっとりとした性格と対照的ではあるが、このサバサバした性格が好意を抱き始める中盤から後半になると、まるっきり性格が変わる。このギャップが愛おしかった。だから美咲に惚れこんだ。

「美咲ちゃん、元気になったね」

「ヒロキ君をからかっていたら元気になっちゃった」

 おいおい、それ、どういう意味だよ。

「ヒロちゃんはからかい甲斐があるよね」

 すみれ、お前まで何言ってんだよ。

「男の子って、もっと接しにくいかなって思っていたけど、ヒロキ君は全然違うね。すみれちゃんの恋人だからかな?」

「まだ恋人じゃない!! 美咲ちゃん、何度言えばわかってくれるの?」

「『まだ』ってことは、『いつかは』ってこと?」

「美咲ちゃん!!!」

 このお2人は何を話しているのかね?

 美咲は本気で俺とすみれが付き合っていると思っているのかね?

 俺の大本命は美咲なんだよーーーーーー!!!


 なんて声に出して叫ぶ事は出来ず(ゲーム画面に前だったら確実に叫んでた)、俺はただただ2人の意味の分からない会話を黙って聞いている事しかできなかった。


「明日、美咲ちゃんの誕生日プレゼントを持って行こうと思ったけど、やめちゃうよ?」

「え!? それはダメ!」

「じゃあ、明日のお弁当、美咲ちゃんが作ってきてくれる?」

「いいよ! リクエストはある? すみれちゃんの好きな物を作ってきてあげる!」

「そうだな~~……春巻きがいいな。チーズが入っている春巻き」

「わかった! 絶対に作ってくるね!」

 え? チーズ入りの春巻き?

 すみれ、チーズが苦手じゃなかったっけ?

 そんなことを考えながらすみれの顔を見ると、突然すみれがウインクを飛ばしてきた。


 はぅ!!!????


 予想もしなかったすみれのウインクに、俺の心臓が飛び上がった。

 いいいいいい今のは何だったんだ!?




 その日の夜、すみれからメールが入った。


『明日、美咲ちゃんへのプレゼントを渡しやすくしてあげたんだよ。

 このお礼は、夏合宿で一緒に星空を見ようね!』


 すみれさんよ、いつからこんなに手際よくなったんだい?

 確かに俺はチーズ料理が好きだ。それを知っていても幼馴染みだから理解できる。

 俺が疑問に思うのは、なぜ自分が食べられないチーズを使った春巻きをリクエストしたか…だ。俺とすみれは同じ好きな物は沢山ある。なのに自分が食べられない物をリクエストして、美咲に怪しまれないかってことだ。


 ゲームの中ではこんな展開はなかった。

 だからこそ、すみれのこの行動が後々どう影響してくるのかわからない。

 もしかしたら、美咲との恋愛ルートが生まれないかもしれない。

 もしかしたら、予期しない時に新しい恋愛対象者が現れるかもしれない。

 もしかしたら……。


 ロードもリセットもできない今の状況に、俺の心臓はドキドキしている。

 一応、途中でリタイアする機能は備わっていないゲーム。何があっても卒業まで出来る。(実行コマンドをずっと休息にしていても、何故か卒業できた)

 いくらゲームで卒業できても、今の俺が無事に卒業できるという保証はない。


 これは……素直に従っていた方がいいのだろうか……?





 月曜日、いつもの屋上で美咲とすみれとお昼を取った。

 約束通り、美咲はチーズ入りの春巻きと、チーズ入りの卵焼きを作ってきた。

「すみれちゃん、いつからチーズが好きになったの?」

「え?」

「チーズが苦手だって言っていたのに、なんでリクエストしてきたんだろうって不思議に思ったの」

 ほら見ろ! 美咲だって疑問に思っているじゃないか!

「それは……え~っと……」

 特に理由を考えていなかったのか、すみれは明後日の方向を向いて、頬を人差し指で軽く掻いた。

「ちゃんと説明してくれないと、今日のお昼は抜きだぞ」

 小さい子供に言い聞かせるように美咲は発した。

 某野球漫画のヒロインを思い出させられるような口調に、俺はドキッとした。声優は違うがこの口調には反応してしまう。某女芸人も物まねでやっていたが、それよりも遥かに可愛い! 本家本物には敵わないが…。

「……笑わないでくれる?」

「内容にもよる」

「……」

 困った顔を見せるすみれは、チラチラと俺の顔を見てきた。

「ヒロキ君に聞かれたらいけないの?」

「う~……ん……半分は……」

「どういうこと?」

「実は……ヒロちゃんの大好物ってチーズを使ったお料理なのね。でも、わたし、チーズの匂いがダメで、ヒロちゃんの好物を作ってあげられないの。何度か挑戦しようと思ったんだけど、やっぱりダメで……でも、ヒロちゃんには食べてほしくて…」

 少し俯き加減で指先をモジモジと弄びながら、ポツリポツリと話すすみれ。

 意外な事実を聞かされ、美咲はポカーンと口を開けている。


 すみれさん、無理しなくていいんだよ。

 俺はお前が作った物なら何でも食べるから。……きのこを使った物以外は……。


「美咲ちゃんだったら作れるかな?って思ったの。だって、ヒロちゃんの好物を作ってきても、ヒロちゃん、表情変えないし、感想も言ってくれないから、大好物を入れた方がいいのかな……って……」

 チラチラと俺の顔を見ながら話すすみれの顔は真っ赤だった。

 今すぐ抱きしめたい衝動に駆られた!

 誰も文句を言わないのなら、今すぐすみれを抱きしめたい!!

 思わずすみれに手を伸ばそうとしたその時……

「もぉ~~!! すみれちゃん可愛いんだから!! それならそうと言ってよ~~!!」

と、美咲がすみれに飛びつき、そのまま押し倒してしまった。



 いますぐカメラで撮影していいですか?

 ムービー機能を使って動画として残していいですか?

 美咲さんよ、制服のスカートが長くてよかったですね。もし短かったら丸見えですよ。

 いや、今もかなり危ない感じですが…。



 一眼レフを取り出したい衝動に駆られながらも、俺は冷静に小さく咳払いをした。

 それに気づいた美咲はハッと我に返り、すみれから勢いよく離れた。

「ご…ごめんなさい、ヒロキ君。はしたない恰好を見せちゃって…」

 いえいえ、とても美しい太も……いや、美しい友情を見せていただき感謝しております。

 次はぜひ、この俺を押し倒……いやいや、なんでもありません。

「ヒロキ君はすみれちゃんの手作りのほうがいいかも知れないけど、今日はこれで我慢してね!」

 そういいながら弁当箱を差し出して来た美咲。

 ピンク色の弁当箱には、俺の大好物であるチーズ入りの卵焼きと、たぶんチーズしか入っていない細い春巻きだけがぎっしりと敷き詰められていた。

「あ…ありがとう…」

「ヒロちゃん、ごめんね。本当だったら作ってあげたかったんだけど…」

「大丈夫。無理しなくていいよ」

「ありがとう、ヒロちゃん」

 潤んだ瞳で見つめられると、嫌とは言えない。

 それに、すみれには悪いが、大本命の美咲の手作りなら大歓迎だ!!!



 昼休みも終わり、教室に向かって廊下を歩いていると、職員室の前が人だかりになっていた。

「なんだ? あの人だかり」

「なんだろうね?」

 なぜそこに人だかりができているのか全くわからない俺たちは、同じ方向に首をかしげた。

 そこに、

「あれは期末テストの順位が発表されているのよ」

と、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。

 驚いた俺が振り向くと、そこには副会長の香先輩が両手に大量の本を抱えて立っていた。

「副会長」

「見てこないの? 自分の順位」

「順位って、張り出されるんですか?」

「ええ。この学校の伝統だもの。でも全員分の順位は貼りだせないから、各学年上位20名だけだけどね」

 マジで張り出すんだ…。

 現実の俺が通っていた学校はプライベートな事だからって、1人1人に全教科の点数とクラス内順位、学年順位が書かれた紙を渡されただけだったのに。

「この学校はね、期末テストの上位5人に、終業式で金一封を渡すことになっているの。金一封って言っても図書カードだけどね。学年末には各学年上位3人に電子辞書が贈呈されるのよ」

「そうなんですか!?」

「何代か前の生徒会役員が始めた事なの。なにかご褒美があればテストも頑張れる!って思った当時の生徒会長が校長先生を説得させて実現させたんだって。それが今でも続ているってわけ」

 【何代か前の生徒会役員】たちは、本当に学校改革に力を入れていたんだな…。部活動説明会にしろ、運動会にしろ、この期末テストのご褒美にしろ、学生が感じる不満や不安を上手く取り除いている。

 さすがゲームの世界。なんでもありだ。

「因みに、副会長さんは順位見たんですか?」

「見なくても分かるもの。返ってきたテストの答案で大体の順位が予想できるわ」

 うわぁ~~~……点数だけで順位が分かるって、それ、ほぼ満点ですって言っているようなものじゃん。そうじゃなきゃわからないって。

 その証拠に、俺たちの近くを通り過ぎていく2年生たちが、

「香、今回も1位だったね」

「四回連続の1位獲得おめでとう~」

「今度、ヤマ教えてね!!」

と、口々に香先輩に声を掛けていった。

 ほぼ満点だったんですね……羨ましい…。

「テストは先生が作っているから、先生の癖を見つけちゃえば簡単よ」

 なんて言う香先輩が異次元の人に思えた。



 一応順位を確認したが、俺の名前は意外な場所にあった。

「すご~い! ヒロちゃん、8位だよ!!」

「頭いいんだね、ヒロキ君」

 正直、俺も驚いている。

 確かにテストの内容は簡単だった。答えがスラスラと出てきた。

 でも、それだけじゃない気がする。だって、俺、とっくに高校卒業しているし、社会人として働いているんだもん。現実は。

 隣で凄い!凄い!と騒いでいる美咲とすみれには申し訳ないけど、(中身が)高校生ではない俺が8位で本当にいいのだろうかと疑問に思う。


 ふと自分の上の順位の生徒を見ると、1位と2位に見たことがある名前が載っていた。


 ……これは……まさかのイベント突入か?


 新しい恋愛対象者が増える~!!と焦っていると、

「絶対に次は負けませんわ!!」

と大声を出す女子生徒がいた。

 声のした方を振り向くと、そこには金髪縦ロールの髪型をした女子生徒が、1人の女子生徒に向かって怒鳴りつけていた。

「次は二学期の学年末で勝負しましょう!! わたくし、絶対に負けませんから!!」

 金髪縦ロールの女子生徒が一方的に怒鳴りつけているだけで、その向かいにいるショートの茶髪の女子生徒は特に困った様子もなく、頭を軽く掻きながら明後日の方向を向いていた。


 あの2人が恋愛対象者。

 たしかショートカットの女子生徒が野球部のマネージャー、金髪縦ロールの女子生徒がテニス部の部員だったと思う。

 金髪縦ロールの方はどっかの財閥のお嬢さまで、かなり高飛車でいつも見下している感じがするちょっと苦手なタイプ。それなのに攻略が楽。テニス部に入部して、イベントをこなして、せっせとデートに誘えば、2年の夏ごろには恋人一歩手前にまで愛情度が上がる。

 一方ショートカットの女子生徒は、野球が大好きで、将来は野球の選手になりたいという夢を持っているが、女の子がプロになれるわけがなく、それでも野球を諦めきれずに野球部のマネージャーをしている。運動も出来て勉強もできる優等生。実は隠れ設定があり、それは卒業式の告白時に判明すると言うサプライズ付き。

 あ、実は男でした~…なんて設定ではないのであしからず。

 この2人は幼い頃からの知り合いで、何かと張り合う仲。2人と知り合いになると、この争いごとに巻き込まれていくので、この場を去ろう。これ以上面倒なイベントや恋愛対象者を増やしたくない。


 因みにショートカットの女子生徒と仲良くなると、3年文化祭の学園演劇は『かぐや姫』、金髪縦ロールの女子生徒と仲良くなるとオリジナル作品の悪役令嬢が主役の劇を上演することになる。


 なんて書いたらフラグが立っちゃうから、この場を立ち去ろ~~。



 そのまま放課後まで何も起きず、俺としては美咲に誕生日プレゼントを渡す機会を失ってしまった。

 まあ、そんなに仲良くないし、こんなものかな?

 なんて思っていたら、昇降口で美咲とバッタリ出会ってしまった。

「あ、ヒロキ君。今帰り?」

 目の前に突然現れたものだから、俺は固まってしまった。

「すみれちゃんと帰ろうと思っていたんだけど、用事で先に帰っちゃったんだって。ヒロキ君も帰りなら一緒に帰らない?」

 へ? 急にそんな展開ですか?

 向こうから誘ってくれるんですか?

「どっちみち、坂の下のバス停まで一本道だもんね」

 笑顔でそう言う美咲。

 確かにその通りだ。この学校は長い坂の上にあり、坂の下にあるバス停まで一本道しかない。途中に喫茶店が一軒あるだけで、坂を登るのは喫茶店に用事がある人か、学校の関係者しかいない。その喫茶店も学校関係者しか利用していないようだけど…。


 断る理由もないので、美咲と一緒に帰ることにした。と言っても坂下のバス停までだけど。

「もうすぐ夏休みだね。ヒロキ君は何か予定ある?」

「一応…」

「ちゃんと計画立てているんだ! 凄いね!」

 そんな褒められる事じゃないんだけど…。妹のサッカー観戦のお供以外、これといった用事はなく、サッカー部と演劇部の活動と、部活の夏合宿、バイトを埋め込んだら夏休み全部が埋まってしまっただけなんだけどな…。

「みさ…刈谷坂は何か予定建てているのか?」

「う~ん…これと言って予定はないのよね。チアの練習と、すみれちゃんとお買い物に出かけるぐらいかな?」

「家族で旅行とかは?」

「それは……ないかな……」

 一瞬暗い顔をした美咲。

 何か悪い事を聞いてしまったか?

「彩夏ちゃんにも夏休み一緒に遊ばない?って聞いたら、週末はサッカー観戦で忙しいみたい。なんでも遠くの地に遠征に行くんだって」

 きっと一家総出で出かけるんだろうな…。

 ってことは、バイトが休みの日があるってことか。

「じゃあ、坂本も忙しいだろうな」

 彩夏と同じチームを応援しているからな。

「皆、忙しいんだね。わたしも早く計画立てなくちゃ。楽しい夏休みにしなくちゃ」

 そう言いながら空を見上げた美咲の顔は、やはり何か悩みを抱えているのか、曇りのある表情に見えた。


 ゲームの中では悩みなど一つもなかった美咲。

 どうやらゲーム通りには物語は進まないようだ。


 俺はずっとカバンに中にしまい込んでいた正方形の箱を取り出した。

 今しか渡すチャンスはないと思った。

「刈谷坂、これ…」

「え? 何?」

「誕生日プレゼント。昼に渡そうと思っていたんだけど、なかなか渡せなくて…」

「わたしにくれるの? いいの!?」

「気に入ってくれるといいんだけど…」

 俺から受け取った美咲は、すぐに箱を開け、中身を取り出した。

「きれ~い! これ、何?」

「ジェルキャンドルっていう商品だって。火を使わないタイプで、LEDが埋め込まれている」

「凄くセンスいいね! 大切にするね! ありがとう!!」

 さっき見た曇ったような表情はなく、明るい笑顔が目の前にあった。

 丁度美咲の顔を夕日が照らしたおり、キラキラと輝いていた。


 ああ、この子を好きになってよかった。

 こんな可愛い笑顔を間近で見れるんだもん。

 この夕日に照らされた美咲の顔、スチールに欲しかったな~。


 この勢いならデートに誘えそうだ!

 よし!!


「刈谷坂、もしよかったらでいいんだけど、夏休み、一緒に出掛けないか?」

「ヒロキ君と? それは2人だけで?」

「う…うん。ダメかな?」

「……」

 あ~~、やっぱり突然過ぎたよな~。

 まだお友達という括りにもなっていないと思う。

 こりゃ、ダメだな。

「……いいよ」

 ん? 今、なんて?

「ヒロキ君とお出かけ、してみたいな」

「いいのか?」

「うん。いつ出かける? ヒロキ君、色々と忙しそうだから早めに決めた方がいいよね」

「夏休みの初日は……妹に付き合わないといけないから、7月最後の日曜日はどうかな?」

「その日なら大丈夫だと思う。また近くなったら連絡してくれる? わたしの連絡先、教えておくね」

 意外な展開!!

 まさかOKだとは思わなかった!!

 しかも連絡先ゲットとか、こんないいこと尽くしでいいわけ!?

「これでいつでも連絡できるね。お弁当のリクエストとかあったら遠慮なく連絡してね」

 こここここここんな展開でいいのか~!?

 思い切って誘ってよかった!!!

 今年の夏休みは最高な時間を過ごせそうだ!!



            <つづく>



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