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モブキャラに恋しました  作者: EAU
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1年目1学期 運動会

 ゴールデンウィークが明けてすぐに、6月に開催される運動会についての説明があった。

 この学校の運動会は少し変わっており、現実世界にある徒競走という個人競技がない。障害物競争もリレーになっていたり、二人三脚もリレーになっている。


 なんでも何代か前の生徒会長が、個人競技だと運動能力の差で運動部が優位になる。だったら団体競技にして誰もが楽しめる運動会に作り替えればいい!!と改革したらしい。

 部活動の説明会を変えたのもこの何代か前の生徒会役員。

 それ以来、学校行事を欠席する生徒は誰一人もいなくなったそうだ。


「自分が出たい競技を考えておけよ。一人必ず1種目は出るように!」

 担任がそう言うと、教室中が賑やかになった。

 運動会は2つのチームに分かれて競う。このチーム分けは、明日行われる運動会実行委員でくじ引きで選ばれるらしい。

 各クラス一人、実行委員を選ばなくて行けないのだが、このクラスの生徒は実に積極的にイベントに参加するお祭り人間が集まっている。実行委員の立候補者が多く、俺は選ばれなくて済んだ。

 実行委員に選ばれたのは坂本だった。ジャンケンでその地位を掴んだ坂本は雄たけびを上げるほど喜んでいた。

 そんなに嬉しいか? 実行委員って。



「へぇ~、ヒロキ君のクラスは坂本君が実行委員になったんだね」

 毎日恒例となっている屋上での美咲とすみれとのランチタイム。

 今日は美咲が弁当を作ってきてくれた。

「お祭り好きのクラスだから立候補者が多くて助かった」

「HRの時間に聞こえた賑やかな声は、実行委員を決める声だったんだね」

「わたしたちのクラスも男子が張り切っていたよ。ね、美咲ちゃん」

「うん。すみれちゃんはどれに出る?」

「わたしは……チーム分けが終わってから考えようかな?」

「ヒロキ君と同じチームになったら、二人三脚に立候補するんでしょ」

「もぉーーーーー!!」

 目の前で繰り広げられる美咲とすみれの戯れは、いつまで見ていても飽きない。

 好きな子をこんな風に見ていられるなんて、本当に幸せだな~~。


 だけど、恋愛対象キャラが美咲とすみれしか出てきていないんだよな。

 副会長も一応隠れ対象者だけど、同じ演劇部にいても何のイベントも発生しないし(たぶんパラメーターが低いんだろう)、他の対象者も姿を見かけたことはあるが、全く出会わない。

 思い出せ~! 思い出せ~! 他の対象者が出てくる条件を思い出せ~!


 どんなに頭をひねっても、他の恋愛対象者が出てくる条件がまったく思い出せなかった。

 家に置いてあるタブレットにヒントでもあるかな?

 でもな~、出したら出したで機嫌取りが面倒になるし。たしか二年に進級した時に登場する一年キャラもいるんだよな。

 まあ、このまま美咲かすみれのルートに乗れば、エンディングは迎えられるだろう。

 すみれには悪いが、ちょっとだけ美咲よりのルートを進めば、最高のエンディングが見れる!!!

 運動会でも選択肢は出ていたけど、それは競技選択だけだった。

 競技は障害物競走か、玉入れか、二人三脚の三択。二人三脚を選ぶと、そのとき好意度の高い女の子と組むことになる。条件に当てはまらないと坂本になるんだよね。それだけは避けたい。


 ただ、ゲームではチーム分けがなかったから、何も気にせずに二人三脚を選んでいたけど、この世界では同じチームにならないとお目当ての女の子とは組めないようだ。



 チーム分けは、実行委員会の翌日に行われた説明会で発表された。

 この学校、よく授業を潰して生徒会企画の催し物をしているけど大丈夫なのか?

 体育館に全校生徒が集まり、その前で各クラスの実行委員が紅組か白組のクジを引く。各学年4クラスしかないので、平等に振り分けられるようだ。


 まず三年生がクジを引いた。

 生徒会長は紅組。うん、どうにか紅組は避けたい。

 次に二年生がクジを引いた。

 副会長は白組。これは白組になったら副会長とのイベント発生か?

 たしか、副会長の恋愛イベントの一つに運動会があった気がした。一年目か二年目のどちらかランダムで発生するイベントだったけど、同じチームになったら発生する確率が高くなるのか?


 そして残された一年生。

 隣の1組は赤を引いた。

 次は俺たち2組。坂本の番だ。

 坂本は天辺に穴の開いた段ボール箱に腕を突っ込んだ。あの箱の中に赤いボールと白いボールが入っている。

「一年2組は白!!」

 司会をしていた実行委員長が高らかに声をあげた。

 白いボールを高々と上げる坂本に小さく拍手を送る。あのウザ男…もとい生徒会長と同じチームでないだけありがたい。

「一年3組は白!」

 次に響いた声に、隣のクラスの生徒から歓声が上がった。

 3組は美咲とすみれのクラスだ。つまり、俺と同じチーム。

「やった!」

 すみれが遠慮気味に小さい声で喜んだ。

 その隣にいた美咲はニヤニヤした顔ですみれを突いている。



 う~~~む……これは美咲かすみれとのイベント発生か?



 その後、赤チームと白チームの応援団長が選ばれた。

 赤チームはバスケ部の三年男子。この三年生、【運動部総合部長】という肩書を持っており、すべての運動部を束ねる役職についている。束ねると言っても、予算会議とか、運動会の実行委員会を仕切るとか、壮行会を行うとか、運動部に関する事を企画する役職らしい。てか、生徒がやることか?

 白チームは副会長が選ばれた。副会長も【文化部総合部長】という肩書を持っているようだ。こちらは文化部を仕切っているらしい。


 副会長はショートヘアが似合うボーイッシュな風格。応援団長は伝統でチームカラーの学ランを着ることになっている。演劇部でも男役を演じることもある為、女子からの人気は高く、応援団長に決まった途端、同じチームになる女子生徒からは黄色い声が飛び交った。赤チームの女子からは悔しそうな声が上がった。

「副会長は一年の入学式で新入生代表の挨拶をするぐらい頭もよくて、運動部から助っ人として呼ばれるぐらい運動神経もいい。誰にでも平等で、演劇部では男はもちろん老若男女演じ分ける才能を持っている」

 そう教えてくれたのは同じサッカー部の二年の先輩。今回同じ白チームになった。

 この先輩の発言が本当なら、ゲームで一番難易度が高い恋愛対象者だということがよくわかる。通りで無理難題なステータス爆上げだったわけだ。しかも副会長が一学年上という事で、行内イベントは二年間限定。副会長が卒業すると、デートは誘えるがイベントというイベントは無くなる。しかも通常なら俺が卒業する時に女の子に告白するのに、この副会長に関しては副会長の卒業の時に一回告白し『保留』として一年過ごし、俺が卒業する時に答えが聞けるというゲーマー泣かせの設定になっている。

 ゲームの開発者はどういう経緯でこんな難しい対象者を作ったんだよ…。



 チーム分けが終わったということで、出場する競技も決めなくてはならない。

 とりあえず美咲やすみれと絡めるように二人三脚を選んだが、相手は当日抽選らしい。

 これで坂本が相手だと泣くぞ!





 そんなこんなで運動会当日。

 よく晴れ渡った空からは、夏を感じさせるような暑い日差しが降り注いでいた。


 簡単に報告すると、二人三脚の相手は坂本だった。

 やっぱり美咲やすみれとの好意度が低いようだ。

 来年も同じチームで組めるように今から祈ろう。


 お昼近くになると、校庭の一角に人だかりができた。

 開会式の時、校長先生が言っていたが、今年は食堂の開放と共に、校庭に商店街の有志(卒業生らしい)による屋台が数件並ぶことになった。

 安い値段でボリュームのある総菜パンを売るパン屋や、女子生徒たちお気に入りのクレープ屋、商店街で一番古いカレー屋など、競技中からいい匂いが漂っていた。


 その一つの屋台に見慣れた顔を見つけた。

 いつもはおさげスタイルなのに、今日は長い髪を器用に一つのお団子にしている彩夏だった。

 どの店よりも列が伸び、会計をしている彩夏は隣にいるイケメン男子と忙しそうに動き回っていた。

 あのイケメン男子、彩夏のお兄さんだ。今日は家族全員で来ているのかな?


 しばらくその光景を眺めていると、ますます列が伸びていった。

 喫茶店を経営していると聞いたが、これだけ列が伸びるのにはなにか理由があるのかもしれない。

 俺は知らず知らずのうちに、彩夏の方へと足が向いた。



 列の理由はすぐにわかった。

 彩夏のお袋さんが経営する喫茶店の人気メニューが、テイクアウト用の容器に入れられ並べられていたのだ。この学校の生徒も学校帰りに立ち寄ることもある喫茶店は、とにかく学生に優しい値段でボリュームのある物を提供してくれる。中でも大盛ナポリタンとオムライスは大好評で、部活帰りの生徒がよく頼むらしい。

 今日は大盛メニューはないが、人気商品のナポリタン、オムライスを始め、サンドイッチ、ハンバーガーなどの手軽に食べれるものや、クッキーやステックケーキなど女子が喜ぶものまで置いてあり、飲み物もアイスコーヒーだけでなくオレンジやカルピス、コーラやソーダなど、喫茶店メニューが多く並んでいた。

 こりゃ、列が伸びるわけだ。生徒だけでなく見に来た父兄も並んでいるんだから。


「晃! お店からアイス持ってきて!」

「おいおい、俺も手が離せないんだ。無理だよ」

「じゃあ、クリームソーダーは完売だな」

 屋台の中からそんな声が聞こえると、列に並んでいた生徒たちから「え~?」という残念な声が上がった。

 それを見ていた俺は思わず、

「手伝いましょうか!?」

と、声をかけてしまった。

 突然の声に、彩夏が一番びっくりしていた。

「ヒ…ヒロ…キ君!?」

 びっくりしすぎて変な所で名前が途切れた。

「君は確かこの間…」

 彩夏の兄が俺の事を覚えていたらしい。

「彩夏の知り合いかね?」

「あ…うん。隣のクラスの人…」

 親父さんに説明する彩夏の顔が微かに赤く見えた。

 だが、俺はこの忙しさのせいだと思ったので気にしなかった。

「お手伝いしますよ。俺、この後の競技には出ないので」

「で…でも……」

「困っている人を放っておけないよ。俺は何をすればいいですか?」

 断ろうとしている彩夏を押しのけて、俺は彩夏のお兄さんに声を掛けた。

「助かるよ。彩夏と一緒に会計を頼む。親父、店から持ってくるものは他にあるか?」

「じゃあ…」

 彩夏のお兄さんは親父さんと足りない食材を確認し始めた。

「いいの? ヒロキ君…」

 心配そうな顔を見せる彩夏に、俺は「構わない」と返した。

 正直、お金の計算は出来ないので、それは彩夏に任せ、俺は注文聞きと商品の受け渡しだけをすることにした。


 列は途切れることがなく、慌てる事ばかりだが、食材を取りに戻ったお兄さんが加わるとスピーディーになった。注文場所と会計場所を二か所にすると、午後の競技が始まる頃には列がなくなった。


「ありがとう! 助かったよ!」

 親父さんが俺の手を握りしめながらニコニコ顔でお礼を言ってきた。

「初めてにしては手際がいいな」

 親父さんの後ろからお兄さんが感心した顔を覗かせた。

 さすがに言えない…現実世界では高校なんかとっくに卒業して、今、レストランで働いているなんて…。

「ヒロキ君…だったかしら? これ、手伝ってくれたお礼よ。よかったら食べて」

 そう言いながらお袋さんがまだ温かいナポリタンとオムライスをくれた。屋台の裏に設置された鉄板で作ってくれたようだ。

「いえ、俺はただ…」

「いいから受け取って。ご飯、食べていないんでしょ?」

「でも…」

「ヒロキ君、受け取って。わたし達からのお礼」

「いいんですか?」

「ええ。手伝ってくれたお礼よ。本当に助かったわ。ぜひ、喫茶店で働いてもらいたいわ」

 ニコニコと話すお袋さんの言葉に、親父さんもお兄さんもウンウンと頷いた。

「お母さん! ヒロキ君は部活を掛け持ちしているから無理よ!」

「そうなの? 残念だわ」

 バイトの勧誘は大歓迎だ!! お金が貯まる!!

 だけど部活もあるし、どうしようかな…。

 あ~…でも、サッカー部の先輩たちも部活の後にバイトしているって聞いたな。部活は6時には終わるし、大会が近くなければ時間は取れるな。

「そのバイトって、何時間からOKですか?」

「ヒロキ君!?」

「俺も丁度探していたんです。もしご迷惑でなければ働かせてもらえませんか?」

「大丈夫なんですか? 部活が忙しいんじゃ…」

「部活が終われば時間は取れるよ。掛け持ちって言っても、大会がなければ早めに練習は終わるし、演劇部も金曜日は自主練みたいなものだしね」

「で…でも……」

「それに、小遣い稼ぎたいし…」

 最後の言葉に、彩夏はキョトンとした顔を見せたと思ったら、クスッと小さく笑った。

 その笑いをかき消すように親父さんが豪快に笑い出した。

「そうだろ、そうだろ! 学生時代は金がかかることばかりだ。多いに稼ぐといい!!」

「時間はあなたが決めていいわ。一度、喫茶店に来て。そこで詳しくお話しましょ」

「ありがとうございます」

 親父さんとお袋さんと話を勝手に進めて、彩夏が一番驚いていた。

 だが、お兄さんが彩夏に何かを言ったのか、顔を真っ赤にして俯いていた。何を言ったのか気になるが、俺は親父さんの豪快な笑いとお袋さんの力強い握手で彼女を気に掛けることができなかった。




 運動会は白組の圧倒的勝利で終わった。

 午後の競技の目玉だった応援合戦が、勝敗を分けたらしい。白組には応援部の生徒が多くおり、チアの模範演技が観客の目を奪い、これが勝利に導いたらしい。

 紅組の生徒会長は、

「卑怯だ!! 来年はクジではなく、応援団長が人材を選ぶように変える!!」

と、悔しそうに泣き叫んだが、周りから、

「来年はいないだろ、お前」

「留年する気か?」

と言われ、自分が三年生だということを忘れていたようだ。


 そんなこんなで運動会は終わった。

 え? 運動会に付き物のフォークダンス?

 なにそれ? 俺の住む地域ではそんなのないよ?

 定番なの?



              <つづく>



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