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モブキャラに恋しました  作者: EAU
12/50

1年目夏休み 夏合宿3日目

 夕食でもすみれの機嫌は悪かった。

 まさかあんな場面を見られるとは思わなかった。


 何とかして誤解を解こうと思っても、すみれ自身が会ってくれない。俺の事を確実に避けている。


 嫌だよ~~!!

 このまま一緒に出掛けるなんて出来ないよ~~!!



 翌朝、一足先にロビーに降りてくると、そこにすみれがいた。

 すみれは俺を見るなり不自然に目を逸らした。


 うん、怒ってる。

 めちゃくちゃ怒っている。


 でも……拗ねた顔も可愛いよ、すみれ。



 なんて事言えるはずがない~~~!!!!

 ど~~したらいいんだ~~~!!!!


 (心の中で)悶えていると、すみれが俺の方を見て、急にクスッと笑った。


 あれ? 怒ってない? 拗ねてない??


「ヒロちゃんの百面相、面白いね」

「へ?」

「表情がコロコロ変わるんだもん、面白い」

 そんなに表情変わっていた?

 無意識に変えてた? もしかして心の声が漏れてた!?

 口に出さなかった言葉を聞かれたんじゃないかとドキドキしていると、後ろから肩を叩かれた。

「おはよ、ヒロキくん」

 なんというタイミング…。肩を叩いたのは香先輩だった。

 あ、すみれの顔から表情がなくなった…。怖っ……!!

「お…おはようございます」

「昨日はありがとうね。あの後、お母さんに電話したら『やっと答えを見つけたね』って褒められちゃった。ヒロキ君のアドバイス、最高だったよ」

 ウインクしながらそういう香先輩の顔からは、前に感じ取った迷いという物がなかった。

「何何? 香ちゃん、後輩からアドバイスを受けたの??」

 香先輩の後ろから風祭先輩が顔を覗かせた。

らんちゃん」

「今度はわたしもアドバイスしてもらおうかな?」

「そうしたほうがいいよ。ヒロキくん、凄く的確な事を言ってくれるから」

 香先輩、それ以上はしゃがないでください。

 今、俺に後ろではとても怖い顔をしたすみれが……って、あれ? すみれ、怒ってない? なんか微笑んでいるんですけど……?

「じゃあね、ヒロキくん。今日の自由時間、思いっきり楽しんできてね」

 そういうと香先輩は風祭先輩と建物を出ていった。


 って、あの2人、知り合い?

 お互いに名前で呼び合っているけど?

 風祭先輩のほうが年上だよね?


 去っていく先輩たちを見送っていると、美咲と坂本もロビーに来た。

「あれ? すみれちゃん、何かいいことでもあったの?」

「ううん、何でもないよ」

 そうは言っているけど、すみれの機嫌が治ったように見える。

 もしかして誤解、解けたのかな?


 今、手元にタブレットがないから親密度を調べられない。

 まぁ、怒ってもいないし、拗ねてもいないから大丈夫だと思うけど……帰ったらすぐに調べなくては!!




 同じバスにはほぼ男しか乗っていなかった。なんか、皆の目が異様にキラキラしているんだけど、船で行く水族館に何かあるのか?

 バスに30分ほど揺られ、目的地に着いた。


 船で行く水族館は、陸地から離れた小さな小島の中にある。

 この小島には水族館の他にホテル(結構なお値段)があり、島の山頂には小さな神社があるらしい。

 島自体が小さいので一時間もあれば一周できるとか。


 だからなのか、船乗り場には沢山のお客が待っているんだが……。

「なんか……男の人ばっかりだね……」

「みんな、ぬいぐるみを抱きかかえているね……」

「……」

 (上から)美咲、すみれ、坂本は船乗り場に集まっている人たちを見て呆然としていた。

 よく見たら、一緒のバスに乗ってきた部員たちも、どこにしまっていたのか大きなぬいぐるみを抱えている。背負っているカバンにはアニメのキャラらしい缶バッチを着けている人もいる。

 これは一体……。


 そうこうしているうちに島に渡る船がやってきた。

 その船を見て俺は驚いた。

 大きな船を予想していたが、小型のクルーズ船だ。そしてその外壁には、周りの人たちが手にしているアニメグッズに描かれたキャラクターが描かれている。


 なんなんだ、このカオスな光景は……。


 訳も分からないまま船に乗り、小島へと向かった。



 船着き場は綺麗な桟橋があり、降りて左側にはレストランがある。右手にお目当ての水族館があるのだが、とてもこじんまりとしていた。

 それでも海に作られたイルカのプールでは、イルカが気持ちよさそうに泳いでおり、何人かのお客が覗き込んでいる。

 水族館の建物の方へと歩んでいくと、小さな建物があり、この中に水槽があるそうだ。

 ふと右手側を見ると、ペンギンがいたり、アシカやアザラシのプールまである。

 こじんまりとした施設だが、それに比べて来客が多い。


 皆が皆、手にぬいぐるみを持っているのが違和感なんだが……。


 お土産屋を覗いても、アニメキャラのクッズが多く販売されており、島の中にある軽食を販売する店も「コラボ商品」と書かれたメニューが並んでいた。

 これは一体……(本日二回目)。


 水族館よりも周りの人物観察の方が楽しくなってきた俺は、別の意味でワクワクしている。

「ねぇねぇ! あっちにペンギンが放し飼いになっているんだって!」

「見に行こうよ!!」

 美咲とすみれはテンションが上がっている。

 まあ、2人とも動物は好きだし、船で行く水族館という特別な感じにはしゃぐのもわかる気がする。


 ペンギンがいると言う場所に向かって歩くと、前方にログハウスのような建物が見えてきた。

 なんでもここには珍しいカエルが展示されているらしい。

 ちょっと気になったが、ペンギンに浮かれている美咲とすみれに声を掛けられず、その前を通り過ぎようとした。


 が、その建物の前にどこかで見たことがあるような人を見つけた。

 その人物は背中に大きなリュックを背負い、そのリュックには1人のアニメキャラの缶バッチが大量に付けられ、さらに同じキャラの小さいぬいぐるみがぶらさがっていた。

 一目で「ああ、このキャラのファンなんだな」ってわかるが、その顔を見て俺は驚いた。

「生徒会長!?」

 建物の前で手にしていた大きなぬいぐるみを置き、色々な角度から写真を撮っていた人物が、ウザ男…もとい、生徒会長だということに気付いた。

 声を掛けられた生徒会長はビクッと肩を震わせ、ゆっくりと俺たちを見て「あんたたち、誰?」という顔をしたが、俺たちの後ろにいた美咲とすみれの姿を見た途端、ぬいぐるみを必死に隠そうと慌てた。

「あ、本当だ。生徒会長さんだ」

「こんなところで何をしているんですか?」

 美咲とすみれが声を掛けると、生徒会長は急に気取った態度を取り、そこにあった階段に片足をかけ、急にポーズを取り始めた。

「や…やぁ、美咲君にすみれ君ではないか。奇遇だね、こんなところで会うなんて」

 いくらカッコつけても、振り向いた生徒会長は着ているTシャツが、アニメキャラの顔だから、あんまりかっこよく思えない。

 それに『美咲君』とか『すみれ君』とか、親しげに呼んでんじゃねーよ。

「生徒会長さんは旅行ですか?」

「そ…そうだよ。僕は毎月、ここに来ているんだ。君たちも旅行かい?」

「わたしたちは部活の合宿で、この近くに来ているんです。今日は一日中自由時間なんです」

「そ…そうなんだ。じゃ…じゃあ、僕はこれで失礼するよ」

 生徒会長は大きなぬいぐるみを抱きかかえると、そそくさと走り去っていった。

「あれ? 生徒会長じゃん」

「やっぱり来ていたんだ」

 後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。同部屋の先輩たちの声だ。同じバスに乗っているのを見かけた。

 が、振り返った俺が目にしたのは、生徒会長が持っていた物と違うアニメキャラのぬいぐるみを小脇に抱えた先輩と、これまた違うアニメキャラのぬいぐるみを頭の上に乗せているもう一人の先輩だった。


 先輩たちもファンなんですか……?


「どうした?」

 先輩たちの服装(生徒会長と同じでアニメキャラの顔がプリントされたTシャツを着ていた)に唖然としている俺と坂本に先輩たちが声を掛けてきた。

 俺も坂本もしばらくの間、動けなかった。



 先輩たちが教えてくれたのだが、この街を舞台にしたアニメが大ヒットしているらしい。そのアニメというのが、ここに来るのに乗った船に描かれたアニメキャラたちが出ている作品。

 市内の施設がそのまま出ているとかで、駅前に行くともっと凄さがわかると先輩たちは言う。

 そして、この小島はアニメにも登場し、主要キャラがこの島に住んでいるという設定のようだ。(生徒会長が持っていたキャラがそうだとか)

 先輩たちは、合宿先がこのアニメの舞台となった街の近くだという事を知って、大量の荷物の中にアニメグッズを忍ばせてきていたらしい。まだ俺も足を踏み入れていない先輩たちの寝室は、このアニメキャラ達で埋め尽くされているとか。

「この後、もう一つの水族館に行くんだ。で、時間があったら駅前も行く予定」

 ぬいぐるみを小脇に抱えている先輩がそういうと、

「『聖地巡り』♪ 『聖地巡り』♪」

と、頭の上にぬいぐるみを乗せた先輩がはしゃいでいた。

 なんでも二ヶ月に一回はこの街に来ているらしい。


 通りでサッカー部の休みが多い訳だ…。

 部活よりもバイトを最優先にしている理由がなんとなくわかっちゃった…。



 ペンギンたちがいるエリアに来ると、美咲とすみれは一目散に駆け出して行った。

 取り出したスマフォで、ガラス越しではあるが何枚も何枚も写真を撮っている。こんなにはしゃぐ2人を見るのは初めてだ。

 そのペンギンたちがいるエリアの隣に、上へと延びる長い階段があった。

 この階段の前にも多くのアニメファンたちが集まっている所を見ると、ここもアニメに登場したのだろう。

 階段の前で立ち尽くしていると、

「君たちもこの階段を登るのかい?」

と、またウザイ声が聞こえてきた。

 いうまでもなく生徒会長が、先ほど写真を撮っていた大きなぬいぐるみを小脇に抱えて、俺たちの後ろに立っていた。

「なんでまたいるんだよ…」

「呼んでないって」

 俺も坂本も、突然現れる生徒会長にうんざりしている。

 階段の前でゲンナリしていると、同部屋の先輩2人が両脇から生徒会長を捕らえた。

「生徒会長、もちろんこの階段を登るんですよね?」

「会長の推しキャラはこの階段を駆け上っていますものね」

「「一緒に行きましょう!!!」」

 先輩たちは「僕は行かないよ! 僕には他にやることが!!」と喚き騒いでいる生徒会長を引きずりながら、長い長い階段を登っていった。

 俺たちはその光景をただ眺めているだけだった。

 だって、一緒に登ったら、あの生徒会長と往復一時間も一緒にいないといけないんだもん。そんなのヤダ。(近くに案内板に往復約50分って書いてある)


 そのまま島を一周した。

 長い階段の反対側にはトンネルがあり、ここは青い電球のイルミネーションで飾られている。所々に星やイルカなどの形をしたイルミネーションがあった。後で調べたら、星じゃなくてヒトデなんだってさ。

 美咲とすみれは楽しそうに自撮りしている。


 女の子だね~。

 すぐ側で見ていると可愛くてたまらないよ~。


 船着き場に戻ってくると、丁度イルカのショーが行われるところだった。

 目を輝かせながらイルカのショーを食い入るように見ている美咲とすみれ。

 この2人の顔を写真に収めたい。

 凄く可愛いんだよ、2人とも。


 イルカのショーの後、ご飯を食べるためにレストランへと向かった。

 イルカのプールの向かいにあるレストランで、窓際の席に座ると、気持ちよさそうに泳いでいるイルカを見る事が出来る。

 本当はお土産屋の隣にあるカフェにしようとした(そっちの方が安い)が、せっかく海に来たんだから!!ってことで、ちょっとお高い海鮮丼を食べることにした。値段が高いな…と思ったけど、ボリュームがあり、俺はちょうどいい量だった。坂本は足りなさそう(カフェでなんか食べる!と叫んでいる)だが、美咲とすみれも満足のいく量だったようだ。

 そしてこのレストランでもアニメとのコラボ商品があり、そしてレジ前には沢山のサイン色紙が飾られている。アニメのキャストが来店して書いていったらしい。

 そして、秋から第二期が放送するとか。


 先輩たち、お願いだから県大会に集中してほしいな……。



 小島の水族館を満喫して、船で本土に戻ってきた。

 まだ時間は沢山ある。このまま宿泊先に戻るのももったいない気がして、そのまま路線バスに乗って駅まで出ることにした。

 そして、俺たちが乗った路線バスもアニメキャラが描かれていた。

 駅に着くと、その前に広がる商店街もアニメキャラで溢れ返っていた。先輩たちが言っていた「駅前も凄い」というのはこの事だったのか。

 一日中、目にしているからかだいぶ慣れてきた。

 美咲もすみれももうなにも驚くことなく買い物を楽しんでいる。

 そういう俺も、もう何も気にしなくなった。


 例え、行く先々に生徒会長の姿があろうと……。



 たった一日の自由時間を楽しみ、俺たちは駅前から宿泊先へと戻ってきた。

 また明日からそれぞれの部活の練習が始まる。

 明日はサッカー部は午前中だけの練習で、応援部は午後だけの練習だ。美咲とすみれもサッカー部の練習を見るのを楽しみにしている。今までサッカー部と応援部の練習日が重なっていたこともあり、特にすみれはやっと見れる!と喜んでいる。


 明日はどんな1日になるんだろう。



     <つづく>



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