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第4話

「それで、のこのこ帰ってきたんですか?」


 執務室で撃沈して仕事をしない俺にレオンが呆れたように言う。

 酷い言い様だと思うが、本当のことなので言い返せない。というか、言い返す気にもなれないぐらい俺は落ち込んでいた。


 妻に部屋に入ってほしくないと言われたぐらいでこの様とは、何と情けない男なのだ。


 こういうところがフィンシアに嫌われる一因なのかもしれない。


「あんなに意気揚々と王太子妃殿下のところに行かれたのに、直ぐに戻って来られた上に仕事もせずに落ち込んで、何があったのかと心配してみれば、王太子妃殿下に『部屋に入らないで』と言われたからとは。私が今、どれ程笑いを堪えているか分かりますか」


 人の不幸を笑おうなどと、こいつには忠誠心の欠片もないのか。


 部下の暴言に怒りが込み上げてくるも、それでも、それも直ぐにどうでもよくなってくる。


 どうすればフィンシアに好きになってもらえるのか、そんなことばかり考えている。


 そもそも、フィンシアは俺のどこが気に入らないのだろう。

 思えば、結婚式の日からよそよそしかったような気もする。

 緊張しているのだろうと単純に考えていたけど、何かやらかしたか俺。


 いやいや、特に何かした覚えはないぞ。


 忙しくて出掛けがちではあったが、初夜も優しくしたし、浮気もしていないし……って、そう思っているのは俺だけかもな。

 俺が気付いていないだけで、フィンシアを知らず知らずのうちに傷付けてしまっていたのかも。


 俺は妻の気持ちも分からない、馬鹿な男だよ。


 それか……まさかとは思うが、フィンシアには他に好きな男がいるとか。


 だから、俺に部屋に入ってほしくなかったか…あんなに必死になって……


 だったら、フィンシアにとって俺に触れられるのは苦痛以外の何物でもなかった…ということか……









 * * *


「ほら、フィンシア様。ここまで来たのですから、その膨れっ面はおやめください」


 セリシアにあれよあれよと用意をさせられて、カイル様の執務室の前まで連れて来られてしまった。


 来たところで何を言えばいいのか、さっぱり分からないのに。


 これは、小説じゃない。


 私の想像の中の世界じゃない。


 どうすればいいの?カイル様に何て言えばいいの?


「ねえ、セリシア。私、カイル様に何て言えばいいと思う。カイル様、絶対に怒ってらっしゃるわよね。やっぱり私、帰ろうかしら」


 弱腰の私にセリシアは「ここまで来て何を言ってるんですか」と言う。


 ううっ、強引にここまで連れてきたのはセリシアじゃない。


 セリシアを睨んでみるけどセリシアは全く気にせず、執務室の扉をノックした。


 ああ、どうしよう……


 もし、「離婚しよう」とか言われたらどうしよう?


 今まで捨てられるのは小説の中だけだった。


 それが、現実になったら……






「はい。どなたですか?」


 そして、側近のレオン様の手によって執務室の扉が開かれた。









 * * *


 執務室の扉がノックされ、扉を開けると、そこには王太子妃殿下付きの侍女セリシア殿が立っていた。そして、その後ろには王太子妃殿下も。


 これで、王太子殿下の機嫌も良くなるのではと嬉しく思うも、ニコニコ笑っているのはセリシア殿だけで、王太子妃殿下は……こう言っては何だが、今にも死にそうな顔をしている。

 体調不良だと聞いていたから、本当にお身体の調子が良くないのではと思ったが、もしそうなら、セリシア殿は王太子妃殿下をここに連れて来ないだろう。

 なら、この死人のような顔は精神的なものか。


 これは、あながち王太子殿下の杞憂という訳でもないのかも。


 王太子殿下のただのノロケかと思っていたが、どうやらそんな簡単なものではなさそうなく。そんな雰囲気を感じながらも、私は平静さを崩さずに快く王太子妃殿下を室内に招き入れた。


 それにしても、主人がこんなに憔悴しているのに、ニコニコ笑っているセリシア殿は鈍感なのか大物なのかよく分からないが、どちらにしても執務室に入るのを躊躇っている王太子妃殿下の背中を「早く早く」と押しているあたり、どこか食えない人物だと本能が訴えている。





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