表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第3話

 寝室の扉の前まで来たが、なかなか中に入る勇気が持てなかった。

 きっとフィンシアはベッドで眠っているだろう……俺のせいで。


 気になって気になって仕方なくて、ここまで来たが、もしフィンシアが眠っていたら起こすなんて可哀想なことはできない。


 昼食も摂らずに休んでいたいなんて、どれ程疲れているんだろうか……俺のせいで。


 勢いで執務室を飛び出してきたが、こんなことならレオンに対処法を教えてもらってから来ればよかった。


「まあ、王太子殿下。どうしてここに」


 俺が扉の前でグダグタ悩んでいると、フィンシア付きの侍女セリシアが声を掛けてきた。


「いや…フィンシアが体調不良だと聞いたから心配になって……」


 侍女はフィンシアから何か聞いているのだろうか?

 もし、フィンシアから「カイル様は絶対に通さないで!」なんて言われてたらと思うと侍女相手にビクビクしてしまう。


 だが、予想に反して、侍女は感激したように俺を歓迎してくれた。


「まあ、そうだったんですね!なんて優しい旦那様なんでしょう!フィンシア様もお喜びになります。ちょうど昼食をお持ちしたところです。どうぞ中にお入りください」


 この様子だと侍女に俺の不満は口にしていないようだ。

 その事に少しホッしつつも、それでも、俺の不安は拭えない。


 フィンシアに会うのが怖いと思いつつも、俺は侍女に促されるまま寝室に入った。


 寝室のカーテンは閉まったままで、部屋は少し薄暗い。


 ベッドの方を見るとフィンシアが横になっているのが分かる。多分寝ているのだろう。

 俺たちが入ってきても動く気配がない。


 そんなフィンシアを起こすなんて思いもよらない俺に反し、侍女はフィンシアに遠慮なく声を掛け、起こそうとした。


「フィンシア様、フィンシア様。そろそろ一度起きませんか?お腹が空いているでしょう。王太子殿下もお見舞いに来てくださってますよ」


 侍女に起こされ、フィンシアは起きた……すごい勢いで。


「えっ?!カイル様が?!やだやだ、絶対、部屋に入れないで!!」


 ガバッ!と起き上がったフィンシアは俺の入室を拒否し、そして、残念なことにすでに部屋に入ってしまっている俺と目が合った。


 間の悪い――お互いがそう思ったことだろう。





 フィンシア、ごめん……俺、そんなに嫌われてたなんて思ってもいなかった。









 * * *


 どうしてここに……


 目の前に立つカイル様を見て、思ったことはそれだった。


 セリシアからカイル様がお見舞いに来ているって聞いて、思いっきり拒否したけど、まさか、すでに部屋の中にいるなんて思ってもいなかった。


 今さらなかったことに……なんて出来ない。


 だって、カイル様…固まってる。


「すまない、勝手に入って」


 カイル様、どうしてそんな悲しそうな顔をするの?


「フィンシアのことが心配で……でも、余計なお世話だったな」


 カイル様、どうしてそんな泣きそうな顔をするの?


 カイル様はそう言って、背中を私に向ける。

 そして、そのまま扉の方に歩いて行って、部屋から出ていった。


 残された私は呆然とカイル様が消えた方を見ていた。


 呆然――よく小説に出てくる単語だ。


 この言葉に、憧れた時もあったけど、実際に体験するとこんなに胸が苦しいものだなんて思わなかった。


 愛人を作ったのはカイル様の方なのに。

 愛人を第二妃に迎えたいって言ったのはカイル様なのに。


 どうして、あんな顔をするの?




 私が貴方を傷付けてしまったみたいに――







「ふふ、王太子殿下ったらあんなことで落ち込むなんて」


 セリシアが微笑ましいみたいに言うけど、結構大問題だからね、これ。

 私は自分の失態にベッドに沈んだ。


「フィンシア様も、そんなに落ち込まないでください。旦那様にちょっと誤解されただけでそんなに落ち込むなんて、どれだけ王太子殿下のこと好きなんですか」


 セリシア~~違うのよ~~そうじゃないのよ~~そもそも勝手にカイル様を部屋に入れないでよ~~


 文句を言いたいけど、私はショックが大きすぎて浮上できない。


「それにしても、フィンシア様がカイル様に寝ているところを見られるのが恥ずかしくてあんなに慌てるなんて思いませんでしたわ。結婚前は小説ばかり書いて現実の殿方には興味ありませんって感じでしたのに、やっぱり旦那様から愛されると変わるんですね」


 それも、違う~~違うけど、もういいよ~~もう、私を一人にして~~


「フィンシア様、起きれますか?もし、起きれるなら王太子殿下に会いに行きましょう。そして、正直に恥ずかしかっただけですって伝えましょうよ。起きるのが無理そうなら、手紙を書きますか。そして、夕食は一緒に、とか、今夜も待ってます、とか。きゃっ」


 セ、セリシア……貴方、もしかして、私より妄想力が強いの?


 初めて知ったセリシアの妄想力の強さに私は目を点にした。

 事実とは異なっている見解もさることながら、ここまで私とカイル様が相思相愛に仕立てる妄想力はすごいの一言だ。


 否定したいけど、ここまで妄想が膨らんでいると難しそう。


 どちらにしても、会いに行くとか手紙とか、絶対に無理だわ。


「……いいの。別に誤解じゃないから」

「ダメですよ、フィンシア様。素直にならないと。あんなに大切にしてくださる王太子殿下を大事になさらないと罰が当たりますよ」


 罰ならもう当たってるわ……


 だって、カイル様はシルビア様を第二妃に迎えるんだもの……


 シルビア様がカイル様の第二妃に正式に迎えられ、嬉しそうに微笑み見詰め合う二人を想像して、私の胸は締め付けられたように痛くなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ