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葛城総合病院

ようやく、病院編スタートです。


「はあ……」

やっと一息つけるわ。


消灯後の見回りも終わり。

今日は静かな夜になりそうね。


後は記録を書いて、看護計画と支援先の報告と……。

ああ、もう何でこう書くことばかりなのよ。

話した内容とか、自動的に記録されないかしらね……。

でも、そんなことになったら私の記録ってちょっと幼稚すぎるって言われるかもしれない。


やめ、やめ。


でも、もう二十三時なのよね、そろそろ上がってくる時間かな?

社君がこの病院の守衛さんになって、二週間が過ぎた。


いつも夜に見回っているのは、あの変な騒動が起きてからだけど、特別に何かをしているわけじゃない。

普通の守衛さんだ。


でも、私は知っている。

社君がこの病院に来たのは、まさにそのことが原因なのよね。

葛城のおじ様から、聞いたから間違いない。

また、大変なことにならないといいけど……。


社君が来ているんだから、すでに大変なことはわかってる。

でも、あのときのようなことにならなければいい……。

それにしても、私に何かできることってないかしら……。

何も話してくれないからわからないわ。


「ねえ、葉月。社さんだっけ、葉月の幼馴染の彼。そろそろ上がってくるころよね」

妙にそわそわしながら、同僚の茜が話しかけてきた。


「そうね。ねえ、茜。もう記録書いちゃったの?」

私はもうすぐ終わるけど、さっきから茜が書いているのを見ていない。

また、勤務後に書くつもりなのかしら?

忙しいときはそれでいいかもしれないけど、私たちの記録って結構見られている自覚ってあるのかしら……。

薬剤師も、検査技師も、放射線技師も管理栄養士も事務の人たちも、みんな見てる。

それに、何かあったときには私たちの記録が結構重要になってくるのを知っているでしょうに……。


「え? まあ、あとでね。それより、もう来た後なの?」

あくまで社君のことが気になっているのね……。


「まだよ。今日はまだ来てないわ」

たぶん、今日はあの病棟に行くつもりだろう。

人間関係がうまくいってないと言う噂の病棟。

私達はみんな、その手の話には敏感なのよね。


でも、怪しくないようにするのって大変ね、社君。

それぞれの病棟でいろんな点検までしてくれるから、思わぬ人気者になっちゃったね。


もともと、見た目がよくて、寡黙。

そして、気が利いてやさしい。

出会いの少ない若い看護師が、騒がないわけがなかった。


「そう。何回も聞いて悪いけど、本当にあなたたち付き合ってないのよね?」

本当にそうよ。

たぶん十回は聞いていると思うよ。


「本当よ。私、そういう対象で見られたことないと思うのよね。何回も言わせないでよ、悲しくなるから」

悲しい現実を言葉に出して言うのは、傷口に塩を塗るようなものだけじゃない。

そう言う風に、自分を追い込んでしまうんだから……。

そっと、それは嘘ですとつぶやいておく。


驚く茜を相手にせず、私はせっせと記録を書き続ける。


「私、社さんに相手されないかも……。この病院で人気者の葉月で相手にされないんじゃ、望み薄かな……」

落ち込む茜。

相当真剣に考えてたのね……。


「まあ、茜が相手にされるかどうかはわからないわ。でも、社君、最近かなり若い子にも人気出てきてるから、競争率は高いわよ。わたしも、アピールだけはしてるけど、全然だめね」

若いといっても若すぎる気もするけどね。

なんといっても相手は中学生。

でも、最近の子は、積極的だから何があるかわからないわね。

特に、若さは怖さを知らないから……。


まあ、社君に限って、彼女たちを傷つけるようなことはしないと断言できるけどね。


でも、彼女たちが社君を傷つけるかもしれない。


今でも心に傷を負っている社君。

その相手は、妹のようにかわいがっている若葉。

子供だった若葉に罪はないと思う。

でも、若葉の言葉が、社君の心に、一生消えない傷をつけたことは確かだわ。


ねえ、青葉さん。

私はどうしたらいいのかしら。


社君の助けになれるように、いろんな経験をつんできたつもりだけど、結局何もできてない。


ねえ、青葉さん。

あなたは確かに社君の命を救ってくれたけど、同時に社君の未来を殺したのかもしれませんよ。


「…………」

馬鹿なこと……。

自分が何もできないからといって、青葉さんのせいにするなんて……。


「葉月はまだ社さんから挨拶してくれるからいいじゃない。葉月がいないときの社さんはこの病棟に来ることないんだからね。私たち、葉月と夜勤するのって結構楽しみにしてるのよ」

とんだ使われ方をしたものだわ。

でも、そうなのね……。


ほんの少し、役に立っている気がしてきた。

そうよね、私たちなんだかんだ言っても、幼馴染だしね。


「さっ、仕事、仕事。たぶん今日はこないわよ」

残念がる茜をおいて、私は記録を終えて報告書に移る。


「ねえ、葉月。そういえば、例のうわさだけどね。私すごいこと聞いちゃった」

眼をきらきらさせて、話をしたがる茜。

本当に困った人だ。

さっさと記録書いてもらいたい。


でも、茜はこれでも結構情報通なのよね……。

だから、いろんな噂話も茜に聞けば大概手に入ることが多かった。


しばらく話を聞くうちに、私も興味があるのだとわかった。

でも、これは社君の役に立つことかもしれない。


一刻も早く話したいけど、今は無理よね……。


明日言おう。

一緒に帰って、ご飯食べながらでも話をしよう。

茜には悪いけど、その話は私が社君にしておくわね。


いつも留守の主人公。

でも、密かに頑張ってます。

3~4話で一つの話にするつもりでしたが、病院編、ちょっとながくなるです。

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