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回想

主人公のなまえは ことしろやしろ と申します。

探偵事務所にある自分の机で、僕はうたた寝をしていたことに気が付いた。

慌てて周囲に目を向ける。

誰もいない。

ゆっくりと、安堵の息を吐き出した。


良かった。

心からそう思っていた。


若葉に見られようものなら、なんて言われるかわからない。

妹みたいにかわいがっているが、あの口うるささは勘弁してほしかった。


昨日若葉の中学に行ったからか?

若葉のことを考えていた。


いや、違う。さっき見た夢のせいだ。


もうずいぶん経ってしまったが、今でも鮮明に覚えている。

僕にもっと力があれば、救えたかもしれない命。


青葉さん。

あなたを、僕はこの手で救えなかった。

しかし、僕はあなたに救われた。


そして、あの時のあなたの言葉、忘れられません。

でも、そのせいで、若葉にさみしい思いをさせてしまった。

これでよかったのでしょか?


僕の問いにこたえる人はいない。

そして、この悲しみを癒す手段も存在しなかった。


もっとあの時に力があれば……。


繰り返されるその想いは、自分の精神をむしばんでいた。

(社。お主、またむしばんでおるぞ)

首に下げた暗記カードが話しかけていた。


「悲しみを二度と繰り返さないために」

冷静に、自らの言葉を口にする。

それで心が落ち着いていた。


(ありがとう。和歌)

暗記カードに礼を言う。この子が僕を守ってくれていた。


(取りつかれた思念の先にあるのは、悪想念じゃからのう。とりつかれたが最後、自らも、他人をも不幸にする。お主も例外ではない。まあ、それも面白いかもしれんがの)

忠告してくれる和歌は、楽しそうだった。


想いは形となるためには、言葉という力が必要となる。

しかし、その言葉には、本人が考えている以上の力がある。

そして、人はそのことを無意識に自覚している。


だからなかなか言葉に出せない。

言葉に出すことを躊躇する。


そうして形にできない思いは、自らのなかで膨らんでいく。

とめどなく膨らんだ先には、破滅というものが待っていた。


それが愛だとしても。


過剰な愛は、他人に自分の愛を強要するようになる。

もっと愛してほしい。

もっと愛されたい。


満たされない心は渇きを覚え、渇きは何かを求めてさまよう。


昨日の中学生は、そのものだ。

渇きを代替行為としてリコーダーをなめるということで満たしていた。

彼はいわゆる氷山の一角。ほんの入り口に立っていたから、簡単だった。


まだ、あの中学には行く必要がある。本当の問題は解決していなかった。


自らの右手に埋め込まれたあざのようなものを見ながら、僕はあの時のことをまた考えていた。

昨日の少年は、まだいい方だった。

取りつかれた範囲が少ない。自らのことをしっかりと見つめることができた。


だから、彼の言葉で、彼の悪想念を分離することができた。

あれが手遅れになっていたら、僕の言葉で切るしかなかった。



そんなことを考えていると、事務所の扉が騒々しく開け放たれた。


「ねえ、社、また物がなくなる騒動があったんだけど!」

弾む息を整えながら、若葉がそれを告げてきた。


「どうやら、やっこさん。相当な数いるみたいだな……」

後ろからパチンコの景品を両手に持った中年が、足でドアを開けながら事務所に入ってきた。


「おとうさん。また朝からパチンコ!?」

若葉のあきれた声が、事務所に響いていた。


つづけて3話目いきます!

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