ことのはのつるぎ
主人公成長する物語を書いて見たいと思いました。
キーワードは物語が進むと増える見込みです。
読んでいただけるとありがたいです。
今回は、不定期更新となります。
シャリン。
軽やかな鈴の音があたりに響き渡っていた。
シャリン。
鈴の音?いや、そうではなかった。
その音色は、鈴のように軽やかなものではなく、少し重い感じがしていた。
シャリン。
どんどんとその音は大きくなっている。
だんだんと近づくその音は、確実に目的地を目指しているようだった。
その音色と共に、誰かの足音も聞こえてきた。
廊下を進むその足音は、鈴のような音色と共に、その場所へと近づいていた。
そして、その場所で音はとまり、扉がそっと開かれた。
シャリン。
シャリン。
シャリン。
その音色の正体が明らかとなっていた。
棒の上に金属の輪を取り付けたもの。
錫杖
それを片手に、一人の男がその場所に入ってきた。
男はあたりを見回すと、その視線を一点で止めていた。
ゆっくりと、錫杖をそこに向ける。
シャリン。
ゆっくり、錫杖の先端を向けながら、近づいていく。
「ひっ」
向けられた先に、少年がいた。
暗闇の中で、少年はかすかに震えていた。
小さく震えるその手には、誰かのアルトリコーダーが握りしめられていた。
男は、左手に持った錫杖の先端をリコーダーに向ける。
「ちがう、これは……、拾ったんだ」
必死に告げるその目には、戸惑いと狂気の色が浮かんでいた。
シャリン。シャリン。シャリン。
今度は、錫杖をその顔に向ける。
「いいじゃないか!何が悪いっていうんだ!」
その目からは、もはや、戸惑いの色は消え、狂気だけが現れていた。
「そうさ、彼女のものはすべて僕のものだ」
リコーダーを片手に、少年は立ち上がった。
その背には、闇が広がっていた。
漆黒の闇はどんどん膨らみ、少年を覆い尽くしていた。
シャリン。
シャリン。
シャリン。
男は錫杖を向けながら、じっと少年を見つめていた。
「何か言ったらどうなんだ!どうせ気持ち悪いとか思ってんだろ!そうさ、気持ち悪いさ!そんなこと、僕だってわかってる!でも、どうしようもないんだ!どうせ僕の事なんて何とも思ってない。でも、僕はこの気持ちを抑えきれないんだ!僕だって、本当はこんなことしたくないんだ!」
少年はリコーダーを男に向かって投げつけていた。
「その言葉。確かに貰い受けた」
沈黙を守り続けた男は、少年の叫びを聞き逃さなかった。
リコーダーをつかみとり、そっと机の上においていた。
器用に錫杖を背中に背負うと、男は右手を前に突き出す。
突き出した右手は虚空をつかみ、何かを握りしめていた。
男の右手に光が集まる。
「僕だって、本当はこんなことしたくないんだ」
男は、少年の言葉をその手の何かに告げていた。
やがて、その光は男の手におさまり、一層輝きを増していた。
男は左手をゆっくりと右手に並ばせる。
目の前で並んで右手と左手の拳。
光が急激になくなっていた。
「抜刀」
その言葉の意味の通り、何かを抜き去るかのように右手を大きく振りかざしていた。
それは光り輝く剣であった。
「その言葉。自分で味わえ」
男はそのまま光の剣を振り下ろす。
「ひっ」
情けない悲鳴を上げて、少年はその剣から身を守る。
交差した両手を犠牲にして、必死に抗おうとしていた。
光の剣は少年の期待もむなしく、少年を両断する。
少年ではない声が、苦痛の響きを周囲にまき散らす。
それは、この世のものではない何かの叫びだった。
少年を包む闇が、晴れていき、光が少年を包み込む。
「僕は、なんてこと……」
涙と共に、少年の懺悔の言葉が漏れていた。
「天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と 祓給う」
男は数度少年の周りを光の剣を言葉と共に切り裂いていた。
男の言葉共に、その刀身を変化させた剣は闇を完全に払っていた。
「祓い給え 清め給え」
そして、最後の一刺しを、少年の胸に突き刺した。
断末魔の叫びと共に、少年の体から一切の闇が消え去っていた。
ぐったりとして倒れこむ少年を、男はそっと支えていた。
その手には先ほどの光の剣はすでになかった。
「想いは、言葉にして伝えるものだ」
諭すように、その少年に告げると、男は小さく息を吐いた。
再び静寂が舞い戻る。
しかし、それも長くは続かなかった。
「それで、解決だな。ごくろうさん。今回はスピード解決だな。毎回こうであってほしいもんだ」
無精ひげを生やした中年が、手をたたきながら、教室に入ってきた。
「じゃあ、この子は俺が連れてってやる。社、おまえは片付けといてくれ」
中年はそう言って、少年を担ぎ出し、何かを待つように、男を見つめていた。
男は、頭を振って、自分の首から下げている暗記カードをめくり始め、あるところで止めた。
おもむろに頭を下げて、それを中年に見せいていた。
「ん。人間、物事を頼むにはちゃんと伝えないとな」
満足そうに頷きながら、中年は少年を連れて歩き始める。
それを見送った、男の手の中の暗記カードには。
よろしくおねがいします
の文字が記されていた。
次回から主人公目線で話が進みます。
何しろ、この主人公。話しませんので……。