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歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」  作者: 高木一優
第三部 最後の聖戦なり
79/98

23、虹色の街

 長旅で疲れがたまった。午前中くらいはふかふかのベッドでゆっくりしたい。

 ベッドの中でまどろんでいると、部屋の電話が鳴った。内線だ。戸部典子の部屋からではないか。

 なんだ、と電話に出ると

 「パレードが来るなり!」

 いつもの能天気な声が聞こえてきた。

 窓から通りを見下ろすと、街は虹色の旗であふれかえっている。レインボー・フラッグだ。

 そういえば六月、ゲイ・プライドの季節だったな。毎年、ニュー・ヨークの街はゲイ・プライドに占拠される。街をあげての大騒ぎになるのだ。

 最近では、L・G・B・Tプライドという名称になっている。レスビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字である。

 マイノリティー、少数派の事である。少数派は常に虐げられる側にいる。サンフランシスコの市会議員だったハーベイ・ミルクは、初めてゲイであることをカミング・アウトして議員に当選した。ゲイ・コミュニティーだけでは票が集まらない。ミルクはマイノリティーたちの団結を呼びかけ、その声を議会に届けたのだ。LGBT、それは団結の証だ。

 これもアメリカ見学だ。パレードを見に行こう。


 私は戸部典子とともに街へ出た。レインボー・フラッグがはためくなか、目指すは五番街である。パレードは五番街を縦走するのだ。

 翼を広げた虹色の鳥の山車が行く。トラックの荷台に乗ったラッパーたちが、激しくリズムを刻んでいる。レインボー・フラッグを掲げた鼓笛隊が街を行進していく。消防車だ、消防車が行く。消防隊にもゲイの人たちがいるということなのか?

 ムキムキの男たちが踊っているぞ。これはゲイの一団か。おっと、次はレズビアンたちだ。人目もはばからずチュッチュッしているぞ。なんだか開放的な気分になってきた。

 沿道の人々はレインボー・フラッグを振っている。ニュー・ヨークは街自体がリベラルなのだ。あらゆる人種、あらゆるマイノリティーが暮らす街なのだ。

 野次を飛ばしている奴らもいる。キリスト教福音派だろうか。

 「おまえらは神に背いている!」

 レズビアンたちがディープ・キスで野次に応える。

 天使のコスプレをしたゲイのおっさんが、福音派に抗議だ。

 「おまえたちの不寛容を、神はお許しにならん!」

 寛容、いい言葉だ。寛容さがこの街の多様性を生んでいる。

 「We resist」(私たちは抗議する)

 そう書かれた横断幕を広げた一団が、私たちの前にやってきた。

 戸部典子が「ウイ・レジスト!」と叫ぶと、一団のなかにいた女性が私たちに目を止めた。

 「ノリーコ!」

 忘れていた、こいつは「ニューズ・ウィーク」の表紙を飾った有名人なのだ。愛と平和の使者なのだ。

 アメリカの田舎の人は「ニューズ・ウィーク」なんか読まないから、これまでの旅では気遣うことはなかったが、ここはニュー・ヨークである。

 「ノリーコ、ノリーコ!」

 ホットパンツにタンクトップ。露出度の高い女性だ。いや、女性とは限らないぞ。

 女性に手をひっつかまれた戸部典子はパレードのなかに吸い込まれていく。

 おいおい、これ以上騒ぎをおこすな。戸部典子を引き留めようとした私も、パレードのなかに引き込まれてしまった。

 こうなったら、LGBTプライドに参加してやるぞ!

 戸部典子はレズビアンたちにモテまくりである。にまにま顔が多少引きつっているが、レズビアンのお姉さま方に囲まれている。私だって負けてはいない。マッチョの黒人が私の後ろをぴたりとついて来るぞ。勝ったと思うな、戸部典子!

 戸部典子が自由の女神のコスプレをさせられている。そして自由の女神の格好のまま、かつぎあげられ、どこかへ連れていかれてしまった。

 しまった、はぐれた。大都会とはいえ、ここはアメリカだ。何が起こるかわからない。私は必死になって戸部典子が連れていかれた方向に走った。パレードの流れに逆らいながらだから、人波に押し返されてしまう。まずい!

 呆然と顔を上げた私は、見たこともないようなシュールな風景を見た。

 ピンクのバスの屋上に乗った戸部典子が、自由の女神のコスプレをしたまま、五番街を進んでいくのだ。たかだかと松明をかかげた、にまにま顔の自由の女神だ。

 シュールだ。私はドラッグというものを使用したことは無いが、ドラッグでラリった人には、こういう風景が見えるのではなかと思った。

 私は頭をぽんと叩いてから、ピンクのバスを追った。


 パレードの終点はグリニッジ・ビレッジだ。

 ピンクのバスが止まっている。ようやく追いついたようだ。

 バスの屋上では、戸部典子がマイクを手渡されている。何か演説するようだ。マイクのハウリングがビルの谷間にこだました。

 「あたしは中国の歴史改変実験に携わってきたなり。そして理解したことがあるなり。すべての人種、すべての民族、すべての性別に、優劣は無いなり!」

 そして、戸部典子は体中から振り絞るような声で叫んだのだ、

 「ゆにばああぁぁぁぁぁぁぁぁす!」

 聴衆が歓声を上げた。ユニバース、「世界よ」と彼女は言ったのだ。「アメリカよ」ではなく「世界よ」である。

 聴衆たちが、「ワオ!」と歓声をあげた。その中のひとりが拳をあげた。

 「ユニバース!」、男が叫ぶと、人々も叫んだ。

 「世界よ!」、人々のコールに応えてにまにま顔の自由の女神が両手を振っている。

 「ユニバース」は世界をつなぐ言葉としてグリニッジ・ビレッジから世界へと配信された。

 後で戸部典子にユニバースという言葉の真意を聞いた。

 「ロボット・アニメの主人公が、最終回でラスボスをやっつけるとき『ユニバース!』って叫んだなりよ。それを突然思い出したのだ。」

 なんと、出典はアニメだったのか!


 アメリカを離れる日が来た。この国で多くの事を学んだ。上海に帰れば再び碧海作戦を続行しなければならない。

 J・F・ケネディー空港から日本の成田経由で上海である。もちろん、ビジネス・クラスだ。

 戸部典子が夕食とワインを楽しんでいる。食い物を与えておけば、おとなしいものだ。

 「夜食と明日の朝食も食べたいから、あたしが眠ったら起こして欲しいのだ。絶対なりよ!」

 そう言った尻から、戸部典子は眠ってしまった。疲れているのだろう、もう少し寝かしておいてやろう。それにしても、眠ってもにまにま顔なのか。ボールペンでほっぺたをつついてみた。

 あっ、笑った。

 そうこうしているうちに私も眠ってしまった。気が付けば日本上空である。戸部典子が怒り心頭だったことは言うまでもない。

 成田でエア・インディアに乗り換えた。機内にただようカレーの匂いが食欲をそそる。

 「べジ、オア、ノンべジ?」

 インド航空の機内食はベジタリアン用の野菜カレーかチキンカレーである。

 「久しぶりのカレーなり!」

 カレーで機嫌が直って、やれやれである。



読者の皆様、いつも読んでいただき感謝いたします。

ようやくアメリカ編も終了だな、戸部典子君!

「アメリカ・ロケはキツかったなりー。」

確かに、内陸部では食い物が不味かった。

「サブウエイのサンドイッチがあんなに美味しいと思ったのは初めてなり。」

次回から第三部最終章だぞ。

「これでようやく『歴史改変戦記』らしくなるのだ。」

最終章は反乱に次ぐ反乱だ。

「武将たちの戦は萌えるなり。」

だが今回の戦いは爽快感は無いからな。

「いいのだ、あたしがバシッとしめるなりよ。」

さて、最終章、これは私たちの戦いだ。

舞台は中国から日本、そして西欧に向かいます。

「これが、最後の聖戦なりよ!」

ご期待ください。


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