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歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」  作者: 高木一優
第二部 西欧が攻めてくるなり
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20、海の要塞

 帝国艦隊がゆっくりと輪を作る様に英国艦隊を包囲していく。じわじわと包囲網を縮めて行くのかと思えば、艦隊はここで動きを止めたのだ。

 九鬼守隆は無言で降伏を促しているのだ。

 「ドレーク君、君は完全に包囲されちゃってるのだ、降伏するなり。」

 守隆が無言なのをいいことに、いらん事を言うな!

 ドレークは簡単には負けられないのだろう。これが社会的地位の上昇につながるからだ。負けて帰れば嘲笑を浴びることになる。


 ドレークは被弾し浮かんでいるだけとなった船に火をつけ帝国艦隊に送り込んだ。火だるまの船が帝国艦隊の包囲網の一角に突入し、避けきれなかった船に激突した。炎を上げて沈みゆく船に巻き込まれて、もう一隻が炎上した。

 包囲網の一角が崩れた。ドレークはここから脱出するつもりだ。英国艦隊は次々に廃船同様の船に火をかけ帝国艦隊にぶつけてくる。海賊戦法だ。

 九鬼守隆は陣形を整えようとするのだが、次々に襲い掛かる火だるまの船にかく乱されて思うようにいかない。

 窮鼠猫を噛むだ。

 これは殲滅戦になるな。英国艦隊を殲滅できたとしてもだ、帝国艦隊もただでは済まない。海が多くの血で染まるのだ。

 帝国艦隊が砲門を開いた。英国艦隊も応戦の構えだ。お互い距離を測りながら射程内に相手を誘い込もうと狙っているのだ。


 北の海にゆらりと船影が現れた。船影はどんどん大きくなっていく。船体が大きすぎて距離感というものがまるでつかめない。

 木場三尉のシーガルが映像を送ってきた。例の巨大船である。しかも三隻の巨大船が船団を組んでいるではないか。

 一番艦、玄徳丸。二番艦、雲長丸。三番艦、翼徳丸。

 三国志の英雄を艦の名にいただいたのは、中国人も日本人も大好きな物語の主人公を帝国艦隊の巨大船になぞらえることにより、帝国の民に国家への帰属意識をアピールする目的なのだろう。

 石田三成は国民国家というもに無意識にだが気が付いているのかもしれない。

 玄徳丸の甲板には宰相、石田三成がいる。中国風の長衣を着て、手には孔雀の羽で作った扇を持っている。

 「まるで諸葛孔明みたいなり!」

 船、というよりは、まるで海の要塞である。

 九鬼守隆さえもが、この要塞の威容に驚いている。

 伊達政宗と支倉常長も大口を開けている。

 「たまがっほど()とか船じゃ!」

 島津豊久があっけにとられている。

 誰よりも驚いたのはジェームス・ドレークだろう。西欧にもこんな巨大な船は無い。

 思い直したかのようにドレークは廃船に火をつけて巨大船に向かって送り出した。

 巨大船の砲門が開いた。

 ドゴーン!

 砲弾は空を切り裂くような音を立てて飛んだ。

 諸葛砲である。諸葛銃の原理をそのまま大砲に応用したのだ。回転するシイの実状の砲弾はフランキー砲の二倍の射程距離を持つ。砲弾は火だるまの船に着弾し、たった一発で撃沈せしめた。いや木端微塵に砕いた。

 諸葛超明が笑みをたたえている。諸葛銃はシイの実弾というコロンブスの卵の如き発想から生み出された。これを大砲に応用するためには砲身の強度を高めることが必要であり、超明はそれに成功したのだ。

 幕末にあって、開発国イギリスと肥前鍋島藩だけが所有していたといわれるアームストロング砲に匹敵する大砲である。

 戦場は、この一発の砲弾で沈黙した。

 沈黙の戦場を悠々と巨大船が横断していく。

 もはや、ドレークの抵抗の意思も萎えた。


 巨大船が海に放り出された英国人水兵たちを救出している。

 「ここは帝国の懐の深いところを見せてやろうではないか。」

 三成の言葉を木場三尉のシーガルが拾った。

 三成は攻撃を禁じた。巨大船の威容と諸葛砲の威力だけで英国艦隊を威圧したのだ。

 ジェームス・ドレーク以下、英国艦隊の水兵たちは捕虜とされ、敵船は鹵獲ろかくされた。

 


 捕虜となり台湾に上陸したジェームス・ドレークに島津豊久が声をかけた。

 「おはんの戦い、見事じゃった!」

 二人とも含み笑いだが目が笑っていない。だが、通じるものがあるのだろう。

 ドレークに石つぶてを投げつけようとしているシラヤ族の少年の腕を豊久がつかんだ。石が地面にぼとりと落ちた。少年は声をあげて泣いた。

 「よか、よか、泣くがよか!」

 泣きじゃくる少年を抱きしめる豊久の姿を、ドレークが見つめている。

 

 

 残すはゼーランディア城だけである。英国艦隊が敗れる様子も、巨大船と諸葛砲の威力も目にしたはずだ。

 ここで降伏するのが賢い選択のはずなのだが、ゼーランディア城は沈黙したままである。ジョン・メイヤーが次の手を考えて城内と連絡をつけているとしか思えない。

 前回のように近代兵器を持ち込んで巨大船を攻撃することだってやりかねないのだ。

 

 台湾に上陸した石田三成は諸将を集め軍議を開いた。諸葛砲を以ってゼーランディア城を攻撃するというのだ。恐らく砲弾の数十発も撃ち込めば、城は崩壊するだろう。

 井伊直政も伊達政宗も袁崇煥も意義を唱えることはできなかった。

 ただひとり真田信繁だけが、この戦の義について語りはじめた。

 「お待ちください。城内にはシラヤ族の民が傭兵となっております。彼らは帝国に敵対する者ではありません。大地を焼かれ、家を失った難民でございます。ぜひ、お慈悲を以って彼らをお救いください。」

 他に意見のあるものはと、三成が問うた。

 「島津豊久と申しもす。わしからもお頼み申す。こん子たちの父親や兄たちを救ってやっちょったも。」

 いつの間にか、庭にシラヤ族の女たちと子どもたちが集まって土下座している。

 「十日の猶予を与える。それ以上は待てん。」

 三成はそう言い残して退出した。

 十日のうちにシラヤ族を救出せよ、三成はそう言っているのだ。


 座敷牢に閉じ込められたドレークを島津豊久が見舞った。

 手にワインのボトルと干し肉を携えている。

 ドレークが干し肉にかぶりつき、ボトルのままワインをラッパ飲みした。

 「おはんらの船からの頂いたもんじゃ、遠慮するこつ無か。」

 豊久が笑っている。言葉が通じないためきょとんとしているドレークに豊久は身振り手振りで話しかけている。インドで英国人たちと接したことがある豊久は英単語をいくつか知っている。あとは根性でコミュニケーションする型破りの英会話こそ島津豊久の流儀である。

 やがてドレークの気持ちがほぐれたのか、奇妙なボディーランゲージの応酬が始まった。豊久の身振りがあまりにもユーモラスだったため、ドレークが笑い転げている。

 

 翌朝、ドレークからセーランディア城へ降伏を勧告する使者として赴くとの提案があった。

 支倉常長がドレークを引見した。常長はシラヤ族を開放すれば、城内のオランダ人たちの命を助けることを約束した。

 

 馬上の人となったドレークは背中に白旗を背負い、ゼーランディア城に向けて駆けた。城門が開き、ドレークが城内に消えた。

 ギンヤンマが城内に向かって飛んだ。だが、交渉は城内の奥の個室で行われたため、ギンヤンマが侵入できなかったのだ。ドレークとオランダ人たちの会話を聞くことができない。

 「あかねちゃん、何とかならないなりか?」

 「無理です、下手に侵入すると敵に気づかれます。」

 ぎりぎりする。ドレークが帰ってくるまで何の情報もないのだ。それに、帰ってくる保証はどこにもない。


 ゼーランディア城の門が再び開いた。ドレークだ! 約束通り帰ってきたのだ。

 ドレークの降伏勧告は不調に終わった。だが、いくつかの情報がもたらされた。

 ゼーランディア城のオランダ人たちは、再び神の矢が帝国艦隊を葬り去ると信じている。また、シラヤ族たちが人質として機能していることを知っていたのだ。

 ジョン・メイヤーがドローンを使って、情報を与えていたのだ。

 「卑怯なり!」

 戸部典子が拳を握った。

 このままでは、ゼーランディア城はシラヤ族ともども諸葛砲によって木端微塵に吹き飛ばされることになる。 

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