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歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」  作者: 高木一優
第一部 信長様の大陸侵攻なり
21/98

21、決戦!関が原

 家康は挙兵した。信長追討の宣旨を掲げて。

 すでに浅井長政が朝廷に圧力をかけて取り消された宣旨ではあったが、これが家康の大義名分である。


 家康率いる二万の軍が東海道を進軍する。家康の三男、信直のぶただが一万五千の兵を率いて中山道を行く。

 徳川信直とくがわ のぶただとは介入前の歴史では徳川秀忠である。秀忠は豊臣秀吉から「秀」の一字を頂いたが、介入後の歴史では信長から偏諱へんきを賜って「信直のぶただ」としたのである。

 家康の長男・信康は改変前の歴史と同じく信長の命令で殺されてしまった。次男もヌルハチとの戦闘で討ち死にした。徳川の三番バッターは信直のぶただである。


 迎え撃つは、織田信雄を擁する浅井長政。兵四万を率いて大阪城を発した。

 私と戸部典子はパソコンのモニターの前に座り込んでいた。

 メイン・モニターは大状況に変化があった時のために使わせてもらえない。

 戸部典子は研究室に備え付けの鉄観音茶を入れている。ちゃんと私の分も入れるんだぞ、

 デスクの上はお菓子でいっぱいである。ポテチ、チョコ、煎餅などなど。カップラーメンやサンドイッチもある。冷蔵庫の中にはアイスクリームやコーラなど。完璧だ。

 これで、モニター観戦の準備完了というところだ。

 戸部典子は極楽気分だ。


 「このままいくと、関が原あたりで激突だな。」

 「関が原!あたしの大好物なり。」

 戸部典子の顔が輝いた。顔からビームでも発射する勢いである。

 パソコンのモニターには行軍する両軍の兵が映っていた。チャンネルを切り替えるだけで東西両軍の様子がモニターできる。人民解放軍のみなさん、ご苦労様である。


 家康に従うは、山内一豊、最上義光、佐竹義重、里見義康、十河存保そごう まさやすなどなど、あまりぱっとしない名前が連なる。

 「なんか小粒なりね。」

 戸部典子はガリガリ君を前歯で嚙砕いている。

 改変前の「関が原の戦い」に比べて兵の数が少ない。

 ビッグ・ネームは家康と長政だけで、あとは二流・三流の武将だけだ。

 「なんか、しょぼい関が原なり。」

 おまえの言うとおりだ。たしかにしょぼい。


 対する浅井軍は織田の精鋭部隊と浅井軍団で構成されている。

 「蒲生氏郷君なりぃ。」

 副将は、蒲生氏郷だ。これは強い。


 徳川信直とくがわ のぶただが中山道を進んでいる。

 「誰か忘れてないなりか?」

 ポッキーを口にくわえながら、戸部典子が言った。

 おう、そうだこの男がいた。年老いたとはいえ信州上田には真田信繁の父・昌幸がいたではないか。

 これも歴史の復元力か、真田昌幸は徳川信直とくがわ のぶただの進軍を阻んだ。信長の天下統一の折、家康にはずいぶん虐められたから、その仕返しだろう。

 この真田昌幸の戦法というのが、まぁ、卑怯を絵に描いたみたいなのだ。逃げる、騙す、罠にかける。この繰り返しなのだ。剣道・柔道と同じく卑怯にも「卑怯道」があれば、昌幸はまちがいなく黒帯だ。

 「ちょっと信直のぶただが憐れに思えないか?」

 戸部典子は、どん兵衛のおつゆをすすっている。

 「仕方がないなり。熱くなってるのび太君が悪いなり。」

 戸部典子にかかると、徳川信直とくがわ のぶただも「のび太君」ということになる。

 のび太君は真田昌幸の卑怯な戦法にたけり狂い、なんとか一矢報いんとして熱くなっているのだ。

 介入前の歴史どおり、のび太君は遅れに遅れた。


 家康が爪を噛みながら、苛立っている。

 このままでは、浅井軍四万に対して、二万の兵力で戦わなければならない。しかし、信長に反旗を翻した以上、もう後には引けない。家康ほど信長の恐ろしさを理解していた男はないであろう。


 一五九二年九月十五日、信直のぶただの到着を待つことなく、関が原の戦いが始まった。

 改変前の歴史に先んじること八年だ。

 「ぅわぁー、関が原の戦いなりー。」

 戸部典子は手をたたいて、はしゃいでいる。

 これが歴女さん垂涎の「関が原」なのだ。

 豪華絢爛たる戦国オールスターズは、みんな中国だけど。

 「でも、やっぱりしょぼいなり。」

 戸部典子はポテチを口いっぱいに含んで、もがもがしながら言った。

 おまえ、太るぞ。


 浅井長政は鶴翼の陣で家康軍を取り囲んでいる。一方、家康は亀甲の陣。亀のような密集隊形で長政軍を切り崩す構えだ。

 午前九時、朝もやが晴れるとともに戦闘が開始された。

 「えい!」と打ち掛かれば、「おう!」と答える。戦国のならいのっとった見事な戦いぶりである。

 「日本のいくさなりねぇー。」

 戸部典子は煎餅を食いながら観戦だ。「ばりぼり」とうるさい。

 満州騎兵との死闘を見てきた私たちには、日本の戦が優雅にさえ見えた。

 武将同士の一騎打ち。「打ち取ったりー」という勝ち名乗り。

 ローカルな戦いだ。

 まぁ、これはこれで、見ごたえがあるというものだ。

 「裏切りはでるなりか?」

 浅井長政は織田兵と浅井兵、それに蒲生兵しか連れてない。裏切りがでるはずはない。

 「じゃあ、徳川に勝ち目はないなり。」

 そういうことになる。

 「おーっと、家康軍、ついに崩れたなり。」

 浅井長政の勝利だ。戦闘開始から六時間にして勝負がついたのだ。

 「長政君、コングラチュレーションなり!」

 戸部典子は缶ビールを片手に祝杯をあげた。こいつ、ついに酒まで持ち込みやがった。

 しょぼい関が原の戦いは幕を閉じた。


 徳川家康は戦場から姿を消した。どこに落ち延びたのか、それからどういう人生を送ったのか一切の記録に残っていない。

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