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第一部 ローウェル子爵領 平穏な?日々 03

「……ええと、あの、今なんて言ったのかしら?アイクちゃん?」


 動揺してるな。

 予想通り。


「はい。王立学校の魔法科に通いたいと言いました」


 ガチャン、とカップが音を起てた。

 マナーに厳しい母には珍しい粗相だ。


「王立学校の、その、魔法科に?」

「はい」

「……貴族科の間違いではなくて?」

「はい。魔法科です」


 母が動揺して何度も聞き返すのも無理はない。

 王立学校に通いたいと言うのはともかく、俺が口にしたのは王立学校の魔法科(・・・)なのだから。


 王立学校には同じ敷地内に貴族科と魔法科の二つの学科がある。

 貴族科はそのまんま貴族の子息が領主経営や騎士、官吏になるための学科。

 魔法科は貴族でも俺みたいな五男坊とか妾の子供とか、領地は継げないし、脛をかじるのも難しい人間が身をたてるために兵士や冒険者になるための学科だ。

 貴族科と違って少し裕福な商人とか平民の子供も多い。


 この世界の人間は差はあれど火や風、地や水、光や闇に宿る聖霊の存在を感じることができる。

 聖霊の存在を感じて、自身の魔力と引き換えに聖霊の力を借りて様々な魔法を使う。


 例えば生活魔法。

 風の聖霊に力を借りて服や髪から埃を払う魔法や。

 水の聖霊に力を借りて少しの水を出す魔法や。

 光の聖霊に力を借りて明かりをもらう魔法や。

 地の聖霊に力を借りて少しだけ植物の成長を促してもらう魔法。


 こういった生活魔法の類いなら、誰でも程度の差はあれ使える。


 それとは別に魔法師と呼ばれる訓練を受けた人間が使う魔法がある。

 残念ながらこの世界の魔法は生活魔法や治癒の魔法を除き、戦闘のために研究と研鑽を重ねられてきたものだ。

 火の魔法は敵を焼き払うために。

 風の魔法は敵を切り刻んだり、敵の攻撃を防いだり逸らしたりするために。


 ずっと昔から幾度も繰り返された戦乱の歴史と魔物の蔓延るダンジョンの存在が一因ではあるのだろう。

 これは戦乱が少なくなった今でも変わらず、魔法師と言うと戦闘魔法を扱う人間であって、そのほとんどは兵士か冒険者になる。


 王立学校の魔法科(・・・)とはその魔法師を育成する学科だ。


 魔法師は基本戦闘の中に身を置く職業ではあるが、今の世は戦争は少ない。三大国が互いに牽制しあい、一応は停戦条約も結ばれている。そのため国や大貴族に雇われることができれば地位は騎士に劣るものの通常の兵士の何倍もの給金を少ない危険で得ることができる。

 30年以上大きな戦乱が起きていない世では、お得な職業だと目指す者も多い。

 魔法師の兵士ーー魔法兵士とでも言っておこうか、の主な仕事は国境沿いの小競り合いや街道なんかに出没した獣魔の討伐だが、戦闘魔法を身につけた彼らにとってはそれほど身の危険を感じるものはごく少ないらしい。


 冒険者はダンジョンに入り魔物を狩る職業だ。

 ダンジョンの魔物は強い。

 そのため危険度は魔法兵士よりも格段に高いがその分各地方都市にあるギルドに登録すれば誰でも簡単になれる。

 魔法師でなくても冒険者にはなれるが、当然魔法師の方がそうでない冒険者よりもより魔物を狩ることができるし、より下層を目指すことができる。

 魔法師でない冒険者よりも楽で安全に。

 剣や槍で近接攻撃を行う他の冒険者と比べ、魔法師は遠距離からより強力な攻撃を与えることも、身を守る風や土の壁を作り出すことができるのだから。

 狩った魔物の素材は高く売れるものも多いし、下層に多く出現する宝箱には珍しいアイテムが入っていることもある。

 上手くいけば一生遊んで暮らせるだけの金貨が手に入る。


 けどどちらもやはり危険はともなう職業ではある。


 そんな魔法師になるための学科が魔法科。

 そんなところにいきなり俺が行きたいと言い出したのだから、一人で領内をうろつくだけで心配して止めさせようとしている母が動揺するのも無理はない。

 っていうか当然だよな。


「あ、ああぁアイクちゃん!いったいどうしちゃったっていうの?ああ、どうしましょう。……こんな。駄目よ!駄目ですからね!絶対に駄目です!許しません!!」


 取り乱しすぎて椅子から立ち上がって頭をかきむしり始めた。

 ヤバイ。

 ちょっと刺激が強すぎたかな?

 チラリと食堂のドアを見やる。

 そろそろのはずなんだけど。

 まだかな?


 もうそろそろ来るはずなんだけど。

 たぶん俺にとっての唯一の味方と成りうる存在が。


 と、カチリ。

 ドアノブを回す音が聞こえた。

 同時に聞き慣れた姉の声が。


「ちょっといったいなんの騒ぎよ?部屋の外まで母様の声が聞こえてたわよ?」


 助かった。

 俺一人で今のこの人の相手は不可能だよ。


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