Gの憤慨
ここは、昔々に老人が住んでいた一軒屋。
親類縁者はすでに全員他界し、独り身で生きてきた彼の死に気づく人は、一週間後に回覧板を届けに来た隣の人が初めてだった。
葬式というものも行われず、簡単に火葬だけされて、時は過ぎていった。
「よし、今日も十分」
「そうだな、これだけ食べればもう十分だ」
家にある何やかんやを食べ漁る、黒い影が二つ。
カサカサと音をたてて、巣へと戻っていく。
「さて、もうそろそろここも食べ物がなくなってきたぞジョンソン」
「そうだなカルロス。もうそろそろ、隣にでも引っ越すか」
巣に帰るなり、二匹はそんなことを言い出した。
一年は暮らしていたこの家も、家族の反映にともなって餌の減少が著しかった。
最近になって、真剣みが増してきた問題である。
「なあ城太郎。あなたはどこがいいと思う?」
「シルビア、俺は前からはす向かいのおばさんのところがいいって言ってるだろう」
「山田、お前ちょっと遠くの小野崎さんちがいいって言ってたよな?」
「それ先輩が言ってたんしょ。自信ないからって俺になすらないでくださいよ」
二人の会話を聞いてか、巣では何匹もの仲間たちが、口々に話し合っている。
「おい皆、聞いてくれ!」
そのとき、ある一匹が巣に駆け込んできた。
「どうしたハヤマ。そんな血相変えて」
実際は彼らに血相などない。
「それが、今、庭に出てたら」
「おいお前! また庭に出たのか! あれほど行くなと」
「うるせぇ親父! 今は静かに聞け!」
「な、なんだと!? 親に向かってなんて口の聞き方だ!」
「まあまあヨシユキさん落ち着いて。ノリユキ、何があったか言ってみな?」
「ありがとうロビンソンさん。実は」
彼が何かを言おうとしたとき。
ブォォォォォォォォォォォォォォォォン!
「な、なんだこの音は!?」
「音だけじゃねえ! 地響きまでするぞ!」
「地震か!? 地震なのか!?」
「みんな落ち着け! これは人間の」
ノリユキが本題を話そうとすると、また轟音が響く。この音は。
「家から、聞こえる?」
「これは、家が軋んでいるのか!?」
「どうなっちまうんだ! ここは!」
「人間が、ここを壊そうとしてる!」
ノリユキの言葉に、皆が目を丸くした。
「なんだと!? ならすぐにでも逃げ出さないと」
次の瞬間、彼らのいた場所が燦々と降り注ぐ光に照らされた。
「うあっ!」
「屋根が壊されたぞ! ここももうダメだ!」
「皆、散れ! 一匹でも多く生き残れ!」
ヨシユキの一声で、彼らは四方に散っていった。
しかし、尚も魔の手は家を破壊する。
「ぐあっ!」
「ジョンソン!?」
時には壁の残骸が仲間を引き潰し。
「きゃああああああああああああ!」
「エリーーーー!」
時にはその爪に彼ら自身が引き裂かれ。
時には。
「お前はここで消えろ」
「城太郎、何を……ぐはっ!」
仲間割れを起こす者までいた。
「くそっ……。人間よ……」
ノリユキは、懸命に走りながら叫んだ。
「我々が一体何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
それが、彼の最後の言葉だった。