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Magia Lost in Nightmare  作者: 宇治村茶々
第4章 落日の哀歌
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第70話(4-1-3)

惨状。

これほどその言葉が合う状況を私は今まで見た事がなかった。




玩具の様に乱雑に散らばった腕や脚、生首、飛び散る臓器・・・・・・・・そして、むせ返るような鼻を抉る血の匂い。錆びた鉄棒のような嫌な臭い。そして、飛び出した臓器から上がる甘くべっとりとした腐った香り、血、血、血、血、ロビーは血の海だ。


そして、ロビーの真ん中の大きなテーブルの上に血だらけの黒い制服を着た少女が片手に生首を持ち、こちらに背を向け裸足で立っている。


私たちはその光景に当てられ、しばし言葉を失ってしまった。

こんなの、こんなの・・・・・酷すぎる。もうショックで泣きそうだ。





「あーーーーーあーーー次の、お客様」

テーブルに立っていた少女はしばらく絶句していた私たちに痺れを切らしてなのか、間の抜けた変な調子の声でそう言ってこちらに振り向き、ピョンっとテーブルから降りた。



落ち着いた雰囲気のアジア系の少女。

もちろん、それはおおまかな雰囲気だけの話だが。間違いなく彼女がこの惨状を生み出した人物だろう。言い知れない恐怖と怒りがじわじわと私を包み込んでいく。




「あーなたちが、噂のテンプル騎士団?」

少女は生首を持ったままのんびりとした口調で言った。


「そうだ。お前を殺す。そのために来た。お前だけは刺し違えてでも殺す。今決めたぞ」

ルミナスが言った。



「うへぁへほ、うひゃっやっひゃっあっひゃっひゃ」

少女はルミナスの言葉を聞いた後、生首を持ったまま腹を抱えて聞いたこともないような不気味な笑い声を上げた。



「・・・・・お前、本当に人間か?」

ルミナスが思わず聞いた。

正直、私も同じことを思ってしまった。


「おっきょっきょっきょうひゃっひゃああひゃっひゃ。あーーあー、良いところに気が付くねぇ、そう。そうそう。そうだよ、私は人間じゃない。カガリトでもない。私は魔女。傷の魔人、マルグリットに魔女に変えられ、そこから上がった特別な存在。私は、ペイン。傷の魔人、ペイン、それが私の名前!!!!」


少女は楽しそうに体をクルクルと回しミュージカルのように踊りながら答えた。


私は彼女の言葉を聞き、耳を疑った。


彼女が、人を殺め踊っている彼女こそがシズカが話していたもうすぐ人間に戻れるであろう『ペインちゃん』だったのだ。同じ『魔人』なのにシズカとは全く逆だ。こんなの、こんな子、許せる訳がない。きっと、今の惨状を見ればシズカも同じことを思うはずだ。




「・・・・・・・魔人、つまり、魔女か。カガリトならほんのすこーし心が痛むと思ったが、魔女なら心置きなくぶっ殺せるな!!!覚悟しろよ!!!!」


ルミナスはそう叫び、ついに『天装』を展開した。私もミーミルもそれに続く。




「くっひゃひゃあひっひゃひっひっひー、いいねぇ、いいねぇ、4人で楽しもう!」


少女は生首を放り投げ、腕を大きく広げた。それと同時に両手首からルミナスの剣と同じくらいの長さの歪な真紅の刃が彼女の皮膚を突き破って顔を出した。


そして、同じように踵から真紅の短い刃を出し、人間には不可能なほどの大ジャンプをして空中でクルっと回り、ルミナスにかかと落としで襲い掛かった。




「いいね、いいねぇ。流石、テンプル騎士団。そこらの雑魚モブとは違うねぇ」

ルミナスがなんとかそのかかと落としを弾き返すと、少女が嬉しそうに言った。


「へらへら笑っていられるのも今の内だ!」

ルミナスがそう言って顔を傾けた瞬間、少女に向けて矢が飛んで行った。



「なるほど。なるほどねぇ。良い連携」

少女はミーミルが放った矢を素手で掴み、それをソっと床に置いた。



「わお」

ミーミルが言った。




「うん、うん。2人の事は分かったよ。それじゃあ、こっちの子はどう!?」

少女はその場でぴょんぴょん無意味に跳ねた後、凄まじい速さで私の方に襲い掛かってきた。来る、来る、・・・・・・マズい、マズい、マズい。



_______ッ。

なんとか、受け切れたが豚コック以上の馬鹿力だ。手首から伸びた二つの刃に押されてもう既に自分の大剣の刃が目の前にある。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!!!いや、大丈夫だ、左にはルミナス、右でミーミルが弓を構えている。このまま、ギリギリで耐え続ければ、二人がやってくれるはず!



「うやっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!!!」

ルミナスの刃とミーミルの放った矢が彼女に届く直前、彼女は渾身の力で私を弾き飛ばし、右足を上げ踵についた刃でミーミルの矢を弾き、左腕から生やした刃でルミナスの斬撃を受け流した。

それは、それは、見事な身のこなしだった。




「やっぱりー、ちょっとぉ、弓の子が鬱陶しいかなー」

彼女は再び間の抜けた口調でそう言ったかと思うと、さっき私の方に向かってきたより更に速いスピードでミーミルに襲い掛かろうとした。


「させる訳ねぇだろ」

ルミナスがそれを阻む。急いで私もそれに加わる。



「おきょっきょっきょっきょ、楽しいねぇ、楽しいねぇ!」

彼女は脚からも刃を出し、踊るように全身を使って私たちと何度も刃を交える。ちょっとでも油断したら確実に死ぬ。それほど彼女の剣舞は無茶苦茶に見えてどこに付いている刃も正確無比に目や心臓などの急所を狙っている。はっきり言って私は受けるので精一杯でとてもじゃないが攻勢にはなれない。でも、倒れなければ、倒れなければルミナスがきっと。


鼻が切れた。痛い、・・・・・・いや、痛くない。受け続けろ。


ほっぺも切れた。痛い!痛くない!!




「貰った!!!!」

私がなんとか痛みを耐えていると真横から声が聞こえ、少女が後ろに飛び退いた。



少女は刃をしまい左手で自分の耳を抑えていた。

ゆっくりと耳の方から手を離すと、その手の中に大量の血と彼女の耳らしきものが乗っていた。




「うへぁひっひっひっひっひ、耳、耳、私の耳取れちゃった、うっひょっひゃっひゃ」


彼女はあろう事か、切り落とされた自分の耳を見ながら大爆笑を始めてしまった。

駄目だ、意味が分からない。なんなんだ、この子は。




「テンプル騎士団は強いねぇ。ひょっひょひゃっひゃ」

喋っている最中にミーミルが2本連続で矢を放ったが、あっさり弾かれた。


「ごめんね。流石にこの身体のまま戦うのは舐めプが過ぎたよ。うん、うん。今から魔女の姿に変身するからちょっと待ってて」


「いや、待つわけないだろ。馬鹿かお前」

ルミナスが言った。当たり前だ。



「うーん、じゃあ、私の変身途中に攻撃しようとしたら、この死に損ない殺すね」

彼女はそう言って、フロアに倒れていたまだ息が残っている機動隊の人のひとりの頭を左足で踏みつけながら言った。



「この卑怯者!」



「うへえひっひっひ。まぁ、そう言わないでよ。なんだかんだ、この母校の制服気にってるから、変身で駄目にしたくないんだよねぇ、いひひひひっ」

彼女はそう言って自分の耳をゴミの様に投げ捨て、制服のボタンに手を掛けた。そして、なんの恥じらいもなくどんどん服を脱ぎ始めた。丁寧にスカートも外し、すぐに上下共に白い下着だけになってしまった。


「さぁって、どこだったかなぁ」

それから彼女は髪をモシャモシャしながら何かを探し始めた。


「おっ、あった、あった。よっ、よっ」

彼女は両手で頭から真っ赤な突起物をちょっとずつ引っ張り出し始めた。角のような突起物が少しずつ露わになって行く。だが、それよりもその突起物を引っ張り出したせいで染み出した血が凄まじかった。「よっ、よっ」と抜けた掛け声とは裏腹に血がどんどん噴き出していく、見ているだけで気分が悪くなるほど痛そうだ。


「お゛っお゛っお゛っ!!!」


彼女がそう言い赤い突起物を無理やり出し切ると、反対側から物凄い勢いでもう一本の赤い角が大きな血飛沫を上げながら突き出し、全身が一気に真っ赤に染まった。




「あー痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイうひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃっやあああああ!!!!!!!!」


そして、立ったまま頭を抑え、苦しんでいるのか喜んでいるのか、不気味で甲高い声を上げた。

2本の角を生やし全身は赤く染まり、目は人間の姿の時の茶色ではなく水色で不気味に光っている。怖い。怖すぎる。正直、『元』人間だったのかも疑いたくなる。『鬼』みたいと云うより、その姿は『鬼』そのものだ




「うへーーーーひっひ。本当に待ってくれたんだねぇ」

変身を終えたであろう彼女が笑いながら言った。

それと同時に彼女の足元からザシュっと云う嫌な音が聞こえた。


彼女が踏みつけていた機動隊の人の頭から足を離すと、足裏から血が滴った真紅の刃が伸びていた。



「いっひゃっひゃっひゃっひゃほっほっー。間違えって殺しちゃった!」

彼女はわざとらしく言った。








こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。

この子は、『ペインちゃん』は、殺さないと駄目だ。



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