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Magia Lost in Nightmare  作者: 宇治村茶々
第3章 夕闇の鎮魂歌
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第59話(3-9-5)

『繧上◆縺励′縺倥°繧薙r縺九○縺舌°繝ゥ、繧オ繧ソ繝ウ縺ッ縺ォ縺偵k縺倥e繧薙ン繝イ!!』

魔女の姿になったシズカが言った。いつも通り理解できない魔女特有の謎の言葉の筈だった。

でも、確かに、『私が時間を稼ぐから、サタンは逃げる準備を!!』と聞こえた。


何がどうなってる。



『縺吶∪縺ェ繧、!!』


サタンがそれにそう応えジェシカから一気に距離を離した。その声の意味は理解できなかった。多分、これはテレパシーだ。あの悲痛な変身と人間の姿の彼女の優しい顔が頭に焼き付いているから、彼女の言葉だけ分かるんだ・・・・・分かってしまうんだ。



距離を詰めようとしたジェシカの目の前にワープしたシズカが現れる。




『縺薙l繧、繧ク繝ァ繧ヲ繧上◆縺励ヮ縺ィ繧ゅ□縺。繧偵″縺壹▽縺代&縺帙↑繧、』

早口の意味の分からない言葉の羅列。

でも、確かに『これ以上私の友だちを傷つけさせない』と聞こえる。



「邪魔だア!!!!タコ女!!!!」

ジェシカが身体を回転させながら、容赦なく彼女に斬りかかる。


彼女は反撃する様子もなく、白い腕をクロスさせ、それを防ぐ。

しかし、すぐに体勢を立て直したジェシカが何度もその腕を切りつける。

彼女はジェシカの猛攻を4本の腕でただひたすら受け止めている。



「どうした、どうしたァ!!!!そんなもんかァ!!」

ジェシカの攻撃は更に勢いを増し、4本の腕全てが少しずつだが傷付き始める。



違う、違うんだ、ジェシカ。彼女は、シズカは私との約束を・・・・・


ただ攻撃を受けるだけのシズカを見ると、胸が熱くなる。あんなにおぞましい姿なのに・・・しっかり、私との約束を・・・・・いくら、彼女の『必殺魔法』の出が遅かろうと、当然他の戦い方も出来る筈だ。あそこまで一方的にやられる筈がないのだ。





『縺ゅ¢繧ソ!!』

彼女たちの後で何もない空間をゴソゴソ弄っていたサタンが叫んだ。

何もなかったはずの空間に黒い穴が開いている。





『繧上°縺」繧ソ 、繧上◆縺励′縺倥°繧薙r縺九○縺舌°繧峨&縺阪↓縺オ縺溘j縺ッ縺ェ縺九∈!!!』


ジェシカの猛攻をひたすら耐えていたシズカが叫んだ。


シズカがそう叫んだ瞬間、彼女はフィンブルさんの目の前にワープしていた。そして、マックスさんの目の前にも彼女が立ちはだかっている。分身かと思ったが、違う。


彼女はとんでもないスピードでワープを繰り返し、1人で3人の攻撃を受けているのだ。




その隙にアリアとマルグリットは体中から白い蒸気を噴出させながら萎むように人間の姿に戻り、お互い身体を支え合いながらサタンが開けた黒い穴に向かう。


その間シズカはずっとジェシカとフィンブルさんに腕をめった斬りされ、マックスさんにタコ殴りされ、4本の腕は今にも崩れそうなほど傷付いていた。





「おい、シズカ・・・・お前も早くこっちへ」

無事穴まで辿り着いた全身ボロボロのアリアが言った。


『シズカどの!』

サタンが叫んだ。


「シっ、シズカ!! もう時間稼ぎはいいから、・・・早くあんたもこっちに・・・・もうカッコつけはいいから、・・・・あなたも、大切な仲間よ、仲間なんだから・・」

マルグリットも首から流れる血を押さえながら絶え絶え言う。






『______縺ェ繧ォ繝槭ム繧ォ繧峨□繝ィ』

『______仲間だからだよ』



彼女はマックスさんの前でワープを止め、そう言ってから指で小さく弧を描いた。



「は?」

マルグリットのその声を残し、空間の穴はシャンっと音を立てて一瞬で消え失せた。

それとほぼ同時にマックスさんの強烈な後ろ回し蹴りがシズカの頭に炸裂し、彼女の頭はサッカーボールのように遠くの床まで弾き飛ばされ、重たい石を床に落としたような鈍くて嫌な音がした。


頭部を失った身体は首元から大量の黒い血を噴きだし、間もなく糸が切れた様に力なく床に落ちた。





私はあまりの光景に両手で口を押さえてしまった。


シズカは自分の友達も、私との約束も守ったのだ。




そして、・・・・・・・・・・・・、彼女は死んだ。





そう思った瞬間、一度床に落ちたはずのシズカの身体が再び糸が繋がったようにスクっと立ち上がった。良かっ________彼女の身体は一寸の迷いもなく私の方に凄い勢いで突進してきた。


ちょっ、・・・・・・・ちょっ、ちょっ・・・・・!



「避けなさい、ラヴィ!」

フィンブルさんが叫んだ。



しかし、私は回避する間もなく彼女の身体に突き飛ばされた。


そして、彼女の身体が私に覆いかぶさる。





『行かせてくれてありがとう、エーデル。私もちゃんと約束を守ったよ。だからね、もうひとつお願いしていい?』


私の身体に覆いかぶさりながら、彼女が言った。


違う。これはテレパシーで私にしか聞こえない。

私の頭に直接語りかけているのだ。



『私をマルグリットの元に届けて』

声はなくとも彼女は確かに私にそう伝えた。


それを伝え終ると彼女の身体は役目を終えた様にフワっと私の身体に重なった。

そして、足元から溶ける様に蒼い光の粒へとゆっくりと変わり始める。



優しい蒼い光の粒が次々に天井に吸い込まれていく。


彼女の身体が全て光になり昇って行くと、弾き飛ばされた頭部もいつの間にか消え去っていた。




彼女の身体が消えた後、残ったのは今まで見た事のないほどおぞましく、そして美しい造形のソウル・ティアだった。深く吸い込まれそうな、紫の光を放っている。


でも、ソウル・ティアがあると云う事は・・・・・・・彼女はワープでどこかに逃げたのではなく本当に・・・・・・・・今度こそ本当に・・・・・・・さっきまで私と話していた彼女は、私との約束を守り私の仲間に一切手を出さず、尚且つ自分の仲間を救った優しい彼女は________。



私はおもむろにお腹の上に乗ったソウル・ティアを手に取り、立ち上がった。

























「大失敗でしたね」

しばらくのきまずい沈黙の後、フィンブルさんが言った。



「あーーーーーあーーーー全くダっ!!全く!!」

ジェシカはそう言って上を向いた。

すると、頭頂部の髪の色から少しずつ紫が退き始めた。紫の斑点も徐々に収まって行く。



「いや、一体は仕留められたし、間違いなく無駄ではなかったよ」

マックスさんが言った。



「どうだろうな。最後のくだりから察するに一番信頼の厚そうな奴だったから、逆に残った奴に火を点けただけかもしれないぞ」

いつもの雰囲気に戻ったジェシカがそれに対しそう悪態ついた。



「正直、先が思いやられます」

フィンブルさんはそう言って、そのままソファに腰を落とした。


こんな疲れているフィンブルさんは初めて見る。

私が見た断片だけでは一方的なように見えたが、そうではなかったらしい。


そういえば、シズカが私の後ろを一瞥した時、すぐサポートに回ろうとしなかったのは、多分、その時点では彼女が危機感を覚えるほど、『魔人』の3人は追い込まれていなかったからだろう。つまり、最後には押し勝ったものの、戦いは私が思っていた以上に拮抗していたのだ。










それから、また気まずい沈黙がしばらく続いた。







「まあ、でも、残った彼女たちに火を点けられたなら成果だよ。それはつまり、今後彼女たちから僕たちに会いに来てくれるって事だからね」 マックスさんが言った。


「確かに1人減らされてターゲットはこちらに向けられたかもしれませんが、我々が全滅しては意味がありませんよ。彼女たちの進化のスピードは未知数です」

ソファの背もたれに両脚を投げだし、頭を逆さまにしたおかしな姿勢のフィンブルさんが言った。

もういつもの上品さや、何事にも動じない気丈な振る舞いをする気力も残ってないようだ。





私が、私が、彼女を、シズカを止めていれば、こうはならなかったのだろうか。


分からない。


でも、目の前で仲間を殺された彼女がただで私たちを帰すとは思えない。

これで良かった・・・・・・これで良かったと思いたい。



確かにマルグリットたちはこの前に写真で見たあの凄惨な殺戮を起こした最悪の『魔女』たちかもしれない。いや、きっと、そうだろう。


でも、そんな彼女たちでもシズカにとっては大切な人たちだったのだ。

私にはその思いを踏みにじる事が出来なかった。


その覚悟なかったのだ。バカな事をしたと思う。


でも、次、同じ事が起っても、きっと私は同じ過ちをおかしてしまうだろう。






「それにしても、ラヴィはよく頑張りました。途中までとは云えど、機転を利かせてうまくあの子を封じ込んでくれていました。彼女の仲間意識は敵ながら天晴と言うほかありません。あんな自己犠牲の化身のような子にいちいち横槍を刺されていたら目の前の敵で手一杯な私たちはひとたまりもありませんでした。本当に今日のラヴィは偉かったです。特別に褒めて差し上げます」


フィンブルさんは変な体勢のまま言った。最早、スカートが捲れて白いショーツが丸見えだ。普段のフィンブルさんならこんな事ありえない。普段のフィンブルさんはこんな露骨に私を褒めたりしない。相当、疲れているのだろう。




「あのっ・・・・フィンブルちゃん、スカートが捲れて・・・・」

マックスさんが慌てて言った。




それを聞いたフィンブルさんは気怠そうに少しだけ上半身を起こして、自分の状態を確認した。そして、すぐに元のダラしない姿勢に戻った。



「別にどうでもいいです。どうせ先輩に私を襲う勇気なんてないでしょ。童貞、童貞、童貞、童貞、どーーーーてぇーーーー」


「・・・・・・・今の君の姿、ノクターンが見たらどう思うだろうね」


「・・・・・」





「私も同じ意見だ。弱いくせによくあいつを抑えておいてくれたと思う。お前が命令通り逃げていたら、もっと状況は悪かったかもしれない。助かったぞ、ラヴィ・・・ああ助かった、助かった。それと、醜い姿を見せて悪かったな。あれが私の『天装』なんだ・・・・・悪いな、本当に悪かった。本当に助かった」


そんな2人の何とも言えないやりとりの後、ジェシカが言った。


いつものジェシカに戻ったと思ったが、言葉がなんだかおかしい。彼女も相当消耗しているようだ。それが戦いによる消耗なのか、薬の副作用なのか、分からない。でも、後者なら酷い話だ。いや、そうでなくとも10にも満たない少女を一時的とは云えあんな怪物に変えてしまうなんて・・・・・。




「それと、私はもう駄目みたいだ。ここで死ぬ」


ジェシカは真顔でそんな事を言って、フラフラと近くのソファに崩れ込み、猫の様に蹲ってから本当に動かなくなってしまった。


流石に本当に死んではないと______


そう思った直後、ジェシカの鼻と閉じた瞼の隙間から赤黒い血がスっーと伝い落ちた。

ジェシカはピクリとも動かない・・・・・・・・・・えっ?




嘘だ・・・・・・・そんな、まさか!!









「ジェシカ!!」  私は堪らず叫んだ。



「うるせぇ、寝かせろ!!!!!」 

彼女はすぐにそう叫んで、自分の腕で雑に顔の血を拭って再び蹲った。


あっ、生きてた。


良かった。



フィンブルさんもジェシカも私を褒めてくれた。

でも、本当に偉いのは私ではなく間違いなくシズカだ。シズカは最後まで誰も傷つけようとしなかった。彼女は誰も傷つけず仲間を守り、散って行ったのだ。


彼女は私と似ていると思った。


でも、それは間違いだった。




彼女は私なんかと比べモノにならないほど、優しくて、立派な『人間』だった。

彼女は『魔人』なんかじゃなく、『人間』だったのだ。



私は彼女の遺したソウル・ティアを胸に当てた。



帰そう。彼女を友だちの元へ。

彼女の最後の願いを叶えよう。




私は心の中でそう誓った。





結果はどうなるか分からない。

でも、私はそうしたいのだ。


彼女の厚意に報いたい。


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