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Magia Lost in Nightmare  作者: 宇治村茶々
第2章 秘密の教会
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第17話(2-1-1)

「エーデル、とても大事な話がある」



遊園地の帰り、駅で突然パパが真剣そうな面持ちで言った。


「僕たち家族の今後についての話だ。電車の中で話そう」

私は黙って頷いた。とてもよくない予感がする。




それから、私たち家族は電車の中の普通の車両とは違う豪華な貴族向けの車両に入り、とても広くフカフカのボックス席に座った。変だ、何かがおかしい。


「ショックが少ない様に結論から先に話さなければいけないね」

私は息を呑んだ。


「これからエーデルにはある教会で数か月生活して欲しいんだ」

それはあまりにも衝撃的な事で何も言葉が出なかった。


「この前、怖い人たちが家に来た事を覚えているかい。もう今の僕たちにはあの人たちからエーデルを守るすべはこれしかないんだ。あの人たちを追い払うためには沢山のお金が必要で僕たちはそのお金を用意しなければいけない。教会の中なら連中も手出しは出来ない。だから、僕らはエーデルが教会で良い子にしている間にお金をかき集める」


「要するに時間稼ぎね。家も子供もいなければ彼らは待つしかない」



すごい眩暈がする。前にママとパパが話していたのはこの事だったのだ。


「長い間、あなたに会えなくなるのは辛い決断だわ。でも、ここで選択肢を間違えたらあなたに一生会えなくなるかもしれないの。だから、分かってエーデル」




私にとってママとパパが全てだ。それなのに、



「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」


ママは泣きだす私を抱き締め何度も言った。


涙でグシャグシャになり何も見えない。

でも、ママも泣いているのが分かる。



「パパかママどちらかの会社でも軌道に乗ればもっといい暮らしができる。なにより、家族3人でいられる時間が増えるんだ。だから・・・・・・」


パパが言葉を詰まらせながら言った。




私はひたすら泣いた。ママやパパの話もなんとなく理解したつもりだ。

でも、ママとパパなしでやっていける気がしない。


でも、ここで我慢しなければ本当に一生会えなくなってしまうかもしれない。


一生に比べれば数か月など短いものだろう。

頭では分かっている、頭では分かっていても苦しい。苦しいのだ。

この車両に私たち以外のお客さんは乗っていない、だから私は遠慮なく泣き続けた。


「きっと、学校と違って新しいお友達が一杯できるわ。いえ、絶対そう」


「そうだな、僕たちが迎えに来るころには彼らとの別れがつらくなるほどに」


ママとパパは言った。新しい環境で私が友達を作れるはずがない。




「うん、頑張ってお友達作るよ、パパ、ママ。それで全部終わったら紹介する」

でも、ママとパパには心配させないように無理矢理笑顔を作って言った。



「そうだ、その意気だ。偉いぞ、エーデル」

パパが言った。





それからしばらく経ち気持ちが落ち着き始めた頃、私たちはとある駅で電車を降りた。きっと、この街に教会があるのだろう。私たちの暮らしている街より少し寒い。葉を落とした木々が鬱蒼と立ち並び、その合間にところどころに高級そうなコテージがある。どうやら、別荘地の様だ。


「お金持ちになったら僕たちもこういうところに別荘の一つでも建てたいね」

パパがそんな冗談を言った。少し笑顔になった。


「こう見えてパパもママも社長だからね。ただの夢とは限らないぞ!」



「えっ?」

そんな話は初めて聞いた。


「社長って言っても、エーデルが思っているような立派なものじゃないわ。パパも私も新しい企業を立ち上げてる最中なの、自分で作った会社の社長が自分なのは当たり前でしょ。今は普通の会社務めの人よりもっと悪いわ、今はね」

ママが言った。


「おや、ママは自信ありげだね」


「ふふっ、私の事あなたが一番分かっているでしょ。勝てない賭けはしない」


「そうだね、どっちが会社を大きくできるか競争だ」


私はそれを聞いて、これが始まりなのだと思った。

3人で暮らす明るい未来が目に浮かぶ。新しい生活が始まったら猫を飼っていいか相談してみよう。きっと大丈夫だろう。




駅を降りて街に入ると観光客らしき大きな荷物を持った人などで賑わっている。露店やお土産屋さんが多い。私たちはそこから人ごみをどんどん抜け山の方に向かって行く。


「あそこだよ」

不意にパパは遠くに見えるお城を指差した。

お城の様な建物ではない、紛う事なきお城だ。大きなお城だ。


賑わう街並みから離れた湖畔の傍らにズッシリと佇む大きなお城。あそこが私が数カ月過ごす場所らしい。周りに他の建物はなく見ているだけで胸が締め付けられるような嫌な雰囲気を醸し出しており思わずママの手を握ってしまった。


「心配ないわ、きっと上手くいく」

ママはそう言って優しく私の髪を撫でてくれた。




その後、少し歩いたところに一般車が乗り入れする場所がありそこで迎えを待つ事になった。3人で他愛のない話をしているとすぐに黒くて大きい車が私たちの前に停まった。どうやらお迎えが来たらしい。


「お待たせして申し訳ない、どうぞお乗りください」

車から出てきたいかにも怖そうな顔のおじさんはそう言って後部座席のドアを開いた。私たちはそのおじさんに軽く挨拶をしてから席に座った。座席は柔らかくもなく硬くもなくなんだか変な感じだ。ただなんとなく高級っぽい匂いがする。


移動中、全く会話が起きずとても気まずい空気が流れる。


「今、すれ違った子どもたちは教会の子たちですか?」

気まずい空気に耐えかねたパパが言った。


「ええ」

怖そうなおじさんはそれしか言わずほとんど会話にならなかった。

なんだか感じが悪い。


結局、特に会話もないまま教会の近くまで来てしまった。

お城の前には広い庭があり、そこで私と同年代くらいの子たちが遊んでいるのが見えた。あの子たちと仲良くやって行けるだろうか。ママやパパと離れて、・・・・離れて・・・離れて・・・・そう思っていると自然と目から涙が溢れてきた。




「大丈夫、大丈夫・・」

すると、ママは耳元で囁くように言いながら私に寄り添い、パパは私の手をぎゅっと握ってくれた。私は何度も鼻をすすりなんとか涙を引っ込めた。


そして、それとほぼ同じタイミングで車が停まった。



「それではご両親様は手続きがあるので私と共に。お嬢様は彼女がお連れします」

おじさんは車の中から外で待っていた女性を紹介した。


「急だな、少し話させてくれ」

パパが言った。もっともだ。


「それではお早めに」

おじさんが言った。

車の外に出た私たち3人は向かい合った。



「エーデル、出来るだけ早く迎えに来られるようにするからな。僕らが迎えに来るころにはエーデルは社長令嬢だ!」

パパが少し自慢げに言う。


「すぐに良い友達が見つかるわ、だから心配しないで。すぐ戻ってくるからね」

ママが言った。



そして、3人で抱き合った。


さっき、頑張って止めた涙がまた溢れ出す。




しばらくそうしていると、黙って見ていた女性が咳払いをした。


「失礼ですが、私にも次の予定がありますのでそろそろお連れしてもよろしいでしょうか?」それから冷たく言った。


「そうか。それじゃあ、エーデル元気でな。無理をするなよ」


「風邪には気を付けて」

パパとママの別れの言葉を確認すると、女の人はすぐに私の手を引きお城の中に入ろうとした。



「早く迎えに来てね!」

私は少し抵抗し涙を拭いながら大きな声で叫んだ。


もうこれで数カ月はママとパパに会えない。数か月が本当のところどれくらいなのか分からない、2か月後か3か月後か・・・・でも、ママやパパのためにもここで頑張るしかない。なんとか友達を作ってママやパパに紹介しなくては。不安しかないが、頑張るしかない。






お城にふさわしい大きな玄関から私たちは中に入った。見事な模様が描かれた荘厳な壁に真っ赤でふわふわな絨毯。如何にも高そうな大きな絵画。


なんだか私にかなり不相応な場所な気がする。内装はお城のようだが学校で言う職員室のような場所があり何人かの大人が書類を書いていた。廊下を進むと左右に人名らしき札のついた小部屋がいくつも並んでいた。




少し進んでから女の人は数ある小部屋の扉の1つを開いた。

きっとここが彼女の部屋なのだろう。

部屋の中には背の高い男らしき後姿があった。

髪は白く、両手が焼けた様に爛れている。



「この子が新入りです。通名はあなたが決めてかまいません」

女の人は立っていた男の人に言った。


その男の人が振り向くと顔が全面爛れている事が分かった。

しかし、顔が整っているせいか全く変ではない。むしろ、爛れた皮膚が凛々しさを引き立てている気さえする。年はラーレさんより一回り上くらいだろうか。



「通名ですか・・・。残念ながら私にそれを決められるようなセンスはありません。

先生にお任せします」男の人は落ち着いた様子だがはっきりと言った。



「そうですね・・・・それでは、あなたの国でネズミを意味するクルイーサにしましょう。いいですか、ここでは親の個人情報が割れない様に自分の名前や姓を名乗る事を禁止しています。なので、あなたは今日からクルイーサです分かりましたね」


女の人が言った。

話にあまり付いて行けないし、ネズミなんてひどい。



「あっ・・・・あのっ・・・そのっ・・・ねっ・ねず・・」


「返事をしなさい、クルイーサ!」




「ひゃっ!」

女の人が怒鳴るのでつい変な声を上げてしまった。

怖い。もう嫌だ。


そんな私の様子を見て、女の人はわざとらしく大きめにため息をついた。




「それでは彼女を頼みますよ、トゥゼロフ」



「やはり、私ではなくマックスに頼まれるのがよろしいのでは。彼なら必ず私よりも上手くやれるでしょう」

「確かに世話をする”だけ”なら彼の方が適任でしょう、明らかに。しかし、ここに来た以上当然戦って貰う事になる。ですから、新学期が始まる前にクルイーサを同年代の子供たちと同じレベルまでに仕上げる必要があるのです、分かりますね。これは彼女自身のためでもあるのですから。あなたが教育したガネット、ルシフェル、桔梗の3名は同年代の中でもかなりの仕上がり具合と言っていいでしょう。今回も期待していますよ」


女の人が男の人にそう語った。戦う? 一体、何の話だ。


「それでは初日くらいは普通にここを案内してやって下さい。健闘を祈ります」


「はい・・・・。では、失礼します」

男はそう言って、私の手を爛れたがさがさの手で引いて外に出た。

痛い、力が強い、泣きそうだ・・・・・あっ。



私は不意に絨毯に靴を取られて派手に前に倒れた。絨毯が顔にめり込む。ふわふわだから思ったより痛くなかったが、ふわふわだから転んだのだ。


ゆっくりと立ち上がると、目の前に私の手を引く男の人と同年代くらいと思われる修道服を着た女性が立っていた。男の人より身長は低いが女性にしてはかなり高い方だ。髪は綺麗な黄緑色、細目で本当に目が開いているのかよく分からなくてなんとなく不気味だ。動物にたとえるなら間違いなく蛇だろう。



「キュウ様、なんですかこのどんくさい子ネズミは」

目の前の女性は私を見ながら言った。



「34期の新入りだ。ミスラ先生に教育を頼まれた」

「なぜ、マックスではなくキュウ様がこのような雑務を?」

「早く使える駒にしたいらしい。まぁ、弱いままで新学期が始まって困るのは確かだからな。ただなんとなく今のを見て不安になったよ」

「お可哀想に。わたくしが役を変われないか話をしてきましょうか?」

「お前は審問官としての公務があるだろう。気持ちだけ受け取っておくよ」

「審問官といえど有事でなければさほど忙しくはありませんわ」

「それでも俺の方が暇だろうから気にするな。問題は本人次第だ」


男はそう言って私の顔を見降ろした。女の人も私を見る。気まずい、二人が高身長ということもあってすごい威圧感があり、息がつまりそうだ。


「試練ですね」

女の人が短く言った。


「ああ、そう思う」

男の人が言った。



分かる、完全に厄介者扱いされているのが。

教会生活初日まだ一時間も経っていないのにもう心が折れそうだ。


「それじゃあ、適当に施設の案内と注意事項を説明してくるよ」


「分かりました。それでは子ねずみキュウ様に迷惑を掛けないよう」

また、ねずみ・・・・せめて、仔猫と・・・いや、仔猫と言われたかった。





目の細い女の人に会ってからまた少し歩いたところで広いエントランスホールに着いた。そこでちょうど私と同じくらいかそれ以上の年くらいの綺麗な顔の女の子3人組と対面した。その中のクリーム色の髪の子が私の顔を訝しげにジロジロと見てきた。


「誰?」

それから、そう言った。


「あっ・・・・あのっ・・・・」


「お前たちの学年の新入りだ」

私が答えに困っていると、男の人が代わりに答えてくれた。


「めっちゃ、弱そう」

すると黒髪の女の子がそう言いながら私の頬軽くつねった。痛い、本当に痛い。

何でこんな事をされなければいけないんだ。


「駄目よ、リヴァイア。新入りちゃんをいじめちゃ」

すると、真ん中にいた女の子が黒髪の子を軽くしかった。多分、この子が3人組のリーダーなのだろう。意地悪ではなさそうだが、この子の見た目が一番ショッキングだ。オデコに6つ、両目の下に1つずつ、右の口元に1つ、両耳に1つずつピアスを刺している。見ているだけで痛そうだ。


「ということはキュウ先輩がこの子を指導する訳ですか?」

黒髪の女の子が言った。リーダーらしき子のインパクトが強すぎて霞んで見えるが、この子も中々だ。コートの下は誰がどう見ても競泳水着だ。


「そうなるな。だが、正直自信がないな」

女子の問いに男の人はそうもらした。


すると、黒髪の女の子が私の顔をキッと睨みまた私の頬をつねった。

酷い、痛い。訳が分からない。


「嫉妬しないの」

クリーム色の髪の子が黒髪の子の頭を軽く叩いた。


「べっ、別に嫉妬とかじゃないから! まぁ、せいぜいモコくらいにはなるよう頑張りなさい」黒髪の子はそう言って今度は両手で私の頬をつねった。


痛い、冗談じゃない、なんでいつもこんな目に・・・なんで、・・・・私はただ普通に同年代の子と友達になりたいだけなのに・・・何で、・・・何で、いつも。。




結局、私はここでもいじめられる存在なんだ。



ごめんなさい、ママ、パパ・・・・




「えっ、嘘!? ちょっと、・・・何で泣いてるの?!」


「わーリヴァイアさいてー、新入りの子なーかしたー」


「待って、待って。私、全然強くつねってないんだけど」


「それは私たちの感覚ではそうだけど、彼女はまだ一般人なのだから痛がっても無理はないでしょう」


「そっ、そうか。そうだね。悪かったよ、新入り」

リーダーの子に諭されて黒髪の子が謝罪してきた。引っ掛かるところはあるがどうやら悪気はなかったらしい。とりあえず、良かった。


しかし、この程度で泣き出してしまうとは我ながら情けない。もっと、心を強くもたなくては。こんなにすぐ泣いてしまったらまたいじめられてしまう。





次に食堂だと云う場所に案内された。食堂はとても広く百人以上が同時にご飯を食べても大丈夫そうだ。テーブルや椅子は木製で壁紙も無難なもので先ほどの教師陣のいた棟と比べれるとあまりお金は掛かってなさそうな感じがする。


今はお昼時を過ぎているので人はまばらだ。色んな年代の人がトランプをしたり、ただお喋りをしたり、よく分からないボードゲームに興じている。


「飯はここから適当に選べ、ここに後から渡すIDカードをかざすと一日三食まで料理を頼める。追加でデザートもあるがそれは有料だ」

券売機たちの前に立ち、男の人はそう語った。


「あっあのっ、デッ、でっ、デザートじゃない、そのっ、普通の料理のお金は・・」


「名前を売りたい慈善団体が出してるから心配ない。向こうも宣伝がしたくて勝手にやっている事だから引け目を感じる必要もないだろう」


私は無言で頷いた。いくら宣伝になるとはいえ無償で子供たちにご飯を提供するとは随分と懐の広い会社があるらしい。そんな事をボっーと考えながら食堂で思い思いの事をして過ごす人たちを見ていると、隣を手を繋いだ2人組の女の子が通り過ぎて行った。通り過ぎたと思ったら黄色い髪の子が戻ってきて目を細めて私の顔をジっと見つめる。


「どっかで会ったことあるような気がする」

それからそう言った。不思議と自分もそんな気がする。しかし、全く思い出せない。


「ディライトはなんか思い出せない?」


「声を聞かなきゃ分からない!」


「それもそうか。って事でお前なんか喋れ」


「えっ、ええとっ・・・」

いきなり、そんな事を言われても困る。


「どうだ、どこで聞いたか思い出せるか?」


「ごめんなさい。ちょっと、思い出せない感じ」


「そうかぁ。でも、どっかで会った気がするんだよな」


この2人もさっきの3人組に負けず劣らず美人で可愛い。どこで会ったんだろう。

可愛い2人組、可愛い2人組・・・・・


「あっ、あのっ、えっと、その、ラっ、ラーレさんと、そのっ、一緒にいた時に!」

ラーレさんにゲームセンターに連れて行ってもらった時にラーレさんにぬいぐるみを貰っていた二人だ。すっきりした!


「ラーレ? 知ってるか、ディライト」


「ううん、知らない」


あっ、あれ違った?間違いなくあの時の二人だと思ったのだが・・・どうしよう、この空気・・・やってしまった。でも、私は間違っていない筈・・・かといって、ここでラーレさんが知り合いじゃないと嘯く意味もないだろう。謎だ。


なんだか気味が悪い。


「まあなんでもいいわ。でも、ここにいるって事は新入りでしょ。私はカサンドラ。こっちの左耳から触手が生えてるのがディライトフル。よろしくね」

そう言ってカサンドラと名乗った少女は私の前に手を差し伸べた。私はさっきの事もあり、おそるおそる彼女が出した手に自分の手を重ねた。


ギャー!!!! やっぱり、すごい力!!! 


声を我慢するのがつらい。なんでここの子たちはこんなに力が強いんだ。


「紹介された通り私がディライトフル。これから、よろしくね。目が見えないから、この触手のような機械で聴覚を強化しているの」

ディライトフルと名乗った少女はそう言って自分の左耳から生えている触手に触れた。見た目では分からないが、そういえば最初に声を聞かなきゃ分からないと言っていたが目が見えないからだったのか。


「ところで、これから後から来る2人と一緒に外で遊びに行くんだけど一緒に来ない?」

ディライトフルが言った。普通の人にとっては何気ない提案だろうが、私にとってこれほど魅力的な提案はない。初対面からこんな好意的な2人に遊びに誘われるなんて、新しい友達を作る千載一遇のチャンスにちがいない。


「悪いが彼女と遊ぶのは新学期まで待ってくれ、まあ分かるよな」

私の千載一遇のチャンスは男の人のその言葉であっさりと潰されてしまった。


「そっかぁ、残念。頑張ってね」


ディライトフルはそう言って微笑んだ。本当に綺麗な笑顔だ。


「それじゃあ、次いくぞ」

男の人が言った。私は無言で頷いた。




本当はカサンドラやディライトフルと遊びたいが、仕方ない。それにしてもピアスの子やディライトフルが言っていた。頑張れとは何を頑張れという意味なのだろうか。なんだかとても心配だ。





施設の案内をしてもらいながら色々な事に思考を巡らせ歩いていると、廊下の向こうの方から両腕を力なく真横に垂らしコテコテとゼンマイ人形のような歩き方でこちらに向かってくる少女が見えた。それは奇妙な足取りでどんどんこちらに近づいてくる。髪は真っ赤で丸くて赤いトナカイのような付け鼻をしている少女。それは私の大嫌いなピエロを連想させる。私は怖くなり、何気なく男の人の脚に肩を寄せた。


それが目の前まで近づいてきた時、息を呑んだ。


しかし、それは私や男の人に目もくれずコテコテと通りすぎて行った。私はホッとため息をついて後ろを見た。すると、目の前には・・・なんてことはなくちゃんとトマトのような後ろ髪が見えた。それは相変わらずコテコテと歩いている。まるで生きた人形だ。


「あっ、あのっ・・・・・」


「ソっとしておいてやれ。無理に関わろうとすると痛い目を見るぞ」

男の人は私が質問する前にそう答えた。


なんだか、もやもやする。だが、ここまで来て分かった事がある。ここにいる人たちは男の人も女の人も美形ばかりだ。さっきの人形のような女の子にしても、息を呑むような白い肌、整った顔立ち。私だけかなり場違いな感じがして仕方がない。ママやパパが帰ってくるまでここで上手くやって行けるか不安は積るばかりだ。





「1階2階は今まで案内した通り、3階から5階までが一般生徒の居住区になっていて、6階は研究区だから基本的には立ち入り禁止と思っていい。7階、8階は先生方や役職持ちの生徒、この教会に寄付を出している貴族階級生まれの生徒たちの特別居住区だ。立ち入り禁止とは云わないが、用もないのに行く事はおすすめしない。とりあえず、今の説明で案内は終わりだ。後は6階でIDカードを受け取って好きにやってくれ、IDカードを渡してくれた奴が暫定的なお前の部屋も教えてくれるだろう。明日の6時に迎えに行くから早めに寝ておくんだぞ」

男の人はエレベーターの中で一通りの事を一気に言い、1人で5階で降りてしまった。私は6階で降りる、6階・・・・6階? 6階は立ち入り禁止と言われたような・・・でも、確かに6階でIDカードを受け取れとも言われた。一体、どうすれば・・・・そんな事を考えているうちに6階についてしまった。


エレベーターのドアが開く。


すると、____





「パンパカパーン スーパー可愛い電脳ガール エレクタちゃんだよ!」


エレベーターから出ると目の前にやけにテンションの高い女の子がいた。エレベーターの前でスタンバイしていたらしい。


「はい、これがあなたのIDカード!! 絶対、なくしちゃ駄目ですよ!!」


「あっ、・・・ありっ、ありがとう・・・」


「それでは続いて部屋番号の発表を行いと思います!!」


「じゃかじゃかじゃん!! 3階の307号室!! モコと一緒だね!!」


「わっ、分かった、あっ、あのっ、ありが・・・・」


「ところで、あなたの名前はなーに?」


「えっ、あっ、あのっ・・・・・えっと・・そのっ・・・」


「うんうん」


「エーデ・・・じゃっ、じゃなくて、えっと、・・・クルイーサです、はい」

「クルイーサちゃんね、よろしく!! クルイーサってロシア語でねずみって意味だよね!! 皆に定着する前に変えた方がいいよ!!」


「そっ、・・・・そうっ、そうだよ、ね・・・・」


「ねぇねぇ、クルイーサーって変わった喋り方だね!!」


その言葉を聞いた瞬間頭がクラっと来た。そういえば、ここまで誰も指摘しないでくれていたから忘れかけていたが、私はママやパパと話す時以外必ず吃ってしまい上手く喋れないのだ。彼女のハイテンションとは裏腹に私の気持ちは一気に暗くなった。



そんな私の様子を見て、エレクタと名乗った少女はハっとした様子になり両手で自分の口を抑えた。


「ごめんなさい、私ったら久しぶりに新しい友達が出来ると思って嬉しくなって何も考えずに言葉を・・・」


「いっ、いいよ・・・・きっ、気に、しないで。そのっ、ほっ、本当の事だから・・・IDカードと部屋番号・・・・あっ、ありがとう」

私はそう言って後ろに下がり、エレベーターのボタンを押した。すると、すぐにドアが開いた。私は急いでエレベーターの中に入り間髪入れずに閉じるボタンを押してしまった。


「待って!!」


ドアが閉じ切る瞬間、彼女の声が中に響いた。

私は何でこんな事をしたんだろう。折角、向こうから友達になってくれると言ってくれたのに。どうして、私は逃げてしまったのだろう。私は最低だ。私は馬鹿だ。吃ることを指摘されたくらいで逃げ出して。


情けない、情けない、情けない、最低だ、大馬鹿だ。


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