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9 悪魔商人

「やぁ人間、君には初にお目にかかるね、僕は悪魔商人の…」


「いや、そう言うのはいらない」


闇が集まり、具現化し、人の姿を取る。


悪魔と言うにはいささか人間じみた格好のそれは、ニヒルな笑顔を浮かべて俺に語り掛ける。


「早速、取引に入らせてもらえないか?」


「…………むぅ、自己紹介もさせてくれないとは。 せっかちだね気味は」


だが俺は、そんな友好的に語り掛ける悪魔をバッサリと切り捨て交渉に移る。


もう、ここからの時間は一分一秒でも惜しい。


サクサクと進めて行かねばならない。


まぁ、騙し合いをする様な交渉の席であれば時間をかけるのもやぶさかではないが……


悪魔との取引は信用がおける取引であることは分かっている。


ただ、取引の対価が暴利であるだけで、取引自体は正当に行われるのだ。


そう秘匿資料に統計結果が記載されていたのだ。


考える時間がもったいないので、ここはこの情報を信じる。


まぁ、考えて見ればうなずける事ではあるのだ。


この悪魔取引と言う概念があると言う事は、悪魔だって人間と取引をしたいのだ。


でなかったら、こんな概念が成立するはずが無い。


そして取引したいのであれば、やはり信用が第一である。


それは人だって悪魔だって変わらないはずだ。


ましてや、ただでさえ悪魔と言うのは悪いイメージがついているので尚更信用が大事のはずだ。


何故なら騙されるとわかっていて手を出す人間などいないのだから。


故に、「悪魔との取引は一応信用できる」と言う統計結果は信じるに足りると言えなくもない。


まぁ…… 取引の対価は本当に暴利らしいのだが。


「俺が要求したいのは、莫大な保有魔力量だ、多ければ多い程良い、可能な限り俺の魔力上限を上げてくれ」


だが、暴利なのも了承済みだ。


大概の対価は用意して見せる。


とは言え、悪魔が一番要求する者などは相場が決まっているのだがな。


「君の魔力上限を上げれば良いのかい? ふむ…… ちょっと君の魂の器を見させてもらうよ」


そう言って俺の事を観察するように見やる悪魔。


「ほぉ…… これはこれは、大層な物をお持ちで」


すると悪魔は俺の事を見ながら、少し驚いた様にしてそう言う。


「君の魔力の器は規格外だね。 こんな巨大な器、悪魔の王族でだってそうそう見ないよ、大したものだ」


悪魔はにまにまと微笑みながら、俺を品定めしてそう言う。


「だけど、これほどの大きな器を、目一杯に広げるにはかなりのコストがかかる」


「わかった、で? 具体的な対価は?」


「本当にせっかちだね君は。 まぁ…… そうだな、一年ってとこかな?」


「一年? 寿命一年分で良いのか?」


「いや…… まさか」


そこで悪魔は俺の事を見やり、にやぁっとして実に悪魔然とした笑みを浮かべる。


そして……


「君の余命をあと一年ってとこまで削って良いなら、可能だよ」


とても良い笑顔でそう言うのだった。


一年か、ふむ…… 


まぁ、そうだろうな。


「いっとくけど、一切負けないからね。 これは悪魔取引では普通の相場で………」


「わかった、いいぞ」


「………え?」


資料にあった対価の相場を見ていたから、大体は想像がついていた。


むしろ半年と言われなかっただけ儲けものである。


「…………本当にいいの?」


ちょっとだけ驚いた風にして、俺にそう問いかける悪魔。


「ああ、良いぞ。 だがその前に確認しておきたい」

「な…… なにかな?」


「この余命一年と言うのは、俺の魂の寿命を削るのであって、一年後にお前が俺を殺しに来ると言った類のものでは無いな?」


俺は悪魔を見つめて、そう尋ねる。


「ああ…… まぁそうだよ。 良く勉強してるね。 そうさ、僕ら悪魔は君らの魂が持つ生命の因果を奪うだけで、後で魂を回収しに来るなんて真似はしないさ。 そりゃ、魂を丸ごと貰えたら僕らとしてもありがたいけど、そりゃリスクが高すぎる。 だってそうだろ? この一年待たずして死ぬかもしれない奴の魂なんて、リスクが高すぎるよ。 悪魔契約をするような奴なんて、皆切羽詰まった様な奴ばかりだからね。 魂回収できずに泣き寝入りなんて事になりかねないのさ」


悪魔はやれやれとため息をつきながらそんな事を言う。


「だからうちは明朗会計先払いって奴なのさ。 その方が僕らも君らも安心だろ」


そして、妙に人間臭い笑顔でそう言うのであった。


「分かった、じゃあそれでよろしく頼む」


「おっけー」


契約内容に問題ない事を確認した俺は、再び悪魔を見やりそう言う。


しかしそこで……


「ちょ、ちょっとまて、本気か!?」


大分動揺した様子のシャーリーと……


「本当にその内容で契約するの?」


いつの間にか起きて、俺の服の袖を掴むアベルの姿があった。


「ああ、契約する」


俺はシャーリーを無視してアベルに目線をやると、彼女に軽く微笑んでそう返す。


「大丈夫なの?」


そんな俺の笑顔に、珍しく笑顔で無い表情でそう答えるアベル。


「ああ、任せろ、大丈夫だ」


だから俺は、自信に満ちた顔でそう返した。


そう……


大丈夫だ。


なぜなら、人間としての寿命が一年になっただけなのだから。


そう…… 人間としての寿命が。


それを回避する方法は実に簡単である。


その方法とはつまり……


この先一年間の間に、人を超越すればいいだけである。


削られた寿命を補填すれば良いだけの話である。


そして、それを可能にする要因のいくつかは、すでに情報を得ている。


後はその情報を元に動けば良いだけだ。


大丈夫、可能性があるのならば俺に不可能などない。


俺には無いのだ。


そう…… 


寿命が一年なら、不老不死になれば良いじゃない。


それだけの事。


「…………そっか、大丈夫そうだね」


アベルはそんな俺の顔をしばらく見つめた後、何やら納得したように笑って、そう言う。


そして……


「まぁ、もしシン君が死んだら、私も後を追ってあげるから心配しないで」


そんな可愛い事を言ってくれるのだった。


「ああ、その時は一緒にくたばろうぜ」


「うん」


そして、俺たちは手を握り合う。


ぎゅうっと握り返す、アベルの手は小さくて暖かく感じるのだった。


ふむ。


何ともロマンチックな、初手繋ぎじゃないか。


「じゃあ契約頼む」


「いやぁ~ なんかお二人さんお熱いねぇ。 僕も彼女とか欲しくなっちゃうよ…… あ、それじゃあここにサインしてね」


そして俺は、悪魔の契約書にサインを……


「お、おいっ!! 成國 神!! お前本当に馬鹿なのか!? 相手は悪魔だぞ!? 絶対に騙されてるぞお前!! それに魔力を得たところでどうするって言うんだ、お前みたいな非戦闘能力者が魔力を得た所で何の意味があると言うのだ!!」


…………喧しいシャーリーを無視して、契約書にサインをするのだった。


「はい、じゃあ契約完了ね。 じゃあ一時間ほどで魔力の拡張終わると思うから、その間はじっとしててね」


「わかった」


サインした契約書は輝いて光の玉となり、二つに分かれる。


そして一つは俺の胸の中に、もう一つは悪魔の胸の中へと消えてゆくのだった。


「それじゃあねぇ。機会があればまた宜しく」


そしてその直後に悪魔は、闇に溶けて消えてゆくのだった。


「取りあえず第一歩だな」


「ふふふ、やっぱりシン君は凄いね」


悪魔が去った後、図書室の静寂の中で優しい笑顔のアベルが俺の腕に抱き付き、上目使いにそう言う。


「何を言う…… 俺が凄いのはこれからだ」


「…………うん、楽しみにしてるよ」


俺たちは穏やかに微笑み合うのだった。



そして微笑み合う俺たちの横で……


「ほ、本当に余命一年になってしまったと言うのか? ば、馬鹿な………」


アホ面で俺を見つめ、小さくそう呟くシャーリーの姿があるのだった。


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