7 シャーリー視点
「おい……」
私は声をかける。
先ほどからずっとパラパラと本をめくるだけのこの男に声をかける。
「おい……!! 聞いているのか成國神!!」
姫様が召喚をして呼び出したこの男に声をかける。
この…… 役に立たないどころか、害悪しか与えないこの男に……!!
「………………くそ!!」
しかし、奴は返事をしない。
私の言葉など完全に無視だ。
全く……
こいつは本当にどうしようもないな。
本当なら、今すぐここで殴ってやりたいが、こいつの膝の上で眠っている姫様が邪魔でそれが出来ない。
「くそぉ…… このクソ男」
私の姫様を……
私の大事なお姫様なのに……
私が小さい頃からずっとお守りしていたお姫様なのに。
そう…… 私の。
私は…… 私は小さい頃から姫様のお付きで護衛だったのだ。
姫様はいつも笑顔で、とても気品があって、そして何か普通の人には無いような強さ見たいのを感じていた。
妾の子と言うハンデを感じさせない様な素晴らしさを、姫さまはお持ちだったのだ。
他の人達は姫様が妾の子だからと言う理由だけで、姫様の長所を見ようとしないが…… 私は違う。
姫様の素晴らしい所を沢山見てるし知ってる。
そう、私は姫様の素敵な所を沢山知っているのだ。
そんな……
そんな素敵な姫様が…… なんでこんなクズ男の膝の上でこんなに気持ちよさそうに眠っているのだろう。
何故、こんなクズみたいな男の膝の上で……
私は……
口だけの男と言うのが本当に嫌いだ。
特にこの成國神と言う口だけの男が大嫌いだ。
この成國神は、常にでかい口ばかりをたたいている。
やれ「俺はやれる」だの、やれ「俺は凄い」だの…… 本当にでかい口ばかりをたたいている。
だが……
そのでかい口に見合った働きは一つもしていない。
随分と不敵な様子で登場したから、さぞや凄いジョブ持ちなのだろうと思っていたら……
ふたを開けて見ればただの非戦闘能力。
一瞬でも「只者ではない」と思ってしまった自分を殴りたい。
本当にこの男は役立たずだ。
しかも、根性も無いときている。
敵に攻撃されればみっともなく泣き叫び、痛みに転げ回る。
器も小さく、自分の菲才を認めない。
挙句、恥の上塗りにしかならないであろう、再戦の約束まで取り付けてくる始末。
もう本当に、ムカつくのも役立たずなのも恥知らずなのも通り越して…… 殺してやりたい。
今だって、再戦の約束が…… バトルロイヤルの約束があるにも関わらずずっと本を読んでいる。
10日しかない準備期間の一日をまるまる使って、ずっと本を読んでいる。
しかも、その全てを中途半端に流し読みしているのだ。
何せ、本を読むと言ってもページをパラパラと捲っているだけで、全然読んで無いのだ。
あんなスピードで本の内容を理解できるはずはない。
あれは多分、ページをめくることで読んだ気になっているだけだろう。
このクズならば、十分にあり得る話だ。
本当に……
なんでこんな無駄な事に貴重な時間を費やしているのだろうか?
こいつの頭が悪すぎて理解に苦しむ。
なんでもっと建設的な事に頭を使えないのか……
10日もあれば、色々出来る筈だ。
夜逃げの準備とか、他の王族に媚を売って庇護をしてもらうとか、バトルロイヤルで戦う代理人を探すとか……
この私ですらこんなにも考え付くと言うのに、このクズは思いつきもしないなんて……
きっと、具体的な案が出なくて、取りあえず頑張っている感を出そうと本を読んでいるに違いない。
まったく、本当に情けない話だ。
……本当にあり得ない。
もう…… こいつが愚か過ぎて怒る気すら失せてきてしまった。
「…………本当に死んでくれないかな、こいつ」
なんでこいつ、こんなに真剣な顔でページパラパラめくってんだろう。
どうせ悪あがきするなら、せめて私に剣術の基礎を教わるくらいすればいいのに。
くそ……
これだから馬鹿は困るんだ。
馬鹿過ぎて相手にならない。
まぁいい、兎に角もう、こいつは無視しよう。
こいつが私を無視するように、私もこいつを無視するのだ。
そして……
いざとなったら、私が姫様を助けるのだ。
この私が 命に代えても姫様をお守りするのだ。
「姫様は…… 私が守る」
ふぅ…… しかしあれだな。
「なんかこの部屋…… 湿度高くないか? まったく、図書室だというのに」
なんか、若干不自然な湿気の量の気がするが……
果たして、いったい絶対どうなったというのだろうか?