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3 金髪ツインテール

「おい貴様ぁ!! 姫様から離れろ!!」


俺とアベルが話をしていると、横から先ほどの女騎士が怒鳴り込んでくる。


俺がアベルの首を絞めたのがよっぽど気に入らなかったらしく、凄まじい剣幕で向かってきている。


正直暑苦しく、面倒臭そうだ。


しかし…… 怒鳴る金髪ツインテールか。


なんともテンプレなツンキャラだな。


どうせすぐデレるんだろう?


「黙れ、今のは夫婦のスキンシップだ、一種のプレイとも言えるな…… いずれにせよ外野が口を出す事じゃない」


「ぅえっ……ぷ、ぷれい!? な、なんの話をしている!」


俺が金髪を見下しながら言うと、金髪は顔を赤くし素っ頓狂な声を上げるのだった。


ふむ……


このアベルの近衛の金髪。


周りで、こいつ以外に向かってくる人間がいない所から、どうやらアベルの近衛はこいつだけのようだ。


しかし、他の王族の近衛らしき人物が複数人いるようだ。


しかも、他の近衛は全員熟練の雰囲気を醸している。


対して、この金髪にその雰囲気は無い。


いや、全く軸がぶれない歩き方や、深く静かで一定の呼吸を無意識レベルで継続してるあたりは、明らかに一般人ではなく武道を収めた者のそれなのだが……


だが、明らかに他の近衛と比べて貫禄が不足している。


他の近衛達からは感じられる圧力が感じられない。


戦場をくぐり抜けてきた者が発するオーラ見たいのを感じない。


まぁ……


俺自体、今までの人生で「戦場をくぐり抜けてきた」みたいな人間を見てきたわけではないので、この認識が正しいのかは分からない。


だが、能力の練度はわかる。


それが優れているのかいないのか、作り込まれているのかいないのかはわかるのだ。


つまりこの金髪の、近衛としての練度が低いのは分かる。


そう、こいつは近衛として薄いのだ。


それは分かる。


さて……


これらの情報から導きだされる事がある。


「王性が低い」「練度の低い近衛が一人だけ」と言う情報から分かるのは、アベルの立位置。


アベルの境遇だ。


どうやら、アベルは他の王族と比べ、大分軽んじられているようだ。


服装や洗練された所作、そこはかとなく感じる気品から、ちゃんと王族としての扱いや教育は成されているようだが、その実は軽んじられているのだ。


命を守るための近衛が金髪一人。


それはそのまま、命を軽んじられていると言う事だ。


王族とは言え、所詮は妾が生んだ「王性」の低い子供。


おまけで存在している様な王族。


恐らく、それがアベルの設定と言う事だろう。


ふむ……



実に面白い。



何が面白いって、やはりアベルが面白い。


恐らく王族としての教育は受けているはずなのに、あえてそうしているのであろう、あのフランクなしゃべり方が面白い。


ただでさえ立場が弱いのに、そんな不遜な態度でいてメリットなんて何もないはずなのに、なのにそうしているのが面白い。


実際…… 他の王族共もアベルの事を良く思っていないようだ。


何せ、アベルの首を絞めた時、他の王族共は心配するどころか、楽しんでいる様ですらあったのだからな。


そして……


一番面白いのは、アベル自身が本当に堂々としている点だろう。


気を張っているでもなく、強がっている訳でもなく、反抗している訳でもなく…… ただ自然にしている。


こいつの瞳は「これから楽しくなりうそうだ」と、ただそれだけが映っている。


ふふ…… 本当に面白い、最高だと言っても良い。 


素晴らしい…… アベルとここから世界をひっくり返すのは、実に楽しそうだな。



「おい! 貴様ぁ!! 聞いているのか人の話をぉ!!」


俺がそんな事を考えていると、金髪が苛立った様子で俺を怒鳴りつけてくる。


「聞いている。 何故いきなりアベルの首を絞めたのかという件と、なぜアベルを敬称で呼ばず呼び捨てにするのかと言う件、王族の会する場での不謹慎な発現はやめろと言う件の三つだろう?」


「っなぁ!?」


俺が金髪に対して一瞥もせずそう答えれば、視界の端で金髪が面喰っているのが見えた。


「それらに対して俺から送るお前への返答はただ一つ、全て問題無い、以上だ」


「な………!? ふざけるのも大概にしろよ!!」


俺が簡潔かつ率直な返答をしてやったと言うのに、今だ突っかかってくる金髪。


ふむ、こんなにも懇切丁寧に説明してやっていると言うのに今だ不満を漏らすとは心外だな。


もっと噛み砕いて説明しないとだめか?


そこからか?


まったく、困った金髪ツインテールだな。


アホっぽいのは髪型だけにして欲しい物だ。


「おい!! いい加減にしろ貴様!! 全部口に出ているぞ!!」


「ふむ、すまん、わざとだ」


「がっ!? き、貴様ぁ!! ふざけるなよ!!」


「俺は何もふざけていなどいない」


「何を、どの口が……ッ!!」


俺はヒートアップする金髪を、視線で制する。


よし、とにかく…… 


こいつとの関係性ははっきりさせておく必要があるな。


でないと後々面倒臭そうだ。


「実際ふざけてないさ、だってそうだろ? 首を絞めたのも呼び捨てにしてるのも、それをアベル自身が了承しているのならば何も問題ない事だ、そして事実、アベルはその件に対して理解と了承をしている…… そうだな、アベル?」


「うん、そうだね。 私はシン君に呼び捨てにして欲しいし、首を絞めた事に関しても気にはしていないよ」


俺がそういってアベルに視線を向ければ、アベルは俺の事を見上げてにこりと微笑む。


「ぅ……… し、しかし」


その様子に、すこし動揺をして顔をしかめる金髪。


「あと、王族の会する場で不謹慎と言うが、それこそ気にしなくていい事だ」


そこで俺は畳みかける様に、そして少しだけ声を大きくしてそう言う。


「なぜなら、こいつらはいずれ敵になる奴らなのだろう? どうせいつかは倒すんだ、なら気を使ってやる必要などどこにもない。 違うか?」


周りを見渡しそして聞こえるように、ニヤリとしながらそう言うのだった。


「な……ッ!! ば、馬鹿か貴様!?」


俺が言い放った不敵な発現に、周囲の空気が一瞬ピリッとする。


そして、その危うい緊張感に少なからず焦るの金髪。


ふむ……


アベル以外の王族の四人。


今の俺の発現に対する、大女とロリ女、デブ男と目つき悪男の反応。


大女は無視、ロリ女は睨む、デブはしかめ面、目つき悪男は舌打ちか……


何となく、キャラが見えてくるな。


「とにかく…… 俺とお前は数少ないアベルの味方だ、争う理由も無ければ場合でもない、違うか? いや違わない」


「ぬ…ぐ………」


王族達の視線に挙動する金髪にそう声をかけてやれば、金髪はにらみつける様にして俺の事を見上げる。


と、言うか「俺とお前は数少ない」の下りは否定しないんだな。


つまり、俺の推測はおおよそ的を射てると言う事か。


「今、この時点で間違いなく俺はお前とアベルの味方だ、少なくとも敵ではない。 でなければ他の王族達に喧嘩を売るような真似はしないさ…… 信じてくれていい」


「…………………お前の目的は何なんだ」


微笑を浮かべてそう続ける俺に、金髪はいぶかしむ様な目線を向けてそう問いかけてくる。


「俺の目的など、お前に言ってもわからないさ…… ただその目的はアベルにとってマイナスに働くものでは無い、それは本当だ」


だから俺は、そんな金髪の目を正面から見据えて、そう返した。


金髪を射抜くように、不敵な笑みのまま見つめた。


「……………っち、信じた訳ではないからな」


俺が見続けると、やがて金髪が目をそらし、少しだけすねる様にしてそう言う。


「俺の名前は成國 神なるくにしんだ、これから宜しく頼む」


だから俺は、そんなシャーリーに手を出して微笑んでやるのだった。


「………………………シャーリー・ヘルトヴォルンだ」


渋々ながら俺の手を取り、握手をするシャーリー。


よし、一応この件は方がついたな。


「さて、アベル」


「なぁに? シン君」


シャーリーの件をかたずけた俺は、次に、ニコニコとしながら俺らの事を見つめていたアベルに向き直り、問いかける。


「今日はこの後の予定などはあるのか? 無ければ俺は早速情報収集に出たいのだが」


「情報収集?」


「ああ、この世界で俺がやって行くにあたって必要な情報を得たい。 図書館などの施設があれば最適だ。 できれば国の重役が扱うような資料も閲覧したい。 とにかく情報量が多ければ多い程望ましいな」


俺を見上げて微笑みのまま首をかしげるアベルに俺は簡潔に要望を伝える。


「それなら、王族の専用図書室を使うと良いよ。 図書並の蔵書量があるし、何より重要度の高い書物も扱っているから、シンの要望にはうってつけだね。 あと、予定についてだけど、取りあえず今日はあと、適性検査を調べて終わりだから、その後に私と一緒に行こう」


するとニコニコとしたアベルから、そのような返答が返ってくる。


「適正検査? 何の適性を検査するのだ?」


そこで俺は、彼女の返答で気になった点を聞き返してみた。


「適正検査で検査するのは、ジョブ適性と属性適性だよ。 そうだね、丁度これから覚醒の間に移動するみたいだから、歩きながら説明するね」


「わかった、よろしく頼む」


そう言ってアベルは俺の腕に自分の腕を絡め、楽しそうに俺の腕を引っ張って行くのだった。



そしてこの後…… 


俺はその適性検査において、予想外の事態に見舞われる事となるのであった。

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