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2 ここまでの経緯

ここまでの経緯を簡単に説明しておこうと思う。


今朝、俺は7時に起きて歯を磨き、朝飯代わりに冷めたコーヒーを流し込んで、食いかけのカロ○ーメイトを齧り、高校へ行く為に家を出た。


そして、今に至る。


ここで、勘違いして欲しく無い点がある。


俺は説明を、何も省いていない。


それがどういう事かと言えば、家の玄関を開けた瞬間に王宮らしき場所へと飛んでいて、その直後に拘束をされた、と言う事になる。


因みに貼り付けにされた俺、以下10名が今何をされているかと言えば、洗脳をされている。


目の前にいる、この「レイヴェルス王族」の5人に洗脳をされているのだ。


洗脳の内容は「私を愛せ」との事らしい。


どうやら聞いた話によれば、この国の直系の王族は皆、「異世界の勇士を召喚する力」と「召喚した者に絶対の忠誠を誓わせる力」を有するらしい。


その力は20年周期の土地の魔力が高まる時に使えるらしく、つまり今がその時なのだ。


王族はこの20年周期に合わせて子を作り、育て、召喚をさせ、洗脳をし、その洗脳した者の中の一人を夫、ないしは妻とする。


王子の中で最も優れた勇士を召喚した者がこの地に王として認められ、王となった者の遺伝子を継ぐ子は次なる召喚の力を得る。


そして王の子は育ち、また召喚をし、歴史は繰り返す。


どうやら、そう言うシステムらしい。


ちなみにこの話を誰に聞いたかと言えば……


「で…… 最強の勇士とやらはどうやって決まるんだ?」


「5年後に開かれる聖王采で決めるの。 方式はバトルロイヤル、なんでもありだよ」


勿論、目の前にいる王族、アベルティエからだ。


人を洗脳しながら雑談とは実にいい度胸である。


まぁ、話しかけているのは俺なのだが。


「なるほど…… ところで他の王族共は複数勇士とやらを召喚しているようだが、

お前は俺だけしか召喚しなかったのか?」


「ん? そうだね、私は君だけだよ」


俺が周囲を見渡しながらそう言えば、アベルティエは少し楽しそうにしてそう返す。


「私は現王の妾の子でね、他の王子達より王性が薄いらしいんだ、だから一人しか召喚できなかったみたい。 でもね……」


悪戯っ子の様に、楽しそうな表情でそう続ける。


「私はどの道、一人しか召喚しないつもりだったよ、だってその方が……」


そして……


「運命…… 感じるよね?」


ほんのすこしだけ頬を赤らめてそう言葉をしめるのだった。


「…………最後にもう一つだけ質問良いか?」


「最後と言わず、いくらでも良いよ? 沢山話してもっと私と仲良くなろう」


俺は、そんなアベルティエを貼り付けられたまま見下し、問いかける。


「…………お前の言う所の運命の相手として、俺はどう映る?」


「アベルって呼んで? そうだなぁ……」


すると俺の問いかけに対し、アベルティエは楽しそうにころころと笑って、笑顔のまま首をかしげる。


「顔は好みじゃないし、性格もあんまり優しそうじゃないね」


アベルティエは、笑顔のままはっきりとそう言い放った。


そして……


「だけど目は好き…… その、全てをねじ伏せてやるって言ってる様な、君のその黒い瞳は大好きだよ」


アベルティエは笑顔のまま、真剣な瞳で僕を見上げ、強くそう言いきるのだった。


「……………ふぅん」


俺はその真剣な瞳を、ゆっくりと見返す。


「くふふ……………」


アベルティエは俺の顔を見つめて、ゆっくりと微笑む。




俺は……




「さ…… 終わったよ? これで君は私を、だーい好きになったはずさ」


やがて魔方陣の光が止み、そしてアベルティエは俺にそう告げた。


「ふむ……」


確かにアベルティエに対して、俺は好意を抱いている様だ。


今までの人生において、恋愛感情等が皆無だった事を鑑みれば、アベルティエが言う通り、それは「大好き」であると言っても過言ではない。


だが…… 


だがそれだけだ。


俺はその好意をちゃんと「ただの好意」として頭で認識出来ている。


それを冷静に見れている。


その感情に支配されてたり、振り回されたりする事は無い。


ただ「好き」なだけ。


それだけだ。


「さ…… 今外してあげるね?」


だから、俺はアベルティエを冷たく見下ろす。


そして……


「動くな」


アベルティエが右手の拘束を外した直後、俺はアベルティエの喉元を鷲掴みにする。


「………………ぅ?」


喉元を掴んだ俺の事を、アベルティエは不思議そうな顔で見つめる。


何とも緊張感のないどこかとぼけたその表情が、少しだけ可愛く見えてしまうのは洗脳のせいだろうか?


「なぁ、お前…… このままお前の喉、潰してもいいか?」


俺は凄みを効かせながら、アベルティエを見下してそう言う。


睨みつける様にして、少しだけ狂気じみた感じで見下す。


「人を平気で洗脳する様な奴だ…… 殺されても文句は言わないだろ?」


俺のその発言と表情に…… 周りがざわつくのが聞こえる。


「洗脳が不完全だったのか!?」とか「過去にこんな例はないぞ!?」とか「やはり血筋が悪いから力が弱いのだ……」とか…… そんな声が聞こえる。


とりわけ「貴様ぁ!! 姫様を放せぇ!!」と叫ぶ、恐らくアベルティエの近衛であろう女騎士の声がうるさい。


だが今は、外野の声なんてどうでもいい。


今、俺が興味があるのはアベルティエの反応、それだけだ。


さぁアベルティエ…… どうする?


「喉を潰されるのは嫌かな…… だって君とお話できなくなっちゃうから」


「……………脅しだと思っているのか?」


笑顔でそう返すアベルティアの喉に、僕は少し力を込めた。


「……………っ」


「俺は本気だ」


少しだけ苦悶の表情を浮かべたアベルティエに、僕は笑みを浮かべてそう言った。


すると……


「嘘だね……」


そんな俺に、アベルディエはそう返す。


不敵な笑みを浮かべて、そう返す。


「全然本気じゃない…… だって貴方が本気だったら、多分私はもう死んでる」


俺の瞳を真正面から見つめて、そう語り出す。


「本当に気に食わないのだったら、後先考えずぶっ殺す。 あなたは多分そう言う人だ」


そして……


「…………………違う?」


ふわりと笑って、そう言うのだった。


「……………違わないな」


俺はそんなアベルティエの笑顔に不覚にもときめきながら、喉元から手を放す。


そして、その手をそのまま降ろし彼女の前に差し出した。


「今日は俺の負けにしておいてやる…… 光栄に思えアベル」


「アベルって呼んでくれてありがと…… なんか私たち、良い夫婦になれそうじゃない?」


俺たちは、微笑み合い、固く握手を交わすのであった。


「ふん……」 


面白くないが認めてやろう。


確かに俺は、アベルの事が好きなようだ。


人を好きになった事が無い俺にとって、少なくとも全人類の中で一番程度には好きかもしれないな。


「ねぇ、旦那様?」


「……ん?」


アベルは残った拘束具を全て外すと、俺の前に向き直って見上げる。


「旦那様の名前…… そろそろ教えて貰ってもいいかな?」


そして、わくわくした様な表情で……


楽しそうに笑ってそう言うのだった。


「ああ、俺の名前か…… そうだな、じゃあついでに俺の好き嫌いも教えてやろう」


「君の好きな事? 何? 教えて?」


にこにことしながら、催促をするアベル。


その表情は実に無邪気である。


ふん…… 


この笑顔とは、なんだか長い付き合いになりそうだ。


だが、まぁ……


「俺が好きなのは波乱、嫌いなのは退屈、想定外や理不尽を叩き潰して服従させるのが俺の生きがいだ……」


こいつといるのは悪くない。


「俺の名前は成國 神なるくにしん、折角だ、やるからにはお前を王にしてやる」


こいつと居れば……


「ふふ…… 改めましてアベルティエ・レイヴェルスです」


退屈はありえ無さそうだ。




「よろしくね、シン君」


アベルのその笑顔に、俺はそう思うのだった。


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