1 こんにちは
「こんにちは」
俺の目の前でそう言う、少し中世的な雰囲気の黒髪赤目の少女。
年の頃は恐らく14かそこらで、顔立ちにはまだ幼さが残っている。
「ご機嫌いかがかな?」
だけど…… その赤色の瞳は嫌に大人じみていた。
あどけない笑顔とは裏腹に、その瞳は良く研がれた刀剣の鋭い光を放ち、僕の瞳の奥を射抜くように見つめている。
「ご機嫌? うん、そうだねぇ、強いて言うなら、拘束せれていると、こう、なにかくる物があるね」
俺は今、両手両足を拘束されている。
加えて言うなら、今の俺の様な状態の人間が他にあと9名存在している。
そして、そんな貼り付けにされた俺達の前には、5人の人間が立っていた。
我らの前に立つ5人。
やたらと派手な衣服に身を包む5人。
それこそ王子や姫が着るような……
そんな豪奢な服を着た5人が、俺等を品定めするように見上げている。
貼り付けにされた俺等を、まるで家畜か何かの様に見上げているのだ。
いや……
それには少しだけ語弊がある。その情報は正確でない。
なぜなら、その5人の中で一人だけ、他とは違う目線をしている人がいるからだ。
「……俺はまぁ、基本的に変態なんだが、さすがにこんな突飛な状況で、ご機嫌できるほどじゃない」
その一人とは…… そう僕の目の前にいる、この少女だ。
この黒髪赤目の少女だけは、他4人とは違う視線を送ってくる。
「だけど、君みたいな美女に見られながらなら」
その少女の赤い瞳。
「…………縛られるのも、なかなかどうして悪くない」
その赤い瞳には……
「‥‥‥君って凄い変な人だね」
「僕は普通さ、世界が変なのさ」
「くすくす、何言ってんの?」
「愛の話をしているのさ」
「あははっ! おっかしいの!」
好奇心の光が宿っていた。
「‥‥‥ふふふ、君は凄い大物だね」
「よく言われるよ」
眩いばかりの好奇心と、溢れんばかりの生命力で溢れていた。
「私の名前、アベルティエっていうんだ」
「アベルティエ、いい名前だ」
彼女は、弾ける笑顔を僕に向け、そして僕に向かって両手の平を向ける。
「だから、愛を込めてアベルって呼んでね」
そんな少女の両手からは……
「私の旦那様」
光輝く魔方陣が展開されていた。
俺はそんな前顔の光景に……
「………………………俺の人生も、ようやく面白くなって来たな」
思わずにやけてしまうのだった。