表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

(二)仁箇(にか)山合戦(がっせん) ≪第七話≫No.8≪第八話≫ No.9

(二)仁箇(にか)山合戦(がっせん)

≪第七話≫      No.8

佐野久衛門と別れて、小太郎は城門に出ると弥七や寅之助たちが待っていた。城内の兵120人、村から集めてきた若衆がざっと30人。皆、総大将を待っていた。村の若者たちは、手に手に一間(180cm)ほどの竹の束と縄を持っていた。

 小太郎は一同を半円に座らせ全員に声が届くように(しゃべ)った。「村の衆、よく来てくれた。礼を云うぞ。」そこには懐かしい顔が沢山あった。子供の頃は近くの山野で時を忘れて遊びまわったものだ。多少の身分の違いはこの時代(ころ)は問題ではなかった。幾つかの作戦を述べた後、小太郎は全員を立たせ「この戦、我らが勝敗を握っている!(おく)せず我について来い!!」「おおォ~!!」一同は其々の持ち場に向った。

 小太郎は正規軍を二つに分けた。50人を真島弥七郎に預け、北国街道の村の入口に向わさせた。長者原城の正面下の上堰(うわせき)(がた)は、現在よりも数倍の面積で水面を形成していたので、北国街道から稲島の集落に入るには、上堰(うわせき)(がた)仁箇(にか)(ぬま)に挟まれた狭い街道を通らねばならなかった。

村には既に殆んど人気が無かったが、弥七達がそこに着いてみると里人の屈強な者達が組を作り、村はずれの街道(かいどう)(ばた)防御(ぼうぎょ)用の(ごう)を作っている。  

上堰(うわせき)(がた)仁箇(にか)(ぬま)の凡そ20間(約40m)に貯水用の下水堀が(つな)がっていて、有事の為に弓型に掘られていた。その内側に塹壕(ざんごう)を施す。さらに藁袋に土砂を入れ積重ね、足らない箇所は古木や材木・時には箪笥(たんす)などの家財道具など使えるものは皆積重ねていく。云わばバリケートである。弥七たちが着いた頃には半ば作業が進んでいたので一挙に(はかど)った。


≪第八話≫       No.9

 小太郎は本隊70人と若い衆30人程を連れて予定の地点に向った。この地方には信濃川の河流が時に蛇行し、時には氾濫して長い年月を掛けて出来た湿地帯があり、潟や沼が数多く点在している。代表的なものが福島潟・鳥屋(とや)()(がた)・佐潟である。現在、近くの佐潟は野性生物保護のラムサール条約指定地にもなっていて沢山の野鳥が飛来する。しかし小太郎たちが向った仁箇(にか)沼は自然の陥没(かんぼつ)で雨水や雪が解けて溜まった天然の貯水池であった。現在は一部土岸工事が施され、仁箇(にか)(づつみ)と呼ばれている。  

 小太郎たちはあちら、こちらに雪が残る山道を足早(あしばや)に進んだ。標高30m程の小山である。目的地には直ぐに着くだろう。途中、山間(やまあい)から見えた最前線の様子は松野(まつの)()砦から黒煙が上っていた。20人程で守っている前衛基地である。800余りが一挙に押寄せれば、一溜(ひとたま)りもない。

 城内では、笑顔もあった若い衆も緊張の度合いが増して来たのが分かる。今は誰も口を開かない。小太郎が振返って喋った。「与三郎、なぁ(お前)かかをもろうたか」与三郎と呼ばれた図体のひと際大きい里人が、答えず(うつむ)いていると隣りにいた小男ながら頑強そうなほうが答えた。

「小太郎さー、こやつこの間、隣り村からすんげ~ェべっぴんの嫁ごをもろうたすけェ、鼻の下、なげえこと、なげえこと・・・」皆、昔の頃の調子でどっと笑いが噴き出た。「冨作、小太郎さーじゃあんめえ、御大将さますけェ」「留吉、今日は昔の小太郎さーでいいすけェ。気楽にやれや~」小太郎が答えると、男たちの肩の力が抜けた。

 仁箇(にか)(ぬま)を真下に見る丘陵の天辺(てっぺん)に着いた。敵の白根方も必ずここを通過する拠点である。小太郎の指示の下に何組かに分かれて(いくさ)準備が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ