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8話  人間、若干やめました

『え、何、何が起きてるの!?』


 突然痛みに悶え始めた巌を見て、驚く少女。巌の身に何が起きているのか、それは、彼女の魔力注入が原因である。

 巌の最大MPは100である。彼女が注いだMPは300近くであり、彼の最大MPの3倍である。人間の魔力と魔物の魔力は似ているが決して同じではない。魔物の魔力は人間にとって毒である。人間の魔力は魔物にとっての毒にはならず、むしろ好き好んで人間を襲う種がいるくらいだが、何故かは分かっていない。注がれたMPが100程度だったなら、中和に近い現象が起きたかもしれないが、3倍も注がれてしまった巌の身体は魔物の魔力に侵されている状態だ。

 魔物の魔力が身体に入ること自体は普通の事とこの世界では判断されており、ステータスの状態異常にも入らないくらいだ。何故か、それは、食べられる魔物の存在があるからだ。弱い魔物とはいえ若干は魔力が流れており、それを食べることで体内に取り入れているので、身体に魔物の魔力が入るのは普通なのだ。食べ過ぎれば巌程ではないが痛みに襲われることがある。しかし、許容範囲を超えた量だと、この世界でも最悪クラスの状態変化が起きてしまうのだ。

 魔物化と呼ばれるものであり、身体が多量の魔物の魔力に耐え切れず魔物に近づいてしまうのだ。蝙蝠の様な翼の生えた者、鬼の様な角が生えた者、異常なまでに右腕が巨大化した者など様々である。これだけでも十分凶悪だが、この症状が出て更に魔物の魔力を取り込むと…体が粘液のようにドロドロになり、理性も無くただ這うだけの存在になるのだ。

 では何故巌はこうならないのか?『超健康体』のスキルのおかげである。状態変化すら無効化するこのスキルのおかげで、巌は魔物化せずに居るのだ。しかし、魔力が流れること自体は状態異常などに分類されない為、魔物の魔力は身体中を流れている。その為、激痛に襲われているのだ。


 大凡5分後、巌がピクリとも動かなくなったので、更に少女は慌てる。回復魔法は光属性でしか覚えられないので、水と雷、闇の3属性しか覚えていない彼女は彼に回復魔法をかける事も出来ない。


『ど、どど、どうしようどうしよう!?誰か回復魔法覚えてる人呼んでこないと…』


 ベッドに彼を寝かせてから回復魔法を使える人を呼んでくることに決めた少女は、巌を運び始める。彼女のステータスからすれば、180cm80kgある彼なら、その気になれば片手で放り投げることも可能である。しかし、倒れている人間を雑に扱うようなことはしないで、丁寧に出来る限り揺らさないように運び始めた。


「………ん」

『イワオさん!気がついたんですね!?』

「あ、あぁ…君に噛まれて、激痛に襲われたのは覚えているんだが…」

『ご、ごご、ごめんなさい!何が起きたかは分からないんですけど、私が魔力を注いだのが原因なのは確かです…本当にごめんなさい!』

「いや、こういった事態を想定しないで、君の提案に乗った俺に罰が当たったんだろう」


 土下座しそうな勢いで謝り始めた少女を見て、巌は苦笑しながらもそう言う。


(異世界に来て浮かれていたな…豚王子エルセリオとの1件も、今回の件も)


 巌は自嘲する。日本に居た頃、『石橋を、叩いた上で、渡らない』とまで言われた慎重さを持つ彼が、こうも軽く相手の話を信じたりしているのは浮かれているからだと彼は思う。異世界に勇者として召喚されるという、彼の好きなファンタジー展開に。豚王子との1件も、頼れる人…リリエットなどに聞けば彼の発言が本当かどうかすぐに分かった話だ。


(…周りを巻き込みたくなかったのもあるか、あれは)


 昔から周りを巻き込むのをとても嫌っている巌。1人でなんとかなるなら、1人だけで解決しようとする悪い癖だ。その癖で何度痛い目を見たか、彼自身分からないほどに多い。巌は今後、気を引き締めていくことを決意した。


『でも、でも…』

「俺はこうして生きているんだ。この件についてはこれで終わりだ、良いね?」

『え?う、うん…』

「…『観察眼』っていうスキルがあったな、たしか」


 相手の本名、ステータス、習得スキル、習得魔法など様々な情報を知ることが出来る、というスキルだったはずだ、と思い出す。なら、自分に何が起きたのかも知ることは出来ないだろうか。そう思い巌はスキルを発動してみる。


鬼塚巌:20歳:男:超越者

ステータス

 Lv:1

 HP:180/180

 MP:400/400

 ATK:85

 DEF:75

 AGL:80

 INT:80

 LUK:30

習得スキル

 勇者補正:勇者として召喚されたボーナス。ステータス成長が大幅に伸びる。

 自動翻訳:言葉や文字の意味を理解出来る。但し意味を理解出来るだけで、実際の発音や書き方等は分からない。また、会話している相手に対してのみ自分の言葉が通じるようになる。

 超健康体:正常な状態であり続ける。状態異常、状態変化を完全に無効化する。

 威圧:自分が相手に何らかの要素で優位に立っている時、相手の戦意を大幅に削ぐ。

 両利き:左右どちらの手を使っても同じ作業が可能になる。

 不屈:心が折れない。常に冷静さを保てる。

 観察眼:知りたい対象について知ることが可能。相手の本名、ステータス、習得スキル、習得魔法など様々な情報を知ることが出来る。

 限界突破:魔物の魔力を限界以上注がれ、生き延びたことによりステータスが上昇。また、伸び幅も大きくなる。

習得魔法

 雷属性魔法 第一階梯

 ユニーク属性魔法 物質操作 魔法付与 物体交換

詳細

 吸血王の魔力を注がれても魔物化せずに生き延び、人の枠を超えた存在となり、MP、ATK、AGL、INTの伸びが非常に大きくなった。またユニーク魔法を3種類覚えている唯一の存在でもある。なお、種族の超越者はステータスボードでは人と表示される。


「なんだこれ…」


 そう呟いたのも仕方ないだろう。激痛に襲われ気がついたら人間をやめてますと宣言されたのだ。魔物化というモノが一体何なのかは分からないが、『生き延び』という言葉から非常に危険なモノなのだろうと判断できる。一歩間違えれば自分は死んでいた、というのもショックであり、先程の巌の決意を更に固くする。


『何か分かったの?』

「人間やめてるんだと、俺。魔物化っていうのから生き延びたら人の枠を越えたらしい」

『…あぁ!?ま、魔物化の事、忘れてた…ごめんなさいぃ!!』

「まぁ、なんとか生きているんだ。魔物化が何かは知らないけど、生きていることの方が重要だ…なぁ、王都までどれ位で着くか分かるか?」

『王都?たしか、馬車で6日くらいとか言ってたかなぁ…?馬のAGLが150近くだったから…」

「今の俺のAGLが80。馬の半分程度か…急いで出ないと駄目か」

『…急いで王都まで行かないと駄目な理由があるの?』


 少女がそう質問してくる。


「…俺を此処に飛ばした豚王子エルセリオが、俺の後輩に手を出そうとしてるからな…此処に飛ばしたこともある、だから戻らないとなぁ」

『…私も付いて行く!』


 巌の返答に対し、少女はそう重ねた。付いて来る?何故?巌はさっぱり分からんと言いたげな表情で少女を見つめる。


『こんなに普通に話せる相手はすごく久しぶりだから、一緒に居たいの…駄目?』

「ぐっ…」


 上目遣いで頼まれる。美少女の上目遣いでのお願いに、巌も断りづらくなる。ここで、巌は1つの案を思いつく。


「…だれか君の信頼出来る人から許可を貰ったら、だ。そうしたら付いてきても良いよ」

『本当!?約束だよ!』

「はいはい…俺も付いていくからな?」

『うん!じゃああっちに居るから付いて来てー!』


 巌がなぜこういう提案をしたか。これだけ可愛い少女が見知らぬ怖い男と旅にでるなんて、許す人は居ないだろうという考えだ。巌はこの考えに結構自信があり、いけるだろうと思っていたのだった。



――――――――――――



 この場所が家が20軒ほどしか建っていない所だと巌は知ったが、それ以上に驚いている事がある。

 隣の少女が黒之吸血王である事を始め、出会うのは人狼ワーウルフ蛇女ラミア蜘蛛女アラクネなど、人のような姿の魔物、または人の下半身が何かに変わった魔物しか居ないのだ。因みに、少女が信頼出来る人として選んだのは鳥人ハーピーと呼ばれる、腕が翼になった人のような魔物の男だった。


『ゼグお兄ちゃん、こんにちわー!』

『ん、アリア、こんにちわ…人間?その人間、何処、来た?』


 片言に聞こえるのは、恐らくゼグと呼ばれた男が、少女…アリアと同じ言葉、つまり吸血鬼の言葉を話しているからだろう。


『魔法で飛ばされたんだって。無属性第五階梯の』

『そうか。言葉、分かる?』

『スキルで分かるんだって。ゼグお兄ちゃんも普通に話しても大丈夫だと思うよ』

『なるほど…始めまして、人間の男。鳥人のゼグだ』

「始めまして、イワオ・オニヅカと言います。私はこれから王都に帰ろうと思っているんですが、彼女…アリアが付いて来たいと言っていまして」

『そうなのか?アリアが、外に?』


 ゼグが驚いた表情で巌とアリアを交互に見る。やっぱり、こんな怖い男に付いて行かせるのに抵抗を感じているのだろう、と巌は解釈していた。


『イワオさんはとっても良い人だよ!その、私が噛んで魔力を流して、魔法を使えるようにしてあげようと思ったんだけど…失敗しちゃって、魔物化しそうになったんだよ。スキルのお陰でなんとか乗り切れたんだけれど…私の失敗を許してくれたの』

『そうか。良い人、だな。イワオ、君は少し優しすぎないか?アリアのミスで君は死にそうになったんだぞ?』

「こうなる可能性を考えなかった自分に罰が当たったんだと思います。ここに飛ばされたのも、後先考えずに突っ走ったのが原因ですしね」

『ふむ…君なら、任せても良さそうだな。失敗しても原因をある程度分かっているようだしな』

「えっ?」


 断らないのか?と抗議の視線を送ってみる巌。


『ここに住んでいる住民は、この国に協力している魔物だけだ。許可証も国から貰っている為、国内なら街などに入ることも可能だ。それに、君のようなある程度冷静に物事を判断できる人間なら、アリアのように後先考えずに行動する奴が居ても良いだろう』

「自分がここにいるのは、後先考えず行動した結果ですけど?」

『今失敗を経験したなら、今後はしないようにするだろう?まぁそれに、もし失敗したとしても、アリアの経験になるだろう。ちょっと位なら死なんさ、あいつは』

「…あまり期待しないで下さい。確かに、失敗を繰り返さないようにはしますが」

『その気持ちがあれば良い。では、イワオ、アリアを頼む』

「・・・分かりました。が…国に協力している魔物?なんなんですかそれは?」


 気付いたのか、と呟きながらもゼグは応える。


『この国では、君も覚えている『自動翻訳』のスキルを覚えている人が他国よりも多く居るんだ。平和に過ごしたいと思っていた私達に交渉をしてくれてな、この国に協力する…主にこの人外の身に宿った力をいざと言うときに貸す代わり、此処に定住する事を許してくれたんだ。同族からは平和を望むのは軟弱者の考えだと言われ里を追われた私たちを受け入れてくれたんだよ』

「そうなんですか?話の分かる相手で良かったですね」

『あぁ、お陰でこうして平和に暮らせているんだ。因みに、アリアは捨て子だ。何故か此処のど真ん中に突っ立っていたんだ。本人は覚えていないらしいが…ここに来る前のことを』

「記憶喪失、という奴ですか?」

『なのかもな…外傷等も無かったから、原因は分からないんだ。だから、彼女は此処の景色しかしらないんだ。だから、外に出してあげたいと言うのも、君にアリアを任せたい理由に入るな』

「…分かりましたよ。約束通り、連れて行ってあげるよ、アリア」

『ふぇ?イワオさん、良いの!?やったぁ!!』


 連れて行ってもらえないのだろうかと少し不安になっていたアリアは巌の言葉に素早く反応し、嬉しさでピョンピョン跳び回る。それを見て、優しく微笑むゼグ。そんな2人を見て…


(…まぁ、良かった、のか?本人が喜んでいるから良いのかなぁ…)


 と完全には納得出来ていない巌だった。

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