5話 街に買出しに行きました
「はい、皆さんの測定、鑑定が完了しました。皆さん平均以上のステータスと1つ以上の魔法適正、有力なスキルを持っている事が分かりました。さて、昼食後の予定は街での買い出し、となっています。本来なら武器を買うだけで終わる予定だったのですが、皆さんの生活用品が必要だという意見がありましたので、買い出しと言う形にします」
「マジ!やった!!」
「そうか、買い出しか。色々と欲しいものがあったから助かる」
「では、昼食後に謁見の間に集まってください。その後、移動します」
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「先輩、結果はどうだった?」
午前中の予定が終了し、不知火と優華が巌の部屋に来て話し合いをする事に。
「…正直、話そうか悩んでいる。判断が難しい所なんだよなぁ…」
「私は土と闇以外の全属性」
「多いね、ぬいちゃん…私は火と風です!」
「…いいか、絶対他人に言うな。約束出来るなら、俺は言おう」
「私は勿論。先輩に嫌われるような事は一切しない」
「鬼さんに嫌われたらこの世界で生きていける自身が皆無なので大丈夫です!」
「…雷属性と、ユニークだ」
「へ?ユニーク、ですか?何で言ったら駄目なんです?」
優華の質問も仕方のない物である。かつての勇者などの実力者しか持って居ないユニーク魔法を持っているとなれば、その分支援も貰えるだろうし、別に良いのではないか、と思ったのだ。
「何か別の意味で問題がある?」
「そうだ…3個、あるんだよ、ユニーク魔法」
「「…は?」」
「雷属性の他に、今は何の効果があるか分からないが、ユニーク魔法が3個あることが判明している。因みに3個どころか2個ユニーク魔法を覚えている人すら過去発見されていない。異例中の異例だ。そんな事を広めてみろ、俺は化け物扱いされて最悪殺される」
「絶対言いません!言いませんから!!」
「…私達だけの秘密。優華、言ったら私が許さない」
「ぬいちゃん、後ろに何か怖いもの見えてる!なんか般若みたいなのが見えてるから!」
「…とりあえず、この話は後にしよう。昼食の時間が近い」
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「はい、ここがパリスティナ王国の首都、リズベルドです。この広場を中心に、北側に王城、残り3方向に門があって、周りはグルッと石の壁で囲われています。今から3回鐘が鳴るまでには此処に集まっているようにしてください」
そう勇者候補に説明している彼は、近衛騎士団の人だ。カリギュオ・ランシェルから巌と不知火の話は聞いているようで、2人から勇者候補の要望などを聞きながら予定を決めている。
「鐘ってどれ位で鳴るの?」
「夜中にも鳴ってます。一日に12回ですね」
「2時間に1回か。みんな、今が午後1時だから、6時にはここに集合しておくようにしましょう」
「まずは武器屋。雑貨とかはその後に」
全員にそう言って、解散。武器屋などが並ぶ場所を教えてもらい、そこに行こうとする。すると、近衛騎士団の男が1人、巌に寄って来る。
「あぁ、イワオさんですよね?殿下から、貴方の様な体格のいい人なら、大剣等の武器が合うだろうということで、そういった武器を主に扱う武器屋の場所を貴方に伝えるよう言われています」
「エルセリオ殿下から、ですか?」
「はい。ドワーフの鍛冶師の店だそうで、『ダンブリッド工房』と言う名前だそうです」
「ダンブリッド工房ですね、有難う御座います。最初に寄って見ますね」
「先輩、私も付いて行く」
「私も一緒に行きたいです!」
「どうせそう言うと思ったよ。じゃあ、行くか」
「何とかダンブリッド工房に行くよう指示を出せたな。まぁ、殿下が気に入ったあの女性達も付いていったのは想定外だが…どうでも良いか。にしてもイワオさんも殿下に目を付けられるとはね。面倒だぜぇ殿下の嫌がらせは…でも、逆らうと俺が危ないし、逆らえないんだよなぁ…逆らえるんだったら騎士団が使ってる店を紹介するんだがなぁ」
「おーい、1人でブツブツ言ってないで、俺達も何か買い物しようぜ!昼間から酒は駄目だからよ!」
「オッケーオッケー、じゃあ取り合えず食いもん買おうぜー、歩き食い出来るやつな」
「じゃああっちの串焼き売ってる店行こうぜ」
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「で、ここか」
「すごく…大きいです…」
「王族お薦めのお店だけあって、大きいですねー!」
「半分以上は工房になっている様だな。早速入ってみよう。すみませーん」
「なんだぁ、此処は若造が来て良い様な所じゃあねぇぞ?」
縦8m、横15m、奥行き15m程の店に入ると、身長は160cmギリギリ程度の、全身筋肉と言っても過言ではないようなガッシリとした肉体の男性がいた。髭も立派だし、この人がドワーフという種族の鍛冶師なのだろう、と巌は判断する。
「貴方がダンブリッドさんですか?」
「おう、俺がここの工房長、ガッハード・ダンブリッドだ」
「始めまして、イワオ・オニヅカと言います。エルセリオ殿下から紹介されまして、此処に来ました」
「…エルセリオ、って言うと、あの丸々肥えた贅肉に覆われた男か?」
「…言ってしまうとそうですね」
「ちっ、あの豚王子、何企んでやがるんだ?…あぁ、お前達、まさか勇者候補か?」
「はい」
値踏みするように体を見てくるダンブリッド。数分見た後、急に笑い出す。
「がっはっは!あの豚王子の紹介って言われたから、どんな馬の骨かと思ったが、思ったより伸びがありそうじゃねぇか!豚王子どころか他の冒険者よりも礼儀正しいしな、良いぜ、売ってやるよ。気に入らなかったら奴隷から王族まで誰だろうと売らねぇのが俺の主義だけどよ、お前らは良いぜ」
そう言うと、カウンターから出てくる。改めてみると、無駄な肉は1つも無く、体の四肢は全て太い。ゴツゴツとした手や指も全てが巌よりも大きく、彼の力強さが分かり易く現れていた。
「あの、そんな豚とか言っちゃって良いんですか?一応王位継承権第一位ですよ?」
「良いんだよ、あの豚王子以外殆どが認めてる事実なんだ。それに、あいつは気に入らねぇんだよ」
「なんでそんなに嫌う?」
「あいつ、いきなり店に入ってきて『この私に合う武器を今すぐ持って来い!』とか言い出してよ。んで、軽いミスリル銀製の直剣、鉄製だけど最高の出来の大剣、純ミスリル製のナイフを出したんだよ。どれも自慢の一品だったんだが、直剣は『軽くて私には合わないな』と言ってきた。それはまだ分かるんだが、鉄の大剣は『王族である私にただの鉄の武器を持たせるのか!?』って言ってきてな。この国の大臣が護身用にって言ってきて作った短剣は鉄製なんだけどなぁ…んで、ミスリル製のナイフは『短すぎる』って言われてボツ。これ以上良い出来のは無いって言ったら『こんなでかい工房なのにここまで品揃えが悪いのか!』って言ってきてな。完全に頭にきて『そんなに文句があるならうちで買うな!出て行け!』って言って帰らせたんだよ」
思ったよりも悪い王子の反応に、3人はどう反応していいのか悩む。そんな王子が何故この店を薦めたのかも分からないので、尚更反応に困っていた。
「大方、王族である自分に売らないような店が、勇者候補であろうと売るはずが無い、とでも思ったんだろうな。まったく、本当に面倒な輩だ…」
頭をボリボリ掻きながら、そう呟く彼の言葉に、3人は納得する。と同時に、不知火と優華はもう1つ可能性を見つけていた。
(きっと、先輩に対する嫌がらせ行為なのかな…)
(鬼さんとぬいちゃんを離す為かな?うーん…)
この考えは正しかった。エルセリオはこの店に行かせ、武器を買わせない事で気持ちを沈め、そこで更に『貴様は鍛冶師にすら認められない勇者の出来損ない』として非難する事で勇者候補として居たく無くなる様にしたかったのだ。
「ま、そんな事はどうでも良いだろう。お前達の武器を選んでやるからちょっと待ってろ」
「あ、自分は大振りな物で頼みます」
「分かった。あと、そんな丁寧に喋らなくても良いぞ?てか、その方が楽だ」
「…分かった。じゃあ、2人は?」
「私はナイフ。あと、杖があればそれが欲しい」
「私は剣よりもハンマーとかが良いです!」
「杖は金属製の両手持ち用になるが?」
「それでも良い」
「分かった。ちょっと待ってろよ」
店の奥、工房の方に歩いていった彼を見ながら、3人は話し出す。
「何故か俺は殿下に嫌われているらしい。何故だと思う?」
「…あ、その、多分…だけど、えっと…」
「き、きっと先輩が殿下と比べて無駄な肉が付いてなくて背も高くて嫉妬したんですよ!」
「そ、そうか…だけど大学に入ってから筋肉落ちたんだよなぁ…」
「そ、そうですか?でも、まだカッコいいですよ、先輩は…」
そんな雑談をして数分、奥からダンブリッドが、木箱に入れられた武器を持ってこっちに来た。
「おう、いくつか選んどいたぜ。まずおめぇからだ。大振りな奴って言うと、俺のお薦めはこれだな。さっきの話にも挙がった、鉄の大剣だ。素材は何の変哲も無い鉄だが、出来は過去最高だと自負している。他の候補もあるにはあるが、どうだ?」
「ちょっと持ってみてもいいか?」
「おう、てかちゃんと持って確認しろ。自分に合う武器を使うのが生き残るのに必要な事だ。隣に試しに振ったりする部屋があるから、そっちで確認しとけ」
隣の部屋に移動し、持ち上げてみる。今までに持ってきた物と比較して、大体8kg程だと分かる。柄と刀身を合わせて160cm程あるそれを、何度か振ってみる。
(筋トレに使っていたバーベルのシャフトだけで10kg合った筈だ…思ったより軽いが、振るうには重いか。振れるには振れるが、漫画みたいに切り返しとかは無理だな。1回1回ちゃんと構えて振らないと無理だ。ステータスが上がる事を考えると、これくらいの方が良いのか?)
「よう、どうだ?」
「1回1回構えて振らないと駄目だな。連続で斬ったりは出来そうにない」
「まだLv1だろう?ステータスが上がる事を考えりゃそんくらいでも十分だと思うぜ」
「じゃあ、これにするか。持ったりするには問題ないしな」
「おう。金貨1枚と金板貨5枚だ」
この世界の通貨は、ふつうの『貨』と『板貨』の2種類、さらに銅、銀、金、オリハルコンと種類があり、銅板貨10枚で銅貨1枚分、銅貨10枚で銀板貨1枚…といった具合に上がっていく。例外として、金貨100枚でオリハルコン板貨1枚、オリハルコン板貨10枚でオリハルコン貨1枚である。
銅板貨1枚で10円~20円近くの価値がある。この事から、この剣は150万といった所だ。国から渡された金額は一人につき金貨5枚である。
「じゃあ金貨2枚で」
「金板貨5枚返すぜ。じゃあ後の2人だな、お薦めはこのミスリル銀製の奴でだな…」
次々に武器を取り出し、それぞれの利点、欠点を挙げていくダンブリッド。その話を真剣に聞く2人を見ながら、巌は少しだけ考える。
(なんでか知らないが殿下に嫌われている。もしその被害が俺以外に広がったら…俺は、どうすれば良いんだ?誰かに助けを求めるべきか、それとも…)