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1話 召喚されました

「何処だ此処…」


 今の自分の状況を最も表せている言葉だと、その言葉を呟いた本人…鬼塚巌おにづかいわおは思っていた。なぜなら、それは確実に日本にある光景ではないからだ。


 思いつく物を挙げると、ギリシャの神殿だろうか。石の床と柱、屋根で構成されたその建物のど真ん中に、自分を含め2、30人程の人が居る…大勢の人に囲まれて。


 巌の居る集団は、彼と同じ日本人の団体である。一部の人が髪を茶っぽく染めてはいるが、大半は髪が黒いし、話している言葉も日本語である。しかし、彼らを囲んでいる人たちは、髪の色は金髪銀髪を始めとして赤、青、緑など色鮮やかで、話している言葉も、何故かは知らないが意味は分かるけど日本語や英語では無いのは確かだ。


 奥に居る偉そうな人…白い法衣の様な服を着ている、立派な髭を生やした男性が此方に気付いたようで、巌達を取り囲んでいた人たちを左右に待機させ、近づいてくる。


「始めまして、勇者候補の方々」


 そういう意味の言葉を言ったのは分かるが、相変わらず何語なのかは分からない。しかし、『勇者候補』と言われると、巌は自分の好きなファンタジー物の小説を思い出す。そして、何が遭ってこの状況になったのか、大体予想が付いたのだった…


 あれは、丁度昼頃、コンビニに週刊誌を買いに行ったときだった。20歳の大学生である彼は、部活の後輩や1つ年下の女子大学生等の仲の良い友人達にコンビニで会い、コンビニの外で立ち話をしていた。そうしたら急に辺りが白くなって、意識が遠くなって…今に至る。


 周りに居る日本人団体も、思い出せばコンビニで働いていた人、買い物に来ていた親子、コンビニの外で物を食べながら談笑していた高校生、カードのパックを開いていた中学生、おかしを買っていた女子高生等、見覚えのある人たちだ。つまり…ファンタジー物で良くある、異世界召喚、という物なのではないか?範囲はコンビに周辺だが。


 記憶を思い出している間も日本人団体こっちの誰も返事をしないあたり、何を言っているか分からないのだろうか?彼は何故か意味だけは分かる。此方の言葉が通じるかは分からないが。


  相手の言葉の意味は分かるが、此方の言葉は通じないだろうと思い、取りあえず待つことにする。すると、偉そうな人の後ろから黒い服を着たシスターさんっぽい女性が現れ、偉そうな人に告げる。


「教皇様、勇者候補の方々には私達の言葉が通じないようですので…」

「おっと、そうでした。召喚の儀が成功したことが嬉しくて忘れていました…知恵の水を」


 シスターさんが他の人たちに手伝ってもらい、巌ら勇者候補と呼ばれた日本人達に水の入った木製のコップを差し出す。飲んでも良い様で、長話をして喉が渇いていた巌が水を飲む。それにつられて他の人たちも水を飲む。


「…味は良いけど、温い」

「あ、あの…わ、私達の言葉が分かりますか?」


 さっきまでは『意味は分かるが何言っているのか分からない』状態だったのが、『意味も分かるし何を言っているのか分かる』状態になる。知恵の水、と偉そうな人が言っていた水…互いに何を言っているのか分かるようになる水なのだろうか、と巌は予想する。


「あ、はい。先程までは何を言っているのか分からなかったのですが、今では分かります」

「そ、そうですか!教皇様、言葉が通じるようになりました」

「おぉ、良かった良かった…コホン。始めまして、勇者候補の方々。突然の出来事で混乱しているかと思いますが、落ち着いて聞いてください。私の名前はルーディ・ハルドルグと申します。以後、宜しくお願いします」

 

 シスターさん達の会話から教皇の立場に居る男性は、満面の笑みを浮かべながら自己紹介をしてきた。


――――――――――――


 ルーディ教皇を先頭に、今巌らは彼らが召喚された場所…ルーディ教皇が『神殿』と呼んでいた場所から、王城の中へと入る。厚さ4m程、高さ10m程の城壁に囲まれたその城は白く、美しい城であった。太陽の位置から昼頃だと分かる。そんな太陽の光を受け輝く、鉄と思われる金属製の鎧を纏った衛兵らしき人物の鋭い眼光を浴びつつ、大きな部屋…恐らく謁見の間であろう部屋に入った。


 まっすぐ伸びたレッドカーペットの先に、威厳や覇気と言った物を纏っている、立派な髭を生やした人物が、豪奢な椅子に座っていた。おそらく、あれが国王なのだろう。その左隣には王妃と思われる人物、右隣には王子と思われる青年と王女と思われる少女が立っていた。カーペットの両脇には、先ほど見た衛兵とは違い、白く塗られた鎧を纏った騎士達がずらっと並んでいる。主力部隊かその辺りだろうか、と巌が考えていたら、ルーディ教皇が国王と思われる人物に対し片膝を付き頭を下げながら告げた。


「陛下、勇者候補の方々の召喚の儀、無事に終えました。召喚の儀によりこの世界に呼び出された、26名の勇者候補の方々にはまだ何も話しておりませぬが、説明は?」

「良い、私がしよう…さて、勇者候補の方々、ようこそ『パリスティナ王国』へ。私がパリスティナ王国9代目国王、ゲルヒブルク・パリスティナだ。我国は貴方達を歓迎しよう。勇者候補の方々の為に、椅子を」

「はっ!」


 王の一言で左右に居た騎士達が動き、巌らの為に椅子を運んでくる。王の椅子ほど豪奢ではないが、白く塗られた椅子は明らかに高そうで、一瞬座るのを躊躇う。一番最初に座ったのは、コンビニでお菓子を買いに来ていた女子高生団体の中心人物と思われる女性だった。それに続いて彼女の取り巻きが、続いて中学生男子3人が…といった感じでどんどん座っていく。全員座ったら、ゲルヒブルク国王が話を進める。


 この世界の名前はアルタと言う。聖神…ルーディ教皇をトップとする聖神教が崇める神、アルタギアと言う神が創造したと言われている。人と呼ばれる種族は大きく分けて、普通の人間、獣人じゅうじん竜人りゅうじん、エルフ、ドワーフがいて、更に細かく分かれるらしい。人間の多くはアルタギアを崇める聖神教の信徒であり、エルフの半分ほども聖神教徒だという。獣人や竜人は特定の神を崇める者が半数と、それぞれが『神獣』『神竜』と崇めている獣や竜たちを崇めているらしい。ドワーフのほぼ全員とエルフの半分は『神山』『神木』と呼ばれる木や山を崇めている、というのがこの世界の宗教関係の事情らしい。


 この世界には魔法がある。人の全員が魔力を持っているが、適性のある属性以外は半分も効果が出ないらしく、適正のある系統を学ぶのが基本のようだ。属性は火・水・風・雷・土・光・闇の七つと、ユニークと呼ばれる極稀に生まれるその個人しか使えない系統がある。更にどれにも当てはまらない無という属性があり、これは使い方も他とは違うらしいが、誰でも鍛えれば鍛えるだけ強くなるという本当に変わった魔法系統らしい。さらにスキルと呼ばれる能力もあるようで、個人の経験などから習得するようだ。


 巌らが召喚された理由は、この世界の魔王討伐をして貰いたいのだ、と国王は言った。魔王は、かの有名な、世界の半分を渡すことで勇者を仲間に引き入れようとしたあの魔王のように1人だけでは無く、アルタでは自称含めて30以上の魔王が居て、日々生死を賭けた戦闘をしているとか。で、そんな魔王を5人以上は倒して貰いたい、というのが国王の、アルタの人々の願いである。


「私達が貴方達を召喚する際、この国の大地に流れている莫大な魔力を消費して、貴方達を召喚した。その魔力を溜めなくては貴方達を元の世界に返す魔法が使用出来ないのだ…そして、最も早く溜める方法は、魔王を倒し、『魔王の核』と呼ばれるアイテムを砕くことで核に溜め込まれていた魔力を開放することなのだ。もし魔王を倒さず溜めるとなれば、20年以上は確実に掛かる…もしかしたら、50年以上掛かるかもしれないな」

「っざけてんじゃないわよ!こっちの都合も知らないで召喚して、返して欲しければ命を賭けて魔王を殺せ!?嫌よ私は!死にたくない!!」

「そ、そうだよ!あんたらで何とか出来ないのかよ!」


 女子高生の1人が叫ぶと、男子中学生が抗議の声を上げる。それを皮切りに拒否と講義の声が日本人側から王に矢継ぎ早に浴びせられる。一部の冷静な人たちがなんとか止めようとする中…


ダンッ!!


 思い切り床を蹴る音が響き、辺りが静かになる。巌がやったのだ。


「まずは話を全て聞いてから質問をしよう。こっちには何も情報が無い。何も知らされず放り出されるより、少しでも情報を聞いた方が今後楽になると思うが…それでも、まだ騒ぐか?」


 非常に目つきが悪い彼が低く威圧感のある声でそう聞くと、日本人側が完全に黙った。彼の言っている事が正しいのが、全員分かったからだ。


「すみません…私達の世界では、命を賭けて戦うという事自体殆ど無いので、急に言われて混乱してしまった人が居た様で…」

「いや、君が止めてくれたおかげで、話が再会できる…さて、もちろん私達が何もせず魔王討伐に向かわせるなんて事はしない。まず魔法や武器の扱いに慣れてもらい、模擬戦を重ね、近隣でレベルを上げ、それから魔王の討伐に向かってもらう予定だ。資金の援助も、国政に支障がない範囲で行おうと思っている。王城に部屋は確保してあるので、其方に泊まってもらいたい」

「なるほど…先ほど飲んだ『知恵の水』と言うもので言葉は分かるのですが、文字も分かるようになるのでしょうか?もし分からなかった場合、文字の読み書きも覚えたいと思うのですが…」

「確かに、この世界で生きていく為には必要であろうな。分かった、1日1度、文字の読み書きを習う時間を入れよう。他にもこの世界で暮らす上で必要最低限の常識等もその時間を使って習ってもらおう」

「有難う御座います。今のところはこれ以上要望はありません」


 なにかあるか、と巌は一応確認するが、首を横に振ったりしていたので、大丈夫だろう。それに、生活必需品などは援助金を使い街で買えば問題なさそうだ。


「突然の出来事が重なり、体はともかく、精神的に疲れたのではないか?今日はゆっくり休んでもらい、明日から本格的な訓練などをして貰おう。部屋は1人部屋で其処まで広くはないが、夕食の時間になるまでしばらく時間がある、ゆっくり休んでくれ」

「気遣い有難う御座います。色々と出来事が重なって、頭がこんがらがっていた所です」

「うむ、何か分からない事があれば、謁見の間に数名待機させておくから、担当者に聞いてもらいたい。私はこれからある場所に向かわねばならぬので、その数日中は大臣らに指示を任せる。彼らに聞いても構わない。部屋まで案内を頼む、ルーディ」

「ははっ!…さ、勇者候補の方々、部屋の場所まで案内します」

確認はしましたが、もし誤字などがありましたら感想などで報告してくださるとありがたいです。

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