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土曜日だというのに、中は非常に混雑していた。慌ただしく掛ける職員の人達。長椅子に座って順番待ちしている人達。飲食スペースで、飲み物を飲んでいる人達。ほぼ人で、中は埋め尽くされていた。
「すごい人だかりだねー」と隣から驚きと感動が入り交じった声が聞こえる。
サリーとは違って、正好は何とも思わなかった。何度も世話になっていたから、慣れてしまっていたのだ。
「僕から離れるな。もしかしたら政府の部隊が紛れこんでいるかもしれないから。ほら手を貸せ」
そう言うと、サリーは首を激しく横に振った。その頬は何故だか、紅潮していた。
「せ、せめて、服の袖を掴むだけにさせて」
「良く分からんが、とにかく、僕から絶対に離れるな」
「うん……」
サリーは正好の服の袖をぎゅっと握ってきた。不安は残るが、まぁ大丈夫だろう。
こんな人が多いところで、政府が手を出してこないだろう。何かしてきたら、人々が危険な目に遭ってしまう。いくら政府が横暴だとはいえ、そこまで馬鹿なことはしないだろう。
たまたま近くを通りかかった女の職員に、正好は「三島友はどこですか」と尋ねた。
すると彼女は眉根を寄せて、怪しんでいた。突然知らない人間が、人の名前を言ったら不審に思うのも無理はない。
「三島とは友達なんです。彼に話しが合って、ここで落ち合うようになっているんですが」
そう言うと、女性職員は一転して笑顔を見せる。こちらですと案内してくれる。
もちろん、その場ででっち上げた嘘なのだが、彼女は信じてくれた。
「良かったの……?」サリーが耳打ちしてくる。「こうでもしないと、会えないから仕方がない」
女性職員の後に付いていくと、一番端の窓口を案内された。彼女は空気を読んでだろう、頭を下げて去っていく。
一番端の窓口には、ネクタイを首元まで結んだ、スーツ姿の若い男が受付していた。髪を短く切っており、爽やかな笑みを浮かべる彼は、いかにも好青年然としている。
「次の方どうぞーって、あれ? マサヨシじゃん。こんな時間にどうした?」
三島は正好の姿を認めると、手を挙げた。
「ああ、ちょっとな」と正好は言って、「彼が三島友だ。仕事仲間であり、親友であり、僕よりも三つ年上に当たる先輩でもある」と背後にいるサリーに紹介した。
「初めまして、こんにちわ。わたしは、最上サリーと言います。よろしくお願いします」
サリーは正好から離れ、フードを取って頭を下げた。フードを取っては駄目だと言ったはずなのに。正好は周囲を警戒した。だが、特に怪しい人物はいなかった。
「めっちゃかわええ! どうしてこんな可愛い子とマサヨシが知り合ってるんだよ!」
サリーの姿を見た三島が、感嘆の声を上げる。
「ちょっとな。そのことで、話に来た」
「ふーん。わけありってなわけな……」
三島は顎に手を当てて言う。さすがは長年共にしてきた仲間だ。言わなくてもこちらの用件を理解してくれた。
「そんじゃあしゃあない。ちょっと今から休み取ってくるわ」
「いいのか?」
「いいんだ。マサヨシがわざわざ尋ねてくることなんて滅多にないからよ。人に聞かれちゃマズイ大事な話なんだろ? それならしゃあないって。日々の俺の態度が功を奏したな。会社内の評判は上々なんだ……ってそんなことはどうでもいいか。ちょっと待っててくれ」
三島は奥へと消えて行くと、数秒で戻ってきた。
「許可は取ってきた。ここで話すのも何だから、場所変えようか」