表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地底国の魔銃師  作者: 大岸 みのる
第一章
7/40

新たなる命

 俺は死んだ。

 これは希望的観測なのではなく確実だ。

 京介に刺され、俺は致命傷を負った筈だ。

 なのだが……。


 「いつまでボケっとしてんのよ!」

 「うるせー! 二つ年上だからって調子に乗るなよ!!」

 「ああ? 何か言った? あんた、命の恩人になんてこと言うのよ!!」

 「うるせっつの! 俺は助けてもらった覚えはない!」

 「助けてもらった覚えはない!? ならここで死んで、あたしの百万円に換金してやろうか?」

 「そ、それだけは……」

 「なら、あたしにその面白い敬語使いなさいよ」

 「俺をどこまでバカにするつもりだ!」


 俺の前を歩く少女は、胸が隠れるくらいの濃紺の髪。

 深海を思わせる綺麗な瞳、白い肌、豊満な胸、丁度いい身長。

 幼さの残る可憐な顔立ち。

 そして、着用してるのは俺の隣街の有名女子高の夏服。

 ――彼女の名前は氷坂(ひょうさか) 香織(かおり)

 俺は彼女に助けてもらった。

 だが……。


 「どこまでって、あんたがもう一度死ぬまでよ」

 「酷いな!」


 コイツに助けてもらうくらいなら死んだ方がマシだったかもしれない。

 


 

 ――およそ三日と十二時間前。


 俺は山道で胸部を血だらけにして倒れていたらしい。

 丁度、俺が倒れてる所に立ち寄った香織は俺を助けた。

 その倒れていた場所というのも、地底国(ここ)の街近くであったらしい。

 俺は香織に担がれて、回復(キュア)師の所に連れて行かれた。

 最初、容態は意識不明重傷から死亡確定だったらしい。

 だが、回復師が香織に向かって溜息を吐いたところ、俺の携帯が鳴りだし心臓が再び鼓動を刻み始めたらしい。

 

 ここまでの顛末を全て俺は知らないから何とも言えない。

 しかし、香織が俺を助けてくれたというのは事実であるのだろう。

 






 「ここは……」


 俺が目覚めたのは回復師の治療所ではなく、宿屋だった。

 辺りに置いてあったのはベット・ベット近くの小さな照明器具・一つの机に対しての二つの椅子だけのシンプルな部屋。

 内装は嫌な事に京介の倒壊した家と同じ木目調。

 部屋自体の照明はスイッチで明りが灯るタイプの俺らの世界と変わらない物だった。

 

 「起きたのね。あんた死ぬところだったのよ」

 

 俺よりも年が少し上くらいの女性が俺の身体を気遣ってくれている。

 後に判明するのだが、この彼女が氷坂 香織だ。


 「え、えーっと、助けてくれて、ありがとう……です」


 俺は戸惑いながらも、香織に一応頭を下げた。

 

 「何それ。あんた面白いわね。敬語使えないの?」

 「あ、ああ。敬語が苦手なんだ。です」

 「バッカじゃないの? あんた敬語も知らないってその体格で小学生じゃあるまいし、目上の人間に敬語くらい使いなさいよ」

 「え、えー! 口悪いなお前! 何で俺が尊敬も何もしてないのに敬語なんか使わなきゃいけないんだよ!」

 「ああ? あんた誰に向かって口聞いてんのよ!! あたしは、お前って名前じゃないの! あたしの名前は氷坂 香織! ちなみにあんたの恩人ね」

 「ハァあああ!!? 寝言は寝てから言えよ!」

 「誰があんたをここまで連れてきたと思ってんのよ!!」


 俺は激しくなる口論の最中、我に返る。

 確かに俺は京介に胸を突き抜かれ――死んだ。

 なのに、こうして生きてる。

 窓の外を見ても茜色の空のままだし。

 まさか、本当に命の恩人なのか?


 「ま、マジで助けてくれたのか?」

 「だから、そう言ってるじゃない! あんたバカ? 脳みそ腐ってんじゃないの?」

 

 俺の怒りのゲージが上昇する。


 「誰がバカだ! 俺だって勉強くらいしてんだよ!!」

 「何の勉強よ! 思春期だから、どうせエロ本とか読んで『保健体育勉強してる!』とか言い出すんでしょ! この童貞!」

 

 ついにゲージを振りきる。

 

 「んだと? 言わせておけばこのクソビッチめ!! 勝手に救われて感謝しろって言われても、するわけねーだろーが!! このブス(●●)!!」

 

 俺が怒りに任せ口を動かす。

 言いたい事が言えたからスッキリしてきた。

 香織もこれで大人しくなったようだから一安心。

 

 「……って言った?」


 気のせいか、少し寒くなってきた。

 まだ夏な筈。

 ここは関係ないのか。


 もう一度同じセリフを呟く香織。

 

 「ん? んだよ。もう一回同じ事言わなきゃなんねーのかよブス」

 

 すると俺の胸倉を香織は勢いよく掴む。

 

 「何て言ったんだよ! このクソガキ!!!」

 

 もはや目の前に存在するのは鬼以外の何物でもない。 

 自然と俺の額に汗が浮かぶ。

 背中がゾクゾクっと凍る音がする。

 

 「え、えーっと、その……」

 「もう一回言ってみな?」

 「……ブスっていいまし――」

 

 俺の頬が勢いよく叩かれる音が宿内に響き渡る。

 

 「い、いってー!!」

 「もう一回言ってみろって」

 「ほ、本当にすいませ――」

 

 もう一回叩かれた。


 「い、いや、俺は凄く美人だと言いました!」

 「嘘吐くな!」

 「ほ、本当です!」


 俺は態勢を直して土下座の構えを取る。

 その瞬間に、俺の胸部が悲鳴を上げる。

 

 「痛っ!」


 俺は正座のまま前のめりになって倒れる。

 これは痛い。

 胸を貫かれたのだから、これくらいの痛みはあって当然だ。

 むしろそれを気にせずに土下座をしようとした俺がバカだった。


 「……大丈夫?」

 

 香織の怒りも収まったようで、俺の容態をかなり心配してくれる。

 さきほどの怒りはどこへ飛んでしまったのか。

 

 「まぁ少しだけ痛んだだけだ。全然大丈夫だ」


 俺は苦笑いで香織を見つめる。

 それなりに心配してくれる辺り、面倒見が良いのだろう。

 

 「良かった……。だってあんたが平気じゃなかったら十往復ビンタできないからどうしようって一瞬迷ったよ」


 ……は?

 何を言ってるんだこの女は。

 普通怪我人にビンタを放つバカが、どこにいるんだって話だよ。

 そもそも俺二回も叩かれたよね!?


 「何その顔は。まるで、あたしが怪我人を優しくしないバカ女だとでも言いたげな顔ね」

 「その通りですけど?」


 また叩かれた。


 結局のところ目覚めたところで俺は十往復+αでビンタを食らったのだ。


 





 まぁ、そんなわけで俺の身体は超人的速度で治った。

 原因として上げられるのは携帯端末の力。

 これは異常だと言ってもいい。

 何しろ俺の命を本当の意味で救ってくれたのは端末なのだから。

 

 後日、宿を出る際にディスプレイを確認したのだ。

 

 『お知らせ:あなたの適合端末・ナフォーン6は特殊な端末で、扱う国民が多い物ですから、こちら側としても、すぐに死んでもらうわけにはいかず、一回の死亡は無かった事にします。ですが、次はありません。ですのでお気をつけてください』


 どうやら、このお知らせを見たときに命を本当に救ってくれたのは端末であり、使用者が多い皆さんのおかげだったようだ。

 

 ただ、この事は香織には伏せておいた。

 奴に言えば、それでも「命の恩人はあたし」とか騒ぎ出して、また喧嘩になるからだ。

 そんな事を引っ張りださなくても常々喧嘩してるが。


 と、言うわけで今現在、俺は氷坂 香織と行動を共にしている。

 三日間宿で休んでる間に、彼女の年と高校を教えてもらった。

 その際に俺も聞かれたが、知らないだろうからって理由で伏せた。年は一応教えておいた。


 「で、どこに向かう予定なんだよ」

 

 俺は前を歩く香織に尋ねる。

 

 「両手を頭の後で組んでバカ面で話しかけないで」

 「うるせーな。別にこれくらいいいだろ」

 「バカが増して上級バカになるわ」

 「ならねーよ!」

 「で、どこに向かってるか。だったわね」


 香織は端末を操作している。 

 彼女も俺と同じ適合者だ。

 彼女の適合端末はBUのピナソニック社の物。

 ネット回線は5Gと回線速度は非常に優れている物だ。

 何でも、女子高生の好きな物を何でも詰め込んでいるらしい。俺がナフォーン6を買う際に口コミで書いてあった。

 

 「あたしは戦いを望まない適合者を探すだけよ」


 そう言って俺に見せたのは、マップだ。

 このマップは適合者を探知する機能だ。レベル2から使えるらしい。

 俺はレベル1だから使えないと言ったところ……まぁ想像通りだった。

 そんなわけで俺らの近くには今一人の適合者が存在する。

 

 「本当に殺し合いをさせてるんだな……。つか最初から使えるようにしてほしいな」

 「そうね。あんたみたいなレベル1の弱者じゃ難しいものね」

 「悪かったなレベル1で。しょうがねーだろ? 俺はお前らと違ってレベルが上がりづらいんだから」


 ちなみに香織のステータスはこうだった。


 種族:人間

 名前:氷坂 香織

 性別:女

 好きな物:舌戦後の敗者の顔

 レベル:25

 生命力:1400/1400

 攻撃力:5+970

 防御力:2+750

 俊敏力:3+1200


 このステータスを見たとき、若干羨ましかった。

 だが、同時に御門のステータスの凄さを思い知った。

 あいつのレベルは349だった。

 ゲームの世界だったらカンストだっただろう。

 しかし、これはゲームではない。

 きっと端末は俺らに力を分けてくれるシステムなのだ。

 それを見やすく、尚且つ分かりやすくしたのが、ゲームのような数値化なのだろう。

 

 相変わらず俺のステータスは変動がない。

 あるとすれば、状態異常だった。

 今は完治して、その表記はない。

 『致命傷による一時期の生命力半減』と表示されていて、ただでさえ少なかった俺の生命力は半分だった。

 

 「さて、ここら辺にいるみたいなんだけど」

 

 香織は首ごと動かして周囲を見る。

 俺もそれにならって首を動かす。


 「本当にここなのかよ」


 なんだか怪しくなってきた。

 だが、端末は嘘を吐かない筈だ。

 嘘を吐くのなら香織が怪しい。

 俺は京介に裏切られて、人を疑う事を覚えた。


 「俺を殺すために、わざわざここまで来たのか?」

 「は? なに言ってるのよ」

 「殺すのなら的確な位置だもんな」

 「ちょ、ちょっとあたし言ったでしょ! あたしはここから皆で抜け出す方法を考えてるって! その為の仲間探しよ!」

 

 慌てて俺を説得する香織。

 それがそもそも怪しい。

 確かにこれだけのサバイバルをして百万円なんていうのは海の味のようにしょっぱい気もする。

 だが、学生にしたら大金だ。

 香織だって学生だ。

 ならば、百万円を前にしたら目が眩むだろう。

 

 俺は香織に構えをとる。

 

 「な、なんでや! あ、あんたわかってへんわ!」

 

 ……は?

 関西弁?

 どうなってんの?


 「……なんで関西弁?」

 「あ、あたしはただ誰かに信じてもらいたいだけや!!」


 俺の声が聞こえていないようだ。

 なんだか、恥ずかしそうではある。

 顔を真っ赤にして、今のセリフのどこに……。

 ああ、信じてもらいたいって意見が恥ずかしいのか。


 「ああ~なんで関西弁なの?」

 「へ……はっ!」


 関西弁が抜けてないところを俺に知られて更に恥ずかしくなったのか、紅潮していた程度の赤さが、俺らの世界での郵便ポスト並みに赤くなった。

 その後、すぐに俺を睨む。

 

 「……誰にも言わないでね」

 

 ドスの効いた声が俺を脅す。

 

 「う、うん……というか言う相手がいない」

 「そうだね! あんたは今ここで死ぬんだもんね!」


 香織は笑顔で俺の頬を五往復ビンタする。

 香織の手が分裂してるように見えるほど速く俺の頬を叩く。

 絶対五往復は越えてる!

 

 頬が太ったおっさんのように垂れた気がした。


 「で、話は終わったか?」


 俺と香織の近くの岩に男は座っていた。

 

 「お、お前は……!?」


 渇いた風。

 荒れ果てた地。

 変わる事のない夕暮れのような空。

 そして目の前にいる人間。


 「ようクソガキ。まさか生きてるとはな」

 

 男は刃の回る大剣を右手で担いでる。 

 最初見たときよりも一回り大きい。


 そう――目の前にいたのは作業着の男だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ