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地底国の魔銃師  作者: 大岸 みのる
第四章
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未来を願って

 降り注がれる溶岩。

 それは同時にこの世界へ終焉をもたらす魔術でもある。

 御門の身体はもう動かない。

 冥土の土産ならば、これは大変な置物だ。いや、もしかしたら、地底国全体を滅ぼすつもりなのだろうか。

 しかし、かすかな希望も俺は見逃さない。

 これが魔術であるならば、俺には破壊できる。

 

 「あんた……」

 「氷坂、少し離れていろ」

 

 香織は俺から離れる。

 地上エレベーターはまだ健在だ。

 俺はエレベーターに魔弾を当てないように、マグマにのみ狙いを定める。

 そして、再び俺は両手に宿る異能の力を、銃口にコンバートさせる。銃口には虹色の輝きが吹き始める。

 香織の姿はもう見えない。

 まったく、嫌な土産を残したものだ。


 「次元破壊ディメイション・ディストラクション(ショット)!!」

 

 俺の叫びに反応した虹色の弾は、上空に花火の如く打ち上がる。その弾道からは七色の輝き。いつもならば透明である筈なのだが、今はそれどころではない。

 七色の輝きはマグマへと衝突すると、落ちてきた溶岩は粉々になる。その欠片は地面に落ちてくる前に粉塵と化す。

 俺は銃を下ろし、御門の元へと向かう。

 

 御門の身体にはスポットライトが当てられていない。

 まだ息があるのか。

 

 「土浦……」

 「り、林……檎君……」

 

 俺への呼称が火ヶ崎ではなく林檎だ。

 だが、あまり気にしていられない。


 「もしかして……本物……?」

 「私……死ぬんだね……」

 「ま、まだ死ぬな! 俺が今最高の治療師を呼ぶ!」

 「もう……いいんだよ……もう疲れちゃったよ……この世界に来てから……ずっと私の分身達を見てきた……」

 

 分身? それは呪術の事か?

 分身と呼べるのは、今のところ香織みたいな人格の一人だけだ。


 「林檎君は気付いてないんだね……私と……鍾乳洞の部屋にいた私は……私じゃなくて……私の分身みたいなものだよ……」

 「じゃあ、本物は……」

 「今の私だよ……」


 なら、俺はこの世界に来て、初めて俺の知る土浦 御門に出会ったという事になる。それまでは、ずっと本物を名乗っていながら違う土浦だったのか!?

 

 「皆、全部本当の私だよ……皆、本当の気持ちを持って……私を尊重してくれた……だから、恨んだりなんてしないで……」

 

 御門の瞳には一筋の涙が零れ落ちた。

 それじゃあ、俺は一体何の為に……。

 

 「でも……まだ、頑張らなきゃ……」


 そう呟いて御門は立ちあがった。

 腹部に穴が開いてるにも関わらず、立ちあがる。

 俺は何も言えずに、御門を支えることしかできなかった。

 



 「林檎君。君がやったんじゃないのかな?」


 俺の目の前に立っているのは京介だ。

 京介は微笑みながら、俺と御門を見つめる。

 

 「……」

 「やっぱりそうなんだね。君は綺麗事を言いつつも、そうやって人を殺す。やはり地上人だね。今も彼女を助けるフリをしながら殺すんだろ?」

 

 俺は歯を食いしばりながら、京介を睨む。

 御門は俺の方を見ずに、京介を見上げている。


 「それに、もう彼女は充分頑張った。もう逝かせてあげてもいいんじゃないか?」

 「ま、待て!」


 京介は二丁の銃を俺と御門に向ける。

 銃口は俺達二人に向いているのに、恐怖はない。

 今は、御門を救う事だけを考えていた。

 だが、俺の思考とは裏腹に京介は銃のトリガーを躊躇わずに引いた。


 「クソっ!」

 「林檎君――私は、あの人を……林檎君を殺そうとした人を殺します!」

 

 御門の腹部の傷が埋まっていく。身体を取り囲む禍々しいオーラ。

 それは呪術の力を解放した者に訪れる力。

 そして、御門の言葉に唖然とした。

 魔弾は俺に迫る。

 俺の両手によって魔弾は消え去る。

 そして、俺の視界の先には、大木槌を持つ御門の姿。

 京介は二対の銃をホルスター収め、刀をひいた。

 

 「まさか、全回復するとは……君も暴性の持ち主だったのかな?」

 「知らない! 私は私の好きな人を殺そうとした人――あなたを全力で殺します!!」

 

 御門は大木槌を何回も振う。しかし、そのどれもは京介の俊敏力には意味をなさない。京介は軽々と避けながら、刀を振りかざす。

 その間に、俺は駆け付け、刀に両手を添える。

 しかし、消えたのは刀が纏うオーラのみだった。

 

 「まさか、林檎君。君も暴性を持っているとは思わなかったよ」

 「も……!? まさか!?」

 「そうだよ。僕も暴性の持ち主だ!!」

 

 京介が叫ぶと、俺と御門は押し切られてしまう。

 俺と御門は床に腰を抜かしながら、見上げる。

 そこには白いコートを纏った京介の姿。そして、背中の魔法翼は全開に広がり蒼々としたオーラを纏う。

 

 「死んでもらうよ。火ヶ崎林檎。土浦御門」


 京介はその言葉だけを残し、俺の背後へと回ってくる。

 俺は空かさず、魔銃を放ち、京介の刀を銃で止めようとした。

 しかし、俺の行動は間に合わず、すぐに後へと詰めてくる。

 俺の現在の俊敏力は最高数値。それに加えて常時発動異能があるのに、対応できない! これは――数値を越えた動きだ。

 

 「君の両腕から貰うよ!!」

 

 京介の刀が俺の両手へと降り注がれる。

 回避は間に合わない。それに手も片方しか開いてない。

 万事休すか!?


 その時、遠方から矢が飛んできた。

 それによって、京介の攻撃はギリギリで避けられる。

 そして、刀は地面を斬り裂く。

 俺と土浦は後方に跳び、距離を開けた。

 京介は矢の飛んできた方向を睨む。


 「まさか……」

 

 京介が呟いた瞬間に、月女神の矢(アルテミスアロー)が放たれた。

 京介は二対の刀で、月女神の矢に抵抗する。

 しかし、京介は抵抗しきり、月女神の矢を打ち破った。


 「紛い物か! 僕のアリスがこんなに弱いわけが――ない!!」


 京介は怒り狂い、矢の元へと飛ぶ。

 このままでは、香織が危ない!

 俺と土浦も、京介の後を追いかける。

 

 京介の動きは素早さを増すばかりで、俺らでは追いつけない。

 そして、視界には香織が映る。


 「氷坂!! 逃げろ!!」

 「逃げないわ! あたしもここで戦う!!」

 「今の京介は――次元が違うんだ!!」

 「へ――」


 瞬間、俺は足を止めた。

 香織が視線を京介にしたまま、言葉を呟いていた。

 しかし、俺の警告は無意味に終わった。


 香織の身体は斬り刻まれ、血が噴水の如く溢れる。

 俺は目を見開いた。

 そして、突然背後にいた筈の御門も吐血し、倒れる。

 やがて、俺の目の前に京介が姿を現す。京介の銃の先には御門が倒れている。

 京介の顔には大量の血。

 そして、いつもの表情で微笑む。


 「さぁ林檎君。僕は君に対する罰を決めたよ」

 「あ、あああああああ」

 「君はこの世界で一生、仲間を殺した僕を恨んで生きるんだ」

 「京介ええええええええええ!!!!」

 

 俺は発狂しながら、京介に殴りかかった。

 しかし、俺の拳は届くことはなく。

 京介は手を振る。

 

 「君にはピッタリの罰だね。僕に言った事が本当に正しいのか。噛みしめて生きるといい」


 そう言い残して、京介は姿を消してしまった。

 俺の周りには二つのスポットライト。

 香織と土浦の二人が連れ去られてしまう。

 俺は何も出来ない……。

 力があっても何も出来ずに、仲間を全滅させてしまった。

 挙句の果てには帝都も大崩壊。

 人の気配などない。

 

 俺は一人になった。


 


 あれから何時間経っただろうか。

 十字郎とミフィーユの姿もない。

 姉の姿も、幻獣ペガサスの姿もない。

 俺は途方に暮れた。

 よく思い出してみれば、この世界に来た頃と似ている。

 最初は何も分からずに森を歩いていた。

 今の俺には、力と絶望しかない。

 暴性は消えない。

 どれだけ強い力を持っていようと、守れるものも守れないのではいらない。

 俺は上空の夕闇を見つめた。

 この世界であとどれだけ歩けばいいのだろうか。

 

 そんなとき、俺の端末が音を出した。

 

 『残り端末適合者……一人です』


 そうだ。もとはと言えば、サバイバルをしていたのだ。

 それが何でこの世界を救うなんてしようとしたのだろうか。

 哀れだ。

 最初から、皆いなくなってしまうのなら、夢なんて歌わずに、殺せばよかった。

 ミフィーユなんて、何で拾ったんだろうか。幻獣の子供とか頼りにならなかった。俺の目は腐っているな。

 十字郎は信頼していたが、結局弱かった。そんな元地上人に頼るなんてどうかしていた。第一洗脳者に触れられないとか、どんだけ潔癖症だよ。

 洋子姉ちゃんは、俺らを足でまといだとか言ってたな。自分が死にたくなかっただけじゃないの。人間年を重ねると汚くなるのかな。

 すいかは俺らに迷惑をかけておいて、勝手に死にやがって。不注意にもほどがあるだろうが。自分の命くらい自分で守れよ。

 めろんもそうだ。魔術を全部使えるなら最初から最強魔術使えよ。それだったら、この結末も変えられたかもしれないのに。

 御門。お前は最後の最後だけ現れたな。本当にお前のせいでこの世界に来てから、何回死にそうになったか。今でも、お前の多重人格は理解できてないよ。

 香織。何で最後助けてくれたんだ? あんだけ罵倒していたのにも関わらず。もう、いいんだよ。変な優しさはいらない。

 

 だったら、ここで死ぬか。残りの一人を殺した方が良い。

 何もいらない。

 俺は元の世界に帰る。

 一人で。

 残りの適合者を殺して。

 

 俺は足を止めた。

 

 『この付近に残りの適合者が潜伏しています』

 

 随分便利になったなと感じる端末。

 レベルが高ければ高い程、機能が増えるというのは本当だな。

 今の俺は暴性を継続中であるから、レベル最大、ステータス数値最大の最強だ。

 

 「……何が最強だよ……何も守れてねーじゃんか……」


 知らず知らずに俺の瞳からは涙がこぼれ落ちた。

 もう、この世界から帰還して、早く忘れたい。

 皆の事も全て。

 

 俺は人影を見つけた。

 随分小さいものだった。


 躊躇わずに、銃をかかげ発砲する。

 瓦礫は吹っ飛び、最後の一人の姿が露わになる。


 「り、林檎……さ……ん……」


 最後の一人は幼女だった。

 もう何でもいい。

 殺せればすぐに終わる。

 

 「や、やめて……くだ……さい!」


 俺は銃を向けたままトリガーに指を伸ばしている。

 幼女が懇願する。

 頬が冷たい。


 「……何で、泣いてるんですか?」

 

 幼女が怯えるのを止め、俺の瞳を見てくる。

 やめてくれ。

 俺はもう誰も守れやしない。

 だから、俺は――――――殺す。


 俺はトリガーを迷わずに引いた。


 目の前の幼女は目を見開く。

 

 自分の視界にも血が見える。


 ああ、これで終わりか。


 幼女は声にならない叫びを上げる。

 

 俺が叫びたい。


 そして、俺は銃を手から落とした。


 『選考試験終了。優勝者――――忍水 めろん。優勝者はすぐに地上へと送還されます』

 

 「林檎さん!!」


 俺は幼女の叫びを、瞳を閉じて聞いた。


 そして、心の奥底から願った。


 君の未来には、地上と地底が仲良く手を取り合う世界がある事を。

 

 そして、俺の意識は闇へと葬られた。

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