散りゆく命
香織は月女神の弓による最大攻撃奥義の月女神の矢を放とうとしている。
御門の姿をしたジジイは、斬り刻まれた身体で俺達を順に視線を移す。
その先はすいか、めろん、香織、俺とゆっくりと見ていた。
「これを食らえば、少しは傷ぐらいつくでしょ?」
「きひひひひ。そうだといいなぁ!」
香織は躊躇わずに弓の弦を離した。
矢は熱光線となり、御門=ジジイに迫る。
凄まじい轟音とともに、周りにあった民家は破壊される。
月女神の矢によるコンクリートとの摩擦で、地面には煙が上がる。
俺らは衝撃に吹き飛ばされないようにするのに精いっぱいだった。香織の最強奥義は、見ないうちに随分と力を増していたのが分かる。
電池消費五十パーセントの力は伊達じゃない。
「……やったか!?」
「これで終わればいんだけど……」
俺は香織に近づき、煙の中を伺うようにして見る。
あれだけのダメージを生身で受けたならば、無事では済まされなさそうだ。
すいかとめろんも、俺達の元へと走り寄ってくる。
「建物……壊しちゃいましたね」
「にーちゃんが弁償すんの?」
「な、俺が払えるか!」
そんなやりとりをしてると、俺らの足元が大きく揺れ始める。この揺れは体感で現実世界の震度七レベル。立っているのがやっとだ。
俺はこの攻撃を食らって、脳内にとある光景が過る。それは、この世界で初めて御門と出会ったときの事。あのとき、御門は鈴木 健太に地震的ダメージを与えたかと思うと、地震の揺れを対象者の身体の内部にまで移動させた。そして、人内地震を起こした対象者は身体全身が揺れ、意識がなくなる。
このままではマズイ。そう感じた俺は全員に向け大声を上げる。
「ここから違う建物に飛び移れ!」
俺がそう叫ぶと、三人は一斉に近くの建物へと避難を開始する。
だが、俺だけは動かずに一人、地面に手をかざし叫ぶ。
「次元破壊!!」
俺の手から、ガラスを割ったかのような地割れが発生し、大地の揺れは収まる。そして、煙の中から、高速移動をしながら俺に立ち向かってくる御門=ジジイ。
俺は咄嗟に左掌をかざし、御門=ジジイからの直接攻撃を防ごうとする。
「まずは貴様からだ!!」
「俺はそんなんで、やられたりしない!」
御門の顔面を俺の左手が掴む。
高速移動による衝撃を俺は生身で実感する。これは、高速移動による余波だ。それが攻撃になるというのは、恐らく並み大抵の俊敏力ではない証だ。
吹き荒れる余波に俺は逆らいながら、右拳を作りだす。このまま、女を殴れないなんて言っていたら、死んでしまう。今だけは神様に許してもらいたい。なんたって中身は男であるジジイだ。
「うぉおおおおおおお!!」
俺の拳は余波を力づくで破り、御門の顔面に拳をヒットさせる。
力の上がった俺の攻撃は、異能の効果で相手の防御力をゼロ数値に戻すことができる。そのおかげで、今、御門は遠くまで吹っ飛んだ。
再び煙が立ち込める。
「クソっ! 俺を殺れるもんなら殺ってみろ!!」
俺は右拳を作ったまま、煙の中にいるであろう御門=ジジイに宣戦布告をする。
煙が上がっている所から、不気味な笑い声が発生しだし、やがて女子高生のシルエットが鮮明に浮き出る。
やはり、俺の攻撃程度では倒せない。そう頭では分かってても、歯痒いものがある。
御門=ジジイは首を左右に振り、骨の音を響かせる。
「随分と成長したようだな。やはり、あのときの力のせいか?」
「どうだろうな。お前の意識がこの世から消えれば、分かるかもしれない」
「戯言を……だが、貴様は強い。認めてやろう」
「それは、ありがたい」
「だから、わしは――こうするのだ!」
御門の姿をしたジジイの右手から杖が現れる。
そして、魔術を詠唱するジジイ。コイツの魔術詠唱は高速。それに加えて使用する魔術は高位系統の物ばかりだ。
ならば、俺が突っ込んで止めればいい!
俺は足に全神経を降り注ぎ、地面から爆発的なスピードでジジイに迫る。
その間に、素早く左拳と右拳を作り、奴の魔術を破壊し、もう一度ダメージを与えるつもりだ。
「極氷の――」
「黙れ!!!」
俺の一喝と共に吹き飛ぶ御門。
御門が元に戻れれば、後で何回でも土下座くらいしてやるつもりだ。
魔術を詠唱し損ねた御門=ジジイは口端から赤い鮮血を垂らしている。その瞳には、俺は映っていなかった。
「貴様、気付いていないのか?」
「何にだ」
「わしの杖は、今どこにあるのかな?」
いつの間にか、杖はジジイの元になかった。
どういう事だ!?
「さて、まずは一人、確実に殺すとしよう」
ジジイの瞳の先には、すいかがいた。
すいかは呆然とした様子で俺の戦いを見ていた。
「すいか! そこから離れろ!!」
「え、にーちゃ」
その瞬間。すいかの腹部を杖の切っ先が貫いていた。
すいかは口から血を吐きだし、身体は地面へと落ちる。
ま、まさか……。
「すいかっ!!!」
「ッ!!」
めろんが急いで、すいかに駆け寄る。
香織の表情も青ざめている。
俺は歯を食いしばりながら、目の前の御門=ジジイに音速で詰める。
「テメェええええええええええええ!!!」
「まずは一人! ひひひひひ!!!」
俺は御門=ジジイの頬を思いっきり殴り飛ばした。
それでも、殴り足らず吹っ飛ばした所から更に、ジジイに迫り何度も殴り飛ばす。今、ジジイが御門の身体を借りている事など、すっかり忘れていた。
御門の口からは血が微かににじむ程度にしか出ていない。
何度殴ったのか、カウントできなかったが、何度目かで御門=ジジイは立ち上がり、地面に血を唾を吐くかのごとく吐いた。
そして、再び笑いだした。
「ひひひひ。そうやって我を忘れるたびに、仲間が一人消えていくのだぞ」
「きゃあああああああああああ!!」
「め、めろん!?」
俺が振り返ると、雷の竜巻によってボロボロになった、めろんの姿が目に入った。
そして、めろんはそのまま、遠くのほうへと身体を投げ飛ばされてしまった。
雷の竜巻は消え、香織は腰を抜かしていた。
香織は立ち上がり、氷翼の剣を握り締め、ジジイに向かって走り出した。
御門の姿をしたジジイは、後方に距離をとり魔術を詠唱し始める。
俺も香織と共に、ジジイに再び殴りにかかる。
「うぉおおおおおおおおお!!」
「こんのぉおおおおおおお!!」
俺と香織が発狂しながら、ジジイに殴りにかかる。
ジジイは魔術の詠唱を完了させ、香織に人差し指を向けた。
「極炎の竜巻!」
俺と香織の目の前に炎の竜巻が浮き出る。
俺は右拳で、火柱に渾身の一撃を繰り出す。
炎の渦は消え、香織は先へと突撃する。
「めろんとすいかの仇イイイイイイ!!」
「寒いんだよ。地上人ごときがああ!!」
香織の剣は御門=ジジイには届かず、ジジイの杖によって止められている。付与効果、物理攻撃完全防御。
杖の所持者であるジジイには絶対にダメージは届かない。俺だけがダメージを与えられる。ならば、俺も駆けている足を止めるわけにはいかない!!
「かかったな! 地雷爆発!!!」
俺の足元に魔法陣が浮き出る。
光る足元。そして、鮮明に蘇るダメージ。
怒り狂っていた俺の招いたミスだ。
この先数秒は死しか待っていない。俺は二人の仇をとってやれないのか?
このまま死ぬのか?
二人の女の子を死なせておいて、こんな簡単な罠で死んでいいのか?
よくない。
今、発動しないで、いつ出るんだ! 暴性!!
「こんな所で死ねるかあああああああ!!」
「終わりだ!」
俺の周囲を爆発が取り囲む。
こんな爆発ダメージを受ければ、間違いなく状態異常、部位欠損だ。
だが――。
「な、貴様、また――!」
「お前を殺すまで、俺は死なない!!」
『暴性が発動しました』
今の俺の格好は前回と同じく、レベル最大の新世界への防具シリーズ装備。
加えて、限界突破。
全てが数値化されたこの世界で、俺は最強となる。
ふと視線を移すと、すいかの死体に光のスポットライトがかけられている。
残念ながら、完全にすいかは死んだ。
遠くの方でも、同じく光のライトが当てられている。めろんが飛ばされた方向だ。
俺は瞳を閉じ、めろんとすいかに誓う。
俺はお前らの仇を……今、ここで討つ!!
瞳を開け、俺は超瞬間的な移動で御門=ジジイの後に立つ。
そのまま、右拳にありったけの力を滾らせ、そのまま御門の身体へと走らせる。
俺の拳は御門の背中にヒットし、御門は身体の関節をぐしゃぐしゃにしながら、吹き飛ぶ。
俺はホルスターから、魔銃を取り出す。
香織はただ、呆然と俺の姿を見ていた。
「氷坂。そこでじっとしていろ。俺がお前を守る」
「う、うん……」
俺は魔銃に自分の異能――次元破壊を全てつぎ込むイメージで溜める。
ジジイの腕は関節を間違えながら、立ちあがる。
「き、貴様は仲間の身体をここまでにして平気なのか!?」
「今は土浦じゃない。今はジジイ、貴様だ。なら、俺はお前の存在ごと土浦を殺す」
ジジイは、呪術特有の禍々しく黒々しいオーラを解き放つ。
全ての関節が元に戻り、傷も修復していく。
その姿は、もう――土浦 御門ではなく、怪人だ。
だから、何だ。全てを打ち消す俺の銃の前には今。呪術など何の意味も持たない。
「貴様ぁあああああああ!! わしらの念願の計画を邪魔するなぁあああああああ!」
「計画? 娘一人救えないで何を言っている」
「貴様に言えた事かあああああ!!」
「そうだな。じゃあ、今出来ることをすればいい。それは――仇を討つ事だ」
俺は何の躊躇いもなく、魔銃のトリガーを引く。
見えない弾道は御門の姿をしたジジイに命中する。
御門の身体を穿ち、大量の血が俺らの前に降り注がれる。
「こ、これで……終わり……だと、お、思うなよ……」
「何を言ってる。これで終わりだ」
「残念だったな……最後の魔術を詠唱し終えた所だ」
空を見上げると、隕石とほぼ同格の大きさのマグマが落ちてきた。
まさか、最後の最後で詠唱を見逃すとは……。
やはり、ヘッドショットを決めるべきだったかもしれない。
御門=ジジイの口はそれ以上動くことなく、倒れている。
降り注がれるマグマに、俺は魔銃を向けた。




