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地底国の魔銃師  作者: 大岸 みのる
第四章
36/40

仲間

 俺の胸は光線型魔術に、打ち抜かれる。

 揺れる視界。不敵に微笑む、御門=ジジイ。

 俺の身体は、目標まで後少しのところで倒れた。

 

 「な……こ、のやろ……」

 

 床に這いつくばりながらも、目前の御門を睨む。今の御門の姿は、魔王の表情のそれに近い。見た事ないけど、御門の笑顔はそんなに歪んじゃいない。それに、もうちょっと明るいんだと思う。

 御門=ジジイは俺に背を向け、横顔を見せる。口元は笑っていて、ジジイの不気味な笑顔を思い出させる。このままではいけない事くらい、俺にもわかってる。

 だが、身体が動かない。それに胸が貫かれたという事は、現実的に考えれば、肺が機能しなくなったという事だ。数値的なステータスなんてあてにならない。

 俺の身体から徐々に、血が流れてくるのが分かる。大量に出ないだけでも救いだ。不幸中の幸いか、床が俺の傷口を軽く塞いでくれている。

 

 「じゃあな、そこでせいぜい苦しみながら死ぬといい」


 ジジイの声音で、御門は俺に告げる。その声を聞いた俺は完全に敗北を悟った。いや、声を聞く以前の問題か。

 肺が片方消失してしまった俺は、間違いなくこの後死ぬ。

 俺は御門の姿をしたジジイの後姿を睨みながら、床から立ち上がろうとした。けれど、力がまったく入らない。

 

 「ま、ま……て……」

 

 傷口は力だけでなく、声量まで奪っている。声は掠れて使い物にならない。いや、普通に考えれば、肺が潰れているから出なくて当然だ。

 それでも俺は、ジジイを倒し御門を救いたかった。

 皆と一緒に帰りたいという俺や香織の自己中心的な考えだが、それでも最後は笑って帰りたいと強く思っている。

 御門の姿をしたジジイは、天井に片手を掲げ魔術を詠唱する。反対側の手には杖が握られている。杖も一緒に光出すと、天井に大きな穴が開いた。

 天井から差し込む夕闇の光に、御門=ジジイは跳躍するために、足に力を溜めこんでいるようだ。

 その瞬間。御門の瞳がもう一度俺を捉える。その御門の右側の瞳からは小さな涙が伝っていた。

 御門の口元が僅かに動く。

 正直、虫の息のような声だったが、それは確かに俺の知る御門の声だった。声にもならない叫びは俺に届いた。

 だけど、これ以上は動く事も出来ない。

 やがて、御門=ジジイは空へと跳躍して、鍾乳洞の一室から消えた。

 このやけに広い部屋で、俺はただ一人何も出来ずに眠りに落ちた。


 「つ……ち……う……ら……」


 俺の意識は暗転し、視界は小さくなっていく。

 暗闇の中、俺はもう死んでもいいという気持ちと、御門を救うまで死ねないという気持ちが半々で存在する。

 両親には申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。こういう気持ちが浮かんでくるっていうのは死ぬってことなんだろうか。

 また浮かんでくるのは洋子姉ちゃんと優子姉ちゃん。洋子姉ちゃんには会えたけど、優子姉ちゃんには結局もう一度会える事はなかったな。

 オッサンやミフィーユは大丈夫だろうか。

 めろんとすいかは香織に、いじられていないだろうか。

 京介は……京介は立ち直れるだろうか……。

 走馬灯のように暗闇の中で公開される俺の記憶。

 閲覧中に、俺の精神をかき乱す声が聞こえる。

 

 「林檎ちゃん! 死なないで!!」

 「少年! いつもみたいに元気よく俺様を弄れよ!」

 「あちし、お兄ちゃんにまだ死んでほしくない!」

 「にーちゃん! 皆で一緒に帰るんだろ!?」

 「林檎さん……起きて……ください!」

 「起きなさいよ! アンタがいないと……アタシ!!」


 この世界で知り合った仲間達の声が聞こえる。

 皆叫んでいる気がする。でも、皆の声はどんどん遠くなっていく。確か端末に次はないとか言われたな。神かっての。

 でも、こうして皆に看取られて死ぬってのは良いもんだな……。

 やがて、皆の声が完全に消え、無音の暗闇だけの世界になる。 


 『あなたは本当にこれでいいのですか?』

 

 声が何処からともなく響く。

 やたらと聞き覚えがあるのは、きっと端末の音声だからだ。誰だか知らんが、俺を散々振りまわしやがって。一回だけ生き返らせてもらったのは、ありがたいけど。

 でも、どうせ死ぬ命を延ばしただけだ。俺は早く死ぬ運命だったんだ。

 

 『何を言っているんですか? 私は全世界に認められた携帯端末ですよ? その私が選んだ人間が、こんなつまらない所で死ぬなんて許しませんよ?』

 

 何を言ってるんだコイツ。つか、端末に意識があるとか命があるなんて聞いた事がない。そもそも機械なんだから、喋るな。

 

 『そうですか。今のあなたは怒っているのですね。死ぬ準備――覚悟と言った方がいいでしょうか。それはもう決めているんですね』


 そりゃあそうだ。肺が潰れて、呼吸困難。挙句に多量出血。もしかしたら、心臓も貫かれたのかもしれないし。これで死ななかったら、そいつは人間じゃない。

 それに死ぬ覚悟なんて、こんな世界に飛ばされたら嫌でも、常々出来ている。そんな事も分からないから、ポンコツなんだよ。

 

 『ポンコツ……機械に対して最大級の侮辱ですね。いいでしょう。元々あなたは死んでいません。早く元の世界に戻って死んでこい』

 

 なんだコイツ。喧嘩売ってんのか? いきなりため口になったぞ? 後輩なら泣かしてやるところだっての。

 

 『では、最後にここは端末の内部です。今、一時的にあなたの意識を私――ナフォーン6の中に閉じ込めていただけです。簡単に死ぬんじゃねーよバカ』

 「て、テメェ! ご主人様に向かってバカとはなんだこの野郎! 次会ったらぶっ殺してやる!」

 

 『この世界では端末を壊せば、適合者も死にますよ?』

 「ち……それじゃあ俺が死ぬか。覚えてろよ!」


 俺の視界は徐々に明るくなっていく。

 やがて、聞こえなくなっていた皆の声も、俺の耳に届き始める。

 目を開けると、俺の周りにスポットライトのような物が当てられていた。その光は、俺が身体を起こすと消えた。

 この光は、適合者が死んだときに出てた光の筈。端末が言うには、まだ死んでいなかった。なのに天国への光(俺命名)が当てられてたのはなんでだ?

 考え事をしていると、皆が一斉に跳び込んできた。


 「うわっ!?」

 

 俺は驚いて、身体をまた床に預けてしまった。皆が重なってるせいで、かなり重い。正直腹が痛い。

 

 「皆ちょっと待て!」

 「嫌です! 林檎さんがいなくなっちゃうのかと思いました……」

 「にーちゃんが死ぬなんて嫌だよ……」


 めろんとすいかの二人が、俺の両腕をガッシリと掴んでいた。めろんもすいかも、涙が大地に降り注ぐ雪のようにポロポロと流れている。

 二人の姿を見て、俺は少々罪悪感を感じた。二人の幼女に迷惑をかけないようにも、死なないようにしなくてはならないな。


 「お兄ちゃん死んじゃったら、あちしオッサンと一緒に暮らさなきゃいけなかったから嫌だよー」

 「少年が死んだら、俺様友達いなくなるじゃない……」

 「お前ら二人の回答は、ぶっ飛んでる気がするんだが」

 

 ま、そうも言っておきながら十字郎も、ミフィーユも俺に抱きついている。ミフィーユは現在人型だ。小さいから問題ないが、十字郎は予想以上に重い。

 

 「林檎ちゃん……林檎ちゃん……あたしの前からいなくなるなんて許さないんだから……!」

 「あんたがいなくなったら、どうすんのよ! 全員笑顔で帰れないじゃないのよ……」


 最後に洋子と香織が泣きながら抱きつきながら呟く。二人の涙が一番凄い。不謹慎だが、滝みたいだと思った。でも、悲しんでくれてるのは素直に嬉しい。

 俺は身体を起こし、座っている皆(十字郎除く)の頭を撫でた。

 

 「めろん、ごめんな。今度からは気をつけるよ」

 「は、はい……」

 「すいかも、俺も頑張るから、すいかも一緒に生きような」

 「う、うん!」

 「ミフィーユ、オッサンは悪い奴じゃないぞ?」

 「分かってるよ! でも、あちしはお兄ちゃんのが好き!」

 「洋子姉ちゃん。いきなりいなくなったのに、それはないんじゃないか? でも、俺も姉ちゃんを守れるように頑張るよ」

 「り、林檎ちゃん……」

 

 俺は全員の頭を撫でて、涙を拭いてあげる。

 最後に、香織の元へと近づく。香織は涙を拭いて、機嫌悪そうにそっぽを向いた。

 

 「氷坂」

 「な、何よ! あんたが死にそうで泣いてたんじゃないんだからね!」

 「そうか。でも、心配はしてくれたんだろう?」

 「……そうよ、文句ある?」


 香織は頬を膨らませて、唇を尖らせている。瞳は涙を流し過ぎて赤く腫れている。顔全体の色も少々ピンク色だ。

 俺は香織の頭に手を置いて、笑顔を作った。

 

 「ありがとう」

 

 それだけ伝えると、香織はまたも泣きそうな顔になる。

 いつもは罵ってばかりの奴だが、基本は優しい奴なんだ。それを今回、俺は一番知ったのかもしれない。また罵倒されるかもしれないけど……。

 香織は新たに流れ出した涙を拭いて、俺の瞳を見る。

 俺は縦に頷いた。そして、立ちあがり全員の顔を見る。

 

 「皆! 絶対一緒に地上に帰るぞ!」

 『うん!』

 

 全員、首を縦に頷いて見せた。

 それから、俺は数時間にわたって、御門の事を詳しく話した。

 ちなみに、胸の傷は治っていた。塞がっていたというべきなのだろうか。これは、俺が意識を戻す寸前までは穴がぽっかり空いていたのだが、起きた瞬間には塞がっていた。この回復は一体何なのだろうか……。ナフォーンの仕業とも取れるし、違う何か(●●)とも取れる。

 完治したのだから、関係はないか。

 

 「じゃあ親玉は逃げたってこと?」

 「そういう事になる」

 

 香織は溜息を吐きながら、俺を睨んだ。さっきまでの香織はもういない。さっきの香織をムービーで収めとくべきだった。

 

 「でも、行く宛てとかあるのかな? あたし達を追ってるんだろ?」

 「……俺らだけが標的だったなら、ここから離れないだろう……」

 

 珍しくすいかが考え込んでいる。少しは大人になってくれたのだろうか。

 そもそも、奴は一体何が狙いで動いていたんだ? 地上人に恨みを晴らす事か。それが狙いなら、俺以外も殺す筈だ。

 でも、俺を連れ去った時は皆を殺さなかった。いや、殺せなかったのか? それにしても、次はどこに……。

 

 「ねぇねぇお兄ちゃん」

 「なんだミフィーユ」

 「もしかしてさ、上に行ったんじゃない?」

 「上?」

 

 ミフィーユは指を天井めがけて指している。

 外か? そりゃあ外には出ただろうが、この世界のどこに行ったか俺達が知りたいんだって。


 「外に出たから調べてるんだぞ?」

 「違くて、地上だよ! もしかしたら、地上に向かったんじゃない?」

 「ミフィーユちゃん何でそんな事分かるの?」


 十字郎が、ミフィーユに近寄って尋ねる。

 嫌そうに十字郎から、距離を取ったミフィーユは俺の背後に隠れながら十字郎を威嚇する。まるで犬みたいだ。あ、元は幻獣の子供か。それも狼みたいな奴だったな。

 

 「ミフィーユ、どうしてそんな事が分かるんだ?」

 「前にあちしの御母さんが変になったときに、地上を破壊するとか言ってたから!」

 「――じゃあ今地上エレベーターに向かってるって言うの!?」

 

 洋子が焦って、立ちあがる。

 十字郎の表情も、少し強張っている。


 「あれで上に行かれたらマズイわね……。今度こそ、地上の上層部がキレて核兵器を使用するかもしれないしね」

 「か、核兵器!?」

 「そうよ林檎ちゃん。奴らは一度使おうとしたのよ。だから、また地上に干渉なんかしたりしたら……」

 

 これは相当マズイことになる……!

 

 「よし、皆すぐに帝都に向かうぞ!」

 『おー!!』


 こうして、俺は再び仲間達と共に帝都に向かうことにした。

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