枯れる華
俺の魔銃は煙を上げている。
ジジイは倒れ、今俺だけがこの部屋で立っている。
御門は伏せたままだ。
ジジイの腹部には、大きな穴が開いている。
これはきっと、俺のレベル5になれば具現化をできる武器なのだ。
この格好はイマイチ分からないけど……。
俺の装備は一旦全て解除される。
『暴性を解除します』
端末から音が漏れる。
俺の着ていたコートとブーツ、手に握られていた魔銃は雪のように消え、服は十字郎に買ってもらった物に戻った。
俺はポケットから端末を取り出して、ディスプレイを見る。
お知らせの欄が更新されていた。
『お知らせ:暴性の解放レベルが上がりました。
現在の暴性レベル:2
効果:使用者のレベルを限界にまで引き上げる。元のステータスの蓋を一部開けました。
レベル1⇒1
生命力:400⇒1500
攻撃力:17⇒900
防御力:3⇒1500
俊敏力:5⇒2000
次元破壊⇒次元破壊・弾。特殊武器による攻撃。
効果:相手のステータスを無効化し、能力使用者に貫通・即死・必中ダメージを与えます。
次元破壊⇒次元破壊・柔。相手の俊敏力が強力だった場合に対応できる常時発動異能スキルです。公表はしていませんでしたが、常時使用中でした』
俺のステータスは上がっていた。
次元破壊・柔に関しては、常時発動スキル。つまり、常日頃から発動していたという事か。
それで速い相手とも戦えたのか。
俺は端末をスリープモードにして、御門に近づいた。
先ほどまで意識があったのに、今は伏せたまま眠っているようだ。
「土浦。終わったぞ」
声をかけても反応がなかった。
肩を叩いても、背中をさすっても起きない。
どこかを怪我したとかじゃなければいいが。
「う……ん……」
御門は身体を起こした。
その瞳は俺を捉える。そして、口元がニヤリとつり上がる。
この笑い方は……御門じゃない!?
「お前……主人格じゃない……!?」
「主人格……? ああ、そうか。言わなかったか? じゃあなって」
俺は距離を取った。
何を言っている?
これは数ある人格の内の一つなのか?
いや、それにしたって気味が悪い。
今までの御門は、どれも人間味を少なからず帯びていた。だけど、コイツは――。
「わしがコイツの身体にあった魔宝玉にコンバートしただけ。つまり、今のコイツの人格はわしがのっとったんだ!!」
御門の声なのに、低い声がした。
コイツは……俺の後で死んでいる筈のジジイだ!!
俺の頭の中では、確かに殺したのに……と疑問が彷徨っている。
「まぁ、驚いて当然か。通常出来る術でもないからな。わしはずっと地上人を殺す為だけに生きてきた。その為に状態異常とやらを研究した末に、精神移動を開発しただけだったが、役に立つとは思わなかったわ!!」
御門は大笑いする。
今気付いたが、御門の右目がジジイと同じく赤い目をしている。
そもそも精神移動って何なんだよ!
「ま、つまるところ、わしの意識をこの女に取り組んだわけだ。一部のアイテムを体内に入れている人間にしか移動できないのが条件だ」
「その一部のアイテムってのが呪術を組み込んだ魔宝玉だったわけか」
「小僧のくせに物覚えが早いな」
俺は拳を固める。
コイツは今、ジジイだ。ならば殴っても問題はない!
俺は地面を蹴った。
「うるせええええええええ!!!」
暴性発動時と比べれば速度は劣る。
だが、それでも今までとは段違いに速い。
これならば、御門=ジジイに攻撃ができる。
攻撃力も上がったし。
御門=ジジイは起き上がって端末を取り出し、武器を具現化させる。
その武器は金色の大木槌。
「貴様如き虫。すぐに消してくれよう!」
大木槌は俺へと迫る。
だが、そんなもの今は怖くもなんともない。
俺の右拳と大木槌は重なり、大木槌は消える。武器が消えたというのに、御門=ジジイの顔は余裕のようだ。
俺は左足で地面をさらに踏み込み、セカンドアタックに入る。
今度は左手を固め拳を、再度作った。
「何度でも倒してやる!!!」
「そう簡単に死ねるか!!」
御門=ジジイは後方に倒立しながら避ける。
俺の拳は空を叩くが、右足を酷使しもう一度攻めに入る。
相手の顔は微笑み、俺を見つめる。
「かかったな! 小僧!!」
俺の足元には、いつかみた地雷型魔法陣。
以前、操られためろんによって殺されかけた物。
まともに食らって、部位欠損の危機になったのを思い出させる。もう一度あの状態になっても、逃げ切れる自信はないし、なにより回復させてくれる仲間がいない。
俺は両手をすぐに足元の魔法陣に掲げる。
「次元破壊!!」
魔法陣はガラスのように割れ、俺の周りで舞う。
御門=ジジイは、ジジイの杖を握っている。
そして、俺に微笑む。
杖には確か、物理攻撃完全防御とやらが付与されている。
だが、俺の異能には効果がなかったみたいだ。
ならば、関係がない筈だ。
「中々死なないな。レベル1の分際で」
「レベル1で悪かったな。だが、今はレベル1にしては相当強いぜ?」
「それは楽しみだ!」
詠唱を始める御門=ジジイ。
だが、俺はそんな事をさせる隙は与えない!!
今ならば、詠唱中で無防備だ。これならば、懐に入ってパンチの一つや二つは簡単に入れられる。
俺は片足に力を込めて、地面から御門=ジジイに向かって水平に跳躍する。今の俊敏力でなら、一瞬で奴に辿り着く。
が、御門=ジジイの詠唱は思ったよりも早く完了する。
「闇・太陽!!」
御門の声で、ジジイの負の魔術が繰り出される。
黒々とした球体がまたも、俺に向け放たれる。その球体は先ほど、ジジイが放った物よりも大きく色の濃さが増していた。
これはマズイと思わざるを得ない。
「さすがレベルが高い地上人は違うな! わしの身体では持たなかったのだが、これならば後数百発は撃てそうだ!!」
御門=ジジイは狂気に満ちた笑い声を上げている。
俺はその間に、黒い太陽に両手を掲げる。
触れた負の魔術は、強さを数段と増し、大きさは太陽のそれと変わらないと思えるほどデカイ。ま、太陽と同じってことは絶対にないとは思うが……。
そして、負の魔術は簡単には消えてくれない。
俺の両手の皮を徐々に、剥がしていく。
皮が剥がれた所からは血が垂れる。
正直、押し切られても可笑しくない。
俺はより一層、足を踏ん張り球体を重い物を退かすイメージで返す。
「ぐぬぬぬ!!!」
やがて、黒々とした太陽は俺の両手がある位置からひび割れ始める。
押し出した力によって、小さな太陽は陶器を割ったかのような音を立てて消滅した。
俺は両腕をだらしなく垂らし、御門=ジジイを睨みつける。
「ま、それくらいはしてもらわねば困るわ」
「なん……だと!?」
どういう意味だ!?
これくらいって、まだ上があるのかよ! 今のままでも充分苦戦した。それ以前に、両手が使い物にならなそうだ。抗う対象が大きかったのか、手からは血がたらたらと流れている。
足だって、いかれちまいそうだ。
正直立っているのがやっとだ。それくらい踏ん張った。
「さて、では死んでもらおうかね」
御門=ジジイはジジイが使っていた端末を拾い、操作してナイフを具現化させる。
そのナイフを握ると、紫のオーラが刀身を包む。
「くそ……っ!」
「今度こそ、さようならだ」
御門の声で放たれた言葉と同時にナイフが俺に迫る。
ナイフは恐らく負の魔術で覆われている。
俺の次元破壊では破壊しきれない。なぜなら、破壊できるのは一つの異能だけだ。つまり、刀身を覆っている負の魔術だけしか防げない。ナイフは俺に命中するからだ。
このままでは、俺の胸部にナイフを刺されお終いだ。
「ぐっ!?」
辺りに血が噴き出す。
俺の左掌にナイフが突き刺さり、血が溢れだす。
正直物凄く痛い。
俺はギリギリのタイミングで、左掌でナイフを防いだ。
端末のアラーム音が響く。
『部位欠損の危機』
この状態では、生命力が徐々に減るんだよな……。
でも、俺は最後まで戦うんだ。御門の為に。
俺は疲れ切った両足に鞭を打ち、なんとかして立つ。またも洋服は血だらけだ。十字郎に怒られそうだな。
その前に生きて会えるかどうか。
「しぶといな。最後くらい楽に死んでおけばいいものを……」
「ふん! 頑丈が売りの俺なんでな……このまま死ねば、回復師を裏切ることになるし……」
御門=ジジイは溜息を吐いて、詠唱に入った。
今回は長い。通常高位魔術か中位か。それとも負の魔術か。もう考えるのなんてメンドクサイ。ならば、いっそ真正面から突っ込んでしまったほうが早い。
俺は全身の神経と力を使って、痛みを堪えながら地面からかけだす。
俺の右手は拳を作る。正直、左手なんて使い物にならない。今は左腕すら動かない。
「レベル1の地上人よ。死ね」
御門の声で、ジジイの言葉が俺の耳に届く。
ジジイの杖から、紫色の光線が放たれる。
全てがスローモーションに映る。
光線は俺の胸部に迫る。速度は遅い気がする。
俺の身体は両足と左手の痛みで、態勢が崩れる。
それが良かったのか。光線は俺の頬を掠るだけだった。そのまま、俺を避け、光線は後方へと向かっていく。
俺は右拳に思いっきり力を溜める。目前に迫る御門の顔。
悪いな。殴らせてもらうぞ。御門。
洋子姉ちゃん悪い、女の子をもう一回だけ殴るの許してください。
優子姉ちゃん……会えたら土下座するんで、一回だけ女の子殴らせてください。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は心の中で懺悔を済ませ、御門=ジジイに向かい拳を振りかぶる。
御門=ジジイの顔は見えない。
でも、今対抗する事なんてできない筈だ!
魔術を詠唱し終えたばかりで物理攻撃に対して防御なんてできやしない!
疲れ切った足に、気力という力を最後に一滴程与え、俺は迫る。
「土浦を元に戻せええええええええええ!!!」
俺と御門=ジジイの顔が近くになる。
そのとき、俺は少なからず驚いた。
御門の顔は笑っていた。
そして、次の瞬間。
俺の胸部を紫色の光線が貫いた。




