まさかのヤンデレ!
翌日。
俺と十字郎は討伐報告書をまとめていた。
「オッサン、報告書は書き終わったか?」
「まだだよ。少年もこっち手伝ってよ」
「それオッサンの仕事だろうが……」
宿屋の机で俺らは、ひたすら筆を走らせる。
この世界に鉛筆・シャープペンシル・ボールペンはない。
主に万年筆か筆だ。それこそ、書道の成績が悪い俺にとっては書くだけで一苦労だ。十字郎は意外にも達筆で、ささっと報告書を書きまとめている。
討伐とは、対象を殺害・撃退したところ事を報告書に書いて提出する事で報酬は貰えるらしい。今回は一応撃退という扱いになるらしい。続いて、対象が幻獣の場合は魔物名も記載しなければならないらしい。こういう地道な作業によってモンスター図鑑アプリにも幻獣が登録されていくらしい。そういうところはゲームのRPGに近い仕様だと思った。
他の女性陣は街に買い物に行ってるらしい。何でも洋子が洋服を皆にプレゼントするらしい。
十字郎は相変わらず、いつもと同じ格好。俺も十字郎にプレゼントされた服を飽きもせずに着用している。
時間が数分経った頃。
俺の方で任されてた資料の作成も終わり一段落する。
「終わったー!!」
椅子に座ったまま、背伸びをする俺を十字郎はじーっと見てきた。
かなり不満そうだ。
「少年は俺の仕事の三分の一もやってないじゃないの。疲れた感出すのやめてもらえる?」
「ちょっと黙ってくれよオッサン。俺は書道とか苦手なんだよ」
「少年は社会に出てから苦労するだろうな」
十字郎は再び、筆を動かす事に専念し始めた。
俺も与えられた分はキッチリとやったので文句は言わないでもらいたい。
さて、現在時刻は朝の十一時。昼にはまだ早い。
となれば、この街の見物でもするか。
「じゃあオッサン。俺はちょっと街を見学してくる」
「あいよ~昼までには戻って来なよ~」
十字郎は書類に目を配ったまま返事をした。
俺はそのまま部屋を出た。
特に何をするわけでもなく、街を歩いてみる。
この街は、先日まで物流が滞っていた。
その原因を打開する為に、俺と十字郎は討伐に向かったのだ。結局、洋子に全て持って行かれたが。
幻獣の呪術も取り除けたおかげか、本日は市場が賑わっていた。
主に盛り上がってるのは、食品類。この世界にしかないものを、よく目にした。
前にも語ったが、この世界には地上――俺らの世界にある物は基本ある。
だから、食生活に関しては問題はない。まぁまだこの世界に来てから二週間位だが。
俺は歩いてる最中に、道具屋を見つける。
一応、他の出店と同じように道具を売ってるのだが、道具屋は何故か空気が暗い。
とりあえず、気になったので入る事にした。
「いらっしゃいませ……」
死にそうな程掠れた声。いや、この場合は汚いと言った方が良いか。
道具屋の店主は、俺に間違った情報を与えてきたジジイだ。
「よう。まさか、こんな所で会えるとはな」
「ひっひっひ。これは昨日の……」
俺と顔を合わせるのが気まずそうだ。
そもそも、コイツは一体何なんだ。
「お前の御主人様について聞きたい」
「御主人様? ああ、救世主様の事ですか」
は? 頭可笑しくなったのか? こういう奴は宗教じみた物が大好きそうだな。
それで、俺らの真の敵を救世主扱いなのか?
「救世主なんて知らないな。俺は昨日お前越しに話しかけてきた奴と話がしたい」
「ふふふ。やっぱり救世主様に用があるのですね」
ジジイは汚く笑うと端末を取り出した。
この世界の人々は全員適合者だと、この前十字郎に聞いた。誰でも使える端末が市販で販売してるという。便利な世界だ。
何でも、端末はコンバート機能があるらしく、変えた際はデータをそのまま引き継ぐ事ができるようなのでステータスに支障はないらしい。
ジジイは端末を耳元にあてる。
「繋がりましたよ」
「じゃあまず、最初に問いたい。お前が呪術を扱っていた本人か?」
『ふむ。その問いには答えよう。そうだ、私だ。私の異能だ』
端末越しに声が聞こえる。
どうやら犯人は間違いないようだ。
「じゃあ何で、そんな狡い真似をした」
『真似? そんなの決まってるじゃないか。強い仲間を集めて、この世界を救おうとしたまでだ』
「救う……? 何を言ってるんだ。お前はこの世界に招集された地上人の適合者じゃないのか?」
『もちろんそうだ。私は地上人。だが、もうあの世界には戻らない。この世界を救うと決めたのだ』
話は一転、この世界を救う?
こいつは一体何を言ってるんだろうか。
俺の仲間に異能をかけて、次々と今選考試験の適合者を殺した奴が世界を……スケールが違うな。精神異常者の言う事は。
「そうか。人を殺したり、無理矢理操ったりする奴が世界を……か。中々ギャグセンス高いじゃねーか」
『……』
「……」
端末もジジイも黙り込んだ。
ジジイに至っては俺を睨んでいる。
この際だ、言いたい事は言っておいた方が楽だろう。
『君子。君に使命を授けよう』
端末からジジイに指示が入る。
「はい。御命令ならば遂行するのが私の役目でございます」
『そこの男――火ヶ崎 林檎を今すぐ殺せ』
端末からは俺のフルネーム。前回も名前割れしていた。
こいつの情報源は一体何だ!?
ジジイが俺に向かってナイフを刺そうと向かってくる。
俺は左に避ける。
市場にいるお客さんは騒然と逃げ出す。
店のアイテムを置いてあった机は木製だったせいか、綺麗に割れた。
「いきなり何しやがる!」
「悪いが死んでもらうぞ。我が神の為に!」
良かったな残りの一人。お前は救世主から神様にランク上げされたみたいだぞ。
ジジイは俺にナイフを投げつけた。
俺はナイフに左手をかざし、破壊する。
このナイフは刀身には何も塗っていないノーマルタイプの短剣のようだ。
これがコイツの武器か。
「それがお主の異能か。つまらない男だな」
「そうか? 最近はこの異能も頼りになると思ってるぜ」
「ふふそうかい。わしとお主とでは相性が最悪だというのを教えてやる!!」
ジジイは俺に向け、十本あたりのナイフを具現化させ、俺を標的にホーミングしてくる。
俺の異能で同時に防げる数――実に両手の数だけ。つまり十本では追いつかない!
破壊する事を断念し、俺は建物の影に隠れる。
ナイフはコンクリートのような物質の壁に突き刺さる。どうも斬れ味は良いみたいだ。
とすれば、俺はどうやってジジイに対処するか。
近づけばナイフの山に埋もれる。
離れていても奴は遠距離攻撃ができるであろう。
ならば答えは一つ。
俺は物影から飛び出し、床に散らばった木片や石ころを拾っては投げた。
「そんな幼稚な攻撃しかできないとは。さすがレベル1。話には聞いていたが、ここまで雑魚だとは」
「そいつはどうかな!」
俺が投げた石ころや木片は、ジジイの背後にある。
そのまま、俺はジジイに真正面から突っ込んだ。
右拳を固める。
「そんな事をしても無駄だ雑魚め!」
「うるさい! 俺の拳を食らいやがれ!!」
ジジイは後ずさる。その足元には石ころ。当然一瞬気を取られる。
すぐにジジイは俺に視線を戻す。
「こんな一瞬で、わしを殴れると思われたのが実に苦い心境だ」
ジジイはそう呟くと、瞬間移動をし消えた。
俺の右拳は空振りし、態勢を崩し転んだ。
「ちっ。行けると思ったんだけどな……」
ジジイは建物の屋根上に立っていた。
俺を激しく睨む。
そして、ジジイは両手を空に掲げた。
「まったく。お主のようなガキはすぐに排除せねばならんな。我が神が命じたのだ。全力でお主を消滅させてやろう」
ナイフが俺の頭上に百本以上具現化される。
まるで針地獄だ!
俺の両手でもナイフ二本しか消せない。残り九十八本は身体に刺せってか!?
俺は出来る限り、ナイフの落下地点から逃げようとした。
だが、ナイフの落下地点には逃げ遅れた少女が腰を抜かして泣いていた。
「くそっ!!」
俺はがむしゃらに走り、少女を抱え込んだ。
百本のナイフを俺の身体に刺さろうとする。
「――ここまでか!!」
「させません!」
俺の諦めの声を遮る様に、氷の壁が目の前に出来ていた。
これは、めろんの魔術か?
「林檎さん。大丈夫ですか?」
「兄ちゃん危なかったな」
めろんとすいかが俺の近くに寄ってくる。
腰を抜かしていた少女は意識を失ったらしい。
めろんとすいかは視線を合わせ、無言で縦に頷いた。
「お姉ちゃん! この子を逃がすよ!!」
「うん! 私は、あの人を倒します!!」
すいかは俺の守った少女を運び、俺の視界から消えた。
めろんは魔術を詠唱する。
「お主も情けないな。そんな小さい子に守られてるとは」
「……」
返す言葉もございません。
だが、今のめろんはジャストタイミングだ。
「林檎さんを虐める人は……許しませんっ!!」
「小娘に何ができる!!」
「跪け」
ジジイは俺の耳にも入った言葉を聞くと、屋根の上に這いつくばった。
俺の後から足音が聞こえる。
「よ、少年。昼には帰って来いって言ったじゃないの」
十字郎が呑気に歩いてきた。十字郎の異能言葉使いによって、ジジイは今動きを封じられている。
「行きます! 激氷・雨!!」
めろんが魔術を詠唱すると、上空から四本の鋭利な氷柱がジジイを襲う。
次々と屋根に刺さり、最後にもう一本の氷柱がジジイめがけて振り落とされる。
しかし、ジジイは瞬間移動して避けた。
「まさか、俺様の異能を振り切るとは……」
「本当です……。異能を振り切る程の瞬間移動って言う事ですかね」
十字郎とめろんはジジイのいた場所を凝視する。
今のジジイの居場所は――。
「こっちだぞ! お主の命は貰った!!」
俺の背後に瞬間移動したジジイ。
俺にナイフの刀身が迫りくる。
――だが、それは俺には当たらない。
「衝撃破壊。林檎ちゃんには触れさせないわ」
完全武装した姉が、つかつかと歩いてくる。
ジジイの手にしていたナイフは動きが完全に止まっている。力が抜けたかのようだ。
「……どうやら俺は仲間に恵まれているようだな」
俺は拳を鳴らしながら、ジジイに近づく。
そして、身体全体を捻り、右拳を大きく振りかぶる。
「か、神様……お助けをっ!!」
「寝言は寝てから言ええええええええ!!!!」
俺はジジイの顔面を思いっきり殴った。
ジジイは遠方まで吹っ飛んだ。
「ふふ。私と林檎ちゃんが力を合わせれば無敵なのよ」
「何をしたんだ?」
「私の異能――衝撃破壊は、名前の通り勢いを殺す。つまり、攻撃力も、守備力も、俊敏力も、魔術でさえも無効にできるの。ちなみに発動は林檎ちゃんと同じく両手で触れるか、空間干渉を起こすかの二択だけどね」
つまるところ、ジジイがあれだけ吹っ飛んだのは、洋子の異能の力でステータス値をゼロに戻したって事になる。
そうなれば例え俺であっても、奴らを思いっきり殴り飛ばせるのか。
空間干渉か。俺の異能もそれらしき事を出来るらしいがイマイチ使い方が分からなかったから、放置していた。今度聞いてみるとしよう。
ジジイは瓦礫に埋もれ、気を失っていたようだ。
「さて、コイツから情報を聞き出すか」
「そうですね。すいかに洗脳してもらいますか?」
「それも一つの手だな」
俺達(すいか・香織・ミフィーユ除く)はジジイの処遇を悩んでいた。
だが、ジジイの身体は瞬間移動した。
『な!?』
これには全員驚いたようで、皆目を見開く。
その背後の声に、全員後を向く。
「ここまで私の部下をいじめるとは、さすがだね。世界ランカー一位と元世界ランカー」
洋子と十字郎は、上空の竜にまたがる謎のマントを羽織った女らしき人物を睨む。
犯人の顔は見えない。
ジジイは布団のように、謎の女に担がれてる。
「まさか君が我が配下を、浄化するとは思ってなかったわよ」
謎の女は、めろんに視線を置き換える。
めろんは怯えてる様子ではなく、戦う事を覚悟していた表情だった。
「そして、火ヶ崎 林檎君。よく生き残ってくれたわ。あなたも弱者。私と一緒にこの世界を救わないか?」
他の連中に喧嘩腰なのに対して何故か、俺には好意的だ。
最初は俺をメインデイッシュだとか、殺せだとか言ってたわりには意外だ。
もちろん信じてない。
「救う? バカ言ってんじゃねーよ。テメェの命を守る事で精一杯な俺ら適合者がこの世界を救う? 笑わせるなよ! 俺は――この世界はこのままで良いと思ってる。ここの人達はここの人達で満足しているんだ! そんでもって、この世界――地底国を救うというのなら、まずが地上に戻って地上国の上層部と話して和解させるほうが先だろうが!」
俺の脳裏には京介や、今は亡き京介の亡き恋人――アリスが過る。
彼らだって、好き好んで戦争をしたわけじゃない。
あいつらはあいつらなりに、この世界を救いたいと思って仲間を募ったんだ。
過去の十字郎や洋子姉ちゃんを否定するなら――。
「俺がお前を倒す!!」
不気味に謎の女は笑った。
「ふふふ。さすがは私の好きだった――いや今でも好きな人だ。君はいつでもそうだよね。見えない努力を頑張って人に見せようとする。本当にカッコいいよ。そんでもって大好き……いや愛してる! 結婚してほしい!」
「……は?」
「でも、この世界から帰れるのは一人しかいない。だから、私は築こうとしたのに! 私と林檎君の愛の楽園を――!!」
さっきから何言ってる事が意味不明だ。
全員、顔がぽかんとしている。
謎の女はマントを脱ぎ棄て、正体を明かした。
「林檎君が、私との愛の楽園を築く邪魔をするなら――今ここで戦って、私も一緒に死ぬ!! ねぇ……一緒に死後の世界で永遠に愛を語りましょう……」
彼女の顔はとろけている。
いや、待て。これはヤンデレって奴なのか?
理由もそれだけで、ジジイを騙して呪術も使って、すいかや幻獣を操ったのか? それが本当なら残念過ぎる……。
「さっきはゴメンネ。林檎君の前だと殺人衝動が抑えられないの。本当に死なれたら困るから、今来たの。それなのに、林檎君は他の女の子とイチャイチャ……。一緒に死なない?」
え、本当にヤンデレなの? 信じたくないんだけど。
つかそれだけの理由で、今まで動いてたの? 信じられない。つか怖い。
という事は俺を殺したい程愛してるって意味……?
「……わかった。責任を取る。土浦 御門!! 俺はお前の妄想を壊してやる!!」
この場にいる全員が凄く微妙な顔をしていた。




