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地底国の魔銃師  作者: 大岸 みのる
第一章
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端末の力

 俺の頭の中は真っ白だった。


 視界に広がる光景は、想像外だ。


 茜色に染まった世界。


 静かな森。


 俺を殺しに来た男が吹っ飛ぶ姿。


 男の武器が壊れ、残骸が地面に転がり落ちる。


 そして、俺の右拳。


 ――そう。俺は異世界あるあるに絶対的に存在する異能に目覚めたのだ。




 右ポケットの携帯が小刻みに脈打つ。


 俺は隙を突いて逃げようとした。だが、また逃げたって、恐らく追いついてくるだろう。そう脳内で解決し、俺は足を止めた。

 この男を仕留めなければ、俺に明日はない。


 どうにかして、端末だけを壊す方法があるはずだ。


 「く、クソガキィイ!」


 作業着の男は歯を食いしばりながら俺を睨む。今にでも飛びかかってきそうだったが、何故かゆったりと腰を上げる。


 「……ゴクっ」


 俺は男を見降ろしながら、生唾を飲んだ。

 とりあえず、俺の端末を右ポケットから取り出す。


 「テメェ! よそ見してんじゃねーぞ!!」


 立ちあがった男は、先ほどよりも随分と遅い走りで俺に詰めてきた。


 「クソっ! 邪魔だ!」


 俺が右拳を再び男に向け放つ。

 右拳は男の左手に掴まれていた。


 「よぉ……俺への一撃はデカイぜ?」


 もはや幽霊と言われても可笑しくなさそうな笑み。コイツの頭はイっちゃってると確信する。


 「俺は……あんたをもう一度ぶっ飛ばす!」


 至近距離にある男に向け叫ぶ。


 「そうかそうか。やれるもんならやってみろクソガキ!!」


 怒りによって固められた作業着の男の拳は、俺に向かって轟音を唸らせる。


 俺は左手で迫ってくる拳を掴もうとした。


 ――失敗した。


 「ぐぁあああああ!!」


 俺は再び吹っ飛ばされ……え?


 さっきよりも全然痛くないし、身体は吹き飛ばない。

 かなり仰け反ったが、威力は先ほどの男の物と比べると歴然だ。


 「あ、あれ?」


 作業着の男は自分の左拳を見て、首を傾げる。


 俺はゆっくりと立ち上がる。


 「おっさん。言ったよな。俺は、もう一度……あんたをぶっ飛ばすってな!!」


 俺は叫びながら右拳を、男の顔面へと走らせる。


 「そんなパンチ痛くもねぇーんだよ!!」


 男の顔に余裕が浮かび上がる。

 今なら、倒せる!!


 「うぉおおらあああああ!!!」


 俺の生存本能によって固められた拳は、男の左頬に炸裂する。


 殴った相手である作業着の男は、千鳥脚となり――やがて倒れた。


 中学生の俺の拳でも、まともに受ければ意識を失うくらいの力は出せるのか?


 とりあえず、現状手元には何もない。

 情報を得るためには、端末を見るのが先か。

 俺は倒れた男のポケットを探る。

 見つけたのは、COCOMO社のスラッシュ製品。キータッチの滑らかさ、防水性、約五億画素のとんでもない便利な代物だ。


 画面をタップする。

 反応はない。


 「だー! 折角倒したのに収穫ゼロかよ!!」


 俺の叫びが世界に響く。


 もう何の情報もない。


 そういえば、さっき携帯が鳴りだしたのを忘れてた。

 右ポケットから取り出す。


 「えーっと……」


 表示されてるのは、お知らせのような物だ。


 『おめでとうございます! 端末一台につき受け取る事が出来る異能を入手いたしました!』


 ふむ。それは良い事だな。というか異能って携帯が言っちゃうんだ……。


 『能力:次元破壊ディメイション・ディストラクション


 でぃめいしょん・でぃすとらくしょん……? 俺を中学二年生だからって中二病だと勘違いしてんのか!? このナフォーン6は!!


 次のページへとスライドさせる。


 『効果:目の前に存在する異能を次元的に破壊します。空間干渉を起こす事もできます。異能による武器の物理攻撃・魔術などの物を破壊する事ができます』


 なるほど……。この世界には魔術まであるのか……。異能による武器の物理攻撃ってさっきのチェーンソー大剣の事か。だから壊れたのか。


 『尚、特殊武器によって応用する事が可』


 特殊武器って……。


 確かにあの大剣はかっこよかった。正直しびれる。だけど、俺の物じゃないのなら奪えないのだろうか。


 俺は携帯を再び右ポケットに戻す。

 そして、男の解体された大剣へと足を運ぶ。

 これが、俺らの夢……刃が回る大剣なんてカッコいいだろうが!! もはや男(中学生)の夢であると言っても過言ではない!!!

 男(中学生)とは、カッコいい大剣を振りまわしながら、女の子を守るのが夢なんだよな!!


 俺は意を決し、大剣の柄へと触れる。


 指先が触れると同時に大剣が歪む。


 「へ……?」


 歪んだと思ったら、爆発した!

 辺りに散らばる大剣の破片。大剣があった場所には煙が上がる。


 色々と泣きたい。この能力は俺が触れる全てを壊すと言う事。つまり、カッコいい大剣もカッコいい魔法書も、手で触れれば夢のように消えてしまうのかも。今回は爆発して消えたけど。


 さっき携帯に表示されてた事を思い出し、再び携帯を手に取る。

 どうやら携帯までは壊れないみたいだ。


 確か、武器の具現化とか……。

 ヘルプを覗くと、武器の具現化と書かれてる項目を見つける。


 そのリンクをタップし、返答を待つ。


 ……そもそも、可笑しな事で何故か圏外ではないのだ。こういう異世界って来たら、基本圏外ってのは御約束の筈なのに、繋がってるというのは不思議だ。まだ誰も連絡先を登録してないから電話すらできないけど。

 ページが表示される。


 『武器の具現化について:適合者の異能が育つと具現化できるようになります。具現化できるレベルは5。それまでは異能を使ってください』


 どうやらレベルという概念があるみたいだ。

 ならばステータスもあるのか?


 ステータスを調べてみる。


 種族:人間

 名前:火ヶ崎 林檎

 性別:男

 好きな物:カッコいい設定の主人公

 レベル:1

 生命力:245/400

 攻撃力:10+2×α

 防御力:2+1×α 

 俊敏力:3+2×α


 何が基準なのか、まったく分からない。そのせいで強いとも弱いとも言えない。そう、まだ弱いと決まってるわけじゃない!!


 好きな物って、何が設定だ! このポンコツめ!


 しかし、生命力というのが減っている。恐らく作業着の男に殴られたりしたからだろう。


 だが、レベルって一体どうやって上げるんだか……。


 携帯はもういいか。レベルはどう考えても経験値方式ではない。

 それにαという物がイマイチ分からない。この数値のせいで俺は作業着の男に振りまわされたのだろう。

 恐らく、レベルは異能を使って伸びるものだろう。俺のはまだ目覚めたばかりだから、レベルは1。当然だ。


 携帯を右ポケットに入れ、男の始末をどうしようかと考える。


 「さて、これからどうするか……」


 まず、男の端末を破壊する術が俺にはない。

 だとしたら、男を置いてどこかへ逃げるのが妥当な判断だろう。

 ――俺が動こうとした瞬間。

 草木が揺れ、誰かがいた気がした。気がしただけだけどね。


 「誰だ!!」


 なんとなく言ってみたくなっただけなのだ。俺もこういうセリフは言ってみたい年頃なのだ。


 「え、えーっといつ頃からバレてました……?」


 草の中から現れたのは、腰までかかる黒い髪。控え目な胸。少しキツイ瞳。白い肌。そうだ美人だ。だが、残念と言うべきではないのだろうが、知り合いだ。


 「ってえーっと、もしかして土浦(つちうら)?」


 俺は知り合いがいた事に驚愕した。 


 「え? もしかして火ヶ崎君?」


 土浦も俺を見て驚く。


 そりゃあそうだ。だって土浦は、俺の学校の学級委員だからな。





 男は放置して、近くにある川辺で話がしたいという彼女に俺はついて行った。


 綺麗な川で、透き通ってるのは目に見えてわかるし川が岩場を抜ける音は、高級な楽器の音色だと言われても気づかないだろう。

 周りには木が多く立っている。空は相変わらず茜色。

 まだ時間はそんなに経ってないから、変わりはしないか。


 俺と土浦は川を見ながら、岩場に座る。


 「火ヶ崎君は、あの人を殺したりはしないの?」


 土浦の顔が笑顔だ。


 「あ、ああ。俺は命までは奪えない。そりゃあ百万円は夢のある話だ。だけど、それだけで人を殺すのは間違ってる」


 いきなり質問されて少しドキドキしてしまったが、何とかちゃんと返した。


 そもそも、土浦という彼女と俺は普段話さない。

 思春期という時期を思い出して欲しい。

 俺達は女子が気になるが、女子も俺ら――男が気になるのが普通だ。

 うちのクラスは、そんな純粋な男女の集まりだ。だから、俺はドキドキしているのだ。決して土浦が綺麗とかではない!!


 「ふふ、じゃあ武器の具現化はまだできてないの?」


 俺がまだレベル1で端末を壊せないと察してくれたのか、オブラートに包んで聞いてくれた。


 「そ、そうなんだよな……。俺、まだレベル1しかなくて……」


 俺は頭の後をかいて、照れを隠す。


 すると、土浦がボソボソと呪文めいた独り言を漏らす。


 いきなり彼女の右手から巨大なハンマーが具現化される。


 「これ、私の武器みたい」


 あどけない笑みで俺を見つめる土浦。


 俺はとてつもなく羨ましかった。


 「いいな~……。というかどうやってレベルなんて上げればいいんだ?」


 物欲の眼差しを受けても土浦は気にしていなかった。


 俺の素直な質問を受けて、土浦は一瞬困った顔をした。


 「えっとね、貢献度ポイントって言ってね、会社に貢献――つまりはライバル企業の端末の相手を殴ったりすればレベルも自然と上がるんだよ」


 質問に答えてくれた土浦は、先刻一瞬こそ困った顔をしたが、すぐに笑顔になった。


 「そっかーありがとな。じゃあ……適当に回るしかないのか。最悪、当て逃げみたいなものか……」

 「それは相手が可哀相な気がするよ」


 俺の独り言に土浦は苦笑いしていた。


 「そもそも土浦ってレベル幾つだ?」

 「えっとね、349レベルかな」

 「……は?」


 俺は絶句した。


 349レベルって一体何したんだ?

 そもそも、そこまで上がるのかよ……。


 「す、ステータスは……?」


 恐る恐る聞いてみる。


 「ステータスは

 生命力9999/9999

 攻撃力:2+9999

 防御力:2+9999

 俊敏力:2+9999

 だよ」


 恥ずかしそうに俺に語る土浦。


 「う、嘘だろ……!?」


 俺は叫び土浦の端末を覗く。


 ほ、ホントだ……。


 土浦ってゲーマーなのか?

 いや、俺は今日招集かけられた人間だぞ?

 しかし、俺のようにαという数値はなかった。


 その俺は、数回殴っても貢献ポイントなんて入ってないのかレベルは1のままだし。


 俺は戦慄した。


 「は、恥ずかしいからもうお終い!」


 携帯をポケットにいれた土浦。


 「どうやったら……そうか! 土浦、お前は寝てる男をぼこぼこ殴ったんだろ! 死なない程度に!」

 「そんな事しません!」


 あ、そうか学級委員だった。確かに土浦がそんなことをするとは考えにくい。


 「じゃあどうやって貢献ポイントなんて集めたんだ?」

 「内緒」


 唇に人差し指をつけてる。軽くウィンクが入る。あざとい……。が可愛いから許す。


 「あと、異能を使うときは――」


 土浦が言いかけたその時。


 草木から飛び出してきた。


 「――電池に注意だろ? お譲ちゃん」


 俺が倒した筈の作業着の男が現れた。

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