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地底国の魔銃師  作者: 大岸 みのる
第三章
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選考試験最後の一人

 こ、この街に潜伏している……?

 俺はいつの間にか席を立っていた。

 

 「まぁまぁ、落ち着きたまえ林檎君。何も今すぐ襲いに来るわけじゃない」

 「だけど……香織達を負かすような相手がこの街に……」

 

 洋子が椅子から立ち上がり、俺に微笑んだ。

 

 「大丈夫よ。お姉ちゃんが林檎ちゃんは守るわ」

 「そうさ。俺様達がいるんだから何とかなるさ!」

 「洋子姉ちゃんは頼りになるけど、オッサンはなー……」

 「オッサンは、あちしが守ってあげるよ!」

 「少年とミフィーユちゃん酷くない?」

 

 十字郎はがくっと肩を落としている。

 まぁ可哀相な気もするけど、現実問題、十字郎は世界ランカーから外されている。頼りにするのもプレッシャーをかけるようで悪いしな。

 

 「と、まぁそういうわけで私は失礼するよ」

 「もう行かれるんですか?」


 久義は席を立つ。洋子は立ち上がったまま、久義に尋ねる。 

 

 「うん。私は帰って助けられなかった人達を見送らなければいけないからね」

 「……」

 

 助けられなかった人達とは、直接的に香織の仲間だった人達を指す。

 適合者は死ねば、そのまま天に召されるかのように地上に運ばれる。

 半ば信じがたい話ではあるが、俺も実際に目にしている。

 きっと久義は遺体なき墓でも作るのだろう。


 「先生ありがとうございました」

 「いんや、また情報が必要になったら連絡をくれたまえ洋子君。それと林檎君」

 「はい」

 「以前、君の身体を治療した事があったね」

 

 久義は以前に二回も治療してくれている。料金の話ならお引き取り願いたいが、そういうわけにもいかないか。

 

 「料金だったら、俺――」

 「違うよ。お金は洋子君から貰ってる」

 

 洋子が俺にウィンクする。姉には感謝してもしきれないな。

 

 「じゃあ、一体何だ」

 「君の端末の事だ」

 

 俺の端末……ナフォーン6の事か。

 確かにあれは、利用者が多い端末だからと言って俺を蘇生させたりと、摩訶不思議な力を持っている。一向にレベルが上がらなければ、ステータスを一時的に上げたりとシステムがよく分からない。次元破壊ディメイション・ディストラクションだって分からない事尽くしだ。

 ナフォーン6は国内産の端末ではないのだから、と言われればそれまでだが。

 

 「俺の端末の事ですか」

 「うん、私は基本的に治療する際に、ステータス値を調べて実行するんだが――君のステータスにある×αとは一体何かね?」

 

 俺が聞きたいくらいだ。

 この数値がハッキリしていれば、今までの逆境も簡単に乗り越えられたろうに。

 

 「俺にも分からない」

 「だろうね。こればっかりは上層部に聞くしかないようだね」


 上層部……。俺らを選考試験という名のデスサバイバルに強制参加させた連中の事か? というか、俺はあのとき拒否ボタンを連打した筈なんだが……。

 

 「上層部ね。林檎ちゃん、今のところこの世界から地上に戻る方法は見つかってないけど、もし帰れたら――上層部にだけは注意してね」

 「もし帰れたらか。そのときは皆一緒だといいな」

 

 俺は全員を見る。

 皆力が抜けたように笑った。

 おいミフィーユ。お前は関係ないぞ!

 

 「じゃあこれにて失礼するよ。皆」

 「ありがとうございました」

 「おや、まともな敬語も使えるんだね」

 「最近覚えました」

 「じゃあ、そこの綺麗なお嬢さんをよろしく頼むよ」

 

 久義は香織に微笑んで、店を後にした。

 俺達の間には沈黙が生まれた。

 やがて、沈黙を貫いたのはミフィーユだった。

 

 「あちし、難しい話ばっかり聞いてたから眠くなっちゃった!」

 「そうだな。めろんとすいかも大丈夫か?」

 

 ミフィーユは眼を擦りながらも、手を上げて元気よく応えた。

 めろんとすいかは、肩を寄せ合って安らかに眠っている。

 可愛いな。絵になるよ。


 「オッサン。そろそろ宿に行くか?」

 「そうね。今回は世界ランカー様がいるから宿料金は格安で泊れるしね」

 「オジサン見ないうちにすっかり元気になったようで安心したわよ。図々しいところは変わってないようだけど」

 「俺様も、ただニートだったわけじゃないのよ」

 

 十字郎がニート? 先ほど久義も言っていたな。

 墓を必死に立ててたんじゃないのか?

 とうか、世界ランカーの特典凄いな。


 「じゃあ宿に行こうか」

 

 俺はミフィーユの手を繋ぎながら、めろんをおんぶして宿まで足を運んだ。

 オッサンはすいかをおんぶしている。

 ちなみに香織は元気がないようだ。

 洋子は先頭で一人先を進む。


 喫茶店から宿屋は近く、すぐに着いた。

 ちなみに、世界ランカー様の待遇値段は驚く事に一人頭百円だった。

 これには驚きだ。

 そう、これが異世界の宿の値段ですよ。


 部屋は三部屋取った。

 めろんとすいかを部屋のベッドで寝かせ、ミフィーユも同じ部屋で寝た。

 この部屋は幼女部屋だ。

 

 幼女至上主義者(ロリコン)から守らねば。

 

 「さて、洋子姉ちゃんと氷坂はどうする?」

 「あ、あたしとそ、その……一緒にいて欲しい……な」 

 

 香織は恥ずかしそうに俯く。

 いつもの調子じゃないので気が狂う。

 まだ話したい事もあるんだろうが……。

 

 「断固反対です! 林檎ちゃんはあたしと寝るの! ね?」

 「誰も洋子姉ちゃんと寝るとは言ってない。まぁ氷坂もこんな感じだし、今日は遠慮してくれよ」

 「は? 何言ってんの林檎ちゃん。男女同じ部屋で寝るって可笑しくない?」

 「少女。あんたも同じ部屋で寝ようとしたでしょ」

 「あたしは林檎ちゃんが好きだから問題ないわ!」

 「問題あり過ぎるだろうが! 昔っからこうなんだよな洋子姉ちゃん」

 「む? どゆこと少年」


 あれは、俺が小学校の頃か。

 初めてベットを買って貰って、俺はその日寝るのを楽しみにしていたんだ。

 それまで、俺とずっと一緒に寝てた洋子姉ちゃんが駄々をこねて、両親が対応に困ってた。結局、同じ布団で寝る事になったのだ。

 それから、洋子姉ちゃんがいなくなるまで俺は自分のベッドで寝れたことはなかった。

 冬場は暖かくていいけど、夏場は暑くて一緒に寝るのは嫌だった。

 

 「まぁ、色々姉弟にもあるんだよ」

 「そうよね? あたしもう大人だから平気よ?」

 「洋子姉ちゃんはいつも冗談ばっかり言うからな……」

 「じょ、冗談て!!」

 「まぁまぁ……少年は俺様と同じがいんだろ?」

 「……誠に遺憾ながらそう思います」

 「敬語を使う辺り本当に嫌がってるね!?」

 「と、いうわけだから氷坂。話には付き合う」

 「ありがと」


 洋子が文句垂れていたが、気にしたら負けだ。

 ちなみに、香織と話してくると言ったら、また洋子は不機嫌になった。

 いい加減弟離れしてくれないかな。

 現在十字郎によって拘束中である。


 俺らは宿屋の待ち合わせ室みたいな場所で、久々に座ったふかふかのソファに居心地の良さを感じながら、口を開いた。

 

 「で、どうした。珍しいな。俺を罵倒するだけしか能がない筈の氷坂様が」

 「……ちょっとね。考えてたの」

 「何をだ?」

 「生き残った今回の適合者は残り五人なんだって。あたしとあんたとめろんちゃんすいかちゃん。最初の百人はどうしちゃったんだろうって」

 「本当に俺らだけなのか?」

 「うん。レベル50になって新たに機能が追加されて『今試験適合者残り端末台数』っていうのが出てきたの」

 「『今試験適合者残り端末台数』……」

 

 待てよ。その機能はレベル50になってから使えるんだよな。だとしたら犯人はレベル50になっていない弱者なのか? それは考えられない。香織を圧倒するような力の持ち主ならレベルは50以上はある筈だ。

 それなのに、俺に会ったとき犯人は『あとはメインディッシュである俺を倒すだけ』と言っていた。もう死んだと思っていたのか?

 いや、違う。何かが違う。一体何だ……。


 「それは呪術ジャミング・インストール能力低下(ステータス・ダウナー)系の能力だからだよ。いや、正確に言えば段階低下(レベル・ダウナー)ってとこかな?」

 「す、すいか? 何だトイレで起きたのか?」

 「ち、違うもん! トイレに行くのが怖くて下に降りてきたわけじゃないからな!」

 「やっぱトイレじゃねーか」


 すいかはトイレに目覚めたらしい。この言い方だとトイレが好みだと聞こえるな。違う、トイレがしたくて起きたというべきか。

 それにしても、何ですいかがそんな事を知ってるんだ?


 「すいかがそんな事を知ってるのは驚きだ」

 「いや、バカにし過ぎだろ! あたしの異能は洗脳術ブレイン・インストールだってのは知ってたよな?」

 「もちろん。お前のせいでゾンビどもの涎に触れた事は忘れない」

 「……ゾンビじゃないけどな。その洗脳術も、使用するのに能力が低下するんだ。一時的な物じゃなくて、能力的にな。だから、あたしのよりも強力な呪術だったら、段階低下もあり得る。寧ろ、それが一番近いかもしれない」


 段階低下……つまり異能を使うとレベルが低下する現象……。洗脳術でも使用すれば下がるとは。もしや操作系の異能はそういうデメリットが発生するのか? 正直操作系は対処するのが難しいからな。そこら辺りのバランスが考えられてるのはゲームっぽいな。

 

 「だとしたら、犯人のレベルは50以下ってことか」

 「詳しくは分からないけど、段階低下(レベル・ダウナー)は事実レベルだけしか下がらないかもしれない」

 「レベルだけ?」

 「うん、あたしみたいに能力低下(ステータス・ダウナー)ではないみたいだから分からないけど、乱用してる辺りステータスは下がらないかもしれない」

 

 確かに一理あるな。

 もしかしたら打開策はあるかもしれない。

 いや、そうであると信じている。

 

 「じゃ、あたし寝るわ」

 「トイレはいいのか?」

 「あ、忘れて――って関係ないじゃん!!」

 

 すいかは顔を真っ赤にしてトイレへと足を運んだ。

 まぁ、ツンデレで可愛いな。妹がいたらあんな感じだろうか。


 「……百人もいたのに、もう俺らだけって寂しいな」

 「うん。でもさ、皆一緒に帰れたら寂しくなんてないよね」

 「そうだな。洋子姉ちゃんも、オッサンも連れて行けたらいいな」

 「さっきの子は?」

 「ミフィーユの事か? ミフィーユは幻獣だからこの世界にいたほうがいいだろう」

 「そっか。ちゃんと考えてるんだね」

 「まぁな」


 出来る事ならば京介も連れていきたい。

 地上に帰って新たに人生を始めて欲しい。

 だが、今は叶わぬ夢だろう。

 俺は夢で見た、京介に戻って欲しい。


 「……ありがとね。林檎」

 「何言ってんだよ氷坂」

 「バカねあんた。このあたしが腐敗物に対してお礼言ってあげてるのよ? もっと感謝したらどう? ふふ」

 「そうだな。感謝しとくよ。仲間集めに関しては、辛い思いをさせて悪かったな」

 

 香織は瞳に涙を浮かべながら、今度は笑った。

 

 「頑張ったよ。でも、今度はあんたと一緒だから必ず帰れるって信じてる」


 瞳から雫が垂れた笑顔でも、香織は可愛かった。

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