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地底国の魔銃師  作者: 大岸 みのる
第三章
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元地上人三人の掌

 姉をようやく落ち着かせた所で、殺されたと思っていた仲間達と合流する。

 俺たちはまだ、木材を沢山使用した喫茶店にて会話中だ。

 香織とめろんとすいかは、それぞれ疲れ果てた様子で店に入る。

 遠くの席に座ってるカップルがさっきからこちらを見てくるが気にしたら負けだ。そのカップル達は香織御一行を眼にすると男の方が眼をハートにさせている。

 性格知ったら絶対に逃げるだろうな。

 

 「お待たせしました。先ほどは助けて頂いて、ありがとうございます」


 香織が姉――洋子に向かってお礼を言いながら頭を下げた。

 風邪でも引いたのか? 年がら年中、性格の悪い香織がお辞儀するなんて、雪でも降りそうだ。

 

 「たまたま、助けただけよ。それに林檎ちゃんの事も知ってるみたいだったからね」

 「はぁ……」

 

 洋子は笑って香織を迎える。

 その香織は俺を見て、微妙な表情をした。

 後にいためろんとすいかも、それぞれ洋子にお礼を告げる。

 何とも異様な光景だ。

 というか、三人の疲れ具合が半端ない。

 全員生気を吸い取られたみたいだ。


 「で、お嬢さん達は何があったのかな?」

 「色々とあってね――」

 

 香織達は懲りもせずに再び、仲間集めをしに行った。

 仲間集めとは、今回の選考試験という名のデスサバイバルに選定された適合者を集める事だ。

 適合者の中には、俺達のように人を殺したくないという人もいるかもしれない。という意見の元、香織が考案した計画である。

 今回帰ってきたのは俺がちゃんと知っている三人。という事は仲間集めは失敗に終わったのだろう。

 というか、俺以外は全員殺されたと思っていたものだから気が楽になった。


 香織と洋子による話を纏めると、順調に仲間は集まっていたみたいだ。

 それこそ、すいかが洗脳した人々も香織の言葉を聞いてついていく事を決意したようだ。

 だが、そこに現れたのは謎の女だという。謎というのも、ローブを羽織っていて顔すら見えなかった状態だったらしい。

 そいつが女だと判明したのも声が高かったからだという。

 彼女の異能は、呪術ジャミング・インストールを纏った攻撃らしい。そのせいで集めた仲間達は仲間割れしだし、残った者は香織達を殺しにかかったらしい。やむなく、そいつらを倒した香織達。

 最後に残った香織達を謎の女は殺しにかかり、結局香織達は負けたようだ。

 瀕死状態だった所を、洋子と久義がかけつけ、全員一命を取り留めたようだ。

 今、久義がここにいないのは、適合者達を治療しているかららしい。だが、洋子にメールが来ていて、久義は「助かったのはあの三人だけだ。すまない」と来たようだ。

 彼も今こちらに馬車で向かっているらしい。

 そんな感じで、呪術の犯人を追っていた洋子は、十字郎と連絡を取り合って俺らの元に来たらしい。


 「と、こんな所かな」

 「……随分と辛かったな氷坂」


 香織が話し終えた所で、俺は優しく微笑む。

 誰だって一度仲間になった人間が死ねば、辛い筈だ。

 香織が、席を立って俺に抱きついてきた。


 「ふぐ……ま、守れへんかったよ……」


 俺の胸で関西弁になりながら泣く香織。

 関西弁なのをツッコミたいところだけど、今それをやれば空気崩壊は逃れられない。

 俺は優しく香織の髪を撫でてあげた。

 

 「ま、要するに話が見えてきたってわけね」

 

 十字郎は顎に手を置き考える。

 話は見えてきた。それはそうだ。今回の選考試験の適合者は俺達と残り一人だ。

 そして、その一人はすいかを操り、香織達を襲い、ミフィーユの親を操った張本人だろう。

 ならば、そいつを倒して皆でこの世界から帰れればハッピーエンドだ。

 

 「そうね。オジサンの言うとおりだわ。でも、肝心の敵の居場所が分からないんじゃね……」

 「私達の適合者探索機能を使ってもダメでしょうか?」

 

 洋子の呟きにめろんが反応する。

 ミフィーユは首を傾げている。


 「それでも良いんだけど、その機能は基本的に端末所持者全員を示すのよ」

 

 さすが世界ランカー。そこのオッサンとは大違いだ。

 

 「あのさ、あたし達を襲った奴ってまだこの辺りにいるんじゃないの?」

 「すいかちゃんは何でそう思うの? だって奴は遠くからでも人を操れる呪術ジャミング・インストールを使えるんだよ?」

 「待てオッサン。すいかの言う通り、近くにいる可能性はある。奴の狙いは俺の筈だ」

 『え?』


 皆して、俺の顔を見る。

 

 「だって考えてみろ。オッサンも俺の話を聞いただろ? あいつは俺の事をメインディッシュと言った。つまり俺を殺すのが最終的な目標だ」

 「でも、それってミフィーユちゃんの親が少年を殺そうとしたんじゃなくて?」

 「いや、多分違う……アイツはきっと自分の手で俺を殺しに来る」


 空気が重くなる。

 皆の視線が下がる。

 そりゃあ俺だって死にたくないけど、仲間を泣かす奴を放っておく事なんてできるか。

 

 「そんな事させない! 林檎ちゃんはあたしが――」

 「ダメ! あんたはいなくならないで! あんたが死んだら……あたし……」

 

 洋子の言葉を遮ったのは、泣き顔の香織だ。

 まだ泣いていたようだ。

 洋子がイライラしているのが眼に見えて分かる。


 「お姉ちゃん、落ち着こ?」


 ミフィーユが洋子のワンピースの裾を引っ張ってる。

 十字郎が溜息を吐いている。

 

 「ちょっと! さっきから黙ってたけど、あんた何様? あたしの林檎ちゃんに触らないでくれる? というかさっさと離れなさいよ!!」

 「……嫌」


 香織は拒否した。

 そりゃあ俺だって、そろそろ離れてほしいけどさ。

 今は空気読めよ、洋子姉ちゃん。


 「あ、あんたねぇ……あたしの旦那さんから離れろって言ってんの聞こえないの?」

 

 香織は俺から離れて、洋子に向かって立ち上がった。

 

 「離れたわよ! で何? 実の姉なのに弟を旦那さん扱いするとか痛いんですけど」

 「ああ? あたし達は血が繋がってないんだよ!! 文句あるかーー!!」

 「こら少女、キャラ壊れてるよ!」

 「お、お姉ちゃん、あちしの旦那さんだよ!」

 「だ、ダメです! 林檎さんは私の、私の……」

 「へぇ~林檎兄ちゃんって人気あるんだね!」

 「だ、誰か止めろ!!」

 

 静かだった喫茶店が騒がしくなる。

 マスターは良い人なのか、顔をニコニコさせている。

 奥のカップルの男性は、俺を睨んでる。

 だ、誰か助けて!!


 そのとき、扉が開いた。


 「おや、君は人気者だね」

 

 入ってきたのは熊谷(くまがや) 久義(ひさよし)。俺を過去、二回に渡って助けてくれた人だ。

 前回と同様の格好だ。


 「あ、久義先生。待ってましたよ」

 「やぁ、君に敬語を使う事はあっても、私が敬語を使われる相手にはならないよ――洋子君」

 「やれやれ、相変わらずタイミングはいいもんだな」

 「ようやく立ち直ったのかい、十字郎」

 

 洋子と十字郎は、現れた久義に挨拶をした。

 十字郎に過去何があったかは本人から聞いていた。多分、久義も十字郎の事を気にかけていたんだろう。

 香織も自分の涙を拭いて、久義の前に立った。

 

 「先ほどと言い連れの治療と言い先生。三回も助けてくれて、ありがとうございました」

 「いいんだよ。それよりも彼とは順調かい?」

 「い、今はその話は止してください!」


 香織は赤風船のように顔を赤くさせて、久義の話を遮る。

 久義は俺を見て微笑む。

 香織も年頃の高校生だ。きっと離れ離れになった彼氏とかいるんだろう。

 洋子がイライラしてる気がするが、まぁ気まぐれ的なものだろう。


 「さて、そこの御二人さんは会ったね。あと一人は初めてか」

 「はい、さっきはありがとうございました」

 「おじちゃんの異能すげーな!」

 

 めろんとすいかが、それぞれ挨拶する。

 俺は実際に久義の異能を見たわけでもないので、凄いとか凄くないとか言えない。

 

 「はじめまして! クマさんみたいだね! あちしはミフィーユって言うんだよ!」

 「そうかい。どうも幼女率が高いのは林檎君の趣味かね?」

 「断じて違う」


 久義との会話を終えると、席に全員着いた。

 ここからが本題なのだろう。

 洋子・十字郎・久義と真面目な顔をしている。

 

 「さて、では本題に入るけど、聞きたいことはあるかね?」

 「あの……洋子さんと十字郎さんと熊谷さんはお知り合いなんですか?」


 めろんが三人に向け質問する。

 三人は顔を合わせて、少し暗い顔をした。

 

 「知り合いって言っても、腐れ縁みたいなものかな」

 「そそ、俺様に言わせれば全員、青臭いガキだったけどね」

 「十字郎君には私も手を焼いた一人なのだがね」

 

 三人はそれぞれ昔を振り返ってるようだった。

 洋子と十字郎は地上と地下の戦友だ。

 久義はどうだったかは知らないけど。

 

 「私も当時、戦争には参加した一人だよ」

 

 久義は笑って答える。

 ならば十字郎の家の写真にも映っている筈だ。今度行った時じっくり調べるか。

 そもそも、戦争で生き残ってるのって結構いるな。


 「じゃあ本題に入るけど、今回騒ぎが起きたのは、丁度君達がこの世界に召喚されたときだ」

 「俺らが?」


 今回の騒ぎとは、街から人が攫われた事を意味する。

 

 「そう。今回の選考試験が始まったのと同時期。街中の偉丈夫な男たちだけがいなくなった」

 「それで、あたしに地下国の総本部から連絡が入って、原因を探ってくるように指示が出たの」


 洋子はメールを見せる。

 地下国の総本部とは、主に街を収める王国みたいな物だと考えてくれればいい。

 確かに、洋子には総本部から連絡が来ている。

 

 「それで俺様に少女から連絡が入ったわけよ」

 「いつから、調査してたんだ?」

 「それこそ、林檎君を初めて治療しようとした時には始まってたよ」


 久義が俺を治療……という事は京介に殺された頃というわけか。

 それならば繋がる。

 香織と俺は鈴木 健太と戦闘している。

 めろんとすいかは仲違い。

 その頃、十字郎は情報を追っている最中か。


 「なるほど。それでオッサンは最初はすいかが犯人だと思ったのか?」 

 

 すいかがビクッと背筋を伸ばしていた。

 誰もすいかが悪いとは言ってないんだがな。


 「そうね。それで、俺様は少女に少年を助けてもいいか? というメールをしたんだ。返事が返ってくる前に助けたんだよ」

 「その節はどうも。俺がゾンビに襲われそうになってるのを楽しんでたけどな」

 「しょ、少年、それは今は言わなくていいのに」

 

 十字郎は異様なオーラを放つ洋子を警戒している。

 あのときの恨みは、こんなもんじゃないぜ。

 

 「それで、すいかの呪術ジャミング・インストールを解除するのに手伝ってくれたのか」

 「そゆこと」

 「で、洋子姉ちゃんは?」

 「あたしは、林檎ちゃんに会いたかったけど、討伐板を調べてたからね」

 「討伐板か……確か、あれにミフィーユの親が討伐対象になってて俺とオッサンで来たんだったよな」

 「そうよ。それも全部少女に指示されてたからね」

 「俺はオッサンと洋子姉ちゃんの手の平で踊らされてたわけか」

 「それで、話は戻るってわけ」

 

 つまり、俺や香織達は洋子と十字郎に誘導されてたってことか。

 

 「では私からの報告をしようか。一連の事件の犯人の居場所は特定できてる」

 

 久義は瞳を閉じる。

 全員の生唾を飲む音が聞こえる。


 「この街に、犯人はいる」 

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