地上エレベーター
「ほぅ~~すげ~~上が見えないぜ」
「そりゃあそうだろうよ! なんたって地上まで続いてるんだからな」
俺と十字郎は地上エレベーターの最深部である場所で下から見上げる。
ここは地底国人命名、天への階段。
俺らの世界へと帰る方法の一つとして考えている。
先ほど俺と十字郎はこの場所に着いた。
現在、俺の服は十字郎に買ってもらった物だ。
黒のチノパン、黒のジャケット、白いブイネットのTシャツ。
靴まで、買ってくれたときは驚いた。
黒光りするブーツは中々気に入った。
十字郎曰く、こういう格好が俺は好きだと思ったらしい。意外と分かってくれている事に驚く。
全部で合計五万以上するらしい。
この世界の買い物の基準と俺らの世界の基準が似てるのはなぜだろうか?
さて、話は元に戻る。
地上エレベーターの門には、警備員はいない。
先ほどの十字郎の豪邸と同じく、端末を添えると開く形式のようだ。
何でも端末で済ませられる地底国は、住人全員が端末を扱えるように汎用性があるらしい。
とりあえず、十字郎から端末を添える。
「端末ID照合中……地上ニハ谷戸門 十字郎トイウ名前ノ人間ハ存在シマセン」
「やっぱりだめか」
前にも一度試した事があるようだ。
十字郎は溜息を吐いた。
何でも、元地上人であっても戦争に介入したことが原因で、俺らの世界では死んだものとされているようだ。
十字郎が俺にやってみろと手でジェスチャーする。
俺もジャケットの内ポケットに入れ替えたナフォーン6を取り出し、添えてみる。
「端末ID照合中……現在アナタハ選考試験ニ参加中ノ為地上ニハ戻レマセン」
「選考試験?」
謎の単語が出てきた。
もしかして、俺らが参加させられてるデスサバイバルのことか?
俺の端末がバイブレーションを放ち小刻みに揺れる。
「少年、何か来てるよ」
「ああ」
ディスプレイを開くと、案の定お知らせだった。
『現在林檎様が参加されているのは選考試験です。内容はお伝えする事ができませんが、生き残れば全てをお伝えいたします』
相変わらず、突発的で内容に深く触れない使えないお知らせだ。
結局のところ、俺の端末では普通の機能も使えるが、この選考試験とやらのデスサバイバルで使える機能はお知らせかヘルプでしかない。
その原因も俺がレベル1なのだからだろうが。
他の奴らは羨ましい。だって端末をちょちょいと弄って武器が出るんだぜ? カッコよすぎだろう! 特に十字郎と香織は最強武器だし、めろんに至っては魔術の詠唱表みたいなのが出てくる。
俺だって、カッコいい異能を使いたかった!!
「相変わらず、変なお知らせなのは確認できたわ」
「オッサンもそうだったか?」
「まぁそんな感じだったわよ。当時は使えないクソケータイが! って壊そうとしたりもしたさ」
「……ヤンキーだな」
端末を添える機器に俺は触れてみた。
特に何もなかった。
こういうときに俺の異能って融通が効かないって凄く思う。
そもそも、俺は端末すら壊せないんだっけ。
「さて、どうやら地上行きエレベーターは使えないみたいだね」
「はぁ……どうすればいいんだか」
結局元の世界に帰る為にはデスサバイバルをしなければいけないのかと思うと溜息しか出てこない。
「とりあえず、成果を氷坂達に報告しに合流するか」
「そうね……っと待てよ少年。ちょいと顔を出さないか?」
「キャバクラはパスだぞ?」
「違う違う! 俺様を何だと思ってるんだ!」
「女ったらし」
「間違ちゃいない! でも、ちょっと討伐掲示板でも見に行かないかって」
「討伐掲示板……?」
ゲームとかでよくある迷惑なモンスター退治してください的なアレだろうか。
まぁ、香織達ともいつどこで合流するとかは決めてないからいいか。
そもそも、メール機能が使えるんだ。
いつアドレス交換したかって? 毎回、俺の端末に勝手に登録されてるんだよな……。これも機能のうちの一つだろうか?
俺と十字郎は酒場に入る。
中は樽が何個も置いてある。
以前、説明したとおり地底では食べ物に貧しくはない。
目の前の樽に入ってるビールもワインも日本酒もある。
結構、偉丈夫な男達が多い。皆端末を持ってあれこれ情報を登録しているようだ。中には軽装備の女剣士までいる。
この世界では力が数値化されているので、女だから弱いとかはない。むしろ女のほうが強いケースもあるらしい。
ちなみに異能を使えるのは招集された適合者である地上人のみだ。
地底では魔術が主流だ。
「この店は全体が木目調だな」
「そうね。俺様は結構好きだけど」
「あそこのカウンターのお姉さんの事だろう?」
「よく分かってるね~少年! だから、俺は好きなんだ!」
「木目調の話聞いてたか?」
十字郎がカウンターのお姉さんに向かいそうなのを阻止し、俺らは掲示板の前へと進む。
結局、カウンターのお姉さんの所に行くのを阻止したのに、あっちから近づいてきてしまった。
「谷戸門さんお久しぶりです」
「久しぶりハ二ーちゃ~ん!」
ネームプレートにはハ二ーと書いてある。
このお姉さんは赤髪に黄色のヘアバンドをしていて、前髪がおしゃれなのか少し出ている。
目つきは鋭く、瞳はオレンジ色だ。
慎重は俺と同じくらいで、十字郎は豊満な胸ばかりを見ている。
服は白のセーターにデニムっぽいミニスカート。
ついでに言えば網タイツの黒ハイヒールがビッチっぽい。
「で、こちらの男の子は?」
「コイツは俺の友人の従姉の親の姉妹の息子の友達の娘の彼氏です」
「随分遠回りな紹介だな! オッサン!」
とりあえず、ツッこませてもらう。
ハ二ーは口元を手の甲で押さえて笑う。
「じゃあお名前は?」
「名前は林檎だ」
「可愛げがないな少年」
「ったく……」
こんな美人目の前では、俺だってしどろもどろになる。
オッサンも眼をハートにさせていてキショイ。
とりあえず、要件を……。
「昨日攫われた人達が帰ってきてくれたんですよ! おりがとうございます谷戸門さん」
「いえいえ~当然の事をしたまでですよ~ん」
デレデレのオッサンなんか見ても何も楽しくない。
というか、何とかしたの結局俺だよね!?
いい加減に要件を聞きたい!
「――で、今回は依頼とかないの?」
「ちょうど、うちのマスターが谷戸門さんに頼みたいって依頼があるのですが……」
「ん? マスターが? そりゃあ一体……」
「最近、山の方で幻獣が暴れまわってるみたいで……なんとかしてほしいそうなんです」
「山か……少年。ちょっと行ってみるか?」
やっと十字郎が真面目に戻った。
山の方で暴れる幻獣?
以前めろんが召喚した竜ことくーちゃん見たいな奴か?
結構気になる。
「興味がある。行ってみよう」
「了解! じゃあハ二ーちゃん討伐書あるかな」
「ちょっと待っててください」
ハ二ーは嬉しそうに討伐掲示板に張られている紙をはがす。
周りの冒険者たちは俺達を見つめる。
全員がハ二ーの持っている討伐所に釘づけだ。
「はい、じゃあ谷戸門さんお願いします」
「うん、わかったよん。で賞金こんな貰っていいのかい?」
「はい、もちろんです! 冗談でも幻獣と戦うんですから!」
「はいよ」
十字郎は俺に書類を見せてくる。
討伐書には先ほど話された内容が詳しく書いてある他、賞金が――。
「百万円!?」
「何驚いてるのよ少年」
「だって、俺たち適合者が生き残った場合の賞金じゃ――」
「ああ、最初そうだったわね。選考試験だっけか? 確かレベルが上がれば上がる程賞金もうなぎ昇りなんだぜ?」
「はぁ!? じゃあ、氷坂が生き残った場合と俺が生き残った場合で賞金が違うだと!?」
「そうですけど」
「ま、マジか……」
俺は地面に膝と手をついてうなだれる。
俺が仮に頑張ったとしても、百万しか貰えないのに対して、レベルが上がる奴らは上げれば上げるほど金が貰えるのか!!
何で俺だけレベル1……。
「ちなみに、どれくらい上がるんだ」
俺は地面に視線を置いたまま十字郎に尋ねる。
「レベル1上がるごとに百万上がる」
「ま、マジか!?」
「だから、お宅のお嬢さんが生き残ったら三千万くらいは行けるんじゃない?」
香織が三千万……。
お、俺は……百万……。
ま、まぁ俺らは? 選考試験を大人しくやる義理なんてないし?
そもそも人を殺すとかごめんだし? 一人殺したけど……。
べ、別に金なんていらないわーー!!
三千万羨ましいーーーー!!!
「ほら、行くよ少年」
「……オッサン」
今回は俺が引きずられるようにして店を出た。
ハ二ーが苦笑いをしていた。
周囲の人達も俺を何だコイツみたいな顔して見ていた。
本当に自分のレベルが上がらない問題は忌々しい。
そんなわけで、現在俺と十字郎は馬車に乗っている。
馬車で行けるところまで行って、そこからは徒歩の予定らしい。
ちょうど、山の麓まで行けるらしいからな。
「いつまで落ち込んでんのよ少年」
「落ち込んで何か……ぐすん」
「少年はさ、強いんだからいいじゃない? 謎の防御力と俊敏力があるし、なんたって魔術も異能もステータスも打ち消す異能があるじゃないか!」
「全てレベルが上がれば……」
「金が全てじゃないのよ?」
「オッサンには分かるまい!! 俺だけ戦い抜いてもレベル1で百万しかもらえないんだぞ!!!」
「もう分かったからさ、少年元気出そうぜ?」
「元気なんて出せるかーー!!」
馬車の中で俺はひたすらいじけた。
これは余談であるが、レベルが400越えていた健太なども生きていたら四億稼ぐ事になっていた。
だから、殺人鬼になっていたのだろう。
俺がいじけてる最中にオッサンは寝てしまった。
色々と励ましてくれたのだが、それ以前に疲れが蓄積した分もあるんだろう。
言葉や態度では恥ずかしくて表せないが、オッサンには本当に感謝してるよ。
俺が十字郎の寝顔を見ていると、突然馬車が止まった。
まだ十字郎は寝ているようで、俺は外に出る。
「どうかしたのか?」
「あ、あの……魔物が……」
馬車の運転手は顔を青くしながら魔物を見ている。
その顔が若干引き攣っている。
目の前にいる魔物は、俺らの世界で言う犬のような竜だった。
炎のような鮮やかな赤色の毛並みに、白い軍手を装備したような四肢。
小型なのか子供なのかは分からないが兎に角小さい。
顔は赤と白の模様である。
「どうしたんだろうか……」
その魔物は倒れているのだ。
ただ、目立った外傷こそないが、傷ついてるのは目に見えて分かる。
「お、お客様?」
「ちょっと様子を見させてくれ」
こんな可愛い犬を放っておけるものか。
俺は捨て猫や捨て犬をする人間が大っ嫌いなのだ。いや、そもそもそんなことをする奴を俺は少なくとも人間とは呼びたくない。
俺が魔物の背中を撫でると、咳こんだ。
やけに咽るので、俺は背中を摩ってあげた。
結果――。
口から出てきたのは、香織やすいかを苦しめていた呪術の根源だった黒い球体だった。




