洗脳という狂気に輝く光
氷翼の剣を俺に向ける香織。
俺を睨み、魔術を詠唱するめろん。
その後で踏ん反り返ってる少女――忍水 すいか。
三人の美少女が俺を見つめる。
この話だけを見れば、きっと俺はハーレムな人間だと勘違いされるだろう。
だが、断じて違う。
今目の前にいるのは俺に殺意を振り撒く少女達の姿だ。
「えやああああああ!!」
俺に向かって剣を思いっきり振りかぶる香織。
その瞳に瞳孔はない。
彼女たちは――洗脳されているのだ。
俺は香織の剣を紙一重で避ける。
めろんの詠唱が完了し、俺へと氷の巨大な柱が迫る。
「激氷の大樹」
魔術が俺の目の前にまで迫る。
俺は右手を掲げ、魔術を破壊する。
「洗脳したのか! お前!!」
俺は偉そうに座ってるすいかに叫ぶ。
すいかはキョトンとした表情で頬杖をついている。
「そうよ? それがどうしたの? あたしに強い駒が増えただけだけど」
「お前……実の姉をそんな風にして楽しいのか!」
「は? 楽しい? 何言ってんの。生き残るためにはしょうがないじゃない」
「だからってお前……」
俺はその先は言わずに、拳を固める。
基本的に女子供には優しい俺だが、コイツは一回殴らなきゃマズイと思う。
俺は真正面から走り出す。
右拳を振りかぶる。
「寝言は寝てから――」
俺がすいかとの距離を縮める最中に、香織とめろんが目の前にふさがる。
洗脳は俺が触れれば消える!
ならば直接触ればいいだけだ!!
「退けお前ら! 次元破壊!!」
俺は香織に触れた。
香織の洗脳が解ければ、仲間で一番強いので、正気が戻ればすいかに触れられる機会が増えると判断した。
しかし、香織の瞳に瞳孔は戻らない。
な、なんでだ!?
俺がうろたえてるのを隙に、香織の剣――氷翼の剣が迫る。
左手を掲げ、剣を片手で止める。
やがて、剣は氷の結晶となる。
その俺を見て、香織の本能が危険と勘づき、距離をとる。
「ふん、まぁその能力を越える上付けをすればいいだけのこと。この女とお姉ちゃんに施した洗脳術は四重にかけてあるわ。今の感じを見たところ、その手で異能を破壊する事ができるのは一つだけみたいね。何度も触れられない限りあたしの洗脳は解けないわよ」
少女は俺を鋭い瞳で捕え、口端は斜め上まで吊り上げられる。
最強に悪女だ。姉とは正反対。
とりあえず、俺の異能まで見破られてはしょうがない。
俺だって一回触った時に壊せる異能は、一つだけだと今知った。
「なら、何度だって触るだけだ!!」
俺は変態ではない。
なんとなく変態っぽく聞こえるのは責めないで頂きたい。
だが、四重ならば、あと三回触れればいいだけの事!!
簡単だ!!
そのとき、すいかが指を鳴らす。
二人の美少女は頷き、俺を見据える。
俺は二人に向かって走る。
「そうね。触れられれば、解けるかもね」
香織は月女神の弓を具現化させる。
めろんは再び魔術を詠唱する。
香織の引く矢は、神々しい程の光を放っている――月女神の矢だとっ!?
俺が察知してから、矢が放たれるまで、一瞬しかなかった。
俺は左手を掲げ、香織の最強武器による究極奥義的な技に備える。
矢は放たれ、俺の左手に触れた瞬間、太陽に劣らない光が俺の視界を埋め尽くす。
「ぐっうううう!!」
俺の次元破壊で触れた異能は大概一瞬で消える。
だが、この技は違う。
消えようとはせずに、しっかりと俺の異能に真っ向勝負を挑んできている。
さすがは最強武器の攻撃だ。
「……だが、俺は負けない!!」
俺の左手は皮膚が削れ、やがて血まみれになる。
そうした結果、光は消え俺は香織の技に勝って見せた。
「へぇ~あれを消すなんてやるわね」
尚も余裕の表情のすいか。
香織だったら悔しがるだろうに。
俺は前に歩もうとするが、足が思ったように動かない。
「な、なんだ?」
「まさかファーストアタックだけだと思ったの? この人の最強武器の攻撃は単なる囮よ。普通それくらい気付くでしょ」
香織の電池を五十パーセントも消費する必殺技を、まさかの囮だと!?
コイツ、一体どこまで人を弄んだら気が済むんだ!
「て、テメェ……」
「ふん、負け犬はそこで吠えてなさい」
「俺の脚に何をした!」
すいかは俺からめろんへと視線を変える。
なるほど。めろんの魔術が俺を捕えていたわけか。
「体組織電帯化」
めろんは俺へと魔術をかけている。
これで足止めのつもりか!?
香織は新たに光を矢に集中させている。
月女神の矢ではないにしろ、他の技も俺には強力だ。
それこそ、俺の異能がなければ、即死だ。
俺は両膝に両手を置き、拘束魔術を解除する。
そして、一歩前に足を踏み入れた時――
地面に魔方陣が浮かび上がる。
「ふふ、じゃあこれでお終いよ」
すいかはご機嫌に笑う。
俺を完全に敗者として見ている。
この魔術はなんだ!? そうとうヤバいという事だけ分かる!
「爆撃地雷」
すいかが頬杖をついたまま術名を呟く。
地面が爆発する。
それこそ、ここの部屋全体を巻き込む程だ。
俺はとっさに両手を下に向けるも、爆発は魔術ではないので、宙に浮く。
これが致命的なダメージであることに変わりはない。
「ぐはっ……」
口から少量の血が吹き出る。
足も血だらけで、洋服も破れている。
地面に落ちる瞬間の景色がスローモーションに見える。
香織の矢が俺に向いてるのが分かる。
香織の矢が放たれる。
鷲の形をした光の矢が俺に襲いかかる。
「まだだ!!」
俺は両手をかざし、矢を破壊する。
破壊した俺は地面に着地する。
……が、思ったよりもダメージはデカく、着地してから咳の如く、血が口から吐かれる。
思った以上にマズイ。
こんなに死期を感じたのは京介以来だ。
震える視界に、三人の美少女が映る。
俺はなんとかして立つ。
ここは逃げないと危ない。
何よりも、コイツら相手では勝ち目がなさすぎる。
一人は世界最強武器の一つを持つ女。
一人はこの世の魔術を全て使用できる少女。
そしてそれを容易く洗脳してみせた少女。
どれも、俺は殴る事ができない。
すいかを殴る必要性は感じたものの、基本手は出せない。
なぜなら――皆女の子だからだ。
これじゃあ一回逃げるしか手はない。
「畜生……」
俺は悔しくて歯を食いしばる。
「どうしたの? もう終わり? まだこっちはあなたを殺す策は沢山あるけど」
「お、俺は……女の子が殴れないんだっつの!!」
空気が固まる。
元々洗脳されているのが二名いるのだから、俺とすいかが黙れば空気は固まるのだが、何かが違う。
シーンっという静寂だけが耳に入る。
「……で?」
「だから、俺は殴れないんだ!」
「はいはい。で?」
「もう諦めます……」
「そ。なら二人とも。コイツ殺して」
やっぱダメか。土下座しても意味がない事は分かっていた!
俺は死ぬ運命から逃れられないのか?
いや、まだ希望はある!!
とりあえず、体制を整えれば何とかなる筈だ!!
「そうなるよな。殺せるもんなら――殺してみろよ!!」
俺は叫びながら、洞窟内の道を戻った。
洗脳された香織とめろんは追ってこなかった。
変わりに、ゾンビ洗脳集団が襲いかかってきた。
不思議な事に、俺は走れてる。何が起因してるのかは謎だが。
爆発自体は大ダメージだったが、致命傷には至らない。そこら辺はゲームっぽいな。ゲームで言う爆発はライフポイントを半分か三分の一位にまで減るだけと相場は決まってるからだ。
血だらけの足で、逃げながら考える。
香織とめろんはゾンビにはならなかった。
一体どうしてなのかは、とりあえず逃げ切れてから考えるとしよう!
走ってる最中に後を振りむくと、夥しい数のゾンビが追っかけていた。
足音も凄いし、このまま洞窟が倒壊する危険性だって否めない。
そして、俺が無意識に目指していた場所は――
行き止まりだった。
背中に身を預け、何とかゾンビ達に応戦しようと策を練る。
だが、今の状態ではろくに戦う事すらできない。
正直走ってここまで逃げれたのが奇跡みたいなものだ!
俺は両拳を握る。
歩み寄ってくる適合者ゾンビ。
「あぐうぅうう!」
「ぐぐううか!!」
「あがっあがっ!」
しかし、触れたくないな。
生きているのだろうが、ゾンビと大差がまるでない。
涎垂らして、瞳孔がない。
服装こそちゃんとしているが、どうも腐敗臭が漂ってきそうで嫌悪感を抱く。
しかし、このままだと殺られる!
く、くっそ~!!
何回か触れたから大丈夫だとか思ってるのなら意見を改善してほしい。
食堂のときは勢いこそあったが、そのせいで触りたくないという気持ちが芽生えたのだ!
もうごめんだ!!
「ほぅほぅ。モテモテだね。少年君」
随分と呑気な声が聞こえた。
どこからだ!?
この状況を見て呑気でいられる奴の顔が見たい。
そもそも、この洞窟には洗脳された奴以外いないんじゃないのか?
「困ってるようだね。助けてあげよっか?」
「ちっ! 癪だが助けてくれ!!」
「舌打ちとは何だ! 折角人が助けてあげようとしてるのに、これだから最近の若者は……俺様なんて若い頃は一生懸命戦ったんだぞ? それこそ国――いや世界の為に、君もそれくらい勇敢に――」
「ああ! もうわかった!! 俺が悪かった!! 助けてくれー!!!」
「説教は後でしてやるからな」
謎の声は消える。
そのあと、何も起きやしない。
なんて非道なんだ!?
もうゾンビが目前に迫ってきている。
手には木製の鈍器が握られている。
終わった! 俺の人生終わったよ!!
諦めるのは嫌だから、もう殴る!!
振りかぶろうとした、その瞬間――
俺の後の壁が回転する。
「な?」
一回転すると、壁の向こう側へと誘われた。
足元には下へと続く階段が広がっている。
壁には階段を照らす為の蝋燭に火が灯っている。
「やぁ。少年。生きてて良かったかい?」
俺の目の前にいる男が謎の声の正体だとすぐに判明した。
身長は百八十センチは軽く超えてる。
髪は焦げ茶色で、後に結ばれて長いというのが伺える。
一昔の殿様が着用してそうな黒い色の袴を着流している。
こんな地下に引き籠ってるのに、程良く焼けている肌。
そして、俺を見つめる翡翠の瞳。
顔はなかなか整っている。
年齢は三十代前半――そのせいかイケメンというよりは、ハンサムと言った方が良いかもしれない。
「ああ、そうだな! もっと早く助けてくれれば嬉しかったな!」
俺は強く男を睨む。
まったく人をおもちゃのように遊びやがって。
「まぁまぁそうカッカしないの。自己紹介がまだだったね。俺は谷戸門 十字郎。年齢は十代! 好きな物は可愛い女の子と巨乳!」
「そうか、十字郎ね。年齢は嘘だろ」
「ふむ。鋭いね君~俺様参っちゃうよ~」
「諦めが早いな」
「この年になるとね……何事も諦めが肝心だと思っちゃうわけよ」
「……で、あんたは端末適合者か?」
俺は京介の事もあり、こういう事には裏がありそうで警戒する癖がついていた。
こういう奴が一番信用できない。
「ふむ。君はストレートだね。そうだよ。俺は端末適合者。といっても今回の招集の人間じゃない。一応、槍の最強武器所持者だよ」
十字郎は、自分の端末を取り出し、武器を具現化させる。
出てきたのは、ずば抜けて大きい槍だ。
十字郎の身長の軽く二倍はある全長。
そして、槍から放たれるプレッシャーは異常であり異質だ。
「名前は、神竜の髭。そんなに警戒してても、コイツを一振りすれば君を殺せるんだよ? 殺るならもう殺ってるんだから安心しなさいよ」
自嘲気味に笑う十字郎。
どうやら、俺を殺す気はないらしい。
「ああ、わかった」
「それよりも、ここじゃなんだから、奥に部屋があるからそこまでついてきてよ」
にこやかに笑うオッサンに俺は仕方なくついてく事にした。




