4・【10】
【栄歴567年4月5日】
僕らの存在理由は不明確だ。
そもそも、人間と共に行動しない記憶機に意味はあるのだろうか。
オッタとの共同作業が一先ず片付いて、僕はほっと肩を撫で下ろした。オッタは仕事一筋! ってところがあるから、僕とはちょっとソリが合わない。僕のほうが変わり者だってのは判ってるんだけどね。
それにしても、やっぱりオッタとニオの関係は面白い。非常に興味深い。
オッタがあんまりニオに話を伝えてほしくなさそうにしてるからニオには言ってないんだけど、ニオを観察してると、たまにオッタと同じような反応をみせることがある。もしかしたらニオも感覚的に察知してるのかもしれないな、双子のシンパシーってやつを。
わくわくする。可能性だ。
人に使われない哀れな記憶機たる僕らにも未来があるのだ。
そう、記憶機としてではない、付加価値のある未来が。
人間になろうなんて思っちゃいない。そりゃ、人間になれたらそれが一番だけど、そんなのは不可能だ。僕の体内では忌々しい駆動音が響いている。
だけど、本来の『人型ではない記憶機』たちはきちんと人間側で働いている。
それなら人間と共に生きていくことならできるんじゃないかと思うんだ。
(なぜか、人型の記憶機が製作されて人間社会で従事しているという記載を見たことがない。
だけどそれって前例がないだけだと思ってる。
だって人型が従事していた記録を歴史から全て抹消するなんて不可能じゃないか。)
僕の人間への憧れはきっと、僕に定まっていた運命なのだと思う。
僕は姉妹として10番目だから、プロトがアルを『生んだ』時よりも設備が整ってた。アルが最初に助手として誕生させた機械特化のトライも、亡き【4】の一部を得て探索能力に長けたフィブとロクも、二番目の助手として生まれて整備関係に強いセッテもいて、且つ、オッタとニオとは違って僕はひとりだ。
効率を求め始めた11番からとも違う。
現時点でこれ以上ない、という自負が僕の中にあった。
僕には、これだけの好条件を持って生まれた僕には、僕を含む彼女たちを人間の輪に戻すことが……彼女たちに正しい生き方を与えることができるんじゃないだろうか。
例えそれが僕の自己満足で、僕が人に紛れるための単なるワンステップだったとしても。
わかっている、全て仮定だ。
でも、仮定なく実験はできない。それなら、仮定なく結論も出ないはずだ。
だから考えた。
まず僕はフィブとロクにそれとなくリサーチをかけることにした。
あの二人は材料採取に人のごく近くへ向かうことも日常的だし、他に比べればかなりの数の人間と接触もしたかもしれない。
今も探索中だし、いろんな情報を持っているに違いない。
彼女らが帰ってきたら。
情報を聞き出せたのなら、
僕は、僕の未来を変えてみせる。