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自虐ゲーム  作者: 鳴海歩
6/8

第五話 狂気への恐怖

遅くなりました!すいません!


残り三分になった。

前の男は、一向に体を動かさない。すでに50ptを貯め、止血したジョンは、思い切って口を開いた。


「お前はしないのか?五分をきったぞ。」


「…」


何も答えない。だが、唇が震えている。


「どうした?」


眠気に襲われながら、ジョンは言葉を紡いだ。おそらく初めから、終わる頃に眠るように調節されていたのだろう。


「…怖いんだ。」


「え?」


「自分の体から、血が出てくるのが、傷がつくのが、怖いんだ…!」


最後あたりの声は震えていた。ジョンはその言葉に一瞬馬鹿らしいという考えさえしたが、よく考えればそれが普通だ。確かに、普通ならば自分を刺すなど、狂気の沙汰、俗に言うイカれているというものだ。


「だけど、やらなきゃ死ぬんだぞ!それでもいいのか!」


「…怖い。怖い!俺には無理なんだ!今まで必死に冷静を保ったけど、もう無理だ!この恐怖に耐えられない!いっそのこと早く殺してくれ!」


タイマーが二分をきった。ジョンは焦りを感じて、自分でも信じられない言葉を口にした。


「早くその包丁で刺せえ!早く!」


そしてジョンははっとした。今、自分は何を言った…?

命が危ないという理由があっても、今自分が命令したのは自傷行為だ。それを平然と、寧ろ善行と思ってやった。

それを自覚し、まるで自分が猟奇殺人鬼のような寒気がした。


「無理だ!俺には無理だ!」


男は涙をぼろぼろとこぼし、あろうことか、


「あと何分だ?あああと二分もある!そんな長い時間この恐怖にとらわれるのか!嫌だ、怖い!ママ、助けて!」


誘拐された子供のように、泣きわめき始めた。ジョンは男を哀れむように見つめた。その男はとても愚かだ…そうかんじた。

男はしばらく叫喚し続け、しばらくすると、ボソボソと一人で何かをしゃべっていた。ジョンはなにも言わず、ただ男を見つめていた。だが、いずれ男が体験するであろう恐怖を想像すると、まるで当事者のように恐怖した。

残り一分。

未だに男はなにかを呟いている。ジョンは、この恐怖に耐え難かった。男 の言いたい事がなんなのか、理解した。終わらせたい。この恐怖を早く終わらせたい。解放されたい。もう俺は助かるんだ。早く終わらせてくれ。なんだって、俺がこんな恐怖を味わうんだ?理不尽だろ!そう思った。


『アト30秒。』


最初の嫌気がさすような声だと思ったが、ただの機械的な声だ。あと30秒か…。ジョンは、眠たくなりながら無意識にも、呟きながら、30秒を指折り数え始めた。


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