第三話 ゲームスタート
今回は早めに更新できました!
よかった〜
…始まってから五分が経つ。というのも、部屋の壁にはタイマーがあり、残り何分かわかるようになっている。だが、誰も動こうとしない。両手は自由になった。が、凶器を持つ素振りもしない。ずっと無言のままだ。当たり前だ。誰だって痛いのは嫌だ。しかも転んだとか、殴られるとかいう生ぬるいものじゃあない。「痛み」の最高点のようなものだ。
「ええい!このまま誰もやらないんだったら、俺がやる!どっちみちポイントを貯めなきゃ死ぬんだ!50万$はもらうぞ!」
右側の部屋の、姿が見えない男が言った。が、声には恐怖の色がはっきりと見えた。
「…!」
ジョンは口が利けなかった。あまりにも驚き、声を出すことが出来なかった。怖くないのか…?
その瞬間、
「ぐああああっ!」
何か柔らかい果実のようなものを潰すような音とともに、深紅の液体が透明な壁に大量に飛び散った。
ジョンは、その様子をただ見ていた。おそらく、自分を傷付ける場面を見えたなら、直視ができなかったろう。だが自分が見えるのは血だけ。それだけだと、何も感じない。そんな自分が、とても恐ろしくなった。
「あああっ…」
突然、血が更に吹き出した。聞いたことがある。刃物を刺した時、一番血が出るのは、刺した時ではなく、抜いた瞬間だということを。
「あああっ…あ…」
急に男の声が消え、血が壁に飛び散る音だけが聞こえた。
「…どうなったんだ?」
向こうの部屋の男が答えた。
「…痛みによる失神だ。包丁で腹を刺したようだ。あれじゃあ、少なくとも15分は気を失ってる。」
「なっ…!それじゃあ、あいつは、時間制限まで、気を失っているのか?」
「いや…その前に、出血多量で死ぬ。」
「…!」
じゃあ、どうすればいい?ジョンは不安になった。自分を傷付けねば殺される。が、自分を傷付けても死ぬ。しかし、もしかしたらこの20分の間に誰かが助けてくれるかもしれない。ジョンは可能性に賭け、凶器には手を出さなかった。
男が失神し、三分ほどがたった。
「いきなり包丁で刺すから悪いんだ…カッターで少しずつやって行けば…」
左の部屋の、顔いきなり、の見えない男が言った。台に置いた手にカッターを叩きつけたのだろう。カン!という音が聞こえた。
「うっ…」
そして叫び声が…響かなかった。
「へ?」
「…痛くない。痛くないぞ!」
「何だって?!」
「痛くない!」
何度もカン!カン!という音が響く。
「痛くない!痛くない!いちゃくにゃいぞう!」
「呂律が…回ってない?」
「俺たちもだ。」
前の部屋の男が言った。
「さっきより…呂律が回らなくなっているはずだ。」
前の男がさっきより少し遅く言った。ジョンは唇を滑らせるが、感覚が鈍いのを感じた。
「…確かに…」
「恐らくこれは、遅効性の麻酔だ。だから、痛みがない、呂律も回らない。」
ジョンは驚いた。ならば、もう少し遅く、あの失神した男が自傷すれば、死ななかったかも知れなかった。と思った途端に、急に、憤りをかんじた。
「…くそ!」
ジョンは、自分の怒りを元凶である、声にぶちまけた。
「この糞野郎!」
「一人死亡…と。」
どこかわからぬ暗い場所でモニターを見ながら男は言った。
「次は誰かな?…フハハハハハハ!」
笑い声は、消える事なく続いた。