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序章 It meets in the unknown

 空想科学祭2011参加作品です。

 初参加ですが、頑張ります。よろしくお願いします。

 エンジンに火を入れ、徐々に加速していく。

 

 離陸可能速度まで到達したら、操縦桿を引いてピッチ・アップ(機首を上げる)。機体が浮いた。それをコクピットで感じる。さらに加速を継続。上昇可能速度まで達したら、大きく機首を上げる。すると機体は、青く澄んだ大空へと舞い上がった。


『こちら洋上基地管制塔。そちらの離陸を確認。無事に帰れよ』

「チャーリー、了解です」


 機体を順調に上昇させ、高度三千で水平飛行へ。そこで基地司令からの無線が届いた。それに健は軽く応答する。

 島根県の洋上基地を離陸し、現在は島根県沖を飛行中。目標地点は母艦である原子力空母だ。もう二十分も巡航すれば辿りつく。

 健は自分の次に離陸した後ろの機体に目をやる。二機一組で行動中の今は、後ろの機体に乗る彼女――徳納紗季が健のウイングマン、いわばパートナーだ。共に駆る機体は、YF-11C海燕かいえん。日本海軍が独自に開発した、次世代の試作戦闘機だ。


「チャーリーからデルタへ。調子はどうだ?」


 紗季へ無線を開く。ヘルメットに内蔵されているヘッドホンに彼女の声が響いた。


『デルタ、良好よ。クルーズ旅行とかなら、なお良かったわ』

「そういうなよ」


 紗季の機体が横に並ぶ。一列横隊で飛行を続けた。


『試験飛行って言っても、毎回同じルートじゃあ飽きるわよ』

「それ、絶対に空母の連中に言ったらダメだぞ?」

『わかってる』


 二人の機体、YF-11Cは未だ試験機のため、何度もフライトを繰り返しデータを出さなければならない。「第六世代」と呼ばれる戦闘機のフライトデータは、今やどこの国も欲しがるものだ。それがたとえ試験機であっても。

 洋上基地を離陸して、十分程経過した。

 健はコクピット内のレーダーに目をやって、空母との距離を確認する。このまま巡航すれば、十分程で着艦できるはずだ。

 いつもは、着艦して任務終了報告を終えた後、わずかな休息を得る。その休息を最大限に利用して体を休めるのだ。



――いつもなら。



 いつもと違う、レーダーに映る機影。横を飛ぶ紗季の機影ではなく、『識別不明』と表示される、謎の機体。


「どこの機体――っ!?」


 次いで、健の耳にこだまする「ビーッビーッ」という、断続的なビープ音――ロックオン・アラート。


「ロックされてる!?」


 それはさながら、死の宣告だ。それを無視したが最後、死神の鎌で首をはねられる。

健は反射的に、操縦桿を引く。機体は上昇し、高度を上げた。横にいた紗季は、健の視界から消えている。下降か、旋回したのだろう。確認している暇はないが。

 すぐさま左手の中指に位置するボタンを押す。左手にはスロットルが握られており、そこに取り付けられたボタンによって、様々な機能を使うことができる。中指のボタン、それは――。


「くそったれ! フレア!」


 赤外線誘導ミサイルに対して囮の役割をなすもの。フレアを散布した後、すぐさま螺旋降下を始める。操縦桿を斜め左に倒し、左下方へ螺旋降下。迫るGに歯を食いしばる一方で、フレアにだまされたミサイルが爆発したのがわかった。


『デルタからチャーリー! なにあれ!? 撃ってきたわよ!?』

「待て、焦るな! 今IFF(敵味方識別装置)の応答を……」


 IFF――同志討ちを避けるために搭載されている機器。電波を用いて、敵か味方を判断する戦場では重要なモノだ。

それによって、画面に映し出された文字は『UNKNOWN』。つまりは、敵、だ。


「チャーリーからデルタ! 敵だ、迎撃!」


 言って、健は機体を上昇させる。ミサイルを放った敵を捕捉したのだ。自機を敵機の後ろにつける。

 一機のエンジン、一本の垂直尾翼。それに特徴的な無尾翼デルタ式。敵機は疾風の名を冠するラファールだ。

だが、後ろにつけた以上、戦況はひっくり返る。空戦では、敵の後ろをとるのが基本戦術だ。


『デルタ交戦!』


 無線がデルタ(紗季)の交戦を知らせる。


「デルタへ! そっちは何機だ!?」


 叫ぶように紗季へ言いながら、機関砲のトリガーを引く。敵の首を絞めるように、人差し指でトリガーを絞り続ける。弾丸はラファールの垂直尾翼を砕き、機体に穴を穿った。


『こっちは二機! 早めに援護頼むわよ!』

「チャーリー了解!」


 紗季との無線を終えると同時に、敵を撃墜。ラファールは機体を四散させ、鉄くずとなって海へ墜ちる。


「敵機撃墜!」


 直後、広域データリンクシステムを作動させる。これは味方機の信号を探知して、すぐに場所を割り出せる優れモノだ。


「デルタの位置を確認、これより援護する」


 操縦桿を左へ倒し、そして引く。リンクシステムを確認すると、健と紗季の距離はそれほど遠くない。健の位置から、左上空に紗季はいた。彼女は現在二機と交戦中だ。一機で二機の相手をするのは、分が悪すぎる。人と人でも二対一では不利なのと同じだ。

 敵は紗季の後ろにいた。もう一機は紗季が追いかけている。彼女は追いかけて、追いかけられている状況だった。


「シーカーオープン」


 武装を機関砲から短距離空対空ミサイル・サイドワインダーへ変更。HUDヘッドアップディスプレイにミサイルシーカーが表示される。距離を詰め、緑色のシーカーが赤く染まったら、ロックオン。親指で、発射ボタンを押す。


「チャーリーFOX2、FOX2!」


 発射サインをコール。ミサイルは煙を引きながら、紗季の後方の敵機へと向かっていく。敵は先程と同じタイプのラファールだ。紗季の追尾を諦め、回避行動に移る敵機を健は見逃さない。


「各個撃破でいく!」

『了解!』


 短く紗季と通信。攻撃パターンを決める。

フレアを撒いてミサイルを回避したラファールは、そのまま健を振り切るためブレイク――回避行動――を取る。ただ、健も伊達にテストパイロットをやっているわけではない。離されることなく、追っていく。

 右へ左へとブレイク(回避)する敵に、操縦桿を右へ左へと倒して健は応戦する。

 武装を再び機関砲に切り替えると、ミサイルシーカーの代わりに照準レティクルが表示された。逃げ回る敵をそれに収め、人差し指でトリガーを引き絞る。一瞬遅れて、機首側部に付いた機関砲が火を噴いた。歩兵の使う重機関銃とは比べ物にならない、轟音。二十ミリの弾丸はラファールの装甲を貫き、砕いていく。まもなくラファールは火ダルマとなって海へと落下していった。


「敵機撃墜!」

『グッドキル! って、それほどこっちも余裕じゃないわ! 後方から援護して!』

「チャーリー了解! ……無理はするなよ」


 広域データリンクを作動させずとも、紗季の位置は確認できた。健の更に高高度に二機の機体を視認する。紗季は敵の後ろにつけていたが、客観的に見る限り――、


「遊ばれてるのか……」


 と、思わざるを得ない程の、劣勢。有利な位置に居ながらも、劣勢を強いられている。それはなにより屈辱なことだ。操縦桿を引いて、機体を上昇させる。大事なウイングマンで遊ばれては、こっちが困るのだ。

 ただ、一慨に紗季の腕が劣っているというわけでもない。YF-11Cは、良くも悪くも試験機なのだ。常に敵の性能を上回る、というわけではない。

 接近すればするほど、よく見えてくる敵の機体。それは、あまりにも驚異的な機動力を持った――ロシアの戦闘機。


「Su-27……?」


 直線形状の後退翼に高い垂直尾翼。ぱっとみると、ロシアの戦闘機Su-27に見える。「フランカー」であったり「スホーイ」と呼ばれる機体だ。が、それより更に高い垂直尾翼を持っている。おそらく発展型だろう。

 そう考えていた矢先、敵の動きに変化があった。

 敵は急上昇を行う。本格的にこちらを振り切るつもりのようだ。追って紗季と健も上昇する。


『なにか……さっきと動きが違う……』


 無線から紗季の呟きが聞こえる。どういうことだろうか。ただ、それを聞いている暇はなさそうだ。敵のブレイク(回避)行動は激しく、気を抜けばすぐに振り切られる。


「なにっ!」


 敵の急な右旋回に健は驚く。急いで操縦桿を倒して食らいつくが、紗季は反応しきれなかったようだ。健よりはるかに大周りな旋回で、なんとか追いかける。


「気を抜くなよ!」

『わかってる……でもさっきとあまりにも動きが違うの……』


 紗季はどこか困惑した様子で呟く。空で迷いは切り捨てるべきだ。彼女もそれを忘れてはいないだろうから、余程敵の動きに違いがあるのだろうか。


「デルタは後方から援護だ。俺が仕留める」

『わかった』


 無線に向かって叫ぶように言って、前を見据える。視線の先には、高い垂直尾翼を備えた、バケモノじみた機動性の戦闘機。一瞬たりとも、気は抜けない。

敵を追いかけ、撃墜することだけに集中する。武装をミサイルに変更して、ジリジリと敵を追い詰めるように狙う。ミサイルシーカーは敵がブレイクするごとに、それを追った。

 そして何度目のかブレイクの後、HUDヘッドアップディスプレイにロックオンと表示される。撃てば燃料が切れるか、敵を撃墜おとすまでミサイルは追尾する。


「チャーリーFOX2!!」


 言って、親指に力を入れる。押し込んだボタンはミサイルの発射ボタン。機体の下部から煙の尾を引いて、ミサイルは飛んでいく。

案の定、敵は機体後部からフレアを撒いた。直後に上昇。赤外線誘導を阻害する偽物の太陽は、まんまとミサイルをその罠にはめる。

 だがこれは予測済みだ。健も敵を追って上昇する。フレアの煙を、雲を抜けて、その先には――。


「なにも……いない?」


 そこにあったのは、敵の機体ではなく、真っ白な雲と青い空だけ。そこに漆黒のYF-11Cはぽつんと取り残されたように、上昇を続けていた。


「どこだ、どこにいる……」


 コクピット内から、敵の姿を探す。上、右、左。すべて探しても、敵機は確認できない。


『健、後ろ! 雲の中から敵!』

「なんだと!?」


 健の後方五百メートル程の位置にいる紗季からの警告。コクピットの性質上、後ろを見ても下を見てもあるのは無機質なシートと、同じような鉄の板。そこがどうしても死角になってしまうのだ。


「くそったれ!」


 即座にブレイク(回避)機動を取る。右へ急旋回。コクピットから、追いかけてくる敵が確認できた。


「フレアを撒いて、すぐに減速したのか……」


 だとしたら、頭のきれるパイロットだ。フレアを撒いた後、煙と雲に紛れて身を隠したのだろう。だが、頭の回転には自信がある。落ち着いて、冷静に判断すれば――。

そう思った直後に、健の耳を支配するロックオン・アラート。またしても死の宣告。これは心臓に悪い。出来れば聞きたくない類のものだ。

 健は機体を加速させる。エンジンが猛り、体を襲うGが増す。次いで上昇。さらに加速。

 耳にこだますビープ音は、ミサイルとの距離が近くなるほどにその間隔が短くなる。「ビーッビーッ」という音が「ビーッ」と鳴りっぱなしになったが最後、もう避けられない。

 短くなるビープ音の間隔、それに伴い背後に迫る死神のミサイル。あまりの恐さに泣きそうになる。が、まだ我慢。健は男の子だ。


『健! ブレイク! ブレイク!』


 紗季の悲痛な叫びが聞こえる。その最中で、健は武装を確認。先程使ったままのミサイルで固定されていた。

 ビープ音の間隔が短くなる。もう、無理だ。

耐えかねて、健はフレア散布ボタンを押す。――そこからだ、反撃を開始するのは。落ち着いて、冷静に判断すれば、必ず突破口は開ける。それがたとえ、教科書通りでなくても、どんなにイカれた突破口でも押し通る。

 愚直な加速からの、急減速。スロットルを思い切り引いて、エアブレーキを作動させる。あまりの急減速に機体が揺れた。ガタガタとキャノピーが音を立てる。健はエアブレーキを作動させたまま、操縦桿を右へ倒し続ける。


 直後、フレアにだまされてミサイルが爆ぜる。


 機体は、機首を右に向けたまま急降下していく。それはもはや降下というより、落下。健は操縦桿を倒し続けて、百八十度以上回頭する。なんとか、機首を敵機の方向に向けた。

 敵と同じ方法では、それなりに対処されてしまう。だから、減速までは敵と同じ。でもそこからは、無理に機体を回転させる。垂直上昇から、エアブレーキを用いて急減速、操縦桿を倒して、機体はそのまま失速反転する。


 これぞ、ストールターンと呼ばれる機動マニューバ


 敵機は先程の健と同じように、上昇して追いかけようとする。だがそこに、健はいない。何故なら横に、それも突き刺さるように食らいついているからだ。それに気が付いた時には、健のHUDヘッドアップディスプレイに「ロックオン」と表示されている。


「お返しだ!」


 叫んで、迷わず発射ボタンを押し込む。自機と敵機は百メートルと離れていない。残酷な死神は、この距離なら確実に、その鎌で首をはねる。

ミサイルは機体中央に命中。胴体部分から四散する。その高い垂直尾翼は無残にも折れ、新たな鉄くずを生んだ。


「敵機、撃墜」


 撃墜を確認した後、高度五千で水平飛行に戻る。横には紗季の機体が並んだ。


「なんだったんだよ、あれ」

『空母に問い合わせてみたけど、帰艦してから説明する、だってさ』

「てことは、空母の連中はなにが起きたかわかってるのか?」

『そうでしょうね』

「じゃあ、さっさと帰艦しよう。仲間はずれは嫌いだからな」


 空母の連中は状況を把握していて、健達は把握できていない。立派な仲間はずれだ。それに、なんだか嫌な予感がしてならない。


『そうしましょう。少し急ぐわよ』

「チャーリー、了解」


 加速する紗季の機体を、健は追いかける。

 UNKNOWNとの遭遇。そして戦闘。健には不吉な報せな気がして、自然とスロットルを握る手が汗ばむ。グローブの中はじんわりと湿っていた。

  機体を着艦させるその時も、健の胸騒ぎが収まることは無かった。

 序章、終わりです。

 専門用語が多くなってしまったため、次回から僭越ながら解説をさせて頂こうと思います。

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