クッキー
三題噺もどき―はっぴゃくはちじゅう。
ガヤガヤと賑やかな教室に居る。
廊下では何かあったのか、走り回っているが……ここは小学校だったかな。
ここは高校なんだから、今更になって廊下を走るな、なんて言われるようなことがあるわけがないだろう。
「……」
と思った矢先に、廊下の奥の方から男性教師の声が聞こえてきた。
走るなーって叫ぶのも大変だよな……しかし普通に驚くし、怒声なんてものは聞きたくもないので勘弁していただきたい。
「……」
教師の声が聞こえたことで、教室内には少しだけ緊張が走る。
何せ、校舎内では基本的にスマホの使用は禁止されている。だがそんなことはお構いなしに昼休みは教室に居る人間はほぼ全員がスマホをいじっている。これが教師にバレると没収されお説教間違いなしなので、バレないように気を付けなくてはならない。
「……」
さすがに3年生にもなると、その辺は上手くかわすのが得意になっている。
1年生の時はまだこの時期はスマホを取り出すこともしていなかったのではないだろうか。そうでもないか。記憶にないので分からないが。
「……」
廊下を走っていた男子に絡まれつつ、説教をしつつ教室を見て回っているのだろう。
賑やかな声が奥の方から徐々にこちらに近づいてくるのが分かる。
声でなんとなく察しはついたが、今日の見回りの教師は生徒人気の高い若い教師のようだ。女子のキャラキャラとした声が聞こえてくるのはこの教師の時か女性教師の時くらい。
「あ、クッキー食べる?」
「たべる」
断るのを忘れていたが、ここはあの子のクラスである。私は私のクラスから早々に出てきて、ここで昼食を食べて昼休みの時間をつぶすことが常なので。当然のことだ。
机を挟んだ向かいに座り、私が持ってきたクッキーをさも自分の物のように扱っている。まぁ、この子の為に持ってきたところもあるのでいいのだけど。
お互い、つい先ほどまで持っていたスマホはすでに鞄の中もしくはスカートの中にしまわれている。
「これ、紅茶のクッキー?」
「そうだよ、美味しい?」
いつもはシンプルなチョコクッキーとか、チョコチップクッキーとかが多いのだけど。
今日は一味違うモノを持ってきた。
なんとなく、パッケージがおしゃれで買って来たのだけど、案外紅茶のクッキーと言うのも悪くはないと私は思った。
「おしゃれだね」
「可愛いでしょ」
形もタダの丸や四角ではなく、ざっくりとではあるが、薔薇の形をかたどっている。
渦巻きと言われればそれまでなんだけど、一応薔薇の形なのだと箱に書いてあった。
個包装されている袋には、なぜか知らないが、有名な詩人や作家の作品の有名な文言などが綴られていた。そういうコンセプトなんだろうけど。
「……」
食べる?と言って渡された袋には、さよならだけが人生だ、と書かれていた。
言葉そのものに聞き覚えはあるのだが、誰が作ったものなのかはあまり知らなかった。
漢詩の訳なのか……へぇ。
「なんははいてあるの?」
「ん、ほら……」
「……ホントだ、これも書いてある」
口に咥えていたクッキーを片手に持ち直し、片手に破られた袋を持ちながら文字を読んでいる。
しかしどうやら、その肝心な部分を破るような開け方をしたせいで、分かりづらくなっているようだ。
「……中原中也ってことは分かる」
「なにそれw」
作者の名前は端の方に書かれているので、そこはかろうじて読めたのだろう。
薔薇の形のクッキー何だから、どちらかと言うと日本文学よりは外国の物が多そうだが、そんなわけでもないようだ。まぁ、売っているのは日本だからそれはそうなんだろうけど。
「こっちはシェークスピアだって」
「へぇ……」
何でもありなのか。
このパッケージを作った人の趣味なんかだろうか。
しかも見ればなんというか、マイナスなイメージというか、若干暗い印象のある言葉ばかりなのも……どんな選び方をしたのか。
「てか、紅茶のクッキー美味しい」
「でしょ」
しかしもう、そんなことはどうでもいいので、早々に切り上げてクッキーを食べることに専念する。話しているうちに、教師に見回りは終わったようだ。もう少しで昼休みも終わる。
お題:さよならだけが人生だ・薔薇・クッキー




