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Chapter1 「ニコニコ企画配属」

シリーズ終了の今だから描く。米子のデビュー戦を外伝として投稿します。まだ初々しい頃の米子が任務の厳しさを知る物語です。全3話です。火曜日と金曜日に投稿します。

Chapter1 「ニコニコ企画配属」


 202X年4月、米子はニコニコ企画の西新宿の事務所に初めて顔を出し、応接室で木崎と打合せをしていた。米子は入学した桜山学園の制服を着ていた。紺色のブレザーに白いスクールYシャツに紫とブルーのストライプのスクールリボンを付けていた。スカートはブルーを基調としたタータンチェックだった。


 「沢村米子、15歳です。よろしくお願いします」

米子が軽く頭を下げて緊張した表情で言うと椅子に腰を下ろした。

「ニコニコ企画へようこそ。私はニコニコ企画東京地区営業所長の木崎だ。内閣情報統括室では特務課の主任でもある。沢村君の訓練所での成績は優秀だな。成績表を見たが射撃、格闘、座学、殆どがSランクだ。教官達のコメントでも君は優秀だと書いてある。それと先週受けてもらった知能テストだが、君はIQ180だぞ! 凄いぞ! 凄いなんてもんじゃないぞ!」

木崎が大きな声で言った。


 「訓練所で受けた時は160でした。今回は調子が良かったんだと思います」

米子が言った。

「気になって調べたがアインシュタインのIQは推定で160~190だ。レオナルド・ダ・ビンチが180~200だ。君にはそれに匹敵するIQだ」

木崎が言った。

「普通に問題を解いてるだけです。パズルみたいな感じです。すぐに解答が閃く問題もあれば少し考えなければ解けない問題もありました」

米子が言った。

「何にしても君は頭がいいようだ。訓練所の座学はオールSだ。中学校の成績もオール5だ。運動神経もいいみたいだな。その能力を活かして頑張ってくれ」

「わかりました。木崎さんは私の生い立ちも知ってるんですか?」

「それに関しては内閣情報統括室から資料を受け取った。いろいろ大変だったみたいだが、うちの組織の工作員はみんな多かれ少なかれ厳しい過去を背負っている。特に訓練所を卒業した工作員はみんな孤児だ。だから俺は君の過去の事は一切気にしないつもりだ。あれこれ訊く事もしなければ気を遣う事もしない」

木崎が淡々と言った。

「それでお願いします」

米子が言った。

「それと来月になったら仲間がニコニコ企画に配属される。君と同じ高校1年生の女子高生だ。名前は高梨ミントだ。仲良くしてくれ」

「ミント? 仲間ですか? 養護施設に入ってからは友達を作りませんでした。訓練所でも1年生の時に同室の先輩がいましたが、必要以上には仲良くしませんでした。だから上手く打ち解ける自信がありません」

「そうか。一緒に任務を実施する事もあるだろうから喧嘩だけはしないようにしてくれ。ところで笹塚のマンションはどうだ?」

木崎が訊いた。

「思った以上に広くて綺麗でびっくりしています。学校と新宿に近いので助かります」

「訓練所の部屋と比べたら天と地の差だろ。学費、家賃、電気、ガス、水道料金は組織が負担する。セキュリティも万全だから安心して生活してくれ」

「ありがとうございます」


 「早速だが仕事の話をさせてもらう。ニコニコ企画は内閣情報統括室配下のダミーの会社だ。イベントの企画会社という事になっているがメインの仕事は暗殺だ。会社は2年前に出来たばかりで今までは内閣情報統括室の特務課の中にあった暗殺部隊の中に若い女性による暗殺部隊を作る事になり、ニコニコ企画が作られたんだ。この2年間は準備期間で、メンバーを迎えるのは今回が初めてだ」

木崎が説明した。

「暗殺の仕事について教えて下さい」

米子が訊いた。

「暗殺の指令は内閣情報統括室から発令される。ターゲットの情報や背景なんかの情報も提供される。我々は期日までにターゲットをできるだけ目立たない方法で暗殺する。実行方法は我々で決める。必要な武器や道具は申請すれば本部が調達してくれる。小物については会社で購入する」

「暗殺に失敗したらどうなりますか? もし第3者に目撃されたり警察に捕まった場合はどうなるんでしょうか?」

「基本的に警察は問題ない。警察は内閣情報統括室の配下になる。もし捕まったり暗殺が表に出ても揉み消す事ができる。第3者に目撃された場合は可能な範囲で排除してもらう」

「警察の件は了解しました。第3者の排除については訓練所でも教わりました。その際のメンタルケアについても教わっています」

米子が言った。

「なら大丈夫だな。今から特別なIDカードを貸与する。『車両運転特別許可証』だ。オートバイ、大型トラック、特殊車両等、あらゆる車両が運転可能だ。もし警察に免許証の提示を求められた時はこのカードを提示しろ。警察官なら皆知っているはずだ」

「了解です。オートバイ、一般車両、大型トラック、工事車両等の運転を訓練所で一通り習いました。国際C級。国内B級ライセンス相当の運転技術も習得しました」

「カードに刻印された番号は君の国家工作員としての認識コードだ。警察に捕まった場合はこのカードを提示するんだ。IDで照会されれば内閣統括室配下の工作だという事が証明され、警察は何もできない」

木崎がテーブル上に銀色のカード置いた。一見クレジットカードのようだが、国家公安委員会と内閣情報統括室の印が印刷されている。

「それは心強いです」

米子がカードを手に取りながら言った。


 米子は内閣情報統括室から支給された支度金50万円で家具や生活用品を家電量販店やディスカウントショップで一通り揃え終わった所だった。50万円は米子にとって想像できない程の大金だった。小学校3年生から児童養護施設と訓練所生活で生活していた米子は今日まで1万円札を手にした事が無かったのだ。


 2DKの部屋は飾りが一切なく殺風景だった。米子は生活するにあたって最低限必要な物しか部屋に置かなかった。必需品以外に買う物が想像できなかった。ただ一つの例外がコーヒー関連のグッズだった。米子は近所のコーヒーショップで買った豆を電動ミルで細かく挽き、薬缶で沸かした熱湯をドリップポットに移し、ペパーフィルターでドリップしてコーヒーを淹れた。米子は1人暮らしをしたら自分でコーヒーを淹れたいと思っていた。父の栄一が家にいる時、同じようにしてコーヒーを淹れていたのだ。小学校低学年だった米子はコーヒーを飲めなかったが、栄一が嬉しそうにコーヒーを淹れる姿と部屋に漂うコーヒーの香りを覚えていた。大人になったら自分もコーヒーを淹れたいと思っていた。訓練所の共同パソコンを使ってインターネットでコーヒーの知識と必要な道具を調べていたのだ。


 数日後、米子は放課後の西新宿の事務所に顔を出していた。任務が無くても週に3日は事務所に顔を出す事を義務づけられていた。事務所では過去の暗殺事例や国内の反社会的組織について内閣情報統括室のデーターベースにアクセスして学ぶよう木崎に言われていた。


 「今回の任務だが、ある犯罪グループのメンバーの暗殺だ。犯罪グループのコードネームは『ボンバーピッグ』だ。暗殺は2回に分けて実施する。1回目は都内の雑居ビル内の事務所で実施する。ターゲットは2人だ。2人はボンバーピッグのメンバーで水野と高木だ。この2人は小さな出版会社を経営している。暗殺の方法はお前に任せるが確実に仕留めてくれ。それと死体の処理は『掃除屋』と呼んでいる外部の組織に任せるから殺すだけでいい。2回目は青梅にあるボンバーピッグのアジトだ。アジトといってもセメント工場の跡地だ。ターゲットは4人だ。概要は以上だ。ターゲットに関する詳細情報はファイルの資料を見てくれ。ターゲットの写真や地図、建物の見取り図も入っている。質問はあるか?」

木崎が暗殺の指令について説明した。

「実施期限を教えて下さい」

米子が訊いた。

「1回目の暗殺は今日から1週間以内に実施してくれ。2回目は1回目の実施後5日以内に実行する」

「拳銃を使いたいのですが貸してもらえますか? ナイフは持っています」

「この事務所の倉庫に何丁かあるから好きなのを選んでくれ。マガジンと実弾も揃っているはずだ」

「SIGの229はありますか?」

「226ならあるが229は無い。必要なら本部に申請する。1週間以内には届くだろう」

「じゃあ357SIG弾仕様の229をお願いします。サプレッサーとネジ切りしたバレルもお願いします」

「わかった。357SIG弾も100発頼んでおこう。もし間に合わなかったら倉庫にある銃を使ってくれ」

「了解しました。暗殺の具体的な方法は資料を見て決めます」

「決まったら教えてくれ。最初の任務だからバックアップしてやる」

「このターゲットはどんな存在なんですか?」

米子が訊いた。

「簡単いえば企業恐喝のグループだ。企業のトップの殺人予告や会社の爆破予告をして企業から金を脅し取っている。最近では政治家なんかかも狙っている」

「捕まえるのは警察の仕事じゃないんですか?」

「こいつらにシンパシーを感じる人間が世間に一定数いる。もし捕まえても裁判は長引くだろう。最近では仲間も増やしているらしい。だからさっさと排除するんだ。国家にとって不利益にしかならない連中だ」


 米子は西新宿の事務所が入った雑居ビルの地下駐車場で黒いハイエースの後部座席に乗り込んだ。運転席には木崎が座り、助手席には見知らぬスーツ姿男が座っていた。

「沢村、本部の工作員の藤川さんだ。ベテランの1級工作員で今回は君の援護をしてくれる」

木崎が言った。

「どうも、藤川です。まあ初めてだから緊張するだろうけど俺がバックアップするから大丈夫だよ。危なくなったらすぐに助けに行くよ」

藤川が言った。藤川はラグビー選手を思わせるガッチリとした体格で、顔も厳つかったが声は明るく高い声だった。藤川幸治35歳はベテラン工作員だった。今回は新人である米子の援護と教育係として作戦に参加する事になったのだ。

「P229の調達は間に合わなかったが大丈夫か?」

木崎が訊いた。

「倉庫にベレッタがあったのでそれを使います。ベレッタ92Fは訓練所で最初の頃に使っていたので慣れています。サプレッサーも借りました」

米子が言った。


 ハイエースは代々木駅近くの都道414号線の路肩に停車した。

「場所は分かってるな? ビル名は『ケツアーナカクテービル』だ。俺と藤川さんはここで待ってる。このバッチを襟に着けろ。カメラ付きマイクだ。ここでお前の様子をモニターしているから終わったら戻って来い」

木崎が言った。

「了解しました」

米子は車を降りると歩道を原宿方面に向かって歩き、右に曲がってしばらく歩くと8階建ての雑居ビルの前に立ってビルの名前を確かめた。確かにケツアーナカクテービルだった。米子は制服姿だったが通っている桜山学園の制服ではなく、ネットの制服ショップで買った制服を着ていた。紺色のブレザーに白いスクールYシャツにワインレッドのスクールリボンを着け、スカートは緑系のタータンチェックだった。肩にナイロン製の黒いショルダーバックを掛けていた。任務の時は通っている学校の制服ではなく、他校の物かそれらを組み合わせた物を着るように木崎に言われていたのだ。制服は任務上必要な道具となるので購入代金を組織に申請する事が可能だった。


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