不気味な来訪者
第3話 不気味な来訪者
夜の月影村は、昼とはまるで別の顔を見せていた。
昼間は人の声で賑わう村も、日が沈めば静寂に包まれる。
聞こえるのは、風が木々を揺らす音と、遠くで鳴く虫の声だけ。
その頃――
光宮界の外れにある、今は使われていない古城にも、夜が訪れていた。
かつては人の手で整えられていた城内は、
今では時の流れに置き去りにされ、薄暗い闇に沈んでいる。
「……誰か、そこに居るの?」
城内に、小さな声が響いた。
声の主は、幼い少女だった。
黒く長い髪を揺らしながら、手にした灯りを頼りに回廊を進む。
ここに、誰かが来るはずはない。
それでも、胸の奥に嫌な予感が広がっていた。
時刻は、丑三つ時。
まともな来訪者が訪れる時間ではない。
「……やっと、見つけた」
背後から、低く歪んだ声が響く。
少女が振り返った瞬間、
闇の中で、真紅の瞳が不気味に光った。
「……あなたは、だれ?」
問いかける声は、かすかに震えていた。
「僕?」
男は、楽しそうに笑う。
「ずっと、キミを探してたんだ」
一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「キミが居れば、僕の願いは叶う」
少女は、思わず後ずさった。
「……イヤ」
「イヤよ……」
唇を噛みしめ、首を振る。
「私は……もう、こんな力はいらない」
その言葉を聞いた瞬間、
男の笑みは、はっきりと歪んだ。
「それは、キミが決めることじゃない」
冷たい声。
「力は、使われるためにあるんだ」
男は、少女へと手を伸ばす。
「やめて……!」
逃げようとするが、足が動かない。
「さあ」
甘く囁くような声。
「歌うんだ」
「この世界に、終わりをもたらすために」
少女の短い悲鳴が、
古城の闇に吸い込まれて消えた。
◆
その頃、月影村。
仮宿で眠っていた私は、はっと目を覚ました。
「……?」
胸が、ざわつく。
理由は分からない。
ただ、嫌な夢を見た気がした。
「……寒い……」
小さく呟くと、すぐに気配が動く。
「姫さま?」
月華の声だった。
「どうしました?」
「……なんでも、ないわ」
そう答えたものの、胸の違和感は消えない。
「外が、少し騒がしい」
月華の視線が、窓の方へ向く。
「……風翔」
名前を呼ぶと、すぐに返事が返ってきた。
「気づいています」
その声は、いつもより低く、引き締まっていた。
「今夜は、全員起きています」
「嫌な気配がする」
氷月が、短く言う。
私は、毛布を強く握りしめる。
理由は分からない。
けれど、何かが確実に動き始めている。
――それが、
私と無関係ではないことも。
祝福を齎す姫と、
破滅を呼ぶ姫。
二人の運命は、
同じ夜の下で、静かに交差し始めていた。




