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亡域の冥王  作者: キノコのほうし
第1章 崩壊した世界

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第四話「消えた姉弟」

 翔也くんが行方不明になった。


 俺は瑞樹さんと話し終えた後に翔也くんを探しに拠点を回ったのだが、見つからない。

 少し焦った俺は、西高に頼んで探知系の能力者が多い諜報部に捜索を手伝うよう指示してもらった。

 拠点内であれば、諜報部がすぐにでも見つけてくれるだろう。


 まだ拠点ができたばかりのころ、西高が交流と称してかくれんぼ大会を開催したのだが、現諜報部の代表を務めている片桐琴葉(かたぎりことは)は開始10分で全員を見つけ出すという偉業を成し遂げている。


 しかし翔也くんは見つからなかった。

 拠点にいないってことか? まさか…そんなはずはない。

 俺と瑞樹さんが話していたのはせいぜい1時間くらいだろう。

 翔也くんが走り去ってからも3時間が経ったかどうかというくらいだ。

 この短時間で諜報部が見つけられない距離まで13歳の少年が来て間もない拠点から移動できるとは考えられない。


 しばらく俺や拠点メンバーで探していたのだが、翔也くんの気配すら感じ取ることができなかった。

「みんな! 今日はもう遅いから引き上げよう!」

 西高の号令で俺たちは捜索を一時中断することになった。

 その時の瑞樹さんの表情が頭にこびりついて、その日はあまり眠ることができなかった。


 ***


 翌朝、俺たちは緊急会議を開いていた。

 当然、議題は翔也くんの失踪についてだ。

 参加しているのは、西高と現在いる拠点防衛メンバー、翔也くんと関わりのある俺を含めた班員たちである。

 瑞樹さんは翔也くんが失踪してから今にも拠点を飛び出して行きそうな勢いだったので、西高の秘書兼護衛である二神玲奈(ふたがみれいな)と拠点防衛メンバーである陳玲(チェンリン)(ヤオ)姉妹がそばに付いて落ち着かせている。

 一番の関係者である彼女だが、会議に参加できるような状況ではないと判断したため、西高の指示により不参加となった。

 それにより、瑞樹さんに付いている3人も不参加である。


「おそらく能力者の仕業(しわざ)だろう」

 西高は顔をこわばらせてそう言った。

 いくら加入したばかりとはいえ、歓迎会をした以上は仲間だ。

 失踪したとなれば、誰よりも仲間想いの彼はさすがに冷静ではいられないようだった。


「『能力者の仕業』って、翔也くんは誰かに誘拐されたってことですか?」

 俺は少し気圧(けお)されて、おどおどとした様子で西高に質問した。


「ああ、琴葉は拠点内であれば誰がどこに居ようと把握できる。たとえそれが侵入者であってもだ。しかし、翔也くんは見つからない。つまり翔也くんはもう拠点にはいないということになる。この拠点の構造すら把握していない彼が我々の目を搔い潜り、誰にも見つからずに抜け出すなんてことができるとは到底思えない」


 この拠点は防衛もかねて、日本の城のように敵が入りにくく、俺たちが侵入者を迎撃しやすい構造になっている。

 とても入り組んだ構造になっているので、確かに案内もなしに抜け出せるとは思えない。

 俺たちが連れてきた時のルートを覚えていた可能性もあったが、初めて来た山道をあの少年が完全に辿ることは不可能に思えた。


「確か翔也くんは透過の能力を持っていたはずです。彼の能力であればこの拠点を最短距離で抜け出すことも可能なのでは」

 幸太郎が発言した。

 しかし、翔也くんは能力の使い方を知らないはずだ。

 それに能力そのものを酷く嫌悪している。

 母親の仇であるかのように。

「あー、その可能性はないかな。翔也くんは能力の使い方を知らないはずだし、知ってても使わないと思う」

「どういうことだ?」

 西高が俺に聞いてきた。

 俺は何か知ってるなら早く話せとでも言いたげな視線に委縮した。

「そもそも翔也くんがいなくなった原因でもあるんですけど――」

 そう言って俺は昨日の清水姉弟との出来事を話した。

「――だから翔也くんがいなくなったのは俺のせいだと思います…。でも、ただの失踪にしては見つからなさすぎるから、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと」


 本来なら翔也くんが走り出して行方が分からなくなっても問題なかったのだ。

 なぜなら片桐琴葉がいるからである。

 再三に渡って言うが、彼女の能力であれば翔也くんを見つけることなど容易い。

 俺があの時、翔也くんを急いで追いかけなかったのも能力者が大勢いるこの拠点で人探しなど児戯(じぎ)に等しいと考えていたからだ。

 実際、拠点メンバーの中に誰一人として俺が翔也くんを追いかけなかったことを責める者はいない。

 それこそが証明であろう。

 しかし、翔也くんは見つからない。

 であれば、西高の言う通り外部の能力者によって(さら)われたと考える方が自然である。


「だったら、一昨日(おととい)痕力会(こんりょくかい)が犯人じゃないのー? もともと瑞樹ちゃんと翔也くんを襲ってたわけだし」

 張り詰めた空気に似つかわしくない飄々(ひょうひょう)とした声音(こわね)で言ったのは紗月である。

 しかし、彼女の様子に反して場は一層、緊張を増した。


「痕力会? 貝原たち痕力会に手を出してたの?」

 建築部門代表であり、拠点防衛も務めている西条達也(さいじょいたつや)が驚きの声を上げた。


 え、この人知らなかったのか。

 さすがに防衛メンバーには伝えていると思っていたのだが、西高は想像以上に情報を統制しているらしかった。

 同じく知らされていなかったであろう、攻撃部門のトップであり、斎藤理恵(さいとうりえ)の師匠でもある千堂龍馬(せんどうりょうま)は興味がなさそうに黙っている。

 その様子がかえって怖かった。


「それについては僕から説明しよう。清水さんたちを襲っていたのが諜報部により痕力会と判明してね。その大半が能力者で構成されている暴力組織である彼らと事を構える可能性があると言えば、いらぬ混乱を招くと思って、関係者以外には情報を規制していたんだ」


「はあ……なるほど、わかりました。それで、痕力会が関わっている可能性ってどれくらいなんですか?」

 西条は驚きが収まっていない様子だったがひとまずは納得して、話を戻した。

「ほぼ100パーセントだね。昨日の今日…いや、もう一昨日だったか。こんなにすぐ行動を起こすとは思ってはいなかったけど、状況から考えて痕力会の仕業とみて問題ないだろう。ただ、能力で隠しているのか知らないが、彼らの拠点どころか支部すら見つけることができていない始末だ。こちらから手を出すことができない」


 昔、拠点の近くのキャンプが痕力会に襲われたとき、助けてくれと頼まれたことがあった。

 基本的に頼まれごとは断らないのが俺たちなので引き受けることにしたのだが、話を進めていくうちに、いっそのこと壊滅させたら良いんじゃないかとなり、痕力会について調べたのだ。

 しかし、町を荒らしている下っ端以外の情報を集めることができなかった。

 一切の手がかりを得られなかった俺たちはしぶしぶ依頼を断ることにしたのである。


 結局、会議では翔也くんが痕力会に(さら)われたかもしれないという可能性以上に話が進展することはなく、俺たちは闇雲に拠点周辺を捜索する以外に何もできなかった。


 ***


 翔也くんが失踪してから3日目のことである。

 拠点で一枚の紙が見つかった。


 洗脳持ちの清水瑞樹を引き渡せば、清水翔也は返してやる。

 翌日の正午に戸原(とばら)町1丁目にある廃工場まで来い。


 ただこれだけが書かれていた。

 昨日までこんなものはなかったはずだ。

 いつ、誰が、どうやって、疑問はいくつも浮かんだが、それらがどうでも良くなるものが目に入った。


 その紙には痕力会の印があったのだ。


 ***


 あの紙の発見から、西高が急いで関係者を集め、俺たちは昨日と同様に会議場で話し合いをしていた。


「瑞樹さんを囮にして痕力会を罠にかける」

 西高は冷静に言い放った。

「どういうことですか」

 俺は少々語気を強めて西高に質問する。

 瑞樹さんを囮にするのは危険すぎるだろ。

 痕力会だって俺たちが素直に瑞樹さんを引き渡すとは思ってはいないはずだ。

 どう考えても向こうが俺たちを罠にかけようとしているようにしか思えなかった。


「貝原くんの心配はわかるよ。彼らが素直に翔也くんを引き渡してくれる保証がない、逆に僕たちが罠にかけられて二人とも失うかもしれない、そう考えているんだろう? 僕たちは痕力会についてほとんど情報を持っていない。しかし、それは彼らも同じはずだ。僕たちが交渉に応じたと思わせて油断させた後に、翔也くんを救出するんだ。防衛メンバーがこれだけいれば十分に可能だろう。それに今回の作戦においては、能力の制限および殺傷の類を解禁するつもりだ」


 西高は覚悟を決めた顔をして言っているが、俺には酷く雑な作戦に思えた。

 とても彼らしくはない。

 まず、誰にも気づかれずに拠点に要求書を送り付けている時点で優れた隠密系の能力者がいるのは間違いなかった。

 痕力会は総勢200名を超える構成員に加え、その大半が能力者である。

 探知系の能力は拠点にも複数いることからもわかるように、そう珍しい能力ではない。

 つまるところ、痕力会が一方的に俺たちの情報を持っている可能性だってあるはずだ。

 確かに防衛メンバーは全員が破格の戦闘系能力を保有してはいるが、痕力会がそれを上回らない保証などどこにもない。

 それが分からない西高ではないはずだ。

 なんでこんな短絡的な作戦を決行しようとしてるんだ。


 その答えは以外にもすぐに判明する。

 翔也くんが失踪してからすっかり取り乱していた瑞樹さんが二神玲奈と陳玲(チェンリン)(ヤオ)姉妹に連れられて会議場に現れた。


 瑞樹さんはこの三日ですっかり顔がやつれてしまっている。

 翔也くんがいなくなった日の朝は彼女の顔が周囲の風景と相まって幻想的に見えていたのだが、今では病人のような顔になっていた。


「瑞樹さん……」

 そんな彼女を前にして俺は何も言うことができなかった。

 想定外の事態だとはいえ、俺があの時に翔也くんを追っていればこんなことにはなっていなかったはずだからである。

 どうしても責任を感じずにはいられなかった。

 しかし、瑞樹さんは俺に目もくれず切り株の上に置いてある一枚の紙を手に取った。

 それを読み終えるとすぐに、彼女は口を開いた。


「行きます」

「え?」


 俺は間抜けな声を上げてしまった。

 理解できなかったのではない、彼女が自分を犠牲に弟を助けようとしていることはすぐにわかった。

 誰もが彼女の行動を予想していただろう。

 ただ、俺は瑞樹さんの決断を受け入れることができなかった。

 瑞樹さんにはそんなことをしてほしくなかった。


「ちょ、ちょっと待って瑞樹さん。今そのことで作戦を立ててる最中で――」

 俺がそう言うと瑞樹さんは到底仲間に向けるものではない目を俺に向けてきた。


「じゃ、じゃああ! 翔也はどうするのっ! 私が行って助かるんだったら行けばいいじゃん! 三日も何もできなかったくせに、他に何ができるって言うの!」


 瑞樹さんはそう言って感情で喉が焼けそうな悲鳴に近い叫び声をあげた。

 彼女はもう、俺たちを信用していないようだった。

 当然だ。

 痕力会からの要求書が届かなければ今だって手当たり次第に捜索することしかできていなかっただろうから。


「……ごめん」

 俺は瑞樹さんにそう言うことしかできなかった。

 罪悪感からの謝罪じゃない。

 ただ、これを言うことで彼女が落ち着きを取り戻してくれないかと思った。


 俺がたじろいでいると、二神玲奈と陳玲・瑶姉妹が瑞樹さんをなだめて落ち着かせた。

「ごめんなさい……でも私、行きます」

 冷静になったように見えても瑞樹さんの決断は変わらないらしい。

 俺はまだ彼女に言いたいことがたくさんあったが、もう口を開くことができなくなっていた。


「瑞樹さん、僕たちもあなたが行くことに賛成なんですよ。ただ、瑞樹さんにはある役割を担ってほしいんです――」

 そう言って西高は先ほどまでの作戦を多少盛ったり、荒い部分をそれっぽく濁したりして瑞樹さんを説得していた。

 彼がこんな雑な作戦を話していたのは瑞樹さんを一人で行かせないためか。

 痕力会からの要求を知ればすぐにでも拠点を飛び出していたことだろうことが、今の彼女を見ていればわかった。


「――というわけで、瑞樹さんには囮になってもらいます」

 西高が説明を終えると瑞樹さんは頭が回らないのか、納得しかねるといった様子だった。

 それもそうだ、彼の説明はほとんどが曖昧で到底作戦と呼べるものではなかった。

 しかし、数日に渡る心労と先ほどの興奮で冷静な判断ができなくなっている彼女を言いくるめるのには十分だったらしい。


「……わかりました。それなら翔也を助けられるんですよね」

 

 彼女の問いに西高は真っすぐ目を見て答えた。

「ええ。間違いなく」

 俺は瑞樹さんからそっと目をそらした。


 彼女は疲れがピークに達したのか西高の言葉を聞くと、気を失ってしまった。

 三人に連れられてテントに戻るのを見送った俺たちは、可能な限り作戦を形にするために話し合った。


 ***


 お通夜のような夕食を終えてから、西高は話があると言って全員を集めた。

 清水姉弟を迎えた時とは違い皆が黙って壇上にいる西高を見ていた。

 彼は拠点メンバーに今まで隠してきた痕力会と抗争になることや、作戦の内容を話した。

 翔也くんの失踪は知っていても、真相を知らなかった者たちは動揺し、場に混乱の空気が流れた。


「心配しないでほしい。今回の作戦はこのメンバーで行う」

 西高がそう言うと、作戦に参加する拠点防衛メンバーが壇上に上がった。

 仰々しいまでに演出がかった登場に、今回の作戦がどれだけ歪であるかを物語っていた。

 俺には拠点メンバーを安心させるための演出にしか見えなかったのだ。


 しかし、防衛メンバーを見た面々は「これなら大丈夫」や「あの人たちが行くなら大丈夫でしょ」と安心した様子を見せた。


 集会を終えるとそれぞれの自室に戻り、俺は明日の作戦に不安を覚えながら眠りについた。


 ***


 翌朝、俺は何やら騒がしい音で目を覚ました。

 大事な日だってのにどうしたんだよ。

 俺は自分の部屋から出て、騒ぎの起きているところに向かった。

 

 遠目から声を荒げているのは紗月で、相手は二神玲奈と陳玲(チェンリン)(ヤオ)姉妹であることが分かった。


「おい、何言ってんだよ! お前が見てたんじゃないのか!」

「何を言ってるんですか」

「だから、瑞樹ちゃんはどうしたんだって聞いてんだよ! 玲奈たちが一緒についてた人だよ!」

「何回も同じことを言わないでくださいよ。その、みずき…ちゃん? って誰のことを言ってるんですか。紗月さん、あなた本当におかしくなったんじゃないんですか?」


(リン)ちん・(ヤオ)ちんも知らないの? ずっと一緒にいたじゃん。瑞樹ちゃんだよ?」

「「知らないよ?」」


 「なんで…覚えてないの…」



 俺の足音に気づいたのか、紗月が振り返り、視線の先にいた俺と目があった。

 彼女は酷く怯えた子犬ように涙を目に浮かべ、俺に助けを求めるかのようにじっとこちらを見つめていた。


「何があったんだ?」

「貝原さん、おはようございます。先ほどから紗月がよくわからないことを言っていて。みずき…さん? という人がいなくなっているそうなんですが。ご存じですか?」


「は?」


 作戦当日、瑞樹さんは二神玲奈と陳玲・瑶姉妹を洗脳し、拠点から姿を消した。


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