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亡域の冥王  作者: キノコのほうし
第1章 崩壊した世界

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第三話「あの日の空白」

 昨日は西高から外出禁止を言い渡されてしまった。

 どうやら俺たちが追い払った男たちはこの辺り一帯を牛耳っている暴力組織――痕力会のメンバーだったらしい。

 今となってはもう少し様子を見てから応戦するべきだったと反省している。

 まあ斎藤さんは手を出すのが早いし、何より清水姉弟が襲われていたので助けるしかなかったのだが。

「にしても、やることがないなあ。みんな普段は何してんだろ」

 俺は基本的に町で魔力の抜き取りをするか班員と遠征に行くかしており、日中は拠点にいないのでやることがなくて暇だ。

 暇つぶしと言えば紗月みたいなところあるし、少しちょっかいかけに行こうかな。

 などと考えていたら、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、貝原さん」

 声の主は瑞樹さんだった。髪は下ろして、上は青、下は緑となぞなぞかと思うような色の組み合わせのジャージを着ていた。

 拠点には希が遠征の時に持ち帰った後に選別して、いらないと投げ捨てた服が大量にある。

 おそらく瑞樹さんが着ているジャージはその一部だろう。

「おはよう瑞樹さん。翔也くんはまだ寝てるの?」

「はい、昨日のパーティーで疲れたみたいで。貝原さんは何してたんですか?」

「なにも。普段、俺って拠点にいないから何して暇をつぶせばいいかわかんないんだよね。ほら、あれからスマホも使えなくなってるし」

 なぜだか、あの災害以降スマホやパソコン、町の放送など機器の類が使えなくなっていた。

 地震であれば納得もいくのだが、人が死んだだけで建物や機材には被害がないはずなのに電源すら入らなくなっている。

 人の破裂や異能力と関係があるのだろうが詳しいことは何もわかっていない。

「あ、それでしたら私ここの案内をしてもらうように言われてるんですけど、貝原さん良かったらお願いできませんか?」

 確か瑞樹さんは拠点についてまだ簡単な説明しか受けていないんだったか。

「いいよ、俺暇だし。あと別に敬語じゃなくても大丈夫だよ? 瑞樹さんの方が年上なんだから」

 言ってて俺は、初めて会ったときからため口なのが忍びなくなった。

「わかりまし――ううん、わかった。じゃあよろしくね、貝原くん」

 朝の山には霧がかかっており、朝日が反射して淡い光を放っていた。

 瑞樹さんは笑顔でこちらを見ていたのだが、その幻想的な光景に俺は少しドキッとしてしまった。


 ***


 俺は瑞樹さんに拠点の案内をすることになったのだが、それなら翔也くんもいた方がいいだろうとのことで、起こしてきてもらうことにした。

 実を言うと出会ってから翔也くんとはあまり会話ができていない。

 警戒されているのか、心を開いてくれていない気がする。

 寝起きということも相まって翔也くんは一層機嫌が悪そうに見えた。

「おはよう翔也くん。今日は俺がここの案内をするね!」

 俺は努めて笑顔で自分の無害さをアピールした。

「……」

 翔也くんはただ無言で不服そうに会釈だけして、こちらを睨みつけている。

 大丈夫、俺はこんなことで気を荒げるほど未熟ではない。

「ほら、ちゃんと挨拶しなって。これからお世話になるのにそんな態度とらないの。ごめんね、貝原くん」

「いいよ、いいよ。さっそく行こっか」

 俺は2人を連れて広場の隣にある畑から見せることにした。

「ここは畑で、俺たちの食料を作る大事な場所。うちには大地とか植物に関係する能力者が多くいるから通常の栽培に比べて早く収穫できるんだ」

「それで昨日の晩御飯は野菜が多かったんだ」

 瑞樹さんは興味深々といった様子で畑をのぞき込んでいる。

 一方、翔也くんは明後日の方向を向いて無関心を決め込んでいた。

 どうにかして親交を深められないものだろうか。

「そうだ、2人に俺の能力見せたことなかったよね」

 そう言って俺は近くに生えていた花を一輪手に取ると、能力を発動させた。

「俺の能力は多分、生物の生命力みたいなのを知覚するってやつで、俺はそれを魔力って呼んでる。人とか大気中に光のモヤみたいなのが見えてるんだけど、それをちょっとだけ操ることができるんだよね」

 そう言って俺は花から魔力を吸い上げて一瞬にして枯らした。

「こんな感じで生物から吸収すると枯れちゃうんだよ。それから――」

 俺は吸い取った魔力を花に戻して、さらに俺の体内にある魔力を注ぎ込んだ。

「逆に魔力を与えればこんな感じで元気になるってわけ。どう? すごくない?」

 先ほどまで枯れていた花は魔力を注がれたことによって復活したどころか、茎から分裂し新しい花が咲いて、花束のようになっていた。

「最初のころは野菜とかを俺が育ててたんだけど、俺が急成長させた野菜は傷みやすいうえに、おいしくなかったから植物とか野菜に能力使うの禁止されてるんだよね。だからこのことは内緒でよろしく」

 俺は魔力を再吸収して花を枯らすと、地面に捨てた。

 おそらく、ここの管理をしている二神玲奈あたりに知られれば説教を食らうことになるだろう。

「貝原くんはすごいね。私も翔也も能力? の使い方がわからないんだ。そのせいで突然洗脳が発動してキャンプを追い出されちゃったし」

 そういえば洗脳の発動条件など聞いていなかったが、2人とも力の使い方を知らなかったのか。

 確かにこの状況では生きていくのに必死で、こんなわけのわからない力なんて研究している余裕などないだろう。

「よかったら俺が教えようか? 俺が見てる魔力って能力の燃料みたいなものっぽいんだよね。だから魔力の流れからだいたいの力の使い方を教えられると思うよ」

 俺は能力を発動させる際の魔力の流れからおおよその能力の系統や発動箇所などが読みとれる。

 例えば肉体強化系の能力者である斎藤さんは全身に魔力が流れるし、念話使いの幸太郎は頭に魔力が集まってくる。

 希のようなバフ系は読みづらいけど、洗脳であれば魔力の扱いは幸太郎と同系統だろう。

 それならば問題ない。

 何を隠そう、幸太郎に力の使い方を教えたのはこの俺だ。

「いいの? だったらお願いしてもいいかな。ここの人たちに迷惑はかけたくないから」

「おっけー。じゃあ修練場に行こうか」

 そうして俺は拠点の案内のことなど忘れて、2人に能力の使い方を教えることになった。


 ***


 修練場とは言っても、ただ山を切り開いただけのスペースだ。

 あたりに(まと)やトレーニング道具がおいてあるだけで見た目は広場とそう変わりがない。

「じゃあ早速だけど能力の使い方を説明していこうか。2人はお腹の底に何か熱い感覚ってないかな」

 能力を使う際には、まず体内にある魔力を知覚しなければならない。

 視覚的に感じ取れるのは俺のような能力をもっている人だけだが、能力者であれば自分の体内にある魔力を認識できるはずだ。

「うーん」

 瑞樹さんは目をつむって集中している。

 翔也くんは興味がなさそうに、どこか遠くの方を見つめていた。

「翔也くんもやってみない? 力を使いこなせたらスーパーヒーローみたいで格好いいよ」

 ちょっと子供向けすぎた言い方かもしれなかったが、このくらいの年の子と話した経験が少ない俺には会話の仕方が分からなかった。

「……そんな良いもんじゃないだろ」

 小さな声だったが確かに聞こえた。

「それってどういう…」

 俺が言いかけた時、翔也くんは耐えかねたかのように走り出してしまった。

「翔也くん!」

 叫んだが、翔也くんは振り返ることなく俺たちから離れていく。

 動揺している俺に対して瑞樹さんは以外にも冷静だった。

「ごめんなさい。俺が余計なことをしてしまったのかも」

「全然そんなことないよ。貝原くんは私たちに良くしてくれてたし。ただ…翔也も気持ちの整理がついていないんだ思う。だから少しの間ひとりにさせてあげて」

 山とはいえ、俺たちの拠点だ。

 近くの森だって何回も入ったことがあるし、いざとなれば諜報部の面々が見つけてくれるだろう。

 俺はなんだか気まずくて瑞樹さんに声を掛けられずにいた。

 しばらく俺と瑞樹さんは黙って過ごしていたのだが、瑞樹さんが最初に口を開いた。

「あのね、翔也も元からあんな性格だったわけじゃないの」

「え? どういうこと?」

「全部、あの災害から始まったんだよ。よかったら私たちのこと、聞いてもらえるかな?」

 瑞樹さんはそう言うと、2人が経験した災害について話し始めた。

「あの日は私も翔也も始業式があったから早めに学校に行ってたんだけど、それ以外何も変わらない普通の日常だった。なのに友達も先生もみんな死んじゃった。怖くてたまらなかったけど、あの時は翔也の無事が一番で、弟のためだと思ったら不思議と力が出た。私たちの学校では生き残った大人が1人もいなくてね、先生がいないから皆パニックになってたの。私もそうだったんだけど、翔也が家にいるお母さんが心配だって飛び出して行っちゃうから、私も学校を抜け出して家まで行ったの」

 そこまで言うと瑞樹さんは喉につっかかっているのか次の言葉が出ないようだった。

 当たり前だ。誰でもあの日のことを思い出すと身震いする。

 俺だってあの日のことは鮮明に覚えていた。

 しかし言葉にすることはできないだろう。

「辛かったら無理に話さなくてもいいからな。あんなことが起きたんだ。誰だって思い出したくないに決まってる」

「ううん、大丈夫。貝原くんには翔也のことちゃんと知っててほしいから」

 そう言って瑞樹さんは再び語りだした。

「私は家に着いたときドアを開けられなかった。変だよね、見た目も何も変わってないのに。でも翔也はお母さんが心配だったんだ。一目散に開けて、見ちゃった。朝に見送ってもらった時と同じエプロンをつけて、お母さんは死んでた」

 瑞樹さんは目に涙を浮かべ、その声は震えていた。

 今にも泣きだしそうな、辛い表情を浮かべる彼女を見ていられない。

 しかし、ここで話を遮るのは彼女の気持ちを踏みにじる行為であると思い、俺は静かに聞いていた。

「私は翔也に駆け寄って抱きしめようとした。一人ぼっちにさせちゃだめだと思った。でも触れなかったの。私も必死になって掴もうとしたんだけどね。翔也の体が搔き消えちゃいそうで、ただ絶望するのを泣いてみていることしかできなかった」

 瑞樹さんは歯を食いしばり、拳を固く握っていた。

 能力のせいとはいえ、絶望に浸っていた翔也くんを孤独にしてしまったことを悔やんでいるように見えた。

「あれから翔也は災害が起きたのは能力のせいだって思ってるみたいで、町のキャンプで能力をもっている人を見ると『お前らのせいだ』って八つ当たりまでしちゃって。貝原くんたちにあんな態度をとってるのもそのせいだと思うんだ」

 翔也くんの様子にようやく納得がいった。

 口をききたがらなかったのは嬉々として能力を使う俺たちが(にく)く見えていたからなのか。

 確かに能力と災害が無関係でないのは間違いないだろうが、全てを能力のせいにして、能力者までも嫌悪しているのは翔也くんのためにも良くないと思った。

「俺が一度、翔也くんと話してみるよ」


 しかし、翔也くんは日が暮れても見つからなかった。


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